第1セッション議事のサマリー

敬称略。なお、本ワークショップでの発言はいずれも個人としての発言であり、個人が所属する組織を代表する見解・意見ではありません。

<司会:鷲見>

「アジアダイナミズム研究会」は、日本のODA、あるいは広義の経済協力政策が日本の国内産業政策、あるいは通商政策との関係で、どういう形であるべきか。もし現状を見直し、再編すべきであるとすればどういう方向に向かうべきかという点において、我々の考えを整理したいということで、昨年の8月に「アジアダイナミズム研究会」、これを私どものユニットの中の私的な非公式の研究会ということで発足をしたもの。
本日のワークショップの目的は、研究会で議論してきたことのエッセンスを幾人かのキーノートスピーカーの方にご紹介をいただき、ご参加いただいたさまざまな専門家の方々にご意見、自由なコメントをいただきたいというもの。積極的な議論をお願いしたい。

<大野・木村によるレジュメに基づく発表 → レジュメ参照>

<以下、発言ごとのサマリー>

<木下>

  • 基本的に二分論に賛成。ただしそのボーダーの整理が重要。例えば中東のように東アジアでなくても国益に密接に関連する地域もあるし、日本の常任理事国入りの支持集めといった意味からはアフリカも重要。
  • 国内改革と結びつけるべしという点は全く賛成。特に農業問題は当然取り上げるべき課題だが、今のところそれがない。中国はASEANに対して農業の開放もコミットしているのとは対照的。国内改革とのリンクなきアジアダイナミズムの議論は空疎である。
  • また、こうした議論をするにはアカデミズムをどのように引きつけていくのかということが非常に大事で、それなしには現地の共感を得られるものにならない。
  • 相手国の政治体制の変化も考慮すべき要素。ODA政策は一定期間の相手のコミットメントを必要とするが、その間に体制が変わる可能性がある。以前はディクテーターに話をつければよかったが、民主化が進む中そうはいかなくなっている。

<浅沼>

  • アジアの将来は中国・インドが成長し、相対的には日本の経済的な比重が下がってくる。その中で、この地域の経済的な関係をダイナミックなシステムとしてとらえていかなければいけないというのは全くその通り。
  • ODAのやり方については、資金協力や技術移転から制度や政策づくりへが重要となってきているが、その対応にはODA活動に従事する人間の数を本当に大幅にふやす一方で、資金の投入を減らすくらいの覚悟が必要。
  • 一方、東アジア地域に限ってみると、本来的なODAという意味では、もうそろそろ卒業政策を考えた方がよい。
  • 経済統合を政策的に促進するのは、究極的には地域間の取引費用を下げるような諸策をとること。それにはこの地域でのインフラコミュニティーを推進していくという一項を入れると、実物アプローチと統合アプローチの差を埋めることができるのではないか。

<山澤>

  • 二分論は賛成だが、対外的な説明には困難を伴うことが予想される。それほど好意的に受け入れてくれるような世界ではないということをまず考えていく必要あり。東アジアの地域主義、リージョナリズムといった場合に、アメリカもオーストラリアもそれは日本が勢力圏をつくっていると考えておりますし、中国も基本的に同じ。
  • 大変残念なのは、APECへの言及が一言もないこと。マルチとバイの間に立って、APECを活用することができるはず。

<河合>

  • ODAといえども結局タックスペイヤー・マネー。アジアダイナミズムのためだからそこにODAを振り向けてもいいではないかという議論だとすればそれは通らない。きちんとした論理だてをすべき。
  • 配布されたアジアダイナミズム研究会論点整理メモへのコメント。日本を全体の中でどのように位置づけるべきかという観点からすると、日本の農業問題や産業調整・構造改革の必要性を棚上げした上で、内向きの発想から出発するのではなく、日本経済の構造改革をさらに進め、もっとオープンな市場にするという発想を強調すべき。さらに言えば、新興東アジア諸国の市場経済化、ダイナミックな発展、経済統合をプッシュする方向に日本自体が変革していくというメッセージを強調すべき。日本経済をもっとオープンで活力と魅力のある市場にするので、その中にマーケットベースで入ってきて下さい、という発想が重要。今日の報告の発想は旧MITIの発想。そういう発想では日本として世界にメッセージを送れない。

<浅川>

  • 地域主義のあり方は、メンバーシップができるだけオープンでかつ、テーマに応じて柔軟であることが重要。アジアをめぐるフォーラムで今一番アクティブなのはASEAN+3であることは間違いないが、一方でそれに固定すると台湾が抜けるなどの不都合が生じるので柔軟性の確保が重要。テーマに応じてグループをつくればよい。
  • ASEAN+3も内部格差は大きく、対応は別々であるべき。ODA卒業国に対しては非ODAでの協力を検討すべきである一方でCLMVはODA的対応が重要。
  • 技術協力を行う上で人材が不足しているという点については全く同感。

<浦田>

  • アジアダイナミズムを発展させるための手段の経済協力のところだが、旧MITI的な発想なのか、あるいは全く違う自由化を推進させていくという発想のもとになっているのか、そこのところが非常にわかりづらい。そこは明確に出すべき。

<奥村>

  • 経済を発展させるという各国が行っている政策の中で、政府の関与と民間の市場メカニズムによる活動をいつのどういう発展段階でいかにスムーズに自由経済の方に徐々に切りかえていくのか、どういうメルクマールをもって切りかえていくことが一番いいのか、これに常に悩んできたのがアジアである。最先端をいっている日本でも農業問題をはじめうまくいっているとは言えない。そういう流れからいうと、当然農業政策についても、WTOとの整合性をとりつつ日本農業を国際的に合理的なものにしていく、対外的にはオープンにしていきつつ、国内的には競争力のある農業を育てるという政策と、社会政策としての農村政策をという観点をしっかり整理し、政策を展開していくべきですし、いろいろなところで残っている閉鎖性というのを根本からきっちり変えていくという姿勢が重要。

<A>

  • 二分論については、両原理に相互作用があり、例えばアフリカなどに、日本型の開発援助のよいところを取り入れてもらうようなことを副産物として考えたい。
  • 開発援助の世界を一種の国際競争で各国がイニシアチブを競う場だというように考えると、現在の日本はODA本体が削減されていくという中で、新たなイニシアチブを出すというのは非常に難しいというのが正直なところであるが、日本型の経済援助方式の美点を磨いていって、守勢に回ることなく攻勢に立つという転換点をなるべく近い将来に迎えなければいけないのではないか。

<B>

  • 狭義のFTA、つまり関税をゼロにするという意味でのFTAについては、日本が関税を下げることの利益は何なのか、あるいは相手の国のどの関税を下げさせれば、日本としてはどれぐらいの利益があるのかということをちゃんと計算していく必要がある。例えば、ASEAN側の関税というのは、既に日本の製品に対してそんなに高くない。一方日本側も農業についてですら関税のあるものは2割ぐらい。その中身も、関税率5%以下というものが大体半分。今これだけ為替が変動するときに、5%の関税というのがどれほど日本の国内産業に意味があるものなのか、WTO整合的なFTAが関税がかかっているものは全体の10%を超えないというのが国際的なある種の相場感であるとすれば、日本とASEANのFTAというのもそんなに絶望的なものではない。
  • 木村先生がおっしゃっておられるODAと経済協力の案件というものが、日ASEAN包括的経済連携に入るべきであるというのは全くおっしゃるとおりで、その中には、例えばサポートインダストリーの支援、あるいは経済的なインフラの整備ということもあってよい。

<大野(泉)>

  • 木村先生がおっしゃったDACとかそういった要件にとらわれない形で考えるべきだということに非常に共感。ODA自身は供与するときの実際的な制約は非常に大きくなってきている。例えば、OECDの輸出信用部会、そのほかにも調達にかかわるルール、手続的な面、実質的には所得が 3,000ドル以上の国にはなかなか出せない。財政資金が限られる中でODAという言葉にどこまでこだわるのかというのは、よく検討すべき事項。
  • 日本の国益ということから考えていったときに、日本と国際機関との関係において、日本がシステムの面で国際機関に対して積極的に発信していけるかどうか、具体的な理念をいかに早く準備できるか。それが重要な要因になるのではないか。

<山崎>

  • 従来の日本の経済協力の体制にはODAの世界と貿易、投資という世界を全く別物と認識して、実際にそれにかかわる体制も、政府・実施機関・民間企業ともそういう体制であったがグローバライゼーションを背景に変化してきている。開発の観点では、民間部門の役割の重要性が高まっており直接投資の伸びは経済の開発にもつながる一方で、投資する側のビジネスの伸長にもつながる。そこが接点になって、貿易、投資と開発、経済協力という世界がつながる。箱物の整備でそれを支援というのもあるが、民間部門を発展させるための環境整備というのが、制度面、政策面、例えば、マクロの改革をどう進めていくかを含めてあるだろう。
  • 二分論については、アジアとアジア以外の場合を使い分けましょうという話と、目的としてのアジアにおける日本と相手国の経済の一体化、ダイナミズムの助長という話と、それとは全然別な話としての国際的な奉加帳への協力の話とが、オーバーラップしており、機能についての議論と目的についての議論の間の関係をもう少し整理すべきではないか。また、無償・技協と有償という異なる手段の使い分けの議論も重ね合わせてみてはどうか。

<荒木>

  • 今までの日本のODA政策というのは、トータルとしての議論が全然なされていなかった。産官学一体というか、学界、実務家を合わせた合同の研究会を各種各様つくりながらトータルで議論する場が必要であり、それがODA改革懇で設置を提言しようとしているODA総合戦略会議。こうした方向での組織化を政府は図ってもらいたいと考えている。

<林>

  • 開発途上国の人間として、支援される側から述べると、日本はFTAの締結とか開発途上国に対する援助で主体性の確立、イニシアチブの確立は非常に重要であり、そのように期待されている。ペーパーで挙げられているODA、貿易、投資、金融だけでなく教育、技術移転、人的資源の開発、アジア各国のすそ野産業の育成にも日本は貢献すべきである。
  • 今回の包括的経済連携構想についてコメントすると、まず枠が広過ぎる。日本はJ-AFTAの構築に力を入れるべき。豪、NZはもちろん、ASEAN+3でも大きい。10+1から拡大していかないと、また失敗するのではないか。また、目標の設定がない。さらに、日本の農業問題について何もコメントしていない。これらの点について解決していかなければよいイニシアチブに結びつかないだろう。

<議論のまとめのコメント(木村・大野)>

<木村>

  • 農業問題を中心として、日本自身の改革とリンクは重要。農業問題は普段ほとんど議論がなされない。それを変えるためにはFTAでも何でもやらなければいけないというのが、基本的な発想。
  • 2点目は、産業振興における政府の役割の話。旧MITIの発想という言い方があったが、全体的な方向として自由化に向かった方がいいに決まっていることは当然だと思うが、今すぐ関税ゼロにした場合には、多分ベトナムの鉄鋼は全部死んでしまうのです。あと数年間何とかうまく設計してやれば生き残るかもしれないといったことを議論できる余地というのはあるのではないか。さらに、マーケットベースの政策改革を途上国でもというのはそのとおりだが、そこには例えば直接投資を受け入れるということ一点を考えても、投資環境を整えるということでの政府の役割というのは非常に大きい。そのサポートの仕方が、例えば世銀とかでやっているプログラムだと若干不足しているのかというが実感しているところ。
  • 3点目は、APECがWTOとリージョナリズムをブリッジするような役割を果たしてほしいというのはそのとおり。ただ、地域経済統合といったときは、政策協調をする範囲を限定することによって、コミットメントをきちんとできるという側面は当然ある。できれば両方使いながらうまくできたらいいということではないか。
  • 4点目は、インフラコミュニティーの話。こういうプログラムをいろいろ考えていくというのは重要だと思うのです。EUの枠組みでも、参加国が分野によって違っているというのはよくあることですし、そういうことは全然構わない。ただ、そういうプログラムが統合された形の対外経済政策になっていくというデザインを考えていけばいいのではないか。

<大野(健)>

  • 研究会では農業問題などを避けて通っていると言うことは決してなく、そもそもこの研究会をやるというのはセーフガードがあって、こんなことではいかんということで始めたもの。ただ、ODAから先に行こうという話になっただけで議論しないというつもりはない。
  • 産業育成についてだいぶ議論が出たが、引き合いに出しているベトナムの鉄鋼については、世銀はそんなことは全く議論しない。自由化を早くやれというだけ。ベトナム政府は早く一貫製鉄をGDPの3割ぐらい使ってやれというようなことで、空疎な議論をやっている。NTBをやめて関税をできるだけ早く落としていかなければいけないけれどもその速度をどうするか等を具体的にやらなければいけないのに、全くマーケットマインドがなくて、議論が抽象的なレベルにとどまっている。具体的にどうするかということを全くわからないで、数量的なプランだけつくっているからそれをつぶしたいのです。そういう仕事をやっているので、もし関心があれば、ウェブもありますし、本も今年中に出ますので見て下さい。