第1セッション議事録

  • 平成14年2月13日 10:00~12:00

敬称略。なお、本ワークショップでの発言はいずれも個人としての発言であり、個人が所属する組織を代表する見解・意見ではありません。

鷲見

本日はお忙しい中「アジアダイナミズム」のための経済協力についてのワークショップにお集まりいただきまして、どうもありがとうございます。経済協力の専門家、そして官庁、産業界の皆様方お集まりいただきまして、大変感謝をいたしております。
私、きょうの進行役を勤めさせていただきます経済産業省貿易経済協力局の鷲見でございます。通商金融、経済協力ユニットを担当いたしております。本論に入ります前に、このワークショップのそもそものきっかけを簡単にご紹介させていただきたいと思います。
私どもの官庁は、昨年の1月に機構改革をいたしまして、経済協力部というのがずっと昔からございました。通商政策局にありました経済協力部と貿易局にございました貿易金融、通商金融、あるいは貿易保険の部局、これを1つのユニットにまとめました。その気持ちは広い意味での経済協力をODA、それからノンODAであっても日本にとっての途上国に対する経済協力に寄与するものはすべて一体的にみていこうと。ですから、広義の経済協力政策を一まとめにみていこうという意気込みで組織が今から1年ちょっと前に発足したわけでございます。ちょうどODAが転機を迎えているときでありまして、ご承知のように財政危機の中で、ODAの予算が削減される、あるいは援助の量よりも質が叫ばれるということが進行しておりました。同時に、中国の進出にみられるような、アジア各国への日本からの製造業の移転が急速に進行した、これが去年の大きな出来事でもあったわけでございます。そして同時に、中国はWTOに加盟し、WTOの発足がドーハの閣僚会議で合意されました。
一方で、EU、NAFTA、あるいはアジアではAFTAのASEAN統合という地域統合の動きも活発に動いているわけでございます。
今後の経済協力を見据える上で、経済協力、プロパーで物をみているのではなくて、日本の通商政策全般、そして大きなプレーヤーである日本の国内そのものの国内産業政策の3つが相互に連関し合いながら運営されていかなければいけないということを、私どもとして常日ごろ痛感しているわけでございますが、遺憾ながらこれをコンシステントなビジョンという形でまとめるには至っていないというのが現状でございます。
そうした中で、ODAというのはとかく――これは重要な外交のツールでもありますけれども、外交の調整その他で翻弄され、なかなか一貫した姿勢が貫きにくいという局面も多々ございます。今後、日本のODA、あるいは広義の経済協力政策が日本の国内産業政策、あるいは通商政策との関係で、どういう形であるべきか。もし現状を見直し、再編すべきであるとすればどういう方向に向かうべきかという点において、我々の考えを整理したいということで、昨年の8月に「アジアダイナミズム研究会」、これを私どものユニットの中の私的な非公式の研究会ということで発足をいたしました。
メンバーはきょうここにご出席いただいております大野健一さん、木村福成さん、トラン・ヴァン・トウさん、関志雄さん、奥村裕一さん、こういう皆様方でございまして、私どもの考えを整理する上でのさまざまなご示唆をいただいたということでございます。その研究会の十数回にわたる議論につきましては、ご案内のビラにもございますようにホームページがございますので、そちらを詳しくごらんいただきたいと思います。
きょうのワークショップは、これまでの研究会で私どもが議論いたしてきたことのエッセンスを幾人かのキーノートスピーカーの方にご紹介をいただく、そしてきょうご参加いただいたさまざまな専門家の方々にご意見、自由なコメントをいただきたいということでございまして、私どもとしてはそれを参考に今後の政策形成の土台としていきたいと思っているわけでございます。これは非公式のワークショップではございますけれども、今後さまざまなインタラクションを期待いたしまして、この結果は議事録を作成し、匿名でホームページに公開をいたしたいと思っております。
ただ、皆様方それぞれ組織を代表していらっしゃっているというよりは、経済協力について一家言おもちの方々ばかりでございます。組織を代表してというよりはむしろ個人として積極的なご発言をいただきたいと思っている次第です。
若干ハウスキーピング的な話を申し上げますと、コーヒーはセルフサービスで入り口付近にございます。午前中は特段のコーヒーブレークをとりませんので、適宜おとりくださればと。それから、お昼は45分間の休みをとりますけれども、軽食を用意させていただきます。
全体を3つのセッションに分けまして、最初にODAのあり方全般についての総論、特にその中で大野健一さんからODA――これは日本のバイのODAとマルチのODAがあるわけでございますけれども、どうしても目的というのは一元化しにくいのではないかということで、ODAを2つの戦略的目的から分けて考えてみようというODA二分論、それから木村さんから、地域経済統合を進めるということがすべからくアジアダイナミズムを進める大きな広義の経済協力になるという視点でのご発表をいただき、これについてのご議論をいただきたいと思います。
昼休みを挟みまして、午後2つのセッションがございます。第2セッションでは、今焦点が当たっております中国、そして日本との貿易投資関係が早い時期から非常に深かったASEAN諸国との関係がどのように今後展開していくのかということ。これは、研究会でも数回にわたりましてかなり突っ込んだ活発な議論が行われたわけですけれども、この両地域、両国との関係についてのプレゼンテーションをまず関志雄さんから、そしてトラン・ヴァン・トウさんからいただきまして、これを議論いたしたいと思います。
最後にそうした議論を踏まえて、今後の経済協力政策をいかにやるべきか。これは、今回のテーマが「アジアダイナミズム」の発展に向けての日本の経済協力ということでございますので、ODAすべてをカバーして議論することは、時間の関係上、あるいは私どもの力量からいっても必ずしも適当ではないかと思いますので、できるだけアジアダイナミズムに寄与する日本という観点から、経済協力政策を見直していった場合に今後はどういう視点が必要かということについて、私から議論の総括、あるいはたたき台という意味で、論点を幾つか提示申し上げるとともに、下村さんから問題の提起をしていただきたいと思っております。
最初のそれぞれのセッションの20分、もしくは30分だけが発表時間でございまして、その後皆様方の自由な討論をいただきたいと思います。
今、お座りのお席にネームプレートがございますが、逆に向いている方は名前がみえるようにしていただけますでしょうか。私の席からはすべての方の名前が必ずしもよくみえない場合もございますので、最初にご発言いただくとき、参加者皆様方のためにも一応組織、そしてお名前を自己紹介していただいてからご発言をお願いできればと思います。できるだけ多くの方にご発言いただくという意味で、ポイントをよくまとめてお願いしたいと存じます。それから、午前中のセッションだけご参加という方もいらっしゃいますので、そういう方はぜひ早目にネームプレートを立てていただいて、積極的にご発言をいただいて、時期を失さないようにお願いいたします。
進行についてのご意見、ご質問、ご要望等ございますでしょうか。
それでは、早速第1セッションに入らせていただきます。先ほど申し上げましたように、ODA二分論、そして域内経済統合へのビジョンということで、まず大野さん、木村さんからのプレゼンテーションをお願いいたします。大野さんよろしくお願いします。

大野(健)

ODA二分論、あるいは経済協力二分論という言葉を使いますけれども、経済協力というのはODAを含んでOOF、民間、NGO、その他全部含んだという意味で、両方使いますが、広い意味でとっていただければ幸いです。それから、今もありましたけれども、できるだけ堅苦しくない、自由な、大学のワークショップみたいな感じでやりたいと思っております。ただ、時間が短いのでレジュメにすべて書きましたので、目で追っていただければと思いますけれども、ここではかいつまんで申し上げます。
経済協力の二分論ということですけれども、ここに書いてあるボックスの中であるように、2つの原理に基づいてODAを再編成すべきだということを我々は申し上げたいと思います。ここに書いてありますように、よく考えてみますと、別にそれは日本に全く新しいことをやれというのではなくて、今まで日本がやってきたことにはこういう2つのものがあるだろう。それはオーバーラップもするし、ときどきはどっちをするかという矛盾もあるわけですけれども、一応こういうことでやってきたので、それを前向きに出して矛盾のあるところはそれを真剣に考える、オーバーラップするところもそのような認識でやるということがいいのではないかということであります。
ここに第1原理、第2原理と書きました。どっちが第1でもいいのですけれども、とりあえずこれはアジアの方を第1にしております。我々の研究会では主にアジアの方を議論してきました。国際機関について、あるいはグローバルな問題、貧困、環境に対してどうするかということはまだ議論しておりませんけれども、重要でないということではない。今からは主にアジアダイナミズムの方を議論します。
一応ここだけは重要ですから書いてあるとおり説明させていただきますけれども、アジアダイナミズムを発展させるための一手段としての経済協力を1つのODAの柱にすべきである。このワーディングは結構いろいろ考えたので、アジアダイナミズムというのは雁行形態という言葉に置きかえられたりするかもしれませんけれども、雁行形態は終わったか終わってないかという議論もあるし、アジアダイナミズムの方がどういう状況が起こっても大体対応できるということで、一手段でありましてODAだけで、あるいは経済協力だけでやれというのではない。先ほどありましたように、対外経済政策の全体の中のODA、あるいは経済協力を使える部分はそれをやる。違う部分は別のものでやるという意味合いであります。
我々の経済活動というのは、東アジアに深く組み込まれている。今、経済統合でAFTA、NAFTA、日本とシンガポールとかありますけれども、実際彼らが何を求めているかと考えますと、やはり産業的、金融的の投資の活発なものを成長の糧にしたいということなのだと思うのですが、既にアジアではそのような成長をしてきたということで、もちろんそれを活発化、さらに加速させるということは必要でしょうけれども、これは押さえておきたいということです。アジアに先進国からLLDCまで含んでの生産の供給サイドで非常にユニークなネットワークが現存していて、ただ、それにはいろいろな問題もあるし、例えば日本が減速したり、中国が上がってきたり、ASEANの立場が苦しくなったり、あるいは危機が起こったりしますから、当然そこにサプライサイドのネットワーク、生産工場としてのアジアというものを活性化させなければいけない、あるいは障害を除去しなければいけないということがある。それの1つの手段として、ODAないしは、より広い意味での経済協力を使うという意味であります。
第2原理というのは、グローバルな課題を共同開発するための貢献手段として使う。貧困、環境、その他ここに書いてあるようなグローバルな問題につきまして、ここではポイントが幾つかありまして、国際機関と我々の関与の仕方というのは、今まで十分でなかった。1つは、もっと積極的に関与すべきである。その積極的な関与というのは、もちろん世銀が打ち出すイニシアチブに協力する。資金を出す、人を出すと同時に、彼らに対してやはりアジアの視点、日本の視点というものを打ち出していって、必ずしも追随でない、彼らの知的インプットに対して貢献すると同時に、おかしいと思うことに対してははっきりいう必要があるという第2原理であります。この2つは、必ずしも対立するものでもないし、オーバーラップするものもあるのですけれども、原則として分けた方が筋が通るのではないか。
この研究会では、このような進め方をしました。今いった2つの原理があるだろうということは、少なくともアジアダイナミズムの研究会の中の参加者では合意事項として、これについての議論は余りしませんでした。その原則の中で、アジアダイナミズムの中身とは何かとか、アジアダイナミズムの範囲は何かとか、実際にどういう政策をするのかというものついては、我々の中で内容の中身の問題として、それは活発に議論しました。それが第2レベルの問題で、第3レベルで、それでは経済協力、ODAで、例えばバイとマルチをどうするのか。国際機関にどのような態度をとるのか。そのような問題に対して、第3レベルの問題として、経済協力実施の問題として議論しました。それを一応整理したものがレジュメのバンドの中の最後から2番目に入っていると思うのです。アジアダイナミズム研究会論点整理メモ11月27日というものですけれども、これは本当はこういう未完成なものを皆様にごらんいただけるものではないのですが、今いったような共通枠組み、原理の問題、具体的な問題と分けましたので、いったい我々がどういう議論をしてきたのかということをもし関心あればみていただければ幸いです。
そのほかに、もっと具体的なケース、例えば中国のハイテクパークの話とかタイの人材育成の話とかベトナムの産業問題という議論もしましたけれども、それはここには書いていません。
ということなのですけれども、1つ申し上げたいことは、私が思ったのは、ODA、経済協力を議論するのでも、あらゆる議論を同じ研究会でやるよりも、ある一定の方向性をもった人々が集まって議論した方がいいだろうということなのです。つまり、この二分論に対してそもそもおかしいというようなことになりますと、結局その原則論を議論してそれから中身になかなか入れないわけです。原則論を議論してはいけないということではないのですけれども、それはこういうものをつくった後で外の方から、あるいはほかのグループから議論していただこうと、僕はその方が中身の議論がかなりできるのでいいと。むしろ今から議論していただきたいことは、どんなレベルでも結構で、そもそもこの二分論がおかしいということも含めて、あるいは原理・原則の問題、ODA実施の問題について、どんなレベルでも議論していただきたいと思います。
後は今いったことの説明を幾つか申し上げますけれども、これはもう簡単にします。最初は対外政策の一貫性の必要ということで、やはりアフガニスタンが起こったらアフガニスタンでする。ティモールが起こったらティモールでする。環境問題が問題になれば日本はどれをどれだけ出すかという問題ではなくて、やはりまずODA、あるいは経済協力自体に一貫性がなければならないし、それはもっと広い意味で、日本が世界、あるいはアジアでどのような経済ビジョンをもっているかというところからこないといけないということだと思います。
2番目に申し上げたいことは、日本は明治以来ですけれども、アジアの一員なのか、先進国の一員なのか、その2つの原理が異なる方向を指すときにどうすればいいのかという問題がありましたが、ODAに関してもいわゆる国際機関、あるいは欧米のイニシアチブ、アングロサクソンのイニシアチブにどれだけ協力するかと日本らしさ、日本型援助、日本型の開発問題をどれだけ打ち出すかという問題があるわけですけれども、私にいわせれば、その2種類があるということは、我々にとって非常にいいことであると。どちらかに決めようとか考えないで、やはり両方あるわけですから、それをバランスをとって両方やる。おかしいと思ったときは一歩下がって考えるということはあった方がいい。
もう1ついいたいことは、アジア、非欧米の先進国でODAの大きなドナーとしての日本というのは、欧米と協力するだけではなくて、やはり開発思想、開発理念というものが世界じゅう一色に塗りつぶされている形というのは、私は不健全なことだと思うので、欧米が正しいか、日本が正しいかは別にして、多数の理念が競合するという状態がむしろいいのだと思うのです。そのプレーヤーとして日本がもう少し果たすべきであるということであります。
3番目に、そうしますと国際機関とか世銀とはどのようにつき合うかということですけれども、これは先ほど申したとおりです。まず、日本が人材の面でも、システムの面でも全然だめなところがあります。それは、やはり学ぶべきことは大いに学ぶことで、世銀がおかしいからといって、そこを学ばないということはおかしいわけで、どんどん世銀のやり方を取り入れればよろしいと思います。ただ、知的インプットも行わなければならないわけで、例えば私――これはご意見がいろいろあるかもしれませんけれども、今の世銀の貧困アプローチというのは、PRSP、その他どう考えてもおかしいと思います。中身がなくて形式だけの話ではないか。あと、コモンプール制とかPRSPもそうですけれども、単一にみんな集めてやろうというのは、先ほど私が申したアイデアの多様性というものに反して、ある意味でちょっとイデオロギー的になってしまう、感情的になってしまう。反対する方も推進する方も、余り健全でない状況になってしまっているのではないか。やはり、日本型アプローチを出すのだったら、ナショナリスティックに出すというよりもバランスを常に考えて出すということをやらないといけないと思います。ただ、それをやる人材とかシステムが――私は人材よりもシステムの方が問題だと思いますけれども、それは我々がつくらなければいけないことで、大きな課題だと思います。
4番目に申し上げたいことは、ODA、経済協力を含めて、対外通商関係、貿易関係、投資関係、自由貿易協定の問題というものは、国内の改革というものとつなげなければいけないのではないかということです。だから今の政府はもちろん改革をやるといっていますけれども、私は欠けているものがあると思うのです。ロシアでも中国でも途上国でもどこの国でも、国内感覚というのは外圧を利用、あるいは外からの競争を入れて、産業が変わる、システムが変わるわけで、日本で、あるいは霞が関だけでどの産業が伸びるか、ベンチャー支援をするといってもそれはある意味で空疎でありまして、どの産業が伸びるというのは、学者とか官僚にわかるわけはないので、結局は国際競争で勝っていくようなものをつくっていくというのは、競争の原理をさらすという意味で、今の改革議論にはそういう観点が抜けているのではないかと思います。
だから、ODAの話は国内改革と随分違うように考えられますけれども、そのように考えれば、対外経済政策というものと国内の産業、あるいはシステムの活性化というものが、日本ではまだ一体化していないというのが大きな問題だと思います。
それに一言いえば、対外経済政策で自由貿易をするにもWTOをやるにも何をするにも、はっきりいって日本の対外経済政策というものは、簡単にいえば農水省にブロックされているわけで、農業だけではないですけれども、いわゆるセンシティブ産業がありまして、繊維でもシイタケでも何でもこの問題をもう少し正面から議論しないと、シイタケ問題というのはODAだけではなくて、対外経済政策につながるわけです。これもやはり対外問題と国内改革の問題というものを一体として考えなければいけない。農水省を非難しろということではなくて、やはり日本の農業には外圧、あるいは競争力の中で生き延びられるような新しい長期ビジョンを示さないと、ただたたえているだけではだめですから、そのような活動がある意味で一番アジア活性化に日本が参加できるやり方ではないかと思います。だから、農業のことについては我々は議論しましたけれども、そういう方向では管轄が違うというのもありますが、まだ議論してませんけれども、将来ぜひすべき問題だと思います。
次のページに書いてあることは、少しだけですけれども、我々が議論して議論が収束しなかったことをここでは2つだけですが、指摘しておきます。
1つは、どちらの政策志向でいくのかということで、アジアダイナミズムといったときに、ここではたまたま実物アプローチ、これは私が考えただけの命名ですけれども、ここに書いてあるとおりです。貿易とか投資とか生産のネットワークの網の目状の広がりというものを最大の目的にして、それがどの国が入ってくるか、あるいは自由貿易のためのスケジュール、目標時点を決めるということはやらないで、実態の生産、貿易、投資を阻害しない、活性化する。それがどういう広がりで、どの産業にいくかということ。あるいは、自由貿易になるか。おくれてきた国では保護貿易になるかは目的ではないので、それは手段であると考えるやり方か。それともある程度の統合のビジョンをみせて、スケジュールをみせて、今でいえば日本とASEAN、あるいは東アジアの自由貿易、経済統合というものをみせて、それで政治的に進めていくべきであるか。議論していくとそんなに究極的には変わらないセマンティックな問題かもしれないし、あるいはかなり違うパスを歩むことになるのか、それはまだよくわかりません。私は実物アプローチの方をいってまして、木村さんはいつも後半の方になるのですけれども、これはできれば議論していただきたいと思います。
それから、このシンポジウムに先立って、ご意見を先にいただいていますけれども、富士通の小田寛さんという方から、これについていただいて、両方やればいいのではないかと。原則としては生産のネットワークをオープンなリージョナリズムの形で進めればいいけれども、その中で1つの核として日韓+ASEANで、中国は除けという主張でしたが、そのような考え方もあるのではないか。
もう1つ議論したのは、アジアダイナミズムを支持する政策の中身というのは一体どういうことか。ひょっとしたら通産省が今までやってきたことと同じことではないかということも考えられる。
もう1つ、ダブルスタンダード論というのは、末廣昭先生がちょっと本で書かれていたので借用したのですけれども、末廣先生はこれが大問題で、日本が反省すべきだという意図で書かれたのではないと思いますが、日本では自由化しろといっているのに、何でASEANで、アジアで産業政策をやるのだという矛盾みたいなもの、これは我々の会の中では別に矛盾ではなくて、当然国際協調ということだけ考えても政府の役割はあるし、ましてアジアではASEAN10の中でLLDCまで含むわけですから、いろいろな政府の介入という形があっていい。ただ、もちろん日本は自由化に向かうということはそうなのです。これについては、まだ十分議論されておりません。
最後にちょっと関係あるかどうか知りませんけれども、1つの例として、ODAを突破するため、あるいは経済協力について突破するには、こういう原則の議論をすると同時に、やはり行動をパイロットプロジェクトをつくらなければいけないということがあって、これは木村先生と私、両方参加してやっているJICAのプロジェクトがあるのですが、これはどういうことかというと、ベトナムで石川プロジェクトというのが95年から6年間やりました。その続きで我々が1年ちょっとやっているのですけれども、どういうことかというと、ご存じのとおりベトナムというのは、WTO、AFTAなどのインテグレーションを進めていますが、産業的にはまだ全然弱いので、これは完全自由化すればいいと考え方もありますけれども、我々はそうでないし、ベトナム政府もある程度は、AFTAまでの期限を少なくとも利用して、いろいろな政策的支援、あるいはダウンサイジング、プロモーションをやるべきだということで、ただ具体的にどうすればいいかというのは、右往左往して決まってないので、それを具体的な産業を徹底的に調べて、鉄工所を全部回った方も入れて、技術的な面、マーケット的な面、ロシアがどういう輸出をしているかとか、そういうことまで入れて議論するということであります。これは共同研究で、向こうの大学と日本の大学の先生が一緒になって、石川プロジェクトでは向こうの政府に対するインパクトがかけた資金、時間に比べて非常に少なかったので、これを改善しなければいけないということで、ついこの数ヵ月前からですけれども、JICAの方、大使館の方が一緒になって、我々の成果をベトナム政府、あるいはEU、世銀などにもっていこうという活動を始めました。ここでのポイントは、今いった具体的、実物的というか、産業的な関心をもって、どのように彼らがインテグレーションすればいいか。ただ、鉄鋼をやれとかやるなというそういう簡単な結論を出すのではなくて、一緒に考えようと。非常に難しいけれども、一体日本人というのはどういうことを考えて産業の育成をやるのかというのを一緒にやろう、ラーニング・バイ・ドゥーイングでやろうという意図であります。これは世銀などは全然関心がないし、恐らくそういうことをやる必要はないということなのだろう。EUとUNDPがベトナムでやっておりますけれども、彼らは資金的にも人的にも非常に少ないので、まだ大したことはできていません。
もう1つ重要なことは、今いったように広報活動で、いい研究をすると同時に、それをいろいろな政策インパクトがあるところにもっていく、あるいは国際機関にもっていって、議論していただくということを我々は余りにもしなさ過ぎたので、それをやる。そういう2つの意味で、パイロットプロジェクトをやっています。
私はそのぐらいにしておきます。

鷲見

どうもありがとうございました。大変興味深い問題提起であったと思います。既にいろいろな場で、大野さんの二分論は提言されていますので、ご存じの方も非常に多いかと思いますけれども、私どもも頭の中の整理として地球的貢献のバードンシェアリングという話と日本にとってより経済的利益の高い地域における日本的なアプローチの強調というリージョナルコントリビューションの問題、これを頭の中で整理して考えた方がいいということ。そしてマルチの機関と日本とが必ずしも同じ視点で仕事をしていないけれども、できるだけ接点を求めていこうと、そういう点で大変興味深いご提言であるかと思います。
その後、地域の中はどのように貿易投資関係を築いていくべきか。その際にマーケットインテグレーションの問題というのは避けて通れないわけで、実際それは狭い意味のODA、それ以上に途上国にとっては重要な関心でもあり、今大きな流れにもなっているわけで、その観点で木村さん、前から地域統合の問題についてFTAの動きその他を含めて、これが経済協力の重要な一側面であるというご指摘をされています。きょうはその点につきまして、より突っ込んだご議論をいただこうと思います。どうぞよろしく。

木村

慶応大学の木村です。本日はお忙しいところどうもありがとうございます。パケットに入っている方は私のレジュメの2ページ目が抜けておりますので、後で別に配らせていただいた部分に1、2、3ページがありますので、4ページ以下はまたパケットの方に戻っていただければと思います。
今、大野さんの方からもお話がありましたけれども、ここのところ2年ぐらいベトナムで一緒に仕事をさせていただいて、最初大野さんは皆さんご承知のとおりIMFのいろいろなコンディショナリティー等の批判とか大分激しくされてますし、いろいろ一見して少し違うなと思ったりするときもあるのですが、よく話してみるとやはり違わないと思って、ただ別れるころにはやはり違うかもしれないと思って……(笑声)。研究会は十何回もやらせていただいたのですが、毎回そういう気分でまた次回が楽しみだといって別れる。ほかの研究会の参加者の方たちにも随分ご迷惑をおかけしたのではないかと思います。
ODA二分論はいつ話が出たかわかりませんが、2人ともばらばらに考えていて、何だ同じこと考えているではないかと。もう少し話してみたらやはり違うかと。話していると同じでできるじゃない、もう少し大野さん歩み寄ってよといっていると感じになっています。ですから彼が話したこと、リーズニングのところ等で若干私の志向と違うところがありますが、大筋は全くこのとおりだと思っていまして、大野さんの言葉だと実物アプローチと統合アプローチ。この辺がどうしてもなかなかコンバージェンスしないということなので、最近結構コンバージェンスしていると思うのですけれども、間違っているかもしれません。特に違うところを若干際立たせて、お話をさせていただきたいというのが、きょうの私の話です。
メモで1、2、3のところはフォローオンということになっていまして、基本的にそれに沿ってお話しさせていただきますが、若干それを補足することで4ページ以下のところは、研究会の冒頭で書いたメモで、細かいところだけ手を入れていまして基本的には同じですけれども、特に5ページあたりを少し使いながら説明させていただきます。
ODA二分論という話を始めたときに、私の関心としてやはり一番大きかったのは、単なるODAプログラムの改革というのは、それはもちろんそれなりに意味があるとしても、もう少し広い視野でやらないと意味がないだろう。前からODAの有効性とかどういうメッセージを日本として出すのかとか、そういう議論はもちろんあるわけですけれども、それはそれでもちろん重要なのですが、ただODAというスキーム自身が、いってみれば非常に人工的なシステムだし、もう何十年も変わらないフレームワークでやられているものになっている。そうでなくて、もう少しODA、あるいはもう少し広義の経済協力というものを対外政策全体の中での位置づけを考えていく。その中でどのようにしていくかということをやはり考えなければいけないというのが、私の最初の問題意識です。
二分論という形で出てきたときは、特に東アジア向け経済協力については、対外経済政策としてODA、あるいは経済協力というのを明確に位置づけるということが重要であって、東アジア以外の地域、これは特にサハラ・アフリカとか南アジアの幾つかの国に日本は想定して話をしていますが、そういうところではもちろん外交政策目的であるとか、国際的な所得分配、あるいは貧困問題、人道的支援といったものも含めた社会政策的な側面をもったODAはもちろんあるだろう。これはやはりはっきり分けて議論した方がいいのではないかというのが、最初の私のスタートになったものです。東アジア向けについては、はっきりとほかの対外経済政策のツールです。国際通商政策とか、国際金融政策、そういったものと一体化した対東アジア経済政策という枠組みの中に、経済協力を不可欠の要素として位置づけるべきだというのが基本的なスターティングポイントなわけです。
2のところのバックグラウンドをちょっとお話しますが、ご承知のとおり国際金融面では、最初アジア通貨基金等の話があって、若干内容的には後退しているわけですけれども、チェンマイ・イニシアチブという形で一定の協力の枠組みができて、そこから先どのようになるかよくわかりませんが、何かまたできたものがある。
一方で、国際通商政策の面での地域協力というものもおくれているわけです。日本の国際通商政策の枠組みをどのようにつくっていくかというのは、まだいろいろな議論があると思いますけれども、重層的アプローチ、あるいは多層的アプローチといっていいような、WTOだけではなくて、地域主義も部分的に取り入れながら進めていこうということを支持する人がだんだんふえてきていると思うし、私もそのように考えているわけです。それについては少し補足説明が必要だと思うので、4ページ、5ページあたりをごらんいただきたいのですが、伝統的にはやはり地域主義の弊害というところが非常に強く強調されていたわけです。こうれは、域内国と域外国を差別するというところから基本的には出てくる話でありまして、その原産地規則の取り扱い、あるいは貿易転換効果から出てくる負の効果、あるいは経済ブロックからの貿易戦争のおそれとか、そういったものが、これすべて域内国と域外国を差別的に扱うところから出てくる弊害になるわけですけれども、そういった面がむしろ強調されていく。それから、物の貿易の話がとにかく中心になって議論がされてきたということがあったと思います。その状況は特に95年以降、大きく変わっているということを我々は認識しないといけないと思うわけです。
1つは物の貿易だけではなくて、投資ルールですとか、いろいろな意味での紛争解決ですとか、いろいろなものをある場合には経済協力です。それを地域統合のフレームワークのなかにぶら下げるというスコープの拡大というようなことが随分起こってきた。
それから、WTOベースの交渉を必ずしも待っていないで、早くできるところはどんどんやろうというスピードの面。そういったものがだんだん強調されてきて、関税撤廃効果だけではなくて、経済制度の調和・収束促進効果とか、直接投資促進効果、国内構造改革推進効果、こういったものがむしろ前に出て評価されるようになってきたと思います。
地域主義が多角主義実現のためのビルディングブロックになるかどうかというような議論は、我々学者の世界でもずっとやってきたわけですけれども、問題設定そのものが時代おくれだというように私は考えています。というのは、NAFTAとかEUが行く行くはWTOの無差別原則を取り入れて、音程を全部均等にするようになるということは、まず考えられませんし、あるいはNAFTAとかEUがどんどん外延を拡大して、いずれは世界の全部の国が1つの統合になるということもない。今起きていることは、FTAというツールを特に使って、ネットワークができてくる。これはFTAの中で、ハブになる国とスポークになる国が出てくるわけですが、スポークよりもハブの方が有利である。そうすると、みんなハブになろうとしますから、FTAのネットワークがどんどんできてくる。肝心なことは、FTAというのはほかのFTAに既に属していても、また次の国とFTAを結ぶということが容易になっていくわけです。ということで、FTAのネットワークに入る国と入らない国、あるいは入る能力のある国と入る能力のない国というのが別れてくるというのが、今起きていることになっていると思います。
そういったことを考えていったときに、日本も幾つかの国と自由貿易協定の話をしていますし、シンガポールとは既に調印されましたけれども、アジア域外の国とも積極的にそういうことを考えていくことも必要だと思いますが、東アジアということでいいますと、やはり時間はかかるにせよASEAN+3のフレームワークで、長期的にみればFTAを柱にするわけですが、短期的、中期的にはそれ以外のツールがもしかしたら前に出るかもしれないが、そういう政策、フレームワークをつくっていくということが、やはり大事なのではないかと考えているわけです。
レジュメの1ページの方に戻らせていただきますけれども、これはいうまでもなく、特に大野さんと違っていないということを強調するためにいわなければいけないのですが、自由化促進そのものを自己目的化するということではもちろんない。そうでなくて経済のダイナミズムを生かすための政策枠組み、あるいはそういうイニシアチブをやることによって出てくるいろいろな政策改革、こういったものでダイナミズムを生かすような政策環境をつくっていくということが重要だと。そのためにFTA、あるいは経済連携協定という言い方でもいいと思うのですけれども、形成を目指していくということが大事なのではないか。もちろん、構成国、地域の発展局面の違いというのを考慮して、各国地域の経済発展のために望ましい速度とかシークエンシングというのも考えた経済統合をしなければいけない。
一方で日本の方は、もちろんセンシティブ・セクター問題が詰まっていると、ここから先に進めないわけですから、すぐ解決できないにしても解決の方向を示さなければいけないし、それによって共存共栄のための経済統合へのコミットメントをしっかり示していく必要があると考えているわけです。
しかし、少なくとも将来的にはFTAというところが政策フレームワークとしての核になるのだということをいわないと政策フレームワークとしてのコミットメントが足りない。そこがないと、それ以外の部分だけではやはりメッセージ性が出てこないということがあると思います。
FTAというのはいろいろ便利な特徴がありまして、今お話ししたところでも幾つか出てきましたけれども、1つはシークエンシングが自由である。つまり、どの国とどういうタイミングで結ぶかというのは、かなり自由に考えられる。それから、スピードが自由である。どのくらいのスピードで締結していくか。締結した後にどのくらいのスピードで実際の統合を進めていくか。10年以内ということでやればよいということで、ここにもフレキシビリティーがある。それから、スコープの自由さです。どんなものをFTA、あるいは経済連携協定の中にぶら下げていくか、これも自由に考えることができる。シークエンシング、スピード、スコープというものについて、かなり弾力的に使える。こういう利点を生かしながら、積み立てていくことが必要だろうと思います。それに加えて、もちろん国際金融政策等の他の分野との連携というものも図っていける余地はあるだろうと思います。
経済協力の位置づけというところにいきますけれども、FTA、あるいは経済連携協定の傘の下というのは、いろいろなものがぶら下げられるわけで、特に東アジアの場合には、発展局面が異なる国がたくさん入っているわけですから、そこに経済協力というのを有効でかつ不可欠な構成要素としてぶら下げることが可能である。今まで実際に日本がやってきたことも、経済統合のためという言い方はもちろんしてないわけですけれども、アジアの国が経済発展をしっかりしていけるようにということを考えてやってきたと私は考えていますし、その面をもっとはっきりと前に出して、アジアダイナミズムを生かすため、あるいはそれを生かすための政策枠組みを構築していくための経済協力ということで、はっきりと目的を書いたらいいのではないかと思います。
ODAというのは、究極的な目的は貧困撲滅のためといわなければいけない雰囲気が世界的に非常に蔓延している。これはレトリックの問題もありますから、私のいっているのも少し極論かもしれませんが、東アジア向け経済協力については、貧困撲滅が究極目的だという必要が本当にあるのだろうか。そんなことをいわないで、経済ダイナミズムの発揮及びそのための政策環境を準備するための政策的統合の真価が目的だとはっきりいってしまってもいいのではないか。そういうものはODAでないというように国際的に呼ばれるのであれば、ODAといわなくてもいいのではないかと極端に思います。
それから、その目的に必要であれば、OECD、DACで決めてあるいろいろな要件があります。そういったものにとらわれる必要もない。むしろ、OOF、その他とも積極的な連携を図って、経済ダイナミズムの発揮というところは究極の目的であって、そのために自由に政策をツールして、その中でもちろんODAと解釈されるものがあれば、解釈しても構わないけれども、必ずしもそんなことにとらわれる必要はないのではないか。
国際レベルの産業振興政策、あるいは経済統合目的のための国際経済政策ということであれば、相手国の所得水準はどのくらいだからもう出せないとか、状況としてどうすればよいかという問題は、必ずしも本質的ではなくて、中身の話をむしろ先に詰めるということが可能になってくるだろう。もちろん、産業振興政策といったときに、どういうものをやるかということは、慎重に考えなければいけないわけで、基本的には政府と市場の役割分担の話とか、どこまで政府がやるべきなのか。それから、こういった政策というのは、当然国際的な経済政策になってくるわけで、国内政策と違って、国際的な経済政策はどこまで踏み込んでいけるのか。こういったことは、もちろんきちんと詰めなければいけないと思います。あるいはWTOにおける政府調達、その他のルールがあります。こういったものは、もちろん守っていかなければいけないわけですけれども、その範囲内で自由に考えていくことができるだろう。
当面の具体策ということですけれども、目的に合わせた内容の充実、あるいはそのための組織整備の改編ももちろん必要ですが、それは実はそんなに急いでやらなくてもできるかもしれない。もちろん今、経済協力をやっているシステムは歴史的に非常に複雑にでき上がっているわけで、そんなに簡単に変えることはなかなかできないかもしれない。ただ、新しい目的のために、今やっている経済協力のプログラムを全部束ねてメッセージを明確にする。これはできるわけで、メッセージの明確化というのは、非常に重要だと思うのです。例えば、新宮沢構想のときは、実は真水の部分というのはそんなに多くなかったかもしれないけれども、危機対応のことをきちんと日本でやりますというメッセージがはっきりしている。そういうことによって非常にビジブルになったし、目的もはっきり相手にも伝わって、やっている方もはっきりした。そのような経験を我々はもっているわけで、今回の場合もそういうことをまず最初にやっておくことができるだろうと思います。
対象国なのですけれども、ここも何度か大野さんと議論した点ですが、国際通商政策、国際金融政策の枠組みでいうと、ASEAN+3というところが一応1つの固まりと考えられている。これは周りのことを考えていくと、北朝鮮はどうする、ロシアの極東地域をどうする、モンゴルはどうする、オーストラリアとかニュージーランドは入れるのか入れないのか、バングラデシュはとか、いろいろな話はありますけれども、ASEAN+3というところを1つの枠組みとして、プログラムをパッケージするということは、メッセージをはっきりさせるために重要なのではないかと考えます。これはもちろん、内容的に同じことを周辺国にやってはいけないということではありませんし、あるいはプロジェクトによってはASEAN+3全部を含めなくても、そのサブセットを対象としてももちろん可能で、その辺はフレキシビリティーをもって考えていいと思います。ただ、当面はASEAN+3というのをフレームワークとして考えるというところは、はっきり出した方がよいのではないかと私は考えています。
現在、日本ASEAN経済連携協定の話というのは、ぼちぼち始まりつつありますが、中身はまだほとんどないということになっていまして、日本がとにかく農業の話をしたくないと仮にいってしまったとすると、あと半年ぐらいで消えてしまうかもしれないという非常に危うい炎がやっとついたという感じになっているわけです。ASEAN向け経済協力というのは、実はそういうところに明確にイメージ的に組み込んで、プログラムとしては別であっても経済協力とのパッケージになっているということをはっきりメッセージとして出してやったらいいのではないか。
それから、対中国の経済協力の話も午後にまた少し出てくると思いますが、これも必ずしも途上国向けODAと考えるから話が複雑になっている面もあると思うのです。そうではなくて、アジアダイナミズムのための一環としての協力であるということで位置づけると、また少し違う切り口が出てくるのではないかと思います。
それから、韓国とかシンガポールについては、ODAの枠にとらわれないで、彼らに対していろいろな協力をしていくということもできるかもしれない。あるいは、他の域内国に対して共同してやっていくということもできるかもしれない。シンガポールはご承知のとおりODAをやらないので有名な国です。ですけれども、あれだけの所得水準をもっているのであれば、域内でそれなりの責任分担もしなければいけないということを彼らにはっきりいってあげることも重要なのではないかと思います。
ということで、若干、大野さんとニュアンスが違うところを強調しましたが、これが全部そのまま通るとは思いませんけれども、ODA二分論という議論をしたときに、我々の議論の中に出てきた問題というのをわかっていただきたいと思ってお話しいたしました。
以上です。

鷲見

どうもありがとうございました。早速、第1セッションの議論に入りたいと思いますが、皮切りに私から…。
二分論の議論を研究会で聞いたときに、大変目からうろこが落ちたような感じになったわけです。私個人は、経済産業省で合計18年働き、世界銀行で8年働きましたので、両方のいいところ、悪いところをみてきたのですけれども、世界銀行に入りますと、いらっしゃった方はご存じと思いますが、レセプションホールの正面に"Our dream is a world free of poverty"と明確に書いてあって、スローガンみたいになっているのです。ですから、機関の目標をポバティー・リダクションと明確にいっている機関との接点というのがないのではないかと悲観的に思う開発関係の方々、あるいは開発金融をやっていらっしゃる方が多いのですけれども、そのようにいっているだけでは第2位の出資国として務めも果たせませんし、やはりそこには何らかの接点をもっていかないといけないのではないかと常々思っていたところです。
二分論というのはその接点を否定しないで両立させ、両方につき合っていくという考え方で、それはそれなりに筋が通っているとは思うのですが、これが日本で今有力な議論というか、支持を得ているかというと、必ずしもそうでもない。やはり日本はグローバルなイシューにもっと貢献すべきだというご議論も結構強いと思うのです。余り東アジア、東アジアというなということはあるのですけれども、世銀は6つのリージョンに分けてやっていまして、東アジア太平洋地域というのはその内の1つですが、中国+ASEAN、あと周辺の貧しい国も少し入っています。そういう国を相手にしている人間は、ポバティー・リダクションが前面に出た場合に違和感をもっている。同じことは旧ソ連圏、あるいはラ米の中の中心国を相手に仕事をしている人たちも同じように思っていて、ポバティーという言葉だけで、それを1つの切り口で仕事をしていくというのは、いろいろな解釈をポバティーに置くにせよ、やや違和感があるというのが、内部にいてもそういう気持ちであります。
したがいまして、日本のODAをやっている立場からすると、より一層違和感が大きいのだと思うわけですが、同時に本当の意味で日本のリソースをどのように分けていったらいいのか。地球貢献と地域貢献というのを2つあるとしてもどのようにバランスをとるか。マルチとバイと両方あるけれども、どのようにバランスさせるかという問題は非常に難しい問題であると思います。
そういう前置きだけ申し上げまして、きょうは皆様方、外の方は特に自由に、この2つの問題提起に対してコメントいただきたいと思います。
まず最初に、大野先生の話から入っていきたいと思いますが、いかがでしょうか。木下さん。

木下

非常に興味深いセミナーに呼んでいただいてありがとうございます。
基本的に二分論ということについては私も賛成ですけれども、今、鷲見さんがいわれたように、ボーダーのところがあって、しかもそれがアジアではないが、世界のダイナミズムに関係がある、あるいは日本の国益に非常に関係があるというところが多いのです。しかし、ボーダーの整理が非常に必要だという気がします。例えば、ここには明示的に書かれてないのですけれども、中東の問題です。これはエネルギーの問題、中国の脅威論が出てくるときに、それがつながっていく先は、明らかにエネルギーの問題になっていく。そのときに中東に対して、豊かな国が多いとはいいながら、民間でできない部分が多いわけです。こういうものは、アジアのダイナミズムを直接金ではないにしても、外交というよりは経済に非常にかかわってくる問題であろうということです。
それから、アフリカについては国連の常任理事国になりたいという日本の多くの人の希望があって、非常に票が集まるということからアフリカに関心があって、それとポバティー・リダクションとか、アジアの経験をアフリカに適用できないかとかいう話になっている一方、全く専門家がいない――いないというと失礼で、いるのですけれども、非常に少なくて、どの程度本気にやるのかわからない。しかし、今開発問題をやっている人は、アフリカを語らないと全く無能だといわれるとなりつつあるということを考えると、二分論は正しいのですけれども、そこの考え方をよほど整理しておかないと、そういう問題にこたえられないのではないかというのが、1つのベーシックの問題ということです。
2番目に大野さんがいわれた国内改革と結びつけなければいけないというのは、木村さんも一部いわれていたのですけれども、全く賛成で、FTAというか包括協定でもそうですが、農業の問題、農協が全部仕切って、農民ですら非常に不安をもっているのに、それ以外の人はほとんど物をいえない、変わらないということです。小泉さんが聖域なき改革というのであれば、農業問題というのは当然取り上げなければいけないわけですけれども、これが入っていない。これははっきりと、これをやらなければアジアのダイナミズムを維持できない。別にそれは、セーフティーネットとしての農業を一部残さないということではないですけれども、これは日本に対する期待と不安と結びついていっている。だから、日本に対する期待が非常に強い反面、具体的なことは何もやってくれないのではないか。それに対して中国の方は、少なくとも非常にコマーシャルな民族であるために、余り合理的に考えているのかどうかわからないですけれども、まずコメを買ってやるとか、非常に飛びつきやすいところから入ってくるために、アジアの国が魅力をもつということを考えなければいけないので、やはり国内改革と結びつけるという視点が非常に大事であって、これは日本の改革による成長ということと結びついてくるので、このまま日本が、だらだらとだめになってしまえば、アジアのダイナミズムへの貢献といってもそれは空虚な言葉になってしまうわけです。
それから、国内改革といえば、大学というかアカデミズムの改革が今まで非常に競争力がなくて、ヨーロッパ、アメリカはシンガポール、中国、その他にどんどん大学が出てきて教育の中に入ってきているのに対して、日本もそういう試みがぼつぼつ出てきていますけれども、全く弱体で競争力がない。こういうものを結びつけていかなければいけない。大野さんもいわれましたけれども、アカデミズムをどのように引きつけていくのかということが非常に大事で、それなしには現地の共感を得られるものにならないということです。
最後にいいたいことは、現地の政治とのかかわりです。例えば、インドネシアで出てきたことは、オーソリタリアンレジームはある程度必要だということを考えて日本もつき合ってきたわけですけれども、全く違う体制になってしまと、先がみえないようなことになってしまう。そこで民主主義の時代に入るわけです。そうすると、経済合理性、あるいはビジネスの期待と違った側面が出てくるわけです。これは何もインドネシアだけではなくて、タイでもそうです。そうすると、日本のビジネス、あるいはこういう問題を考える人からいうと、こうあってほしいといっても、民主主義国家というのは、環境とか貧困撲滅といった点を非常に強く打ち出してくる。したがって、外資をどんどん取り入れていくから産業は外資にやってもらえばいい。自分たちは違うことをやるという動きがタイでもインドネシアでも非常に強く出る。それは、また分権化とも結びついていく。あるいは、その体制が微妙に変化するというときに、こちらが出していく政策が一定期間の相手のコミットメントを必要としますから、体制が変わったときに、こちらがどう対応するかという問題に結びついてくる。前は結びつかないでディクテーターに話をつければよかったわけですけれども、そうでなくなっているということです。これを考える必要があると思います。
もう1つは、ここでいっているODAというのは、多分私の解釈によれば、OOFも一部含むところの広義のODAかと思うのですけれども、そうでないようにも聞こえるのです。例えば、世銀が出しているお金というのはODAでなくて、OOFなわけです。つまり、マーケットから調達した金を出しているのであって、世銀に出す日本の拠金はODAですけれども、世銀が出している金はOOFであって、日本もOOFの部分が非常に多いわけです。したがってアジア危機対応、宮沢構想といっても、半分以上がOOFであったわけです。そうすると、そこのところは若干違う原理で動いているのですけれども、とれる手段としてはそれも入ってくるのに、それを除外して考えていいのか。もう少しトータルにそこのところは考えていいのではないかという気がします。しかしそれは、二分論とは直接関係ないので、二分論は二分論でよろしいのですけれども、そういう問題も一緒に入れて、広義の経済協力と考えられた方がいいのではないかと思います。

大野(健)

一言だけいいですか。最後の点は私が最初にいったように、もちろんOOFも含みます。だから、ODAと経済協力という言葉は使いますけれども、もちろんコンセッションのようなものではないということをはっきり申し上げておきます。

木下

広義のODAとオフィシャルとの資金があると思うのですけれども、そういうものだと認識してよろしいですか。

大野(健)

それだけではなくて、民間の協力とか地域の協力があるように、ODAというのは非常に小さいサブセットなのです。我々がいっているのはDACの提言は全く関係なしに……

木下

ODAという言葉を使ったときに、ほかの人は興味を示されるかもしれないので、公的金融と民間企業を含めた、いろいろモデレートできるファイナンスと考えればいいわけですね。

大野(健)

もっと広く考えているのです。自由貿易協議ということからすると、市場開放、農業問題そのもの……

木下

わかります。だけれども、文書の中に出てくるODAは……

大野(健)

それは木村先生も申し上げましたけれども、ODAという言葉は使いましたが、そういう意味でいいのだという意味です。

木下

わかりました。

鷲見

順番にご発言をいただきます。浅沼さん、山澤さん、河合さん、浅川さん。

浅沼

アジアダイナミズムという名前をつけられましたけれども、大変いいと思うのです。これからアジアの将来をみてみますと、相対的には日本の経済的な比重が下がってきて中国が上がってきて、その向こうにインドが出てきて、中国もインドも多分地域的な覇権国としての行動をするような国ですから、大変この地域がダイナミックに動いていくだろう。その中で、この地域の経済的な関係をダイナミックなシステムとしてとらえていかなければいけないというのはまさにそのとおりで、大変いいと思います。私自身はその中で何が起こるだろうというときには、浦田さんが使われるグラビティーモデルのようなものが多分貫徹するのだろう。しかし、その中でも政策が、方向に相当大きな影響を与えていくことには間違いないと思います。それがバックグラウンドの理解です。
第2に、ODAにつきましては、この地域との関連もあって、私は2つのことが起こらなければいけないだろう、変えていかなければいけないだろうと思っています。
第1は、ODAのやり方なのですけれども、今は昔の資金なり技術の偏重、制度づくりや政策づくりへの参画ということで、そちらを重要視しなければ究極的な貧困撲滅目的を達成するための政治や経済発展も起こらないだろうといわれているわけなので、そういう意味で日本のODAも、もっと資金と人的な投入の割合を非常に大きく変えていかなければいけないだろう。この辺で考え方を相当大幅に変えて、ODA活動に従事する人間の数を本当に大幅にふやす。そのためには多分資金の投入を減らしても構わないという覚悟でやっていかなければいけないだろう。それがODA部門における必要な方針の転換だろうと思っております。
第2は、東アジア地域に限ってみると、本来のODAという意味では相当卒業する国が出てきてもいいのではなかろうかという気がいたします。例えば、タイにしてもマレーシアにしても中国の一部にしても、本来的なODAという意味では、もうそろそろ卒業政策を考えた方がいいのではなかろうかと思います。
それが第3点につながるのですけれども、私はご両者が今述べられました実物アプローチ、統合アプローチという差が実はよく理解できなくて、多分そのような2つのことをおっしゃるには、経済統合の制度的な枠組みとして、木村さんが主としてFTAとかカスタムズユニオン的なものを考えていらっしゃるからではないかという気がするのです。私はそのほかにも、経済統合を政策的に促進するのは、究極的には地域間の取引費用をどんどんと下げるような諸策をとることですから、一種のこの地域でのインフラコミュニティーみたいなものを考慮すべきではないかといつも思うのです。これは以前にも木村さんとの議論でお話ししたこともあったかと思うのですけれども、例えばエネルギーコミュニティーをつくることもできるし、トランスポートコミュニティーをつくることもできる。コミュニティーをつくった途端に、参加国が計画段階からみていくわけですし、投資ということが必要になった段階では、OOFの出番が出てくる。そういう形で、インフラコミュニティーを推進していくという一項を入れると、先ほど大野さんがおっしゃった実物アプローチと統合アプローチの差というのがどんどんなくなっていくような気がいたします。
以上です。

鷲見

ありがとうございました。では、山澤さんお願いします。

山澤

大変貴重な勉強する機会を与えていただいてありがとうございます。
二分論は私の中には抵抗なく入ってまいりますが、ただ対外的にそれを説明するとなるとそう簡単なことではない。そんなに好意的に日本の二分論というのを受け取ってくれるような世界ではないということをまず考えていく必要があるだろうと思います。
東アジアのダイナミズムを再活性化して、それはそのまま世界経済に役立つと私たちそのとおりにとりますが、東アジアの地域主義、リージョナリズムといった場合に、ビジョンが必ずしも明確に伝わってないだろうと私は思います。アメリカもオーストラリアもそれは日本が勢力圏をつくっていると考えておりますし、中国も基本的に同じです。
つい先日、私に中国人の学生が文書をもってまいりまして、それには「アメリカは中南米をバックヤードにした。日本はまだそれができていないから、東アジアをバックヤードにしている」と。私は「これは教師のところにもってくるには少しひどい言い方じゃないか」といいましたら、彼は悔し紛れに「そんなこというけど、先生、中国の国内ではみんなこういっている」と。恐らくそういう要素がかなりあるだろう。ですから、東アジアのダイナミズムを再活性化するために、これをやるのだという木村さんのいうことは全くそのとおりなのだけれども、それをきちっと説明しなければいけない。まさに明確にメッセージを与える必要があります。そのためにはただ精神論ではなくて、ソリッドな政策提言に結びつくようなものでないとそれがわからないのではないだろうか。恐らくそれは、ODAより広範なものになると思いますし、自由化、規制緩和と組み合わせて、構造改革を共同推進というのは私も大変賛成で、そういうことをいっているのです。それを明確に出すべきだろうと思います。
その観点で大変残念なのは、大野さんのも木村さんのも後ろまでずっとみましたけれども、APECへの言及が一言もない。マルチとバイの間に立って、それをうまく結びつけるものとして、なぜAPECを活用するということを考えないか。
以上です。

鷲見

ありがとうございました。河合さん、お願いいたします。

河合

財務省の河合でございます。きょうは財務省ということではなくて、学会関係者となってますので、省益にとらわれないで、大きな観点からコメントさせていただきたいと思います。財務省の浅川さんがそこにおられますので、足りないところは多分補っていただけると思います。
ここでは3点申し上げます。まず第1点は、経済協力、通商政策、国内産業政策を一体として考えるというアプローチについては大賛成です。うち経済協力としてはODAとノンODAがあるという整理をした上で、経済協力全体の中でODAは一体どのような役割を果たすべきなのかという点が、はっきりしていないのではないかという印象をもちました。最初、アジアダイナミズムとグローバルな課題への対応という二分論がODAにあてはまることなのかと考えていたわけですが、大野さんの先ほどのレスポンスからするとどうもそうでもないということで、その点ははっきりしました。ただ、一体ODAというのは全体の経済協力の中で、特に東アジアのコンテクストでどういう役割を果たすべきなのかということが、どうもまだはっきりしていないのではないかと思ったわけです。
きょうの午後の議論で、ODAの話が出てくると思いますので、そのときにもう少し詳しくコメントさせていただくことにします。ただ、ODAはタックスペイヤー・マネーですから、それはどういうときに、どういう範囲で、どういう目的で使うべきなのかということを、やはりはっきり論理を立てて明確にしておかないといけないのではないか。アジアダイナミズムのためだからODAとして使っていいではないかという議論は通らないと思うのです。マーケットあるいは経済活動に対して政策的にインタービーン(介入)するためのお金ですから、使うための論理立てが必要なのではないかと強く思ったわけです。ODAに関するほかのコメントは、後に残すことにします。
申し上げたいことの第2点は、このレジュメの中でいうところの「実物アプローチ」とは、これまでの日本のようにマーケットベースで自然な形で経済統合が進んでいく、マーケット・ドリブンな経済統合のことをいっているのではないか。そして「統合アプローチ」とは、FTAなどの地域的な貿易取決めを通じてもっとフォーマルな形でアジアの経済統合を図っていこうということではないかと感じたわけです。
第3のコメントが一番申し上げたいことなのです。きょうのご説明で若干トーンダウンされたような気がしましたが、あらかじめいただいていた論点整理のペーパーからの印象では、この報告書で出そうとしているメッセージは少し後ろ向き、逆方向なのではないかという感じがしたわけです。どういうことかといいますと、東アジアにおける地域統合とかアジアダイナミズムを支援していくというときに、一体日本を全体の中でどのように位置づけた上で、日本はどのような形で支援していくべきなのか、という基本的なプリンシプルといいますか、フィロソフィーというものが逆向き、内向きになっているのではないかという印象を強くもったわけです。
恐らく私がこのような報告を書かせていただいたとすると、もう少し違ったかたちで、もっとはっきりとしたメッセージを出したのではないかと思うのです。まず、日本経済をそもそもオープンなものにしようと。日本経済を新興アジア諸国にとって、もっと魅力あるものにしましょうと。南米諸国がアメリカとFTAを結びたい、あるいは中・東欧諸国がEUにアクセスしたいように、新興アジア諸国がもっと日本に魅力をもって、日本ともっといろいろな取引をしたいと思ってもらえるようにして、そういう中でマーケットベースで経済統合を進めていきましょうと。そういう状況では、フォーマルなアレンジメントというのはマーケットベースでの統合をさらに強化しますから、堂々とプッシュすることができる。そういうFTAはまさにグローバル・インテグレーションを進めるものだということはだれも否定しえないわけです。  つまり、マーケットベースで日本自体をもっと魅力的なものにして、その中に新興東アジアを引き込んでいこうという発想こそ重要なのではないかと思うわけです。このペーパーの与える印象はどちらかというと、農業の自由化はもっと進めなくてはいけないが、当面政治的に難しいので、農業問題にあまり手をつけなくてもよいのではないか、ほかにもセンシティブインダストリーがあるがそれも急激な調整は難しいから少し時間かけて考えよう、それらは一応置いておいて、日本は何をやったらいいのかを考えようという発想ではないか・難しいところは手をつけないで、日本は金を使ってどういうことができるのか、産業政策でどういうことができるのかを考えてみようという相当内向きで逆方向での発想ではないか。そうでなくて、もっとマーケットプリンシプルでやっていこうというメッセージを発するべきである。
もう少し言うと、新興東アジア諸国をもっと市場ベースに乗るような形に日本がプッシュしてやるということを強調すべきだ。もちろんそのことは、ベトナムは一気に全部自由化すべしという議論では決してない。しかし、どこにエンファシスを置くかということが問題です。大野さんのエンファシスの置き方はどちらかというと、日本も相手国もなるべく自由化しないで守ってやる、日本はそういうかたちで支援すべきだという言い方になっている。そうでなくて、ベトナムはダイナミックな経済だから、もっと早く市場経済の中に入ってきなさい、日本の市場はこんなに魅力的なのでそこに入ってくると得ですよ、世界経済もだんだんオープンになっているので、その中で経済発展を遂げて下さいと。そういう中で問題があったら、日本は細かいところアドバイスをするし、ちゃんと支援もするというメッセージを送らなければいけない。これがまさに今、経産省がやらなければいけないことだと思うのです。
きょうの報告の発想は1960年代的な旧MITIの発想なのです。看守どうで東アジアを院手グレーとしていこうという発想なのではないか。そういう発想では日本としてメッセージを送れない。日本としてメッセージを送るには、まさに日本の構造改革を進めて、日本経済をモノ、サービス、ヒトの流れの上でもっとオープンなものにして、マーケットベースで東アジア経済統合を支援する、アジアダイナミズムを支援するという前向きの形でやっていかないといけない。そういうメッセージがこの報告書にはない。私が受けたメッセージは、旧MITI的な産業政策をアジアに広げよう、日本の国内問題は当面何ともならないからしようがないではないかということです。それだと、日本はリーダーになれない。日本は本当にリーダーになりたいということを示すメッセージなのですかということなのです。もちろんリーダーにならなくてよいという選択もありうるわけですが、それだったらそのようにいって、日本は守らなければいけない産業がたくさんあるから日本は変えない、そもそも変えるには時間がかかるから、それは置いておこうとはっきり言えばよいのです。しかし私はそれではだめだと思うのです。
ですから、きょうの参加者の方々にも、例えば農業問題に関わる農水省の方とか外国人労働力の移動にかかわる厚生労働省の方々が来ておられないというのは何となく違和感をもっています。
いいたいことはまだほかにもあるのですが、後で個別の議論になったときに申し上げたいと思います。

鷲見

ありがとうございました。いろいろおもしろい議論が出てまいりしたけれども、後でまとめてお答えいただくということで、とりあえずご発言を続けていただきたいと思います。浅川さん、お願いします。

浅川

財務省の浅川でございます。私もできるだけ省益にとらわれないコメントを簡単に3つほど申し上げたいのです。
地域主義を考えるときには、メンバーシップと申しますか、モダリティーというのはものすごく大事になってくるのだろうと思うのです。私は財務省の方で今アジアに関して、金融、為替関係の協力をいろいろやっているのですけれども、そういうことを通じて痛感しましたのは、地域主義のあり方としては、まずメンバーシップというのは、できるだけオープンな方がいい、固定しない方がいいということ。もう1つは、テーマに応じてできるだけ柔軟な方がいいという2点であります。この点に関して、先ほどまさに山澤先生がAPECの話をされて、APECの言及がないということだったのですが、APECはすごく平べったくいってしまえば、ことしはメキシコがホストをやっているわけですが、ラ米の国です。それから、ロシアをメンバーシップに入れた瞬間に、恐らく地域主義のツールとしては有効性をかなり失ったのではないかというのが、私の偽らざる感想でございます。
今、アジアをめぐるフォーラムで一番アクティブに動いているのは、何といってもASEAN+3なのです。この前、小泉首相がASEAN5ヵ国を駆け足で回られましたときにも、私たまたま随行させていただきましたが、各国首脳もいろいろなスピーチの場で何度もASEAN+3という名前を具体的に挙げて、期待をにじませておりました。それが事実であります。
そうなのですが、私、先ほど木村さんと大野さんの話を聞いて違和感と申しますか、とりあえずASEAN+3をやっていこうというのはそのとおりなのですが、もう1つできるだけ柔軟な方がいいと思うのです。ASEAN+3といった瞬間抜けてしまうのが台湾ですね。台湾がASEAN+3には入るというのは、恐らく100%不可能だと思いますし、先ほど浅沼先生がいわれましたが、オーストラリア、ニュージーランドというのをどうするのだという話がございます。そうだとすると、別にASEAN+3にこだわる必要は全くなくて、テーマに応じていろいろなグループをどんどんつくっていけばいいのだと思うのです。
我々の世界ではマニラフレームワークという枠組みがありまして、あれは先ほど大野先生の話にも出ましたAMF構想がつぶれた後に、年に2回ぐらいサーベランスをやっているグループなのですが、これはどのフォーラムに属すものではなくて、そのためだけにアドホックにつくったグループで、かなり有効裏に動いておりまして、何かそういう柔軟的なアプローチが必要なのかというのがまず1つであります。
2つ目に、ASEAN+3の中にもCLMVに対するアプローチとそれ以外のASEAN5に対するアプローチというのは、相当程度違って当然だと思うのです。我々の為替協力の分野でも全くそうでありまして、その意味でいえば、これも先ほど浅沼先生がおっしゃったのですが、CLMVの方は当然ODA的な対応で我々はやっていかざるを得ないと思いますが、そうではないタイ、マレーシア、中国の一部と先ほどおっしゃったと思うのですが、そういう国は確かに今後どんどん卒業していきますので、私はむしろODAだけでつながっていくような関係は、もういけないのではないかと思うのです。アジアのそうした卒業国とは、非ODAのところでどういうつき合いをしていくかということを今後真剣に考えないといけないのかなと思っています。まさにAMF構想というのは、ODAとは何の関係もない構想でしたので、こういう話が始動しつつあるということだと思います。
3つ目に、ODAの話に戻しますと、これから恐らくそういう卒業国を中心に相当程度重要性が高まっていくのはむしろ技術協力だろうと思うのです。TCの分野においては、先ほど大野さんがいわれたように、我が国においてシステム、人材が欠けているのはまさにそのとおりでありまして、どちらも欠けております。特に今後、ハードな面だけではなくて、ソフトのマクロの経済政策の意思決定プロセスにTAで関与していきたいということがあるとすれば、今、日本国がやっているTAというのは相当心寂しいものがあるという気がしております。
この面においては、先ほど大野さんがおっしゃったように国際機関との協調です。私も大野さんもIMFにおりましたけれども、そういうところとは大いに協調して、日本のODAというのは日本のことしか知らないというのが一番いけないのです。そうでなくて、例えば財政、為替、金融、いろいろな分野でいろいろなスタンダードがあるわけですから、恐らくこれからアジアに行って活躍していただく専門家というのは、いろいろな選択肢のことをすべて理解した上で、その国に適応した適切なアドバイスをしていく必要があると思うのです。そういう意味で、人材が全く欠けているというのは、私も大野先生のおっしゃったことに全く同感でございます。以上、3点ほどコメントを申し上げました。

鷲見

それでは、浦田さんお願いします。

浦田

何人かの方のご意見と重複するところがあるかと思いますが、まず最初に対外経済協力を考える場合に、もちろん日本のことを常に考えていなければいけない。その点ここにも書かれていましたけれども、もう少し協調する必要があるのかと。具体的には農業の問題を挙げられていましたし、農業を初めとする非効率の産業の問題、今も浅川さんからお話がありましたけれども、日本国内での人材不足、その中の大学の役割とかは協調してもし過ぎることはないと思います。
先ほど河合さんが指摘された旧MITIの発想だというお話だったわけですけれども、そこのところは僕はアンビバレントなのかとこれを読み、また聞いていました。具体的にどういうことかといいますと、例えば第1原理です。ダイナミズムを発展させるための手段の経済協力ですが、このことについてはそれほど異論はないと思うのです。もちろん、第2の方については全く異論がないわけで、問題になってくるのは、第1原理をいかに実現させるかという手段だと思うのです。その場合に、人材育成とか今、浅川さんからありました技術協力等に関しては、それほど問題はない。問題はどこかというと、要は旧MITI的な産業政策。具体的には保護政策とか、それが容認されるかどうかということだと思うのです。河合さんはこの文書、あるいは大野さんの話の中に、旧MITI的な保護を一定期間維持して段階的に自由化していく。そのことによって産業育成を行う。これは好ましくないのではないかととられたかと思います。僕も実はそこのところがお聞きしたかった。JICAのベトナムのプロジェクトについて書かれているのですけれども、2つ目の丸をみますと、ベトナムの少数の主要産業につき、国内と海外の状況を徹底的に調べ、具体的な政策勧告を策定と書いてありますが、これはどういうことをいっているのですか。つまり、河合さんがいわれているような、保護を段階的に削減していく。その過程においては、産業を育成するために資金供与も含めて、いろいろな資源を投入するのか。その辺がここでは明確には書かれてないので、私自身知りたかったことです。
第1原理のところにも書いてあるのですけれども、新産業、生産分業の再編を支援しと、この辺が旧MITI的な発想なのか、あるいは全く違う自由化を推進させていくという河合さんが好ましいといわれていた発想のもとになっているのか、そこのところは僕は非常にわかりづらかった。そこのところがアジアの奇跡の解釈をめぐってもずっとあったわけですし、ここでもその問題というのは、まだ残っている。それを明確に出さなければいけないと思いますし、出すことによってまた、それはかえって危険な状況を生み出すのかもしれませんが、私自身そこが非常に知りたいと思いました。

鷲見

ありがとうございました。奥村さん。

奥村

経済産業研究所の客員研究員の奥村でございます。私はこの研究会のメンバーで参加しておりましたので、私がコメントするのも気が引けるのですけれども、一、二、皆様のご意見をお聞きしておりまして、さらに我々も整理が必要だという点で申し上げたいと思います。
第1点のアジアのダイナミズムの点だけで申し上げますけれども、我々がさらにもう少しご議論いただきたい、かつ我々も整理をした方がいいと感じておりますのは、経済を発展させるという各国がやっている政策の中で、一体政府の関与と民間の市場メカニズムによる活動というのをいつのどういう発展段階でいかにスムーズに自由経済の方に徐々に切りかえていくのか、どういうメルクマールをもって切りかえていくことが一番いいのか、そういう観点でこれまでのアジアの発展と――これは恐らくアメリカ、ヨーロッパ型と違う発展をしてきたわけなので、そこからみたときに、政府と民間のかかわり方について一体どれが一番発展段階との関係において整理をして、どの時点で政府は身を引き、民間の自由な活動に任せるのか、この悩みをずっと続けてきたのがアジアだと思うのです。
多分日本がその最先端で明治以来、来たわけなのですけれども、日本もまだそこの悩みが十分解決されていない。したがって、まだ構造改革論とかいろいろな議論が今でも噴出する。農業もそうでありますし、すべての分野でまだそこが吹っ切れていないという感じを私はもっておりまして、日本自身がさらに――先ほども少し議論が出ましたけれども、中国とかインドの地域でさらに発展してくる国が出てくる中で、日本のさらなる特徴を生かすとすれば、アジアの中で歴史的には一番早く西欧の文明を取り入れて、そういう中で経済的にはマーケットメカニズムをいち早く取り入れたと思っていた日本が、必ずしもうまくいっていない、この現状をどのように考えるのかというのは、まず出発点だと思うのです。
そういう流れからいうと、当然農業政策についても、WTOとの整合性をとりつつ日本農業を国際的に合理的なものにしていく、対外的にはオープンにしていきつつ、国内的には競争力のある農業を育てるという政策と、社会政策としての農村政策をという観点をしっかり整理し、政策を展開していくべきですし、いろいろなところで残っている閉鎖性というのを根本からきっちり変えていくという姿勢が一番大事だろうと思います。
少し余談になりますけれども、去年の7月まで貿易局長をしておりまして、農産物のセーフガードを担当して、実は発動する担当局長だったのです。あのとき一番思ったのは、個人的なことになりますけれども、日本の農業とはいったいなんだろうという根本的問いかけのきっかけにしたいと思ったのです。ところが余りそういう世論にならずに、WTOの加盟前だったこともありまして、ああいう決着をみたのです。ぜひこの際、本当の日本の農業はどうあるべきか。ここが開放されませんと、アジアからみましたときに、日本の姿勢はどこだという議論がでましたけれども、疑われるのは当たり前なので、ぜひそこを考えていただきたいというのが1点です。これは決して、日本農業を単に保護するということではなくて、業として競争力をつけつつ農村の環境は維持する、こういう道を追求するということであります。
もう1点は、経済協力についてでありますけれども、発展段階を考えたときに、日本としてはある発展段階にくれば、もうこの援助はしないのだ。援助といっても無償、技術協力、円借款、いろいろありますから、そこの姿勢というのは本当は経済政策との絡みで、もっといっていいのではないかと思っていたのです。そういう意味ではもうそろそろ卒業する国も、もっと出てきていいと。そういう国は自由経済という中で、どのようにやっていけばいいかという見本を本来日本が示した中での技術的な指導というのは、大いにやっていったらいいのではないかと思っております。
なお、先ほどもうした政府と民間の関係ですが、一言。下手をしますと、中国の改革開放の中で、中国の方がむしろ政府の役割というのを限定的にして、日本の方が今のやり方をずるずる続けているのではないかという心配をしております。やや先走った見方ですが。

鷲見

ありがとうございました。Aさん、お願いします。

自由に議論をというお話なのですけれども、ふだんご高説を拝聴する立場にある先生方と同じ机に今座っておりまして、私甚だ恐縮しているのですが、対外政策の一角を担っているという立場から、少々切り口は違うかもしれませんけれども、当面2先生のいわれた関連の部分について、我々の問題意識を申し上げたいと思います。
まずアジア、特に東アジアにつきましては、先ほども言及がありましたけれども、小泉総理のASEANの5ヵ国訪問の際に、日本としての問題意識を明確に提示したということだろうと思います。一番大きい外側の柱は、開かれた東アジア地域という問題意識を答えを明確に述べない形で発表して、波紋を投じたというところで終わっているということかと思います。その中に幾つかの構想があったのですけれども、特に開発の問題の方に引き寄せていいますと、東アジア開発イニシアチブという会議をやりませんかというお話を各国の首脳に申し上げて、その場でアジアの開発援助の経験と今後に向けての開発の未来像というものを考えていきませんかということを申し上げたわけです。
参加国の範囲として一言申し上げると、ASEAN+3ということを基礎に置きつつも、アメリカ、カナダ、豪州、ニュージーランドが入ったらどうかということを我々としては考えていたわけです。
ごく軽い会議ということを考えているのですけれども、そこで今ご指摘のような東アジアについて、どのような将来像が考えられるかということを我々としては考えていきたいと思っていて、その観点からいただけるアイデアは何でもいただきたいと正直考えておりまして、きょういろいろなご意見が出たことを参考にさせていただきたいと思っております。
二分論の中では、世界的な問題との間で、問題といいますか、方向性を明確にするためにはっきり区切っておられるわけなのですけれども、恐らくグローバルな問題に対する取り組みとアジアの地域にどのような理念で、あるいは開発のモダリティーで取り組むかという話は恐らく相互作用があって、一部の方からご指摘もありましたが、アフリカとかそういう地域に、日本型の開発援助のよいところをぜひいって、まねしてくださいということを副産物として、このイニシアチブの一部として考えたいと思っております。
こちらについては、きょうは明確なご指摘は今のところないのですけれども、開発援助の世界を一種の国際競争で各国がイニシアチブを競う場だというように考えると、ことしは激戦の年でございまして、昨年ぐらいから各国ともにイニシアチブを磨いてきているわけですが、まず3月に開発資金国際会議というのがメキシコのモントレーでございまして、ブッシュ大統領も参加することになっております。それから、当然G8のサミットがありまして、その後にWSSDという持続開発可能のための世界サミットがございます。大体各国ともシングルアジェンダといいますか、自分のイニシアチブを1つ固めたら、ことしは一連の国際会議を走り抜けて、自分はこれを途上国に対して提示するということを先年ぐらいから考えてきているということでございます。世銀内にIDAという国際開発協会がございますけれども、アメリカは、IDAの融資の40%ぐらい、一部では50%イニシアチブといわれていますが、最貧国に対する融資総額の50%までを上限として、無償援助にしたらどうかというイニシアチブを挙げております。
EUはGNPの 0.7%目標に向けて、新たに少しずつでもにじり寄っていくということで、この開発資金国際会議に向けて、途上国の資金需要が問題になっている中で、それに向けてのイニシアチブをとろうとしている。
では、日本はどうするのかという話で、これはなかなか大変なところで、もちろん狭義のODA以外の部分にいろいろと目を向けなければいけないという議論は当然重要な話なのですけれども、ODA本体が削減されていくという中で、新たなイニシアチブを出すというのは非常に難しいというのが正直なところで、皆さんにお考えとか知恵、こういうことがあったらどうかということがあれば、何でもお伺いしたいというのが、とりまとめに当たっている私どもの気持ちそのままでございます。
これがグローバルな課題でございまして、貧困削減という話につきましては、英国の国際開発省の理念をみて、世銀に対する彼らのアプローチをみればわかるのですけれども、貧困削減でどこまで貧困削減寄りかということを比較的欧州の社民的な政権というのは、競い合っているところがある。ただ、彼らが一生懸命武器を磨いているところは、そういうことを具体的なモダリティーとしてどうやったらいいかというところまで踏み込んで、DACなどで多数派工作をやっているというところかと思います。
それに対して大野先生のペーパーの中にも、日本型の経済援助方式の利点というのが具体的にははっきりしていない。あるいは、日本式の経済援助方式というのはどういうことなのかがはっきりしていないと書かれているのですけれども、ここの部分を磨いていって、いいところが多々ありますという形で、守勢に回ることなく攻勢に立つという転換点をなるべく近い将来に迎えなければいけないのではないかと思います。

鷲見

ありがとうございました。Bさん、大野泉さん、山崎さん、荒木さん、林さん、それ以外の方でネームプレートが出ていらっしゃる方いらっしゃいますか。あと、レスポンスもいただく時間もありますので、できるだけ手短に順次お願いいたします。Bさん。

木村先生のペーパーと先ほどのコメントについてでございますけれども、基本的には個人的な見解として全く異論なく、違和感を感じない内容かと思います。
この1月に小泉総理がASEANを歴訪したわけですけれども、そこの場所で日ASEAN包括的経済連携という構想を打ち出していただきました。中身はこれからではないかといわれると、確かにこれからのところが相当あるわけでございますけれども、私たちとしては、政治的なメッセージというのをあの場で出すことがまずは大事と思った側面もございます。小泉内閣になってから、例えば中国や韓国との間で靖国や教科書でさんざんにもめて、何となくASEAN諸国は、日本はASEANに対する関心を失っているのではないかという雰囲気があったようにも思います。そうした中でASEANを重視するというメッセージを総理からああしたスピーチの形で出していただいたというのは、とてもいいことではなかったかと思います。 もう1つは、アジア通貨危機以降、元気を失っているASEANに対して、毎年7%の成長を遂げて、隆々としつつある中国との対比の中で、やはりASEANに対するてこ入れというと少し不遜かもしれませんけれども、ASEANを元気づける、もっとASEANの投資環境を改善して、海外からの投資が中国にだけ集中しないような枠組みをつくることにもっと手をかすことができるのではないかということを経済産業省の立場から考えたという側面もあります。
一説に中国とASEANとのFTAに対抗して、日本も新しいビジョンを打ち出さざるを得なかったのではないかという論評も一部ありましたけれども、私どもとしては必ずしもそういう思いはなくて、そもそも中国とASEANのFTAについては、中国がASEANにもちかけておりますが、その前の年に日本とASEANとの経済大臣会合で、ASEANから日本にFTAの研究がもちかけられていたわけです。そうした今までの経緯の上に立って、包括的な経済連携ということを考えていこうということで、日本としては打ち返したという面もございます。
その上で幾つかコメントを申し上げたいのです。1点目は、狭義のFTA。つまり、関税をゼロにするという意味でのFTAについては、私はもう少し仔細な検証がいるのではないかと思います。今FTAばやりで、いろいろな方がいろいろな場面でFTAとおっしゃられますけれども、日本が関税を下げることの利益は何なのか。あるいは、相手の国のどの関税を下げさせれば、日本としてはどれぐらいの利益があるのかということをちゃんと計算していく必要があると思いますし、経済産業省でも今そういうモデルを回し始めたりしております。 例えば、ASEAN側の関税というのは、日本の製品に対してそんなに高くないのです。一部自動車部品などで高いものはございますけれども、電子部品みたいなものはほとんどゼロになっているものがございます。
それから、日本側の問題ですけれども、先ほどから農業という議論が出てきておりますが、これもASEAN10ヵ国から日本の輸入を金額ベースで 100としますと、税金がかかっている関税品目というのは3割ぐらいあるのですけれども、そのうち実態上特恵関税でゼロにしているものを除くと2割ぐらい減ります。その2割の中をみますと、関税率5%以下というものが大体半分ございます。今これだけ為替が変動するときに、5%の関税というのがどれほど日本の国内産業に意味があるものなのかということもあろうかと思いますし、あるいは、WTOの新ラウンドでさらに日本が関税を引き下げていくという場面もあるとすれば、一応WTO整合的なFTAが関税がかかっているものは全体の10%を超えないというのが国際的なある種の相場感であるとすれば、日本とASEANのFTAというのもそんなに絶望的なものではないと思います。
それから、木村先生がおっしゃっておられるODAと経済協力の案件というものが、包括的経済連携に入るべきであるというのは全くおっしゃるとおりですし、我々は初めからそう考えております。その中には、例えばサポートインダストリーの支援のようなものもありましょうし、あるいは経済的なインフラの整備ということもあっていいかと思っております。 最後に、若干細かいことかもしれませんけれども、包括的経済連携というのはあくまでも構想であって、総理の口から協定という言い方はしておりません。これは今の段階では構想であって、構想の枠組みの中で、あるいは協定が出てくるかもしれませんし、出てくるとしてもどれぐらい先になるかということもあるかと思います。そうしたことを含めて今年の秋に開催される日ASEANサミットの場で、この包括的な経済連携への枠組みについて合意をしていきたい。外務省さんが全体としてはとりまとめられることになるかと思いますけれども、その中の重要なパーツとして、通商や貿易、投資、中小企業育成、エネルギー、知的財産権、標準化、そうしたいろいろな要素について、我々としても書き込んでいきたいと思っております。

鷲見

ありがとうございました。残りの方、手短にお願いしたいのですが、大野泉さん。

大野(泉)

手短にいたします。JBICにおりましたが、1月から政策研究院の方に来ております。2点申し上げます。まず、経済協力やODAとの概念の話が何回か出ましたけれども、私自身は木村先生がおっしゃったDACとかそういった要件にとらわれない形で考えるべきだということに非常に共感をもっております。と申しますのは、ODAは、基本的にはグラントエレメントにより定義されますが、それ以外にも現在は、円借款のようなものを供与するときの実際的な制約は非常に大きくなってきている。例えば、OECDの輸出信用部会、そのほかにも調達にかかわるルール、手続的な面、実質的には所得が 3,000ドル以上の国にはなかなか出せないとか、いろいろなことが今、アメリカ主導で議論されておりまして、ODAローンの実質的な定義は、どんどん制約が強くなってきているのが現実だと思います。そういった点も1つ考える必要があるのではないか。
一方、日本としても、経済協力の実施機関の立場に立ってみれば、行革・緊縮財政の中で財政資金が非常に限られてきており、今後、金融機関としての自立性にも留意して資金調達面でも努力していかなければいけないときに、ODAというテクニカルな定義にどこまで厳格にこだわるのかについては、検討の余地があるのではないかという気がいたします。
第2点ですが、これは木下先生、あるいは奥村さんからもお話がありましたけれども、二分論にしたときにはボーダーをどう考えるかというような話がありました。日本の国益から考えていったときに、それは恐らく日本とマルチとの関係において、日本がシステムの面で国際機関に対して積極的に発信していけるか、人材育成や理念をどれくらいの速さで準備できるか。そういった要因にも随分かかわっているのではないかという気がいたします。
そういった意味で、二分論の前提のもとにアジア以外の国への経済協力をどう考えるかといったときに、国際機関との連携において、日本としてのシステムづくりのスピードは非常に大きな制約論といいますか、実際、実現していく上での重要な要因になるのではないかと思いました。

鷲見

ありがとうございました。山崎さん、お願いします。

山崎

国際協力銀行の山崎でございます。アジア向けで実際に相手国の政府、内外の企業、国際機関、金融資本市場とつき合っている中で、平素感じていることというのは、両先生の問題意識と重なるところがあって、二分論というのは非常にすっきり頭に入ったという感じがございます。2点申し上げたいと思います。
1つは、従来の日本の経済協力の体制には別な意味の二分論があったような気がします。それは何かというと、狭義の経済協力、ODAの世界と貿易、投資という世界を全く別物と認識して、実際にそれにかかわる体制も、多分お役所の世界もそうでしょうし、実施機関といわれる世界もそうでしょうし、民間企業の世界も多分にそうであったというところがあって、そこは今変わりつつあるだろうと思います。実際に国際協力銀行は、旧OECFと旧輸銀が一緒になってできている。経済産業省の方でも貿易経済協力局という体制を組まれている。商社さんの中でも従来の財務と経済協力を一緒にするような動きも出てきている。経団連しかりというところもあるだろうと思います。
恐らくそういうものの背景として、グローバライゼーションというのがあって、企業活動としてマーケットにしても、生産立地にしても世界大で考えざるを得ない。従来は中と外を分けていたのを一体で考えざるを得ないという状況が1つある。
特に開発の観点で割と重要だと私が思っておりますのは、民間部門の役割の重要性の高まりというのがあって、端的には直接投資という形であらわれるのが一番わかりやすいのだろうと思うのですけれども、恐らく直接投資というのは2つ側面があって、1つは当然相手の国の開発のプロセスそのものであるということ。他方で投資する側に至っては、当然これはビジネスであって、直接投資が伸びるということはアジアの国の経済の開発にもつながるし、投資する側のビジネスの伸長にもつながるということで、恐らくそこの接点になって、貿易、投資と開発、経済協力という世界がつながるという部分があるのではないかと思っています。
これは、河合先生のお話の若干の答えになるかなという気がしているのですけれども、その場合に、箱物の整備でそれを支援するというのはあるかもしれませんが、それに加えてむしろ民間部門を発展させるための環境整備というのが、制度面、政策面、例えば、マクロの改革をどう進めていくかを含めてあるだろうと思います。そういうところでかかわっていくということは、説明の材料になるのではないかという気がします。
もう1点は、両先生の二分論、そのままに聞くとある話なのですけれども、恐らくディメンションとして、地域として、アジアとアジア以外の場合を使い分けましょうという話と、もう1つのディメンションとして、目的としてのアジアにおける日本と相手国の経済の一体化、相互依存みたいなものを念頭に置いてのダイナミズムの助長という話。それとは全然別な話としての国際的な奉加帳への協力みたいな話と分けてやりましょうというのが、若干オーバーラップしているところの境目をどのようにするのかというのを少し考えて、もう少し突き詰めていっていいような気がする。それに加えて、先ほどから何度かお話が出ているのですけれども、無償、技協という世界と、有償という世界の使い分けというのが、有償の先にはさらに貿易という世界があるのだろうと思うのです。あるいは民間の接点のファイナンスの世界があるのだろうと思いますけれども、そういうものをどう二分論と重ね合わせていくのか、あるいは重ならないのか、そこの議論というのは、さらに必要なのかなという気がいたしました。

鷲見

ありがとうございました。荒木さん、お願いいたします。

荒木

お話をいろいろ聞いておりまして、私はODAのメカニズム、あるいはシステムという方向から少しお話をしたいと思っています。
ご存じのように、ODA改革議論というのが非常に盛んになっております。第2次ODA改革懇談会の中にもいろいろな議論があります。私が主張していることは、今までの日本のODA政策について、トータルとしての議論が全然なされていなかったということです。したがって、システム、メカニズムからみましたら、国民参加という大きなキャッチフレーズのもとですけれども、「ODA総合戦略」というものをトータルで議論する場が必要だと思う。それが今ここで議論になっているアジアダイナミズムの問題も研究会の話も本来はそこでもっと議論して、詰めていくべき議論ではないかと感じております。
したがって、今の二分論もはっきりいえば二分といわなくてもODA戦略会議のもとにおく地域別、国別開発計画というものの策定のプロセスにおいて、地域をかぶせた形で国別にみていけば、例えばインドシナ半島政策というものも考えられるでしょうし、その中には多くの国々が入ってくる。その国に対して地域統合に向けた場合のソフトの提供をどうするか、あるいは流通のプロセスにおけるインフラ整備をどうするのかというのは、トータルで青写真を描くということがある程度議論できるのではないか。今までそういう場が、日本のODAをやるプロセスにおいてなかったといっても過言ではないと思います。
したがって、各省別のODA参画としましては、研修事業とか派遣事業を通して、上流の政策なくして下流だけでうごめいてやってきたということがはっきりしたわけでございまして、そういう面では上流政策というものをはっきり定めないODAは、まさに先ほどいったタックスペイヤーに対する説明においても問題だと感じます。
そういう点において、例えば地域別の場合だとアフリカをどうするか、あるいは中南米をどうするかということは当然出てきますし、アジアの中でもいろいろなブロックに分けて議論ができると思います。そこにおいて、当然レベルの違う議論がいろいろありますので、それを官民一体というか、産官学にNGOを加えた合同の研究会を各種各様つくりながら、トータルの意見をまとめていくという作業が必要ではないか。その場を外務省の関連機関に置くのか、あるいは内閣府に置くのか、その辺の問題は別にして、今そういうメカニズムが必要だという議論をしているところですので、私はぜひその辺について、政府はその方向で組織化を図ってもらいたいと考えている次第でございます。
それから、最近はイギリスが貧困削減ということを掲げて労働政権がやっていますけれども、これはサハラ以南アフリカを主にみています。アフリカ地域はユニオンジャックをおろすのだと。「アジアをおろすのか」と聞いたら、「いや、アジアはどうかわからない」といって、彼らはODAを戦略的に考えているのですけれども、やはりこれは今、世界銀行や国際機関でいっているコモンバスケット方式(非二国間援助方式)によってやっていく。例えば、そういう問題もODA総合戦略会議で、これはバイラテラル、マルチを中心にして日本がどのように関係するのかという戦略を考えていくことが必要ではないか。最初に大野さんにも随分議論していただいたのですけれども、アジアダイナミズムの問題で、少し考えた次第でございます。

鷲見

ありがとうございました。最後に林華生さん、お願いします。

早稲田大学アジア太平洋研究センターの林と申します。きょうお招きいただき、いろいろ勉強させていただきました。ありがとうございます。私は今、後悔しています。最後になってネームプレートをおろそうかと思ったのです。もう時間になっているので、簡単に要点だけ述べさせていただきたいと思います。
まず第1点は、今、援助側、支援側の話をいろいろ聞いて、今度私は開発途上国の人間として、支援される側から感想を述べさせていただきたいと思います。日本はFTAの締結とか開発途上国に対する援助で主体性の確立、イニシアチブの確立は非常に重要だと思います。そのように期待されています。若干例を挙げてみますと、例えば97年以降のアジア経済危機、アジア各国は日本に対してAMFの設立、宮沢構想に対する期待、90年にマハティールがEAECに構想が変わったのですけれども、日本に対する期待は非常に大きかったのですが、期待が外れて挫折感をもっているアジア各国の実態を把握してほしいというのが第1点です。
第2点は、FTAはもちろんODAとか貿易、投資等含まれていますけれども、ほかに教育、技術移転、人的資源の開発、アジア各国のすそ野産業の育成に日本が貢献すべきだということをぜひ強調してほしい。
第3点に、今まで日本がいろいろな国際機構、これも第1点に関連してきますけれども、NAFTAにおいてはアメリカ中心、EUはドイツ、イギリス、フランスが中心に動いていますが、アジア各国においてこれから協力体制を構築していくには、日本が主体性を確立していかないと、福田元首相が77年にドクトリンを発表してから25年たっているのですけれども、日本とASEAN諸国の形のみえるものはできていません。今、小泉首相が包括的経済連携構想を打ち出して、本格的に推進していかないと、あと25年たって振りかえってみると、何もできていない可能性もないことはないです。したがって、それに関連して3点のコメントをさせていただきたいと思います。
まず第1点は、このような包括的経済連携構想は非常に枠が広過ぎます。日本はJAFTAの構築に力を入れないといけません。中国はCAFTAです。日本はJAFTAです。対抗する必要はないですけれども、10+1を推進して、後に10+3、10+5、10+5+1。山澤先生はAPECの権威なのですけれども、余り最初から10+3を推進すると、既に一昨年、金大中さんが定義してASEANに拒否されたのです。日本がこれから10+3を提唱すると、これは絶対うまくいかないと思います。また、オーストラリア、ニュージーランドを入れたら10+5です。これはアジア太平洋地域においては、中国が反対、マレーシアが反対。別に日本はマレーシア、中国の意見を一々聞く必要はないのですけれども、アジア太平洋地域における二大抵抗勢力を完全に無視してよろしいかどうか。将来アメリカも入れる。小泉発言に書いてないですけれども、よく読みますと、アメリカと絶対必要な同盟関係、協力を強化していかなくてはいけないことをうたっていますから、日本の場合は行く行くアメリカを入れる。そうすると10+5+1という構想は非常に広過ぎる。それは致命的です。これは10+1から拡大していかないと、また失敗するのではないかと思うのです。
第2点は、非常に簡単にいいますけれども、目標の設定がないです。中国は10年といっています。日本は8年といって達成できないと困るのですけれども、かといって日本は12年と言い出したら中国よりも2年間おくれるから困る。いろいろ思惑はあるのでしょうけれども、目標を管理してないことにASEAN諸国は非常にいらいらしています。日本はやはりちゃんと研究して、達成可能な期限を設定して、推進していかないとだらだらずるずるになってしまって、結局は何もできないではないかという心配を私はもっています。
第3点は、農業問題です。農業問題は真正面から解決の方法について、何も触れてないです。これは困ります。日本がシンガポールと2ヵ国協定を最初に結んで、シンガポールは基本的に農業、漁業はないです。しかし 2,000品目に上る農水産物の関税の引き下げについても棚上げして解決しないことにして、今度もしもFTAとかアジア各国との協力の強化をするためには、農業問題は必ず出てきます。ASEAN諸国、アジア諸国は農業国だから、日本とFTAを締結するには、農業問題をとられたら何の意味もないです。これを日本は真正面から提案――中国のことをいいたくないですけれども、中国は農業大国です。9億の農民をもっているにもかかわらず、ASEAN諸国と真正面から協力体制を構築していく、農業セクターを開放する。またインドシナ3ヵ国に対しても、結構優先的に考慮して市場を開放するような政策を鮮明に打ち出しているにもかかわらず、日本はやっていない。したがって、私にいわせると先ほど述べた幾つかの点を明確に整理して、政策提言しないと日本の地域との協力は非常に難しいのではないかという気がいたします。

鷲見

ありがとうございました。既に20分以上予定の時間を超過しておりますので、午前のセッションも終わる必要があるのですが、どういたしますか。大変いろいろな論点が出たので、レスポンスしていただくのは時間がかかるかもしれませんが、とりあえず数分ずつぐらい話されて、後は第2、第3セッションの中で出された論点については適宜触れていただくと。では、木村さん。

木村

たくさん関心をもってご意見いただき感謝いたします。たくさん重要な点があったのですが、4点だけかいつまんでお答えします。
1つは、農業の問題を中心として、日本自身の改革のリンクは大事だし、そちらをもっと前に出せと。そのとおりの話なのですが、一応FTAとか経済連携とかやらなければ、農業問題もほとんど新聞にも出ないし、皆さんも議論しないところでありまして、WTOの玉砕作戦が玉砕するまでは何も動かない。それを変えるためにはFTAでも何でもやらなければいけないというのは、基本的な発想ではあるわけです。その点については河合先生も結構強い調子でいろいろおっしゃいましたけれども、基本的には応援していただいていると私は解釈いたしました。
2点目は、産業振興における政府の役割の話も旧MITIの発想とすごい言い方が出てきましたけれども、確かに大野さん書かれるものをそのまま読むと、正直申しますと私もいろいろ抵抗があるときはあるのです。ただ、個別問題でベトナムで実際に鉄鋼業をどのようにするかという話をしたときは、もちろん私は純粋に貿易論出身ですので、貿易障壁があればどのようなウエルフェアロスがあって、しかもどのような政治経済学的コストがかかってきて、全体的な方向として自由化に向かった方がいいに決まっていることは当然だと思うのですけれども、ただそこに行く経路というのは、途上国の場合には結構ぎりぎりのケースがあるから、今すぐ関税ゼロにした場合には、多分ベトナムの鉄鋼は全部死んでしまうのです。あと数年間何とかうまく設計してやれば生き残るかもしれないとか、FTAはどのようにするのかということを議論できる余地というのはいろいろあるのではないか。
それから、マーケットベースの政策改革というのを途上国でも進めていくというのはそのとおりなのですけれども、ただそこでいろいろな政府の役割がないということでは決してなくて、例えば直接投資を受け入れるということ一点を考えても、輸出指向型のFTAであっても、政策関係は非常に重要なのです。これは必ずしもインセンティブを与えるとかという意味ではなくて、投資環境を整えるという抽象的な言い方をすると、そういうところで政府の役割というのは非常に大きい。そこのところのサポートの仕方というのが、例えば世銀とかでやっているプログラムだと若干不足しているのかというのは私が感じているところです。
3点目は、APECへの言及がない。申しわけございませんということですけれども、WTOへの言及も実はなくて、APECがWTOとリージョナリズムをブリッジするような役割を果たしてほしいというのは私もそのとおり思っておりまして、そのようにぜひ活用すべきだし、オーストラリア、ニュージーランドの関係、あるいはアメリカとの関係も非常に重要だと思います。ただ、どのように使ったらいいのかというのがわからないというので、みんな四苦八苦しているのが現状かと。地域経済統合といったときは、もう少しモダリティーを絞ったところで、政策協調をする範囲を限定することによって、もっとコミットメントをきちんとできるという側面は当然あると思うので、できれば両方使いながらうまくできたらいいということだと思います。
4点目は、インフラコミュニティーの話は、たしかワイキキビーチか何かで浅沼先生とお話ししたのを覚えていますけれども、こういうプログラムをいろいろ考えていくというのは重要だと思うのです。これを考えることによって、ODAの定義にも必ずしもとらわれないで、いろいろなことが考えられるかもしれないし、地域的な範囲ということでもエネルギーのことを考えるときとトランスポート・コミュニティーを考えるときでもちろん参加国も違うかもしれないし、そういったものはEUなどの枠組みでも、参加国が分野によって違っているというのはよくあることですし、そういうことは全然構わないと思うのです。ただ、そういうプログラムがたくさん束ねられて統合された形の対外経済政策になっていくというデザインを考えていけばいいのではないかと考えております。どうもいろいろありがとうございます。

大野(健)

午後のセッションもありますので、そちらでもやっていただきたいと思いますけれども、お聞きしていて9割以上それでいいと。協調の聞き方の違いだと思います。河合先生のも含めて、農業とかに逃げているようなことはないので、そもそもこの研究会をやるというのはセーフガードがあって、こんなことではいかんということでやったのです。ただ、ODAから先に行こうということで、まだ半年ぐらいです。どの研究会でやるかとかの問題であって、やらないわけではない。
トーンについては、私は自分の書くものに全然違和感がないので、このとおりでいこうと思います。浦田先生もおっしゃいましたけれども、実際にベトナムで何をやっているか。木村さんもおっしゃったけれども、今はそれをいう場でないから余りいいませんが、具体的なことをやると、実際にメッセージのニュアンスが違うというものを超えて、常識で考えてこのようにやるのがみえてくるのでありまして、鉄鋼のことをいいますと、これも本を出して、ウェブもここに書いてありますけれども、そこに我々はどういうことをやっているかも英語で全部載せております。関心がある方は見ていただいたらいいです。例えば、鉄鋼については、世銀はそんなことは全く議論しない。自由化を早くやれというだけです。ベトナム政府はその中でもいろいろあるのですけれども、工業省とか一部の上の方というのは、早く一貫製鉄をGDPの3割ぐらい使ってやれというようなことで、まだそんな空疎な議論をやっているので、できればそんな議論をやめさせて、条項などでは輸入禁止がかかっていますから、NTBをやめて関税をできるだけ早く落としていかなければいけないけれども、最初から0%にする必要ない。ただ、その速度はアフターの2006年まででやるか、もう少し猶予があった方がいいのかということを具体的にやらなければいけないのですけれども、全くマーケットマインドがなくて、そのような議論が抽象的なレベルになっているから、それを引きおろそうとしているので、我々は議論すると、あなた方全然市場のことをわかっていないというような、具体的にはマレーシアでこのような失敗をした、ロシアからこういうものがくる、そのようなことをやっているのです。電子でも繊維でもそうですけれども、ともかく国際競争ということを抽象的には聞いたことがあるし、よくいうが、具体的にどうするかということを全くわからないで、数量的なプランだけつくっているからそれをつぶしたいのです。そういう仕事をやっているので、もし関心があれば、ウェブもありますし、本も今年中に出ます。

鷲見

皆さんいろいろいいたいことは、午後のセッションに回すことにいたしまして、休憩時間をはしょって申しわけありませんが、45分と申し上げたのを30分にさせていただいて1時再開ということにさせていただきたいと思います。

――了――