第10回アジアダイナミズム研究会 議事録

  • 平成13年11月19日 19:00~21:00

それでは、始めさせていただきたいと思います。
きょうは、トラン・ヴァン・トゥ先生に、「AFTAとアジアダイナミズム」ということでお話をいただくことになっております。よろしくお願いいたします。

トラン

いつも欠席してしまいまして、申しわけありません。きょうは、このテーマをいただいて、私の今の考え方をご報告させていただきます。まだ十分整理していませんけれど、AFTAについて、今、2つのことで可能性を考えています。
1つは、アジアダイナミズムの中でAFTAをどう位置づけるかということですが、例えば、NAFTAやEUなどと比べて、AFTAは非常にユニークな存在ではないかと思います。なぜかというと、AFTAの周辺諸国はかなり発展していて、周辺諸国とAFTA諸国と相互依存関係が高まっていてお互いに発展してきた、こういう地域はほかにまだない。そういう非常にユニークな存在であると思っています。そこで、このアジアダイナミズムの中でAFTAをどう位置づけるか、貿易マトリックスなどを整理してそのことをみてみたいと思います。
もう1つは、中国の台頭とAFTAです。特にタイのような国は、中国と規模こそ全然違いますが、要素賦存状況とか発展段階などいろいろな意味でかなり似通っています。そこで、中国の台頭とAFTAとの関係がどのように変わっているか、将来はこの関係をアジアダイナミズムの中でどう考えればいいか。
この2つの点で考えてみたいというのがこの報告の目的であります。
2番目の問題は、皆さんもご存じのことですけれど、念のために確認しておくと、AFTAのような自由貿易地域ができますと、域内諸国への効果、域外への効果などを考えますと、よく議論されるように、静態的効果と動態的効果があります。
静態的効果は貿易創出効果です。域内で関税率を下げていくと、従来は貿易障壁であったものはなくなるので、お互いに貿易が増加する可能性がある。ということは貿易創出効果です。しかし、その効果が強い条件は何かといいますと、1つは、地域協力ができる前にお互いに主要な貿易相手国であることが特に条件です。もう1つは、関税率が高かったので関税率の削減効果が大きいという意味で、貿易創出効果の強い条件はその2つがあるわけです。
それから、域外諸国との関係は、貿易転換効果があります。差別的な関税は続くので、域外諸国からみると域内諸国に入りにくくなる。そして、貿易が域外から域内に転換するという効果がある。自由貿易地域が成立してそれを正当化するためには、貿易創出効果が強いこと、そして貿易転換効果が弱いことでありますが、それはネットでポジティブになる。
貿易転換効果が弱い条件は何か。1つは、貿易構造が違うこと。例えば、タイのASEAN域内への輸出構造と中国のASEAN域内への輸出構造が違うならば、その転換効果は弱いということがまず考えられます。そういう問題意識で、後でデータなどをみてそのことを裏づけようと思います。
次に、動態的効果です。これは市場の拡大と規模の経済性で、例えば部品とか中間材の供給などが安くなって、最終製品も国際競争力が強くなり、それによって新しい貿易もできるわけです。
また、3つのメカニズムで直接投資が増加する可能性があると考えられます。1つは、規模の経済性の効果を利用するために、域外から域内への投資が誘発されるということ。2つ目は、貿易転換効果です。域外の国が輸出しにくくなるので、その障壁を乗り越えて域内への投資が誘発されるという効果がある。3つ目は、これは余り議論されませんが、幾つかの研究が指摘するところは、自由貿易地域ができますと、域内各国のカントリーリスクとか不確実性が低減する。つまり、経済改革とか貿易自由化などを約束していますから、そのこと自体は、その国のカントリーリスクとか政策の変更の意味での不確実性が低下する。それで投資が誘発される。それによって直接投資が増加するということが期待されます。
最後に、効率的な資源配分の効果です。特に経済改革とか、例えばベトナムのような移行経済の場合は自由貿易地域に入りますと、国内の改革を促進しなければならない。その結果として動態的な効果、資源配分がよくなるということが期待できる。
そういう認識をした上で、次に、AFTAの具体的な問題に入りたいと思います。AFTAの仕組みは皆さんご存じのところですので詳しくは説明いたしませんが、データをみながらご説明したいと思います。表1をごらんいただきますと、ここはCEPTの共通の特恵関税体系についてです。このCEPTの枠組みで各国が約束して関税率を削減していくわけですが、この表1は7月9日現在ですけれど、今でもそんなに変わっていません。
第1番目の欄はIL(Inclusion List)で、ここに関税削減予定の品目を入れてあるスケジュールのもとで関税率を削減していく。次のTEL(Temporary Exclusion List)は暫定的な期間において関税削減を除外するリストです。次のGE(General Exceptions List )は、ずっと除外する、つまり自由化しない品目のリストです。最後のSL(Sensitive List)は敏感的な品目リストで、それぞれの国において関税を削減しますと政治問題や社会問題になるようなものです。
これをみますと、先発ASEAN6カ国平均で品目数では98%。シンガポールのような国はすべて削減していますし、タイの場合でも 100%近い品目がILに入っています。新規の加盟4カ国は、6割弱はこのILに入っています。
次に、表2をごらんいただきますと、表1のILの詳しい情報を示しています。つまり、ILに入っている品目の中で、現在は関税率5%以下はどのくらいの品目がこのカテゴリーに入っているか。右側は構成比で、今、先発6カ国はILの中で93%はもう既に5%以下になっている。シンガポールは 100%。これは自由貿易移行です。タイ、インドネシア、マレーシアなどは90%前後であります。新規加盟4カ国は平均で54%です。カンボジアはまだ7%しかありません。
全体でみますと、関税率の削減という点だけについてはそれなりに進んでいるといっていいのではないかと思います。新聞などに出ましたように、通貨危機の後、マレーシアやタイなどのある品目は、例えば自動車部品などはその削減を延期すると発言していますが、そういうものは例外的で、関税率の削減は進んでいるとみていいのではないかなと思っています。
レジュメの4番目は、AFTAとASEAN貿易の変化についてです。表3をごらんいただきますと、ASEANと中国の工業品輸出と輸出工業化率のデータです。輸出工業化率というのは、総輸出の中の工業品の割合を示しています。これは80~99年の20年間、ASEAN諸国と中国との比較で、貿易全体を簡単にマトリックスできますが、興味あるのはやはり工業品の貿易で、各国の工業品の輸出規模と全輸出の中の工業品の割合を示しています。例えば、ASEAN4の場合は80年には工業化率は22%、99年は62%と、非常に急速に上昇しました。この20年間は工業化が非常に進んだといえます。
ちなみに、中国の場合は48%から90%と、中国はかなり急速に進み、しかも工業化率は非常に高いということを示しています。
ASEAN4カ国の工業品輸出の規模は、例えば、84年には中国よりも多かった。しかし、94年以降は中国の方が多くなって、90年代の後半になってからASEAN4よりも中国は大きな存在になったということも、このデータは示しています。
次に、表4と表5は工業品だけの貿易マトリックスをまとめたもので、これは上の欄は92年、下は99年のデータで、AFTA実現直前の年と最近の入手可能なデータとの比較であります。それで、この表はいろいろ興味ある事実が発見できたわけですが、次の表はそのパーセンテージで、各国の対世界輸出を 100として各市場はどれだけを占めているか、この2つを同時にごらんいただいていいと思います。この貿易マトリックスで我々が関心のあるところは、縦のASEAN諸国と日本・中国・韓国、つまりASEAN諸国と域外主要3カ国--今、ASEAN+3という議論がよくありますが、そのことも意識してこれをまとめました。
これからいろいろなことがわかります。1つは、ASEAN各国の工業品輸出が、この期間にタイは2倍です。これは 100万ドル単位ですから、 221億ドルから 452億ドルと2倍。マレーシアも2倍以上、シンガポールも2倍ぐらい。インドネシアは倍率はやや小さいですが、フィリピンは倍率は高くて74億ドルから 327億ドルと、非常に急速に工業品輸出が拡大したと。この世界対世界倍率と、APECとかASEAN域内、アメリカ、日本、その倍率で比較してみますと、ここで特に注目すべきことは、ASEAN域内の貿易はそんなに拡大しなかった。つまり、拡大したけれど、対世界の拡大倍率より特段に高いとは確認できないということです。大体2倍ぐらいです。つまり、ASEAN各国の対ASEAN工業品輸出も2倍前後。対世界も同じぐらいです。
2番目は、中国、日本、韓国への輸出の方がより拡大した。これは非常におもしろいですね。つまり、ASEAN諸国が対ASEAN域内よりも、対日本、対中国、対韓国への工業品輸出が拡大したということができます。
3番目は、表5をごらんいただきますと、ASEAN域内は、ASEAN各国にとってどれだけの重要度をもっているかということです。ASEANは、例えばタイの場合は14.6%から16.7%、マレーシアは29.8%から24%に低下した。シンガポールはちょっと上昇した。インドネシアの場合はやや上昇。フィリピンはかなり上昇したけれど、割合としてはまだ小さい。これはもしシンガポールを除いてしまったら、例えば、タイからシンガポールへの輸出は、シンガポールの割合は10%前後です。各国の工業品輸出は、シンガポールへは半分ぐらいを占めているということがわかります。それから、例えば、ASEANの対韓国、対中国への輸出はまだ少ないですが、対日本は割合としては高い。そして、特にアメリカは依然として有用な市場であります。
ここで一番強調できる点は、ASEAN諸国が急速に工業化していって、その工業品輸出の市場は主として域外であったということがいえます。域内での輸出も拡大したけれど、域外と比べてそれほど拡大しなかったということがわかりました。
その次は、タイと中国との比較をしてみたいと思います。先ほど申し上げましたように、タイの工業化と中国の工業化は急速に進んでいって、要素賦存状況も似通っていますので、タイという1つの国を出して中国とのいろいろな観点から比較してみようというのが、次の図1です。
図1は、国際競争力指数を主要な工業品でみると、上の図ではタイは7品目、下の図も同じぐらいです。本来ならば1つの図でいいのですが、2つの図にしてみやすくしました。国際競争力指数とは何か。例えば、テレビの輸出-輸入を+輸入で割ってとった指数です。この指数は-1から+1の間にありまして、-1というのは輸入だけで、輸出はほとんどありません。逆に、1の場合はほとんど輸出だけです。0のところは輸出と輸入がほぼ同じくらいの規模です。そこをみますと、産業の発展段階をみることができます。つまり、-1から0に向かって動きますと、輸入代替のプロセスが進むということがいえます。0から1に向かって動きますと、国際競争力に強くなって輸出産業として発展していくということがいえます。
そういうことを念頭に置いて、図1はタイ、図2は中国ですが、これはやってみますと非常におもしろいことに、タイと中国はほとんど同じように動いています。例えば、衣服(アパレル)の場合は両国とも1に近いところで、この観察期間以前から両国とも輸出産業として強かったわけです。ほとんど輸入はなくて、輸出だけだったわけです。
あるいは、テレビをごらんいただきますと、テレビは例えばタイの場合は90年ごろから-から1に近づいていった。中国の場合はやや変則ですけれど、やはり1に近づいている。ほかの産業も、例えば事務機器は広い三角の線ですが、これも90年代に入ってからは輸出産業としてかなり伸びています。ほかのところも、タイと中国は工業構造とか工業化の発展段階などの点からみて、かなり似通っているといえます。
その次は、貿易転換効果を考えるために、輸出類似指数というものをつけてみました。図3、図4、図5の3つの図ですが、例えば図3の場合はタイ-中国輸出類似指数です。類似指数というのは何かというと、あるマーケットにおいて2つの国が輸出しますと、例えばシンガポールにタイも中国も輸出していますが、輸出構造は全く同じで、タイ-シンガポール輸出の中でアパレルは10%、中国も10%、タイも10%。テレビは、中国は15%、タイも15%と全く同じならば、この指数は0になるわけです。逆に、構造が全然違うもの、完全に違うものは、この指数は1になります。0は1つの目安で、その下にあるのは大体似ています。上にあるのは余り似ていないと考えればいいわけです。
それで、図3のタイと中国をみますと、左上の表は、対世界輸出、つまり世界市場を観察している。そして中国とタイをみますと、ちなみに、これはSITCは2けたです。こういうことをやると非常に膨大な時間がかかりますので、本当は3けたとか4けたをやるともっとおもしろいのですが、とりあえず2けたです。
そうしますと、世界市場にタイと中国が輸出していて、 0.4のちょっと下にあって安定的で、さっき国際競争力指数でみたように、タイと中国は同じように各工業・各産業が発展段階を迎えたので、それを反映すると思いますが、世界に対しては大体同じようなものを輸出していると。
右上をみますと、対ASEANです。これはタイを比較しますから、タイを除いたASEANです。左下はタイとシンガポールを除いたASEANです。シンガポールは最も輸出が多く、シンガポールは日本のような先進国市場であるなどの点で除いてみます。そうすると、上は 0.6から 0.4の下にやや下がっている。下がっているというのは、類似する方向に動いているということです。
右下の図ですが、肝心なのは日本です。これはおもしろいことに、タイと中国はそんなに似ていません。 0.7と、ほかのところと比べて高い指数です。これはなぜ出るか。私の解釈は、日本の場合は、85年ごろ、急激な円高のもとで日本の家電産業はどんどんタイに行って、タイでつくって日本に逆輸入するということが加速的になった。ですから、タイから日本への家電製品などの輸出は非常に増加していますが、中国からはまだそんなに増加していない。中国はもう少し後の段階です。つまり、日本企業は中国に進出して、中国でつくった家電などは日本に逆輸入することは、この観察期間にはまだそんなにない。ですから、ほかの市場と比べて日本市場ではやや違っているということがわかりました。
次は、図4で、タイと韓国をペアにして類似指数を計算してみたものです。つまり、韓国も域外の主要な国として、AFTAができますと、つまり、CEPTの関税率の削減の進行において、タイと韓国は競争的に出るか補完的に出るかをみて類似指数を作成してみました。これをみますと、世界市場ではタイと韓国はこの指数は高いです。つまり、類似の程度は中国ほど高くないということです。ASEAN市場でも同じようなことがあります。ただ、シンガポールを除いたASEANは、余り似ていないところから類似化していくという観察ができます。
右下の図の対日本については、タイと中国の類似指数とほぼ同じようなことです。タイの場合は 0.6で、中国とタイの 0.7よりやや下ですが、さっきと同じような説明でこれをみることができるのではないかと思います。
最後に、図5です。日本とタイとの競合関係をみますと、日本が衰退したのか、あるいはタイが非常に成長したのかよくわかりませんが、世界市場においては最初は 0.7であったのが、今は0.45ぐらいにかなり低下しています。短期間でこんなに低下したのはどういう意味があるか。1つ考えられるのは、これはSITCは2けたなので、水平分業はかなり進展したので、大分類でいいますと、タイと日本はかなり似た輸出構造に近づいているということもできるかもしれない。シンガポールを除いたASEANでも同じような現象で、少しずつ低下していく。こういうことのもう1つの意味は、SITCは2けたなので、産業内分業あるいは水平分業がかなり進展していって、ASEAN諸国は急速に工業化したので、ほかの域外諸国との貿易構造はかなり似通ってきたということがいえると思います。

指数はどうやってつくるのかもう一度教えてください。

トラン

この類似指数は、ある市場に対して、例えば中国の総輸出の中の各商品の割合を、例えば、同じ市場に向かって、タイをTI、中国をCIとします。そして、TI-{(CI+TI)÷2}とします。例えば、それで同じ比率ならば、さっきいったように、繊維が20%の場合はこれは0になるわけです。例えば、タイも中国も同じ20%ならば、分子は20%+20%=40%で、40%÷2=20%になります。そして、20%-20%=0%になります。ですから、繊維の場合は0。カラーテレビも同じ比率ならば0。そして、全部0ならば0になりますが、ある商品は0でなければ、全部合計して0から1の間になるわけです。
ASEAN諸国の工業化と貿易はどのようになったかが大体わかっていただけたかと思います。
最後に、レジュメの5、AFTAと日本企業あるいは日本です。貿易マトリックスなどをみると、日本とAFTA諸国・ASEAN諸国は貿易が拡大していて、例えば、ASEAN諸国の対日本工業品輸出がASEAN諸国域内貿易よりも拡大してきた。ですから、日本とASEAN諸国の貿易面での相互依存関係はより強かったといえます。それから、投資の方は、85年のプラザ合意以降から90年代の初めまで、日本の直接投資はASEANがかなり増加していって、92~93年は一時的に鈍化して、その後、94~95年の急激な円高で再びASEAN諸国に日本から投資が増加しました。ただし、そのころから、日本企業はどちらかというと中国の方に向いていた。JETROの例えば94年の調査などをみると、今どこに投資するかという質問に対して、その後も毎年、すべての業種において第1位は中国であったわけです。
それがずっと続いていて、97年は通貨危機が起こってきて、さらにASEANへの投資が減少した。減少したけれど、過去の投資の実績で日本企業はASEAN諸国で毎年の生産ネットワークを構築することができたわけです。ですから、今、ASEANの工業輸出の中で日系企業の貢献や日系企業の割合が非常に高い。しかし、肝心なところは、AFTAができると日系企業はどう反応しているかといいますと、最近の調査をみますと、関心はもっていますけれど、特に積極的に何か対応するという行動を示していません。いろいろな調査を私はみましたが、大体がそういう結果でした。
これをどう解釈するか。最初から今までの報告の中で浮かび上がったことですけれど、日本企業は、ASEANだけではなく、ASEANと中国・台湾・韓国などアジア全体を視野に入れて行動している。ですから、AFTAができなくても、日本企業はASEANをアジア全体の中に位置づける。
もう少し具体的にいいますと、ASEANへの直接投資は2つの段階がある。第1段階は60年代の初めから70年代の半ばぐらいまでで、この期間は主として輸入代替的直接投資を行って、松下やトヨタなどがASEANで投資したけれど、これは各国内の市場のための投資であった。ですから、輸入代替的投資です。
しかし、85年以降は、円高のもとで、80年代半ば以降は主として輸出志向的直接投資であった。そうしますと、輸入代替的直接投資の場合は、AFTAの関税率削減体系のもとで、輸入代替的プロジェクトは集約したり整理したりしなければならない。そういうことは90年代半ばに既にやっていたわけです。90年代半ばに、日本企業は輸入代替的直接投資のプロジェクトはもう整理した。一部はタイからベトナムへ行ったり、あるいはマレーシアからタイに行ったりして整理した。そういう輸入代替的直接投資のプロジェクトは既に整理して対応した。AFTAの計画をみてそれに対応していった。輸出志向的直接投資の場合は、もともと世界市場に供給するための直接投資ですから、AFTAの関税率削減効果などは余り関係ない。
その2つのことを考えますと、企業はASEANだけを考えるのではなく、ASEANと東アジアの域外諸国も一緒に考えて実地戦略などをやっている。そうしますと、AFTAの実現に対して最近の反応は鈍いということがよくわかると私は理解しています。それが正しいかどうか、皆さんのご意見もお聞きしたいと思います。
あとは、中小企業の場合は、1つの中小企業がASEAN諸国で投資する場合は1件か2件です。そうしますと集約とか整理する余地がないわけです。むしろアジア全体の中の分業を考えるわけです。
ですから、きょうの私のご報告の基調は、このプロジェクトの趣旨にも関係あるわけですが、アジア全体のダイナミズムの中でAFTAを考えるべきで、実際に貿易などをみますと、ASEAN域内の貿易は目立って非常に増加したわけでもないし、むしろ、ASEANと中国・韓国・日本と域外諸国との相互依存関係はさらに高まったといえる。企業の行動をみてもそのようなことを示しているということがわかります。
ただし、表6をごらんいただきますと、これは国際収支ベースの直接投資の流入額で、東アジア諸国がすべて出ていますが、シンガポールとブルネイを除いた8カ国と中国との比較をみますと、86~91年の5年間でASEAN諸国は中国よりも直接投資の導入が多かった。しかし、92年以降逆転しまして、その差はどんどん開いていって、特に最近では、中国への投資額がASEANの4倍も上がった。これは直接投資の逆転効果で、ASEANから中国へのシフトという議論もありますけれど、企業としてはASEANに行かないで中国にシフトしたということがあったか、あるいは、そうではなくて、中国を新しいマーケットとして新しい投資資源を吸収していく。けれど、中国は吸収していきますけれど、ASEANはその分は入っていったわけではなくて、例えば、ASEANの絶対的な金額をみると、例えば、91年までの場合は43億ドルです。これは5年間の合計ではなくて、5年間の平均です。
そして、アジア通貨危機などがあったので、99年は92億ドルですが、その直前の97年のデータをみると 196億ドルです。これは4倍上がったということです。ですから、アジア通貨危機が起こらなければ、ASEANへの投資はもう少しふえたといえます。こう考えますと、中国へのシフトということよりも、ASEANでの投資もかなりふえたということもいえないことはない。ですから、中国へこの時期に増加した背景は、中国の工業化の進行の段階で投資の余地がかなり大きいということで、投資が非常にふえた。
これのインディケーションは何かと考えるとおもしろいと思います。例えば、地域の通貨の安定。さっき申し上げましたように、アジア通貨危機が起こらなかったら、ASEANへの直接投資はもう少しふえた可能性が高い。そこで、レジュメの最後に、アジアダイナミズムを維持するためにはどうすればいいかということで、私はここで2つのポイントを申し上げたいと思います。
1つは、今のことに関連して、アジア全体の通貨貿易体制がいろいろな面で安定すること。地域全体としての安定性を保つ努力が必要である。
もう1つは、中国とASEANの関係を考えますと、ASEANはもう一段産業構造の高度化をしていって、中国との水平分業、あるいは中国との産業内分業、あるいは場合によっては中国より一段上の段階に上がれるように、産業構造の高度化も図らなければならない。この点は、日本からの例えば人材の協力とか技術移転とか中小企業の育成とかいろいろあると思いますが、そういう方向ではないかなと思っています。
十分整理はできませんが、今の考え方は以上でございます。

ありがとうございました。それでは、質問やご意見をお願いいたします。

結論からいうと、AFTAの効果はほとんどないと理解していいのでしょうか。域内貿易のウエイトは上がるどころか、むしろ下がっているんですよね。冒頭で自由貿易圏の効果を上げるにはどういう条件が必要なのかというお話がありましたが、ほとんど満たされていないと考えていいかどうか。これからは中国もある意味ではAFTAに入るという話になるわけですが、中国とASEANの間にAFTAをつくる条件が満たされているかどうかというところにすごく疑問を感じます。要するに、本来、補完関係のあるところが一緒になれば貿易創出効果はその分だけ大きいのですが、ASEANの中にも補完関係は余りなくて、中国を入れても恐らく大して変わらないという状況であれば、中国がなぜASEANと組むのかなというのはややわかりにくいですね。
次の質問は、表1のところで、IL以外は結局例外品目に当たるわけですね。この表は品目の数で書いてありますが、もし金額で考えたらどのくらい違ってくるのかなと。もう1つは、例えば自動車はどちらに入るのですか。SLですか。ほとんどの国にとって例外と考えていいのでしょうか。

トラン

TELです。

テンポラリーで、いつまでと。

トラン

そうです。それは国によってまた違う。

一応、下げる気持ちはあると。いつかははっきりしていないと。

トラン

そうです。ASEAN先発国は2002年までに自由化をしますね。ベトナムなどはもう少し後ですけれど。そうすると、今おっしゃったポイントは、先発ASEAN諸国の場合は2010年までにTELもSLもILに移動して完全に自由化します。ですから、2010年までにTELとかSLはなくなるでしょう。0になるということです。

そして、自動車もその中に入ると。ただ、規模の経済性から考えると、今のように国ごとに10万台ずつつくるよりも、関税がなくなればどこかまとめて50万台つくるということに変わるんですね。そのときの政治的調整ができているかどうか。クアラルンプールでいいのか、ジャカルタでいいのか、バンコクでいいのかという話になりますね。次の段階で、もし2020年のAPECの自由化で外の関税も一緒に下がっていけば、ASEANの中には自動車工場は1つも残らないという可能性はありますね。今は関税で何とか国内のマーケットだけ守られていますけれど。ですから、繰り返しになりますが、AFTAがきちんとやれば1か所に集中し、APECがちゃんとやれば1か所も残らないと。こういう状況は想定できないですね。

トラン

その辺はまだわかりませんね。つまり、自動車のようなものはずっと例外にしたいという国が出るかもしれない。

そうすると、いつまでもみんな10万台ずつという状況は変わらないと。

トラン

その辺は皆さんはどう思いますか。私は、延期したいという方針になる可能性もあると思います。

今のAFTAの状況というのは、先発国にとっては2002年までにほとんど終わっているから、TLで最後の年にやるのもあるかもしれないけれど、今残っているのは、もうやりませんというものですか。もちろん残りの4カ国はまだ時間がありますから、まだいっぱいあるので、1つは、残ったもので、これは数では少ないかもしれないけれど、自動車とかバイクなど大きいものがあったときに、これ以上やりませんということになると、それで一応AFTAは終わりと。数の上でやったからということになって、あと残りの4カ国というのはどこまで行くのか。ベトナムは数では減ったけれど、これも量的にいうと、最後に残った10個か20個がものすごく大きいのでと。そうなるとしたら、もうAFTAということはこれ以上考えないで、別のことを考えた方がいいような気もするのですが。

私はそこのところは大分意見が違っていて、例えば、AFTAというイニシアティブがなかった場合の東南アジアを考えたときに、それは非常にまずいんじゃないでしょうか。

つまり、もっとやっているかもしれないということですか。

そう。ばらばらになっているんじゃないかな。

それはありますね。ただ、これをみると、数の上ではもうAFTAは大体ここまでやったらいいかなと。

けれど、輸入代替的な部分については整理しなければいけないし、ある程度はするわけでしょう。自動車はもちろん時間がかかっているけれど、今のところ期限は決まってはいるし、それがあるから直接投資が入ってくるということもないわけではないと思うのですが。関税率そのものは確かに輸出志向型のFDIはもう既にほとんど関税を払っていないわけですから、関係ないといえば関係ないけれど、時間がかかっても輸入代替型のところは整理しなければいけないわけで。

トラン

自動車以外は、さっき申し上げましたようにかなり整理して、例えば家電関係はもう95年ごろに時期が来たから、その段階でかなり整理した。残っている主なものとしては自動車ですね。

ASEANの国が一番気にしているのは、投資先としての自分たちのアトラクティブネスというか、そこが一番大事なわけでしょう。ですから、ばらばらにやったらだれもみてくれなくなってしまうんじゃないかというのが、一番大きな心配なのでしょうけれど。

この間それを議論したのですが、皆さんいなかったと思いますけれど、私がいったのは、自由貿易をしたら投資がFDIはたくさん入るというのはBさんなどはよくいうけれど、NAFTAとEUはちょっと別なので置いておいて、東アジアの現状でASEANを中心として自由貿易をしたときに、本当に投資が量として全体としてふえるのか。それはシフトは起こるでしょうね。とる国はハッピーだけれど、とられる国はという、そういう中でのとり合いはあるでしょうと。けれど、全体として中国とかほかの途上国とか、日本に残すのと比べて、ASEANが全体で上がるかというのは、理論的にはいろいろ考えるけれど、実際にそうなるというデータはないし、さっきもおっしゃったように、FDIがどこへ行くかというのは、日本の企業とか欧米企業を考えると、そういう細かいことではなくて、中国がグッと上がってきたら中国へ行こうとか、アジア危機になったからやめようとか、そういうショックがすごく大きいですよね。
ですから、自由貿易で関税だけ下げて、それが10%平均が5%平均になってというのは企業は余りみていなくて、それこそアジア全体の戦略をみて、ASEANの関税が平均的にちょっと低くなったからといっても、それは部分的にはあるにせよ、中国に行くか、日本にとどまるか、それとももうメキシコへ行くかというのは、その辺では決まっていないんじゃないかということを私はいったんです。

それはAFTAとかのプロジェクトが非常にジリ貧になっているというか、そういう細かいところだけやっているから。本当はもっと本格的なトレードファシリテーションみたいなものが進んで、ASEANの国の間の物の動きとか人の動きが自由になっていかないといけないのだろうと思うので、関税だけやっていてもだめだということだと思います。
一方で、例えば中国などは、インフラなどもどんどんできているし、人の移動はいろいろあるけれど、国内経済のインテグレーションはどんどん高まっているわけでしょう。それはものすごくアトラクティブなことですよね。東南アジアでもなかなかそうはならないわけでしょう。

この間いったのは、投資が究極に欲しいというのだったら、AFTAなんて時間がかかるし、インドネシアとどこかの国はけんかするし、そんなことをするよりも、例えば、ベトナムだったら政策の不安定ということを一番みんなが文句をいうわけだから、それで今実際やっていますけれど、1つの国でできることで別に交渉する必要はないんですよね。お金はかからないけれど、制度だから変えるのは時間がかかると。マレーシアだったらマレーシアで、今、賃金が高いとかそういうのでみんな逃げているところをどう付加価値を上げるかということをやれば、必ずしもAFTAが進もうと進まずとも来るんじゃないか。

そもそもなぜASEANができたかというところからすると、シンガポールがあそこに入っていて、インドネシアという巨大な国がそこにあって、何でもいいから一緒にやるというフレームワークがなかったら、シンガポールなどはなかったわけですよね。今はもうシンガポールも余裕がなくなっているわけだけれど。

ASEANとNAFTAとどういうところが同じでどの辺が違うのかという整理が必要なのではないでしょうか。NAFTAはそれなりの成果があるならば、なぜAFTAはないのかと。大きいところと小さいところの差なのか。

まず、市場の大きさが、アメリカ市場に食い込むという意味では、EUでもそうですけれど、ともかく内需自体がヨーロッパとかアメリカは世界最大の市場ですよね。

それなら、FTAとしては小さ過ぎると。

トラン

もう1つは、私の報告の中に入れましたように、AFTAの場合はその外に重要な市場があるので、つまり、日本、韓国、台湾、中国といった大きなアジアのダイナミズムの中のAFTA。NAFTAはそうではない。NAFTAは自分たちだけで大きな市場なので。

だから、NAFTAとEUは市場があるから、その市場に対して中でいろいろ分業しようと。外に売り込もうというのではないけれど、ASEANというのは中に市場はないですから、日米欧に売らざるを得ないので、その分業ですよね。

それは最初からわかり切っていることで、最初のねらいは、むしろASEANに立地して生産のネットワークをつくるときにはもう少しやりやすくなると。部品調達とか税金をとらなければ。だから、中でのマーケットをねらうというのは最初からなかったと思うのです。最初から無理があったというのはわかっているはずですよ。

だから、動きやすいんですよ。フランスに売るためにはフランスがなければいけないけれど、ASEANの中で売るつもりはなかったら、どこの国へ行ってもいいわけですから。みんなアメリカに食い込みたいためにメキシコへ行くので、そういうのがASEANにはないですよね。

だから、最初からASEANに関しては、NAFTAやEUと違って、そのような効果はだれも期待していなかったけれど、そして結果からみてもそれほど目立った効果はあらわれていないけれど、でも、それは覚悟の上でやったということなのでしょう。そして、もしなかったらどうかというのは、Bさんがおっしゃったけれど、これもなかなか定量的には証明は難しいですけれど、せめて似たような国で集まるというのは、効果も少ないけれど、弊害も少ないということですから、それでやって、ある種、マーケットも大きいし、その中での分業もしやすいですよというのを投資PRをしたと。

もし規模が小さ過ぎるという議論であれば、まさに前のEAECみたいな形にした方が望ましいという結論になってしまうんですよね。規模が問題であれば。

経済的にはそれはそうでしょう。NAFTAというのは、カナダやメキシコにとっては圧倒的にアメリカ市場向けという貿易はものすごく多いわけですから、一緒にすればそれなりに大きな効果があったと思うのですが。どちらにとって得かという問題は別として。では、日本はそういう市場をASEANなりに提供できたのか、あるいは今でもできるのかというと、政治的には、あるいは国内産業政策的にも障害が大きいわけですよね。

トラン

ASEAN+3に日本と中国と韓国も入って1つの自由貿易地域にすれば、これはNAFTAと似ている。東アジア全体が自由貿易地域になれば、構造的にはNAFTAに近い。

ある意味では、垂直分業がまだ残っているということでしょうね。どちらかというとEUは水平分業中心のFTAですけれど。

NAFTAも相当垂直ですよね。

だから、もしEAECみたいなものができたら、アジアも、統計上は水平分業でも、実際はまだ垂直ですよね。

でも、NAFTAの場合は、アメリカ市場に売り込むには、あるいはEU市場に巨大なマーケットを売り込むには、その中に入らなければいけないのだけれど、例えば、日本に売り込みたいときに、別にASEANに属していなくても、世界じゅうどこからでも、少なくとも農産品以外は買ってくれるのだから、そんなものをつくる必要はない。日本がASEANとやってほかの域内の国が買わないといったら、日本に売るためにみんなASEANに来るでしょうけれど、でも、そんなことはシナリオ的に考えられないですよね。

CEPTの効果はまだ今は判断できないと思います。ことしの初めにはほとんどまだCEPTで下げていなかったし、その税率はほとんど適用されていなかったでしょう。去年の終わりからことしの初めまでは。それからガーッと進んでいるので、今のように投資のモチベーションがすごく下がっているし、経済活動もすごく下がっているときに、小さいかもしれないけれど、効果が全然ないじゃないという結論は今の段階では出せないと私は思います。

トラン

部品の貿易はかなり拡大していますから、その分は効果があったと思います。

部品に10%とか20%とかがかかっていたのは、外れていくと思いますね。だから、今の段階で、AFTAは全然効果はなかったといえるかどうかは問題。

全然とはいわないけれど、これから21世紀を考えたときに、AFTAはあと残り頑張ってやりましょうと、それだけでは……。残りといっても、もう数の上ではやれるところは大分やってしまって、残っているのは日本のあれと同じで、戦わないともうこれ以上下げないものばかり残ってしまったら。

貿易構造が、アメリカが日本の倍ぐらいの市場を提供していて、そこの大きな構造が変わらないと、仮にASEANと日本と韓国とで、中国も今 2.5%ぐらいがどのくらい伸びるかわかりませんけれど、この20何%というアメリカの……。

因果関係はまさに逆でして、AFTAが成立したら対米依存度は下がっていくだろうと、こういう発想でないとやっていられないでしょう。

ああ、そういうことなんですか。そして、アメリカの景気が下がってということでしょうけれど、でも、圧倒的ですよね。

でも、まさに中国はそういう発想なのではないかと思います。最近、地域主義にちょっと傾斜して、その1つは、今まで余りにもアメリカへの依存度が高かったと。その反省というか、市場の分散の一環として、もっとアジア域内のマーケットを開拓したいと。それで、とりあえずASEANに声をかけているのだけれど、その目的は、本音ベースでいうと、ねらっているのはASEANではなくて、日本なのですよと。だから、日本に少し刺激を与えて(笑声)。日本も乗ってくるということを期待しているんじゃないでしょうか。ASEAN+チャイナではなくて、結局、中国はASEAN+3をねらっているのでしょうね。

ワーキンググループのレポートを読むと、市場は17億人だけれど、GDPは日本円でいうと 300兆円。そして、ASEANと中国と入れて、日本のGDPは 500兆円ですよね。

日本は域内の3分の2ぐらいでしょう。

そういう意味だと、今の時点でいうと、全部日本も含めてASEAN+3でやらないと、市場としては余り意味がないなと思ったのですが。ただ、その制度的な枠組みを変えると、アメリカに行っていた部分がかなり--もちろん中国がどんどん伸びていくから、それはそういう前提で考えるということでしょうけれど、変わりますかね。

中国でASEANというのは余り伸びないと思いますね。このマトリックスをみて思うのは、中国とASEANはほとんど貿易をしていないということですね。結局、何をやっているかというと、アメリカとかヨーロッパとか日本で競合しているので、第三国で競合しているわけですから、ほとんど中国とASEANというのは何の貿易もしていないに等しいぐらいですよね。それがAFTAを通じてちょっと再編成するように、中国も加えてやるという感じになるのかどうかというのは、政治的なものも含めて、そんなに期待できないのではないかと思いますけれど。

去年とかことしは、ASEANと中国の間の貿易の成長率は高いですよね。もとのベースがもちろん低いですけれど、部品・中間材の貿易は急速にふえているんじゃないでしょうか。

それが本当に行くのか、それともトロピカルフルーツを中国で売って、中国からリンゴを買うぐらいで終わってしまうのか。

農産品ではなくて、中間材みたいなものか、将来的にはもしかしたら家電とかオートバイとかという話になるかもしれない。

日本の企業はみんな地域本部で、中国本部とASEAN本部は別々で、本来はもっと部品調達をお互いにやればいいのに、余りやっていない。最近は少しふえたという話は聞きますけれど、限りなく0のところからふえていますから大した金額にはなっていない。だから、本社のところでどういうアジア戦略をもっているのかというところにもかかっているんじゃないでしょうか。

ここには載っていないと思いますが、私もアメリカとEUと日本の3つの関係でこんな感じのものをつくったことがあるのですが、輸出でいうとアメリカが大きくて、輸入でいうと日本からの輸入がちょっと大きいけれど、日米は大体同じくらいで、2割・2割・2割ぐらいの貿易相手になっていて、残りはASEANの域内の分業で。ベトナムはアメリカがないけれど、ほかの国は大体そんな感じです。そうすると、中でやっている以外で本当の最終需要というのはどこかというと、やはり日米欧しかないから。

ASEANの域内はほとんどシンガポール経由ですから、シンガポールをとってしまえばさらに低いんですよね。中継貿易だけで、箱を入れかえるだけで。

一度、渡辺利夫さんを呼んで、そういうのを再計算してみるとか。ASEANは内需は余りなくて、ほとんどが日米欧に売るための生産工場のような性格が強いのだと思います。そして、今は中国とリンケージはほとんどなくてやっていて、日米欧の市場の中で競争しているわけですから。それで、なぜなるかというと、お二人ともやっていますけれど、ASEANの先行国と中国の形が似ているから、なかなか補完するということもできにくい。でも、日本とだと、例えばフラット型のテレビは日本で、汎用型はマレーシアでとかというのができるけれど、ほとんど同じレベルだったら分業できますかね。それを考えると、ASEANと中国というのは、自由貿易の議論というのは、政治的なものは別にして、20年たって本当に伸びるのかなという感じはします。

トラン

ASEANの域内貿易もそれなりに伸びた。ただし、域外の方が伸びたということがここで特徴的だと思います。このマトリックスをみてもわかりますが、ASEANへの輸出は、この8年間でどこの国も大体倍ぐらい増加している。フィリピンは何倍も増加している。しかし、日本とか韓国とかアメリカの方が倍率は高い。

でも、東アジア全部にすれば伸びているんですよね。アジアNIESとか入れれば伸びているでしょう。

それはマクロで域内貿易がずっとふえてきたというのと矛盾していませんか。全体よりも日米欧に対するものがふえていたら、当然、域内貿易というのは年を追うごとに減ってこなければいけないのだけれど。

アメリカに対する輸出の比率も多くの国で下がっているわけですね。9月からですけれど。ですから、東アジア全体ではふえていると。けれど、経済が成長しているほどはふえていないという感じでしょうね。部品・中間材のリンケージなどはすごく高まっていますよね。それは通商白書の三角形の図をみても伸びていますね。だから、ASEAN同士となると、比率としては下がっているという国も結構あるということでしょう。

東アジア全体でそういう枠組みをつくって、それが対米依存度を一定程度減らしていく多角化への試みであると考えれば、意味があるということでしょうね。

Bさんがいわれたことで、ちょっと前の通商白書などをみると、まさに日本とアジアとの貿易構造も変わってきて、「水平分業になってきたよね」みたいな話が出ていたり、あるいは、域内の貿易というのも深まって、かつ、プーリングもふえてきていると。そういう絵というのがずっと浮かんでいたのですが、それはまさに東アジアということで日本というものを入れたからそうだったということなのでしょうか。それが1点目の質問です。
2点目に、そうだとしたときに、もちろん東アジア全体としてのFTA等々があるわけですが、その中での配分ということで、社会の安定ということも含めてですが、ASEANというものについて中国などとのバランスをとるような形で、もう少し産業の高度化、経済の発展、生産拠点としてあるいはマーケットとして、ふやしていくためには、AFTAなりFTAというものの制度的な枠組みを武器としても余り意味がないと。だとすれば、それにかわる手段というのは何なのかなと思うのですが。

アジアNIESもプレーヤーとしては結構大きいですよね。数字で足してみるとわかりますけれど、韓国、台湾、香港も結構大きいんです。シンガポールは仮にASEANに入れるとすると。そこも成長率が高いので。日本の貿易というのは輸出も輸入も成長率はそれほど高くないのですが、ボリュームとしてはあるということですね。ですから、通商白書の図だと、日本がいて、アジアNIESがいて、そこにもしかしたらシンガポールも入っていたような気がしますけれど。それから、ASEAN4があって、その間の部品・中間材、あれは特に機械だけだと思いますけれど、それは確かにふえていると。

ある意味では、それは派生需要というか、最終的にテレビとかいろいろ売りたいのは、日米欧、特にアメリカですから、それがもしアメリカがポシャったりすると、部品だから、それも需要的に減ってしまうというのが今まさに起こっていることだと思います。

トラン

完成品の需要が減ると部品自体も減ってくるわけですね。

今の段階ではASEANが独自の需要をもってそれに売り込むというほどのものでは、もちろんないことはないけれど、日米欧に比べたらはるかに小さい。ただ、将来は、特にインドネシアやベトナムなどの人口の多いところがだんだん中間層がふえてきたり、中国がふえてくると、今度はアジア内の日本以外の需要というのが、日米欧に匹敵するかどうかはわからないけれど、かなり大きいものになってくればまた話は変わってくるけれど、それがいつぐらいになるかというと、割と先の20年とかそんな感じじゃないかと思いますけれど。

でも、マーケットが全然ないという言い方もどうかなと思うのですが。ASEANも3億 5,000万人ぐらいいて、平均的には中国より所得水準は高いわけですね。

ただ、世界全体の需要をみて、このマーケットを失うと落ちるというのは、やはり日米欧ですよ。

それはわかっているけれど、全くただの輸出基地以外に何も国内では消費していないというピクチャーではないということだけはいいたい(笑声)。

もちろんそうなのですけれど、それを頼っていろいろ展開していっても、アメリカがコケたらどうなるかというのは……。

でも、コケたときの話だけはしないでああなって、輸出してもうかっているのだからいいじゃないですか。

中国などは内需が大きくなるから、それを見込んで入るという投資がありますね。ただ、大きさとしてはまだ小さいので、アメリカが落ちたときにカバーできて、そちらにシフトすれば稼働率を下げないで済むとか、そんなところまでは全然いっていないわけで。もちろん中国が大きくなったときを考える必要はあるのですが、政策のビジョンのタイミングとして、AFTAはもうすぐ終わるので余り関係ない。中国-ASEANの自由貿易をやるとしたら、20年とかの先にASEANでつくったものを中国に売り込むとか、そういうパターンになるのか。

みんなの中国の見方はおもしろくて、消費の話になると「どうってことはない」といって、生産の話になると「すごい国ですね」と、そういうギャップはありますよね。もし生産はすごくて消費しないというなら、経常黒字をためて外貨準備高をためるのですかと。これもあり得ないですよね。どこかで妥協が必要なんですよね。生産規模の拡大に従って消費も拡大するとみるのか、「いや、実は生産は大したことはないんですよ」というシナリオなのか。

AFTAって何も意味がないのかと、私もそう思ったりすることも正直いってあるのですけれど(笑声)、現実に輸出志向型FDIは確かにもう関税は払っていないのですが、ASEANの国はどこも輸入代替のところは結構関税率が高いわけですね。自動車は特に極端ですけれど、タイなどはビルトアップは80%かかっているし。ですから、域内で時間がかかっても、輸入代替型の産業のところの障壁を下げるというのは、結構効果があるはずだと思うのですが。家電なども10とか20とかかかっているでしょう。だから生産基地がなかなか集約できなかったりするわけだし。その効果はそんなに小さいとは思わないのですが。ですから、3億 5,000万人が--といってもインドネシアは2億人もいるわけですけれど、本当は1つの市場というのはそんなに小さい市場ではないはずだと思うのですが。苦しい答弁ですけれど(笑声)。

Bさんはいつも、AFTAが大事で……。

大事だと思う。だって、AFTAがないことを考えてみたら……。

それはわかるけれど、AFTAの効果がかなり出た時代はそろそろ終わって、次のことを考えなければいけない。残っている4カ国とかまだ全然やっていないところはあるけれど、それはやってもらうとして、でも、根本的な問題は、彼らはFDIを呼び込んで工業化して技術レベルをもう1つ上げたいというのが本当の夢だったら、AFTAを「おまえやれ」とかそういうのは……。

そう思ったら、インテグレーションを進めるしかないんじゃないですか。そうでなければ、直接投資はもう来ないでしょう。

AFTAを今とめても、別のことをやれば来る可能性はあるんじゃないですか。

例えば?

ベトナムだったら政策条件が問題だし、マレーシアやタイだったら、自動車などは除いて、サポーティングインダストリーとか技術のアブソープションが足りないから、そちらの方に人的なものとかネットワーク的なもので新しいものをつくっていって、今までのマレーシアとは違いますよと。賃金は確かに高いけれど、それに見合ったものができましたよ、というものがあれば戻れるけれど。

それはもちろんやらなければいけないことだと思いますけれど、AFTAは今までだってやってきたわけで。この間どなたかがいっていたけれど、途上国向けの直接投資でフォーカルポイントは今3つあって、中国とメキシコと東欧ですと。メキシコと東欧がFDIをアトラクトしているというのは私は地域統合だと思うのです。

隣に大きな市場があって、それを輸出基地にしたいとかそういうのもあるんじゃないですか。

もちろんそうだけれど、それはどっちもそうですよね。ASEANだって本来そうなわけじゃないですか。

でも、それはどこのマーケットが保障されるわけですか。

最終的には日本ですよ。入らないと意味ない。

でも、ASEANに行かなくても、日本は日本で自分で構築しているから。

関税が低いですから余り意味ないですよね。ASEANに入れば日本にスッと特恵税率で入れるというなら別ですけれど。例えば、メキシコは、マキラドーラとかそういう差別する仕組みをつくっているから、そこに入るわけですよね。そういうのが日本はないので。

日本は、韓国でつくらなければ関税を上げるぞとか、そんなことは全然やっていないのだから、世界じゅうどこからでも売れるわけですから。そして、そんなことをやってもほとんど意味がないと思うから。だから、AFTAとNAFTA、EUというのはかなり位置づけは違うんじゃないですか。

ASEANの中でも、AFTAをテコとして国内の経済構造なりを変えると。日本でもそうですけれど、1つの自由貿易のメリット--経済的なメリットではなくて、それをテコにして国内を変えるというのはありますよね。ASEANなどはそういうテコとして使うというあたりはどんな感じなのでしょうか。

さっきBさんがいったのはそうじゃないですか。輸入代替型を下げればもう少し集積ができるというのは、1カ国からみるとある産業というのは……。

純粋に経済的なところというよりも、国内の経済構造を変えるためのテコ、プレッシャーですね。

まさにベトナムなどはそういうつもりでやっているし、ほかの国だって、自動車をやっていいのか悪いのかというのは、そのAFTAの議論に引っかけて議論しているわけでしょう。だから、そういう意味はありますよね。ただ、それを全面的に自由化するというのが目的ではなくて、あるときは抵抗したりしながらやるという、それは改革的な意味は当然あると思うし、それはある程度やらなければいけないけれど、それをやったから合成の誤謬なしにASEAN全体でFDIに飛び込めるかというと、そんなことは何も証明できないと思う。

AFTAのスコープの問題もあるかもしれないですね。製造業に限っては。サービスもほとんど入っていないし、農業も入っていないということもあるかもしれないですね。

トラン

確かに93~94年のときと比べて今は国際情勢もアジア地域の情勢もかなり変わっていて、93年のときに考えたことと今は随分違うから、93年のときはASEANだけ、ASEANが何か結束して政治的な目的はもう達成したから、今後は経済的な目的を強めなければ、ASEANの存在意義がない。それでAFTAなどができまして、それなりに少なくとも地域の政治安定、そしてみんな自由化などを約束して、アジアグループとしての国際的地位が高まりますと、投資の立地として望ましくなったわけです。
そして、今はどうかというと、きょうの報告の基本的なポイントの1つは、ASEANだけではなく、日本・韓国・中国なども含めた東アジア全体で考えなければならないと。ASEANだけでは、効果もあるけれど、限定的になると。今はそういうASEAN+3で、日本・韓国・中国も一緒に協力する環境も生まれている。これは93年のときと違った情勢だと思います。
その意味で、ASEANとしては93年のときに考えたことを乗り越えて、今はもう少しアジア全体を考えなければならないというのが、私の今の考え方です。

ASEANの中に直接投資をふやすということでは、以前、ASEANでASEANインベストメント・エリアということで、ASEANの中に対して投資を無差別で広げてという取り組みをやっていて、そのまま広げていくのだと思いますが、あれはAFTAに比べてさらにフワフワとした取り組みで、経済的な効果ということでいうと余り定量的には出せない感じなのでしょうか。

あれはいろいろな国からかなり抵抗が出ているというニュースが最近ありましたね。あんなことをするのはまずいんじゃないかと。

トラン

そのこと自体は最近余りいわれなくなりましたね。AIA(ASEAN Investment Area)--ASEAN全体としてPRして一緒に誘致すると。けれど、実際にはやっていないですね。

効果のないことを一生懸命時間をかけるのはむだだから、本当に何をやれば来るのかということをもう一度考え直さなければいけない(笑声)。

中国-WTOプラスのところで、Trib以外のものをいろいろ約束しているでしょう。輸出要求とか技術移転要求とか、そういう種類のパフォーマンス規制はもうやりませんと約束していますよね。投資のところもそういうのは大事だと思いますね。

別にASEANで歩調を合わせる必要はないけれど、ファシリテーションが非常に重要なのだったら、輸入だったら例えばシンガポールに合わせるとかアメリカ型に合わせるとかと制限して、数年でインプリメンテーションして。ベトナムなどがそれをいうとちょっと怪しいなというところがあるけれど、ほとんど卒業に足がかかっているぐらいの国で、地域とかは考えないで一方的にやるという、そういうことの方が、TLがどうのとやるよりも……。
そして、技術力を上げるために人材を確保するとか、教育訓練、ネットワークをつくるための育成をする。そういうのはほかの国を待つ必要はないので、国策としてやると例えばマレーシアが決めたとして、為替政策もちょっと硬直だったけれど、今からこうすると。そして、ビジョンをみせて、突然切り上げたり、資本を何とかするというのはしないとか、そういうことは各国でできるし、ベトナムの新しい投資法ができて割と評価が高かったのは去年ですね。そんなのでも別にASEANを待つ必要は全然ない。
そういうことがいっぱいあるので、それをやってまだ足りなければ考えればいいでしょうけれど。だから、みんな一たん信じると、小泉改革でも何でもみんなそうだと思うけれど、道路公団をつぶさなければ日本は再生しないとかと思い込んだら、それにすごい政治的エネルギーがかかってしまう。でも、よく考えれば別のことがあるんじゃないかとか。そういうのと同じで、AFTAにはもうそれほど効果はない。リストラするための関税下げのスケジュールを示すという意味では、各国の改革に意味はあるというのはわかるけれど。

確かに95年に大阪でAPECをやったときには、各国が強制的に自由化・円滑化を図っていくというのではなくて、自主的にどんどん下げた国が勝ちなのだということで、アジアの国、ASEANの国などは自主的にどんどん関税を下げたりしていたのですが、最近はそういうモメンタムというのはもう働きようがないのでしょうか。みずから自由化・円滑化を進めていくことによって、どんどん海外から投資を呼び込んでいくということは。

ある意味で、シンガポールでもそういう極限までやってしまった。それに続くのはマレーシアで、マレーシアはちょっとジャンプが必要ですけれど、マレーシアもシンガポールの一部のように10年ぐらいでなるぞと、そういうビジョンだって可能だと思うのです。そして、マレーシアとシンガポールはどちらに行っても同じですよと。そういうことはあり得るから、ルック・イーストではなくて、ルック・サウスというか、マレーシアに近づくというのは当然あってもいいと思う。私はただ思いつきでいっているんですけれど、そういうことは地域でやらなくても、WTOを待たなくても、投資を呼び込む目的だったらいろいろあるわけです。
ついでにいってしまうと、私はアジアの講義をするので、アジア危機の前にいろいろな本を読んだときに、野村総研だったか、JETRO的な情報がいろいろある本を読んで、どの国も、日本から韓国も全部サンドイッチ効果というか、前の国には開けられているし、後ろから来る国に全部追い上げられていて苦しいというのがずっと前からあったんです。そして、今、中国が上がってきて、中国に追い上げていると思ったら、一緒に並ばれたという感じだけれど、結局、課題としては、その本に書いてあったのも、付加価値を高めて新しいものにシフトしていくと、それしかないような気がするんです。ベーシックで当たり前のことですけれど、それを機動的にやれる国とやれない国がある。
そういうことを考えると、ASEAN自体が一緒にやらないとひっくり返るとかそういうことは全然なくて、勝手に日米欧とやっているのだから。域内分業はあるけれど、それよりも日米欧から来てくれるかという方が大事だったら、中国が上がってきたから日本が落ちたとか、特に戦略を変えるより、同じだと思うのです。付加価値を上げて、次の段階に行ってと。

各国でやることはもちろんやらなければいけないんです。

8~9割方それをやれば、AFTAがどうなろうが……。

ただ、やっているのだけれど、うまくいかないわけでしょう。

Dさんの話は、数年前のポール・クルーグマンが書いた論文もほぼ同じような発想で、要するに、競争力というのはそんなに大事なのかと。競争力というのは、いいかえれば実は生産性の上昇なんですよと。むしろ自分の国内の生産性の上昇があるかないかが大事で、隣の国がどのくらい伸びているのかはほとんど関係ないと。大きな国ほどそうですねと。その意味では、日本にとって、周りの国がどうしたって大して変わらなくて、むしろ国内改革をきちんとやって生産性が上がればそれでいいんですよ。

でも、その議論にはトリックがあって、直接投資とか資源の移動がその議論には落ちてしまっているわけですね。ですから、物の貿易だけをしている世界だったらそうなのだけれど、直接投資とか資源が国際間で動くという話になると、本当にいいところがあれば全部そこに集中しますから。理論的にはそういう可能性もあるわけですね。クルーグマンの議論というのは典型的な普通の物貿易の世界の比較優位の議論だから、片一方の国が生産性が上がっても、もう片一方の国もトリクルダウンでもうかるし、問題ないと。

せめて広域条件の変化ぐらいの影響しか出ないでしょう。

という議論なのだけれど、でも、本当にやったときに、どの産業もこっちの国がよければ資源は動きますから。そうしたら、その議論は崩壊してしまう。ASEANの場合はそれで外資系企業の存在というのはすごく大きいから、ゴソッといなくなったらそこは絶対的に所得が下がるわけですね。

生産性を上げるのが本当だという、その生産性を上げるやり方というのは、ASEANというのは主にFDIを呼び込むということなのだから、FDIも何もなしに鎖国して教育を高めるとかそういうことをやってもほとんど意味がないですから、周りからのFDIを呼び込めるようなシステムとか技術とか教育をやっていくという形にならざるを得ないときに、その最初のFDIをどうやって呼び込むかという議論になると、私がいったようにいろいろな手はあるので、AFTAにこだわる必要はないし、AFTAの役割はもうこんなものでいいんじゃないのと私は思うのですけれど。

いろいろなことをやらなければいけないのはそのとおりだけれど、AFTAをやるのも大事なんじゃないかと(笑声)。

今、ベトナムでAFTAを外したら、改革する気がなくなるところも確かにあるんですけれど。

トラン

私の報告の2番目の動態的効果ですが、これは直接投資の増加効果ということが理論的に期待できるわけですね。理論的にこのように考えられるから、もしそれを否定するならば、もっと違う理論も出すべきだと思いますが。私は、AFTAができて直接投資がふえたと思う。証明はしにくいですけれど。

私はそれは余りよくわらかない。それから、理論的には余り厳密な議論ではないけれど、FDIの議論で、プルとプッシュで考えると、全体でどれだけ来るかというのはプッシュがすごく大きいわけで、つまり、日米欧の投資を出す側の都合がありますよね。それをどのように……。

そうなのだけれど、生産拠点を分散立地させるためには、生産拠点同士を結んでいるいろいろなコストがありますけれど、それが下がるということが一番重要で、インフラであり、政策リスクが下がるとか、関税などももちろん下がるし。

それがプルのファクターですね。各国の生産拠点をつなげるリンケージでその中の1つがファシリテーションであり、関税であり、税関の制度とかいろいろなものがあるわけですよね。でも、そのほかにインフラとか電力とかいろいろなものがあるので、まず電力が高過ぎるのだったら--電力の価格づけというのはどうやれば一番エフィシエントかという議論はありますけれど、ベトナムなどは電話代などを下げて、パブリック・ユーティリティのプライシングについてもFDI向けのものはできるんじゃないですか。最初の投資コストを全部回収するまで値段を上げるとかいっていたらFDIは来ないとか、電力の投資回収ができないコストとFDIが逃げるコストと考えるという、そういう発想だってできるし。私は思いつきでいっているけれど、いろいろあるので、なぜAFTAでやらなければいけないのかなというのがわからないんです。

それは別にAFTAが全部中心になって動いているわけでもないでしょう。彼らにとってはおつき合いでやっているようなところもあるわけです。やらないよりはやった方がいいんじゃないですか。

ただ、そのコストとベネフィットとか、官僚や政府の時間制約の中で一番何にお金と時間と人を使えばいいかと考えたときに、AFTAがいいのかなというのは私はいつも思うのですが。

短期的にはそうかもしれませんけれど、上海とかに欧米の企業が立地している例えば自動車では、フォルクスワーゲンなどは30年先の市場をねらって投資しているとかといっているわけですね。それで、ほとんど使われてもいないような敷地を買い占めて、一部だけ生産ラインにしたりとかしている。そういうことを考えると、ASEANの国にしてみると、当面、10年はほとんど意味はないかもしれないけれど、30年先をみて投資してくれる人がいるように、ASEAN統合とかということを言い続ける意義というのはあるのではないかなと思うのですが。

それを前提として統合すると30年後に来るという、そこの証明はされていますかというのは……。

現実には上海などは、中国は1つなので、30年後をねらって大敷地を買い切ったりして最新鋭の機器を入れて、フォルクスワーゲンなどは来ているわけですね。ただ、中国のような迫力があるかというのはありますけれど。

それもよくわからないな。オープンリージョナルみたいなものをやるなら、ASEANを売るのにASEANにいないといけないということは私はわからない。

ただ、ASEAN諸国自身が内需が一体になるということを意識していっているかどうかというのは……。

オープンリージョナリズムでは自由化が進まないというのは、歴史が証明しているのではないか。

でも、自由化しなくても発展の道はあるんじゃないかなと。

今やないでしょう。貿易とかそういうものに関しては。

それをリージョナリズムでやる必要があるかと。オープンはいいけれど。

リージョナリズムでやらなかったら、スピードが遅過ぎるんじゃないの。

外圧として使うのは、日本だってASEANだってやればいいんです。ただ、それだけが戦略となると……。ユニラテラルにできることはいっぱいあるので。

Dさんがいわれているのは、経済性のことと政治的な効果みたいな話と、おっしゃったように、AFTAなりFTA--ASEAN+3でもいいのですが、それだけですべてなわけでは当然ないと思うのです。ですから、それだけに焦点を当てる必要はないとは思うのですが、けれど、今の状況でそういうアナウンスメント効果みたいなものがあるものをやって、「さあ、やってごらん」といっても、そういう求心力みたいなものとして、そういう枠を与えることによってそこに引っ張っていくという、それはやはりあるのではないかと思うのですが。

AFTAはあったと思いますね。危機ぐらいまでは何かやる気になって、危機後もやる気はあった。けれど、危機後はかなりやりたいというところとやりたくないところがかなり分かれていった。

あくまで過去形ですね(笑声)。

だから、効果がないといっているのではないんですけれど、今から先をみたときの戦略として、「AFTAを頑張ってやります」と、それでは迫力はないんじゃないかなと。

その新しいフレームが中国とASEANとかということなんですよね。AFTAというのはもう何となくアウト・オブ・デートになったから、新しく競わせる仕組みをつくらせようとしているということではないでしょうか。

でも、同じように中-ASEANだと経済的には大きな効果は望めそうもない。とすると、はやり日本が入らないと意味がないと、Cさんがうなずいておられるとおりなのだけれど、じゃあ、日本は入れるのでしょうかというのを考えていくと、これはもちろん通産省の中でも強い勢力はそれを目指しているわけですけれど、今のようなセーフガードの議論などを聞いていると、やや無力感にさいなまれてしまうのですが。

でも、テン・イヤーズですから。農業はそのうちとかいいながら……。

そう。そうあせって考えないで。

でも、日本は今は「貧すれば鈍する」ですからね。

ますます貧すると。

だから、早くやらないとだれも相手にしてくれなくなる。

日本が入ることに意義があるといわれているのは、もうあと5年ぐらいしかないということかもしれないと。

トラン

工業品について日本の輸入関税はどうですか。

もう低いですよ。

トラン

自由貿易経済に入らなくても今はもう……。

そういう意味では、工業品に関していうとほとんど関係ないですね。

工業品は、どこに入らなければ日本に売れないということはないですから。そして、私はそれでいいと思うのです。アメリカだってそうすればいいと思うのだけれど、ああなってしまったので、日本もまねするのが国益だとかいう人もいるので。

Dさんのお考えですと、日本はもう世界じゅうでFTAを結んでいる状態に近いと。

そうですね、ある意味で。残っているのもありますけれど、そういう言い方もできるかなと。日本のような行き方というのは、だれが仲間で、だれにあげたら貿易が転換するとか、そういうことをしない世界というのが昔はあったと思うのですけれど。結局、この研究会というのは、日本とアジア、日本と世界という2本柱があることにして、日本とアジアの方が具体的に何をすればいいのかというので、結局、AFTAがだめで、中国とASEANというアイデアもどうかなというのだったら、より具体的にそれに匹敵するようなあっと驚くようなものが出ればいいんですけれど、結局まだ出ないのですが。
でも、根本的にはそういうものは、だれが考えてもそれは正論で常識だというものをうまくプレゼンテーションしたものにならざるを得ない。とっぴなものを考えたくないので。そうすると、やはり日本が農業も含めて開放していく。そして、原則として伸びていくところに投資が行くというのは当然なのだけれど、それで競争する。そして、真ん中に挟まれている国というのはできるだけみんなお互いに競い合ってレベルアップしていく。根本的にはそれしかないと思います。
どこか枠を決めてクローズしてしまったらだめだと思います。それを具体的にもう少しいわないといけない。今いったことはみんなが思っているのだけれど、ちょっと一般的過ぎて力がないし、雁行形態とか何とかというものにたたき直して、同じことだけれど言い方が違うとか、そういう表現の問題もあると思うので。私は、それは中国-ASEANの自由貿易ではないと思うし、日本-シンガポールのものもどうも……。そういうものをレベルでいうと第2段階のところで--今、草稿を書いている共通部門と原理的な議論と個別の政策部門でいうと、その原理的な部門で打ち出せるといいなと思っています。
ですから、AFTAが嫌いなわけではないのですが、21世紀のダイナミズムといったときに、やはりちょっと違うなというのが私の直観です。証明も何もできませんけれど。

それでは、ヴァン・トゥ先生、きょうはどうもありがとうございました。

--了--