第2セッション議事のサマリー

敬称略。なお、本ワークショップでの発言はいずれも個人としての発言であり、個人が所属する組織等を代表する見解・意見ではありません。

<司会:鷲見>

第2セッション「中国・ASEANとの関係」、特に経済協力の視点から中国・ASEAN関係をどのようにみていくかということで、2時間ほど議論の予定。中国については、経済産業研究所の関志雄さんからプレゼンテーションを、ASEANについては早稲田大学のトラン・ヴァン・トウさんにお願いしています。

<関・トランによるレジュメに基づく発表 → レジュメ参照>

<以下、発言ごとのサマリー>

<鷲見>

  • 経済産業省では、民間ベースの協力をいろいろやっているが、このような協力では民間の熱意、関心という面から、ASEAN全体を1つととらえるより、タイ、インドネシア、マレーシア、フィリピンとベトナムくらいに絞り込む方がよいのではないかという意見もあるところ。これについてトランさんはいかがお考えか。

<トラン>

  • 経済産業省の協力はASEAN4とベトナムだろう。モノづくりはASEAN、ベトナムにとって非常に大事で、日本企業の投資、日本の発展の経験はかなり適用できると考える。

<木下>

  • 関先生の認識には基本的に賛成。しかし何点か注意するポイントはある。
  • 中国での日本のビジネスをどのように守っていくかという発想が大事。ビジネスの世界での政府の介入が多く、日本のビジネスが不公平に扱われると感じることが多い。
  • 長期的に一番大きな問題は、エネルギーの問題と環境問題。中国のエネルギー消費が伸びるとエネルギーの確保競争が激しくなる。どうやって中国とうまく問題をシェアしてやっていけるかという発想は特に日本において必要だろう。環境問題は日本にも密接に関わるところであり、協力できるところを増やすことで摩擦を減らしてゆけるのではないか。
  • また、中国と日本だけで考えない、ASEANやインドとの相対関係で考えるということが非常に大事。
  • さらに、中国からの留学生が報われていないのも問題。日本に来ると脅威論も多いし、日本経済はさえないし、就職もできないしという苦しい目に遭っている。お金を出して来てもらっているにもかかわらず、日本に対して悪いイメージをもったり、極端にいうと反日になって帰っていくケースもあり、これは改善すべき。

<林>

  • まず第1点は、中国経済の脆弱性。沿海部と内陸部の所得格差、環境問題、腐敗の問題等を抱えている脆弱性のほかに、結局は欧米日の企業が進出しており、技術蓄積は言われているほど進んでいないのだという側面を強調しなくてはいけないのではないか。
  • 先ほど司会者も触れられたように、ASEANは一枚岩ではない。例えば、FTAについてもいろいろな意見がある。小泉首相の構想はASEAN+5だったが、それがASEAN諸国の代表的な意見かどうかは、点検する必要があるのではないか。これが第2点。
  • 第3点は、華人経済の要素を真正面から取り上げて、考慮の対象とすべき。アジア諸国の華人企業グループが中心に、過去24年間積極的に対中国進出を行ってきた。香港からの対中国投資は、中国の総投資の70%以上を占めているところ。中国との競争関係を分析するには、非常に重要ではないか。

<五百籏頭>

  • 第1セッションの議論について少しコメント。日本の対東アジア経済協力は、貿易と直接投資とODAを組み合わせるものであったがそれこそが、東アジアの経済発展の構造を支えたと考える。これは誇れる業績であり、アメリカのヨーロッパに対するマーシャルプランに匹敵する、意味のある経済関与であった。こうした観点から大野さんの二分論には賛成。旧通産省的という言葉もあったが、グローバルな自由な市場へ向かっていくということは、不動の目標でありながらどのような介添え措置をすれば可能なのかという研究を大野先生らにぜひ進めてもらいたいところ。
  • 第2セッションについては、中国と日本がお互いに関与しあうことは共同の利益の達成となるという関さんの考えに賛成。中国ではそういう考えに転換してきているのに、日本の世論は全くそういう認識が進んでいない。中国は国際システムの中で大をなしたいということを今目標にしており、アメリカはもちろん、日本という国際システムの中で、既に大をなしている国との協力関係は大事だという考えに変わっている。
  • このような中で、対中ODAが転機を迎えているのは明らか。中国は世界の工場であり、大国。そういう国は、基本的に自分の国の問題は自分でやるというのは当然で、環境や内陸部との格差是正といった観点に限定していくことにするべきであろう。
  • 中国がいい者であるか、悪者であるか、善悪二元論に分けて決めつけをすることが最悪の愚策。近い将来に軍事大国化するであろう中国と日本はやっていけないわけではなく、関与を続けていくことが大事である。
  • 民主化については、忌ます済んでいるのは一党独裁下での多元化。それがいつか実際の民主主義制度への何らかの移転というものの時点に至るのは間違いない。多元化した中国とどのようにやっていくか。彼らはASEANに対して農業問題を譲って、かたぎの世界でよくやろうとしているのです。日本はそれに対して反発心、警戒心で凝り固まるというのは、何の答えにもならない。それを乗り越えるだけの自由な活力というものをもたなければならない。

<山澤>

  • 関さんのいわれた中国脅威論よ去れというのは私も大賛成。むしろ中国の活力を活用すべきということに尽きる。ただ同時に、ASEANの強化を支援すべきである。しかし問題点は多い。
  • ASEANといっても10ヵ国ありまして、決して1つのまとまりではない。望ましい方向へのかじとり、具体的にはAFTAをいかにうまく効率的に運営していくかという運営の能力というのは、向上したのだろうか。
  • ASEANは10カ国になったが、先発国は後発国に対する知識はあまりなく、研究もしていない。先発国と後発国の利害調整その他の面で、日本がASEANにアドバイスするという役割を果たすべきでないか。特に経済産業省は、日本ASEAN協議というのをずっと続けられているわけなので、そういう場でそういう役割ができるではなかろうか。

<奥村>

  • まず日本人自体が、日本がひとりアジア域内のトップランナーであり続けるのではなく、域内に平等の形での相互依存関係というのが本当にこれから出てくる時代に来たという認識をもたなければいけないと考える。そういう意味では、アメリカ型よりヨーロッパ型に近い。こうした認識のもとでは、健全な競争をしつつ協力をしていくところはしていくという新しい関係の構築が重要。
  • ASEAN向け協力も、日本だけでするということだけではなくて、アジア全体でどこを底上げし、どのようにやっていくのが一番いいかということについて、一緒に考えて、例えば中国は、ASEANに対してどういう協力ができるのか。日本はさらにその上にどういう協力をできるのか。そのようなフォーラムができればよいと考えている。
  • 日本の経済協力の特徴というのは、発展を助けるという面があった。自立的発展を考えたときに何をしていくのが一番いいのかという頭の整理を各国ごとにしてみて、その上で経済協力も新たな視点で考えてみるということが大事ではないか。

<河合>

  • 中国は多元化しつつあるとは言え、共産党の一党独裁で、民主主義ではない。経済的にも、国有企業改革、国有銀行の不良債権、農村と都市間の経済格差等問題が山積している。こうしたリスクを認識することは大事で、特に日本の対中国進出企業はそれが必要。現状は、中国の強さと脆弱性に関する認識が不足しているのではないか。
  • ASEAN先発国は、もっと競争力を高めなければならない。しかしもはや金の問題ではなく、アイデア、技術協力が重要なのだろう。
  • ODAについては、世界のトレンドから言って、貧困削減は無視できないアジェンダである。日本のアプローチとしてはやはり、貧困削減が援助の重要な部分だと胸を張っていいと考える。貧困削減の手法にはいろいろなやり方がある。アジアの経験を踏まえれば、均整のとれた成長が重要で、成長がないところで幾らミクロ的な政策介入をしても、実は余り貧困の緩和には役立たないという論理をたてるべきである。
  • ODAに関してもう一点。中所得国については従来型の援助は縮小させていくべきだろう。ただし戦略的に重要な貧困地域や特定分野については、選択的に行う余地があり得よう。例えば環境改善や貧困問題に直接かかわるようなプロジェクトがそれである。低所得国に対しては、まだまだそれなりにやっていく必要がある。ただその場合でも、相手国をマーケットの中にいかに引き込んでいくのかという観点が必要だろう。
  • 最後に、APECが行き詰まったのかどうかはともかく、例えばアジア版OECDをつくって、地域全体を見回した観点から、競争力、生産性を上げていくには一体どうすべきか、グローバル化のコストにどう対処すべきか、経済統合をどう進めるべきか、などの問題を考えるためのフォーラムをつくり、アジア各国の制度構築、構造改革を促すべきではないか。そういう中で日本のODAとして何をやればいいのかが、見えてくるのではないか。

<山崎>

  • 産業界からも多数ご参加いただいているということも踏まえまして一言。企業レベルでの関わりとしては市場としての中国、生産拠点としての中国というのがあるが、その場合のメリット・デメリットを集計して、全体像として中国経済とつき合うことの日本経済にとっての意味を把握する作業が必要ではないか。このような作業はそもそも対中経済協力の説明材料にもなりうるし、ASEAN-中国の対比においてどうつき合っていくのかという材料にもなりうるのではないか。

<北野>

  • 中国との関係に限って3点コメントを。
  • 第1点は、日中関係というのは非常に多面的な関係であるということ。関さんの紹介された脅威論が着目している側面だけでなく、安保の面、過去の問題、台湾の問題、経済面では、WTOに入って経済ルールへの遵守をどう求めていくのかなど、さまざまな面をもった関係であり、かつ我々にとってはつき合っていかなければいけない国。これがまず出発点であり、中国との関係を議論するときに、一面だけを取り上げて短絡的な結論を出すということにならないようにすることが大事である。
  • 第2点は、対中ODAについてどうして必要かという議論のときには、日中の共通利益の増進、環境問題など日本にとって負の影響が生じうるところへのに対する手当てという視点を踏まえることが、引き続き必要である。
  • 3点目。二分論との関係では中国に対する経済協力を考えると、二分論だけの世界でなかなか割り切れないファクターがあるのではないか。隣国であって、しかも存在が巨大であることから非常に巨大な影響(エネルギー、食料、何らかの混乱が起こったときの影響、環境等)があり得るということは二分論では出てこないが中国を考える際に視野に入れて考えるべき点と思う。

<五味>

  • ODAというのは、サプリメントみたいなもの。貿易と投資をファシリテートできるようなインフラをつくっていくということがODAの役目。
  • ASEANのイントラリジョナルトレードというのは24~25%で、アジア全体でも33%であり、域外への依存が大きい。一方で中国のプレゼンスが拡大してきている。これをASEAN側からみると、懸念事項は、日系企業がASEANを閉めて中国にシフトすること。欧米市場で日系も含む中国企業の産品とASEANの商品が競合すること。縮小した欧米マーケットの代替効果を求めて、ASEAN市場に商品が流出してくること。一方でASEANの地域の産業政策としてのCEPTの実施は、肝心なところの自動車等では、マレーシアが例外条項をつくったり、なかなか一枚岩ではない。政策協調とそれに協力する日系等外資企業との新たなる総合的な産業政策、あるいは水平、垂直の再編成が現実なかなか進んでおらず結果として、中国との競争力をそがれるという危機にある。
  • ASEANに元気を出してもらう仕組みを、アジアは日本と中国も交えてつくろうというところが、差し当たっての姿ではないか。その次の将来に、ASEANとしてのイントラリージョナルなFTAをつくって、日・米・中・韓、あるいは台湾が入ってくるような仕組みができれば一番いいのではなかろうか。

<C>

  • 本来は中国脅威論といわれているものの中でも、しょせん日本同士の問題というのがかなり多い。先に中国に進出して成功した日本企業と、なかなか行けなくてうまく利益の上がらない日本企業の問題というのも、中国脅威論のかなりの部分を占めている。中国に対する認識というのが、より正確になるように、いろいろな意味での努力をしていくことが大事である。そういう意味で、事実として中国の力が着々とついてきているということは、同時に言った方フェアではないか。
  • 第2点は、ASEANを含むアジア全体の議論、特に東アジアでの議論。我が国は、これから長い将来にわたっての国内市場に大きく期待できないだけに、アジアにおける成長要素というのを取り込んでいくことによって、共存共栄を図るべきである。ヨーロッパにしても、アメリカにしても、地域的な連携というのを強化することを通じて、市場を確保し、あるいは規模の経済で市場のメリットを得たりする一方で、域内での自由化を通じて構造改革を進めてきたという教訓を踏まえれば、我が国もアジア地域、特に東アジア地域での連携を強めていくことが、国としての意思として、もっと明確に強く出していけないのではないか。

<議論のまとめのコメント(関・トラン)>

  • いろいろなご意見ありがとうございました。
  • 客観的に中国をみるというのは、まさにそのとおり。客観的に中国をみるときに私は常に3つの点を念頭に置いた方がいい。1つは、変化率ばかりみないで、実際のレベルをみる。GDPは、中国は日本の4分の1、一人当たりで40分の1です。
  • 2点目は、上海と北京だけみて中国全体を語るのは非常に危険。実際は中国は加工貿易が中心で、 100万ドルの輸出をふやすには、50万ドルの部品とか中間材の輸入が必要。次の中国のリスクに関して、環境の問題、エネルギー問題、不良債権の問題、国有企業の改革問題は全く同感で、さらに中国を中・長期的にみると、一人っ子政策のツケがいつ回ってくるのかということ。20年、30年後は余剰労働力が余るかどうか非常に疑問で、中国の今の7~8%の成長が、幾ら頑張ってもあと25年ぐらい。もう1つは、共産党の行方がどうなるのか文化大革命後の世代の考え方は古い世代の指導部と全然違うし、多くの場合は海外の生活の経験もある。彼らが中心部に入るときには、中国の政治が非常に変わるということになるだろう。  補完関係で、日本の企業が中国に行ってまだ儲かるところはどこかという点については、今の中国の比較優位は、まだ労働集約型製品にある。それに沿った形で最終投資すれば、まだもうかるチャンスがあるのではないか。
  • よく日本ではカエル跳びの議論が盛んになっているが、一歩一歩前進して雁行形態しかないのです。重要なのは、今何がもうかるのか。もうかった分、再投資して、少しでも上のランクの産業を目指すというやり方しかない。
  • 最後に、日中関係をよくするためには、経済の発展段階の収れんも、1つの前提条件なのではないか。日韓関係が改善したのも韓国人が日本に負けないぞという自信を身につけたという部分が大きい。

<トラン>

  • ASEANをもっと強くしようという意見には同感。また97年の通貨危機以降、ASEANの結束力は少し弱くなっている。さらに経済的にも、ASEANは補完関係は弱く、ASEAN域外との関係の方が有用。
  • ASEANを強めていくためにはどうすればいいか。バイについては報告の通りだが、マルチについては、ASEAN事務局の強化ということがあるのではないか。ASEANは政治的にも中国とのバランスという観点から強くなった方がよい。そこに協力の余地があるのではないだろうか。

<司会のコメント(鷲見)>

  • 最初の話に戻ってしまうが、ASEANは発展段階でも一様ではないので、一体のものとしてつきあうのではなく、セレクティビティーみたいな概念をどうしても入れざるを得ない。やはり貿易投資関係がおおもとにあって、ODAがあるので、日本との関係が希薄なASEANの国に対しては、援助をするという形をとっても、少なくても民のベースでは有効ではないだろう。
  • また日本の経験がどこまで有効かということだが、コンテキストが違い、置かれている条件が違うのだから、伝達には伝達をする上での工夫というのが必要だというのが正直なところだろう。