注目される2013年以降の我が国の地球温暖化対策

秦 茂則
コンサルティングフェロー

新たな枠組みのプロセスが決まったCOP17

昨年末開催された南アフリカ・ダーバンでの第17回気候変動枠組み条約締約国会議(COP17)では京都議定書の第二約束期間の設定、米中印を含む全ての国が参加する将来枠組みに向けたプロセスの合意、緑の気候基金の設立などの成果を得て閉幕した。

事前の予想では、主要国の利害が対立していることから将来枠組みのマンデートに関する合意は困難と見られていたが、予想以上の成果だったといえる。

個別にみると、まず、欧州連合が主導して京都議定書の第二約束期間の設定が合意された。第二約束期間は2013年から始まるが、終わりを2017年とするか2020年とするかについては年末のCOP18までに決着することとなった。なお、日本は一昨年のメキシコ・カンクンでのCOP16で、米中等の主要な排出国が参加しない京都議定書の第二約束期間では地球規模の排出削減につながらないため参加しない旨を表明しており、今回のCOP17で正式に第二約束期間への不参加が決定することとなった。

将来枠組みについてはダーバン・プラットフォームに関する特別部会を設置して、可能な限り早く、遅くとも2015年中に作業を終えて、2020年から発効させ、実行に移すことに合意した。

その他、緑の気候基金の設立や気候技術センター・ネットワーク(Climate Technology Centre and Network :CTCN)に関する基本的運営事項などカンクン合意を実施に移すため各種の決定がなされた。今後、こうした決定を着実に実施に移していくことが重要となる。

このCOP17の結果、日本は第二約束期間に参加しない事が確定し、2013年から新たな枠組みが始まるであろう2020年までの間には京都議定書第一約束期間のような法的な削減義務は負わないこととなった。

しかしながら、削減義務がかからないからといってこの期間を無為に過ごすことなく、日本として真に地球規模の排出削減を進め、目に見える形で貢献をしなければならない。

なぜならば、この間の日本の貢献が新たな枠組みに関する国連での交渉で優位なポジションを確保することにつながるからである。国連での交渉では簡単化すると、途上国と先進国の対立構造となるが、今回のCOP17ではモルジブなどの国々から中国、インドなどの排出量の多い途上国にも応分の責任を求める声が出たとのことである。一枚岩と見られていた途上国グループでも立場が分かれて始めており、個別の途上国への支援を通じて国連交渉での日本のスタンスへの支持を広げることが可能と見込まれる。

日本の低炭素技術を活用した地球規模の排出削減

では、どのような貢献を行うべきか。途上国が求めるのは技術、資金、ノウハウであり、特に日本の低炭素技術に期待する国々は多いことから、この優れた低炭素技術を活用した排出削減への貢献が考えられる。

国際エネルギー機関(IEA)の見通しによれば、2030年に世界のエネルギー需要は2007年の約1.4倍となる。増加分の93%は途上国であり、このうち中国は39%、インドは15%となっている。こうしたことからエネルギー需要に占める途上国のシェアは2007年の47%から2020年には56%、2030年には59%に達する見通しである。地球規模での排出削減を実現するためのカギは途上国での排出削減にあると言っても過言ではない。

また、コストの面からみれば、途上国での排出削減コストは日本に比べてかなり低い状況であり、技術、資金の移転により大きな排出削減が可能である。地球産業環境技術研究機構(RITE)の試算によると日本の限界削減費用は二酸化炭素1トンあたり476米ドル(90年比25%削減の場合)であるが、中国ではこれが0ドル、すなわち省エネ効果で相殺できる水準である。なお、米国(同60米ドル)やEU(48米ドル)も日本よりかなり低い。二度の石油危機を経て日本が省エネに取り組んできた成果であるが、逆に言えば日本国内における削減余地は非常に限られている。

クリーン開発メカニズム(CDM)の課題

排出削減における技術移転スキームであるクリーン開発メカニズム(CDM)が活用されている。気候変動枠組み条約事務局によればCDMはこれまでに3802件のプロジェクトが登録され、約8億4675万トンの削減量クレジット(CER)が発行されており(2012年1月20日時点)、途上国への技術移転の重要な仕組みとなっている。

他方で、制度が定着するにつれてCDMの課題も浮き彫りになってきた。CDMの課題として主に3点が挙げられる。(1)国連気候変動枠組み条約の京都議定書締約国会議の下にあるCDM理事会がプロジェクトの承認や削減量クレジットの発行等を集中的に管理しているため、その手続きが非効率であり審査に平均2年の期間を要すること、(2)CDM理事会では追加性を厳格に審査することから日本が得意とする低炭素関連技術があまり採用されないこと(追加性とは、簡単に言えば削減量クレジットの売却による収入があって初めてプロジェクトとして成立すること。したがって、経済的にペイする省エネは追加性がないと見なされる)、(3)プロジェクトのホスト国が中国、インドに偏っており、他の途上国への技術移転にはあまり貢献していないこと、である。

CDMは京都議定書の下で引き続き重要な仕組みに変わりはないが、地球規模での排出削減を一層促進するためにはCDMだけでは不十分であり、これを補完する柔軟な、新たな仕組みが必要である。

日本の新たな取り組み~二国間オフセット・クレジット制度の提案~

こうした事情を背景に、日本はCDMを補完する仕組みとして、二国間オフセット・クレジット制度(BOCM)の創設に向けて関係国と協議を進めている。これまでにインド、インドネシア、ベトナム、カンボジア、タイおよびラオスと正式な協議を開始している。

この制度の基本的アイデアは、日本とホスト国で共同の排出削減プロジェクトを実施し、実現した削減量を日本とホスト国で分け合うというものである。また、スキーム的には二国間での合意に基づく柔軟な仕組みにとすることで、中央集権的なCDMよりも使い勝手のよい制度となることを目指している。さらに、日本の低炭素技術を途上国に普及させる梃子にも成りうる。

ダーバン・プラットフォームに関する特別部会における新たな枠組みに関する議論がどのように進展するか今後大変注目されるところであるが、他方、京都議定書第二約束期間に参加しない日本の2013年以降の取り組みについても国際社会から衆目を集めることになろう。BOCMを通じて地球規模の排出削減に着実に貢献することで日本の取り組みの本気度を示すべきである。

2012年1月31日

2012年1月31日掲載

この著者の記事