中島厚志の経済ルックフォワード

せめぎ合う欧米金融政策とハイテク株高
~乖離が広がる政策不確実性指数とVIX指数の帰趨~

中島 厚志 理事長

内外経済は順調に推移している。原油価格の持ち直しや中国経済の底入れなどで世界経済は上向いており、世界の貿易や鉱工業生産は増加基調が鮮明となっている(図表1)。日本経済も、世界経済の回復で輸出が伸びており、人手不足は賃金増・消費増と省力化など企業の設備投資にも好影響を与えている。金融緩和政策の持続もプラス材料である。

図表1:主要国・地域の輸出数量の推移
図表1:主要国・地域の輸出数量の推移
(注)前年同月比
(出所)CPB World Trade Monitor

その中で、設備投資やハイテク製品の生産・輸出が増加している。AI革命や一段の技術革新の進展が顕在化しつつあるとの見方も出ている。実際、世界の半導体製造装置の販売額は急増している(図表2)。半導体装置の受注高/販売高を示すBBレシオは、2015第3四半期(0.84)を底に2017第1四半期には1.29と1を超えて活況を呈する水準となっている。日本のロボット総出荷額を見ても、この1年ほど国内出荷、輸出ともに急増しており(図表3)、日本および世界でハイテク製品の投資や生産が急激に増加していることが見て取れる。

図表2:世界:半導体製造装置販売高とBBレシオ
図表2:世界:半導体製造装置販売高とBBレシオ
(注)BBレシオは、半導体装置の受注額を販売額で割った割合。3か月平均
(出所)日本半導体製造装置協会
図表3:日本:マニピュレータ、ロボット総出荷額の推移
図表3:世界:半導体製造装置販売高とBBレシオ
(出所)日本ロボット工業会

ハイテク株高と低くない不確実性指数

もっとも、技術革新の進展が見えると言っても、NASDAQ市場でのハイテク株価の上昇や水準はあまりに急で高いようにも見える。AI・インターネット時代を代表するネット企業のネットフリックスやアマゾンの株価収益率(PER)は200倍前後となっており、90年代ITバブル時のアップルやインテルのピークの株価収益率を上回るような高倍率となっている。

個別株価もさることながら、NASDAQ総合指数の推移と80年代の不動産バブル期の日経平均株価を重ねてみても、NASDAQ総合指数の上昇ぶりが分かる(図表4)。もちろん、指数に組み込まれている企業の違いや市場が注目する技術内容の違いなどがあり、単純な比較はできない。それでも、NASDAQ総合指数の2016年初にあった原油価格急落や中国経済減速などを受けた急落とその後の回復は、日経平均株価の1987年のブラックマンデーでの急落とその後の上昇の姿とよく似た動きとなっている。

図表4:米国:NASDAQ総合指数とバブル期の日経平均株価の推移
図表4:米国:NASDAQ総合指数とバブル期の日経平均株価の推移
(出所)NASDAQ, 日経

この米国でのハイテク株高となっている背景には、経済の先行きへの安心感の広がりを見ることができる。オプション取引の値動きを元に算出され、相場の先行きに不安が生じた時に数値が大きく上昇する特徴があるボラティリティ・インデックス(VIX指数)は過去最低水準にまで低下している(図表5)。

図表5:米国:政策不確実性指数とVIX指数
図表5:米国:政策不確実性指数とVIX指数
(注)政策不確実性指数は、主要紙に掲載された、不確実性を表す用語が含まれる経済・金融・政策に関する記事の総記事数に占める割合を季節調整し、1985/1〜2009/12の平均値が100となるように調整した指数
(出所)Economic Policy Uncertainty, CBOE

しかし、政策の不確実性は低くない。政策の不確実さを示す指標としては、米国で政策不確実性指数が開発されている。財政、経済、金融などに絡んで、不安や不確実さを示す言葉がどれだけ経済記事などにあるか、その割合を集計して示した指数で、昨年のBrexit以降相対的に高い水準で推移している。これは、日本についても同じであり、日本の政策不確実性指数(米国指数に倣って当研究所が米指数開発研究者、IMFとの国際共同研究で開発)の動きを日経平均株価ボラティリティ・インデックス(日経VI)の動きと比べると、乖離が米国同様大きくなっている(図表6)。

図表6:日本:政策不確実性指数と日経平均VI
図表6:日本:政策不確実性指数と日経平均VI
(注)日本の政策不確実性指数では、1987年1月から2015年12月までの平均値が100となるように調整

この乖離が示すのは、現在の株価が種々のリスクを十分には織り込んでいないかのような姿であり、具体的なショックがあれば大きく株価が変動する懸念が高まっているようにも見える現状である。

世界経済の持続的成長につながる欧米金融政策見直し

NASDAQ総合指数の急ピッチの上昇は直近のFRB利上げで一旦減速した。今回のFRBの利上げが値がさ株の株価収益率低下に寄与したということである。

中央銀行の金融政策の変更が株価上昇を抑える状況は直近のドイツにも見ることができる。量的金融緩和政策の見直しを示唆するECBドラギ総裁の発言(2017/6/27)は、とりわけ2016年12月以降上昇が大きく、史上最高値を更新していたドイツ株価指数DAXの下落を招いた(図表7)。

図表7:ドイツ株価指数DAXの推移
図表7:ドイツ株価指数DAXの推移
(注)縦線はECBドラギ総裁会見日 (2017/6/27)
(出所)ドイツ証券取引所

未だ世界経済の回復が途上であることを勘案すれば、急激に金融政策を引き締めに転じさせる時期ではない。米国でも、景気や物価は安定しており、賃金上昇率やインフレ率は高まり続けているわけでもない。これは、欧州経済でも同様である。

しかし、ハイテク株中心にあまりに急な上昇があることは見逃せず、株式市場の変調でせっかくの世界経済回復に水が差されてはならない。株価形成に歪みがあるとすればなおさらであり、当面のFRBとECBの金融政策の慎重かつ市場にも目配りした微妙な舵取りと市場の冷静な反応が当該国のみならず世界経済の今後の持続的な安定成長のカギを握ることになる。

2017年7月14日掲載

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