緊急事態下でのパチンコ店などの営業適正化に向けた政策提言

戒能 一成
研究員

1. 問題の概要

新型コロナウイルス特別措置法(以下「特措法」とする)では、第45条第2項においてまん延防止のために、都道府県知事が学校・興業場その他多数の者が利用する施設に対して使用停止などの要請ができることとされている。 当該規程に基づき緊急事態宣言の後で各都道府県知事による要請が行われたが、一部のパチンコ店など要請に従わない店舗があり、4月24日には大阪府が6店舗の名称公表に踏み切ったところである。

ところがこのうちいくつかの店舗は黙秘しており、公表処分後も営業を続ける様子である。現状の特措法が予定する施設への処分は名称公表までに止まるわけであるが、筆者は当該結果にまったく納得できないので、以下の通り法改正案の政策提言を行う。簡単に言えば客も店舗も「それでも入店/営業するなら相応の覚悟と負担を行うべき」というものである。

例によって筆者への誹謗・中傷などを歓迎するが、「より優れた代案」を最も歓迎する。

2. 納得できない点(1)それでも店舗に行く「無敵の人」と医療費

まず納得できない点は、この店舗で集団感染(クラスター)が発生して客が感染した際に、誰が医療費を払うのか、という点である。

就労者などであれば医療保険で70%が補填され残りは自己負担だが、高齢者では80~90%が補填、生活保護者の場合には100%が医療扶助(医療券による現物支給)で補填されるはずである。

しかし緊急事態宣言下でパチンコ店などに行くのは明らかにリスクの高い行為であって、本人もそれをうすうす理解しているはずであるが、現行制度上は一部の人は医療費の大部分が保険などから支払われ感染してもほとんど不利益を受けないのである。特に生活保護者は現状ではどんなリスクを冒しても社会的制裁が効かず収入の減少も医療費負担の増加もない「無敵の人」であり、彼らに入店を思い止まらせる経済的動機はゼロである。

さらに筆者がまったく納得できないのは、リスクを承知しながらパチンコ店などに行った人の医療費に外出自粛に従った人が支払った保険料や税金が使われる、という点である。

飲酒運転の加害者側の被害に自賠責保険が適用されないように、特措法の緊急事態宣言下でリスクの高い店舗などに行った人には、医療保険や生活保護の医療扶助を停止し自己負担をしていただくべきである。百歩譲ってもこの場合の医療費は店舗が支払うべきである。

分かりやすく言えば、現行の医療保険や生活保護などの制度が緊急事態を想定しておらず「無敵の人」に歪んだ行動の動機を与える原因になっており、これを止めない限り店舗側の要請無視や闇営業などの迂回行為が続くだけ、ということである。

3. 納得できない点(2)それでも営業する店舗が負うべき責任と負担

次に納得できない点は、この店舗で集団感染(クラスター)が発生し、2.で述べた医療費や自治体による消毒・防疫処置や周辺の店舗への風評被害への補償が必要になった際に、それが確実に店舗から支払われるようになっているのか、という点である。

緊急事態宣言下で営業を行う店舗が得る利益と比べれば、明らかにこうした外部費用の方が大きいはずであり、それを無視して営業を行う行為は筆者から見れば社会への挑戦そのものである。またこうした店舗は、実際にこうした費用が必要になった場合でも「カネがない」などと言い逃れしつつ法廷闘争に持ち込んで、結局は雀の涙のような額しか支払わないことは想像に難くない。

さらに筆者が納得できないのは、現行制度では緊急事態宣言下で要請に従わず店舗を開けていれば、要請に従い休業した店舗から流れてきた「無敵の人」を集客して収入増となり、見事なモラルハザード状態となってしまう点である。大阪府堺市では異なる3店舗が名称公表されているが、恐らく客離れを嫌った「三すくみ」状態なのではないだろうか。

従って、特措法第45条の第2項に従わない店舗に対しては、都道府県知事が必要と認める2.での医療費用などを外部供託するよう命令できるようにし、これに従わない場合には営業を禁止し刑事罰を与えられるよう法改正を行うべきである。もちろんこの場合に休業補償などを支払う必要はない。

筆者のトイレットペーパーやマスクに関するコラムで見ていただいたとおり、現代日本の社会を構成する人は実に多様であり、自粛や要請で物事が丸く収まる従来の日本人像とはまったく異なる方々が経営者にも増えてきたことは認めざるを得ないと思われる。

4. 政策提言 要請に従わない施設への措置

以上の観点から、特措法を改正し以下の条項を追加すべきである。一般の方に理解しやすいよう要綱形式で書くが、法律系の方なら直ちに条文にできるであろう。鋭い読者は理解されたと思うが、これらは原子力損害賠償制度を参考にしたものである。

一 第45条の第2項の公表後も営業を続ける施設の管理者は、当該施設に起因した新型コロナの感染により生じた被害に関し、無過失責任及び無限賠償責任を負うこと。
二 第45条の第2項の公表後も営業を続ける施設の管理者は、公表日から7日以内に都道府県知事が指定する金額を外部供託し、結果を都道府県知事に通知すること。
三 第45条の第2項の公表後も営業を続ける施設の管理者は、緊急事態が解除される迄の期間について入場者全員の氏名・住所・保険番号などが判別できる保険証・生活保護受給証又はマイナンバーカードの写しを毎日都道府県知事に提出すること。
(※つまり客は保険証などを携行しないとパチンコ店などには入れない)
四 三の記録に記載された者が新型コロナに感染した場合、医療保険及び生活保護の医療扶助の適用を除外すること。主務大臣・都道府県知事はこれらの者から請求があった場合、二の外部供託を取崩し医療費用の一部として交付することができること。
五 二及び三の制度運用に必要な主務大臣・都道府県知事の立入調査権等を設けること。
六 二及び三を怠った場合や虚偽・不正の通知・報告を行った場合には、施設の営業を禁止し管理者に刑事罰を与えること。

5. 結語

「目には目を」で有名なハンムラビ法典は一般には厳罰主義の極みと思われているが、筆者がルーブル美術館で見た現物の解説では「過剰報復や私的制裁を禁止した罪刑法定主義の鏑矢」と高く評価されていたことを覚えている。つまり当時のバビロニア人の社会通念から見て「厳しいながらも納得できる適正な法典」だったそうである。

ハンムラビ法典の公布から約4千年が経過するが、果たして現状の特措法は現代日本人の社会通念から見て納得できる適正なものと言えるであろうか?

関係各位にご一考いただければ幸いである。

2020年4月27日掲載

この著者の記事