第2回アジアダイナミズム研究会 議事録

  • 平成13年9月10日 15:00~17:00

今回の発表は、雁行型発展はまだ続いており、中国はいまだ日本の強い競争相手ではなく、むしろ補完関係にあるというもの。通商白書に書かれていることとはギャップがある。ここ1-2年で中国に対する見方は180度変わった。過小評価から過大評価へ。中国の実力を正当に評価すべきであるというのが私の問題意識。

(以下、レジュメに従って関先生から発表。発表部分は略)。

4月まで中国にいたので、そのときの経験をまじえて議論の補足と質問をしたい。中国にいて感じたのは日本が中国を見る見方がいかに一面的であるかということ。日本を含めた外国のビジネスマンがなぜ中国市場にだまされるのか。一つはGDPの成長率。絶対値で見ればまだまだ大きくない。また需要が政府によってつくられており、共産党の旗振り次第で変動が激しいこと。経済の光と陰の部分を見なくてはいけない。国営企業が営んでいる旧来の産業はダメだが、それらが手がけていない、既得権益のないITのような産業が伸びている。雁行型の発展か、打ち上げ花火型かは、セクターにより異なる。技術水準などに一定のスキルが必要なセクターには当てはまるが、情報・知識が重視され、ひらめきを持った人が成功をつかむようなセクターでは当てはまらない。そういうセクターでどうやってWin-Winをつくってゆくかが課題だろう。

この研究では国を単位としており、さらに対象は製造業。これを前提に雁行型発展が当てはまるということ。中国は地域格差が激しい。最も進んだ上海など沿海都市部から内陸部まで山がいくつもあるということになるのだろうが、中国の産業は、コンピューターをつくっているといっても部品は違うところでつくって組立だけを行うというような、結局は労働集約的な産業。ASEANでは水平分業というが、域内の産業のばらつきが大きいときは雁行型発展になる。これまでは結局垂直分業だった。みな高所得になったとき、ヨーロッパ型の水平分業になるということなのだろう。

日本の中の中国脅威論というのは、競合度が5年ごとに倍々になっており追い上げのスピードが速い(レジュメ8ページの上表)ということに対する恐怖感と、日本の産業の山が付加価値の高い方へ移っていっていない、より高度なものがつくられていない(レジュメ7ページのグラフ)ということ。

全く同感。それはこの研究を始めようと思った原点。最近消極論が目立つ。今後も付加価値が高い方へは移れないということを前提に議論しようというもの。そうすると後ろを抑えるしかなくなる。これは大変残念な傾向。

このグラフを見ると95年の方が前に出ていて、2000年は後ろに下がっているように見える。

ITの分類が変わったことが大きな影響を与えていると思われる。

95-2000年の間に米国における半導体の日本勢のシェアは大きく落ちている。その分を韓国・台湾が取ったということだが、感覚的にはあう。

(8ページの下表の日本を縦に見ると)90年の時点での日本との競合度はほとんど一桁台だが、2000年になると各国とも上がってきているのがよくわかる。この間、日本の後ろにはNIESがいて、ASEANがいて、中国がいるという感じから、すぐ後ろに中国がいるという感じに変わった。

中国の山が右にシフトしながら大きくなってきているところだが、今の時点では日本が中国の山に包み込まれてしまうようなことはないと思う。

また、(同表を中国について横で見ると)やはり中国とASEANとの競合度が高い。

その通り。

山に表れてこない部分、輸出していない産業というのはどう理解すればいいか。

がんばっても無理なのでそもそもあきらめるべき産業ということ。

(レジュメ9ページのグラフで)韓国・台湾は、裾野が狭い一方で、中国は裾野が広い。

中国は大国であり、一応フルセットで産業を持っていることを表す。小国は産業の裾野が狭くなりがちといえると思う。

ストーリーはOKだが、統計的な妥当性についてはやや疑問あり。グラフの性格上、所得が高い国ほど山が右へ行くし、低い国ほどは左に行く傾向が出てくる。分布の形自体には意味があると思うが。
また、米国輸入統計をベースにしている以上、日本国内の輸出しない産業についての議論はいっさい出てこない。このグラフからは、ネギやシイタケの生産者の話は出てこないということ。それと、日本企業がマレイシアで製造しているようなケースというのは発展というのか競合というのか。統計の取り方からいって、正規分布のようにはならず、中心が右にずれる傾向になる。また、日本のような先進国が右に行くには所得を上げるしかないことになるはず。キャッチアップする側に有利に見えるグラフになっていると思う。

むしろ中国に有利に数字をとってもこんなものだということを読みとりたい。多めの見積もりだということは認識。

それから、所得水準という限界がある以上、先ほど出ていた山が右にいって、また戻ったとかいう議論はそもそも意味がない。

他が変わらなければ所得が多ければ有利。

(レジュメ10ページ下の表で)なぜ45度が回帰線にならないのかが疑問。

私も最初にそう思った。最先進国は輸出構造を変えても、所得が変わらなければ山が右に動くことはないというのもその通り。統計の取り方にやや問題があるかもしれない。

テレビといった場合、高級品も低級品も一緒にして中間レベルで代表してしまっていることからそういうことが起こる。

中国をどう見るかということについては関先生と意見を同じくする。しかしこの分析にはアメリカの輸入統計を取ることに依るバイアスの影響が大きいかもしれない。先進国へ集中的に労働集約的な商品を売り込むということはある。例えば日本は50年代にアメリカにワイシャツを集中的に輸出していたが、他国への輸出は違っていた。また、テクノロジーのレベルと所得水準がリンクするのかという疑問。ハイテクについては連動しないのではないかという恐怖感が、中国脅威論の原点ではないか。
もう一点。先生のモデルにおいて、中身をばらしていくと雁行発展論をどう理論づけているかということがあると思うが、①技術水準に違いがあるとするリカードモデル型か、あるいは②要素賦存に依るとするヘクシャーオリーン型と考えているのか。

そこまでの定義付けはしていない。

そのあたりはこの議論にいれておいた方がよいと思う。

人民元の切り上げ論について。人民元切り上げで中国の需要曲線がどの程度悪化するか。中国と競合関係が強いASEANにとってはプラスだが、それが日本にとってはどうか。ASEANに多数進出している日本にとってASEANがよくなれば日本もよくなるといえないか。3年前に人民元切り下げかといわれていたときに、切り下げをしないことで中国が喝采を浴びたのは、切り下げが世界の所得を下げるのではないかと心配されたから。また今後の中国の経済成長とWTOの加盟により経常収支は悪化するおそれもある。

当時の人民元切り下げは金融市場にインパクトをもたらすと考えられていた。現在の切り上げ論はASEANが主張するというならよくわかる。ASEANは中国と競争関係にあるのだから。中国と補完関係にある日本が切り上げを要望するというのはそもそもおかしい。

日本は資本があり中国は労働力が豊富にある。技術は直接投資などを通じてどこにでも持っていける。誘致したところがトップにたてる。飛び地的な展開も可能であり、そもそも国単位で競争力を見るのが適当か。

工程間分業が産業レベルで進んでいるから、どのシナリオでも少しづつ違うと言うことなのかもしれないが、関先生のモデルはテクノロジカルラダーの考えに近いと思うが。

要素賦存などはあまり考慮せず、産業の高度化が進めば1人当たりGDPは上がってゆくだろうという仮定に基づいた単純なモデル。

中国の輸出品の構成(レジュメ9ページ)を左から右に見ると途中でいったん谷があってまた山がある。中国では所得が高いものを直投でつくっていることではないか。

中国はそういう直投を受けやすい土壌があるということだろう。

中国の商品構成は横に幅広い。右に移行する過程で左の方はつぶれてゆくはずなのだが、そうはなっていないところが恐ろしいところ。

30~50年かけて中国のGDPは額で日本を超えることになるだろうが、リー・クワン・ユーがいうように10年後に日本の10倍のGDPになるというのはどう考えても無理。

日本としては中国社会が暴走することのリスクを意識する必要がある。

そういう人が少し前まで多かったのに、この1年で大きく変わった。

中国を見るのは大きな象を見ているようなもので、だれもがある部分だけをみていろいろな意見を言っているのだと思う。

関先生のおっしゃる競合の意味とは?

製品ごとの競合。ただ同じ種類の製品でもすみ分けがあり得る。今後の計画としては、①さらに品目を細かくする(同じテレビでも高級品から普及品までで分ける)、②製品の内部の部品で分けてみる。このモデルでいいたいことはあくまで日中関係の競合はマックスでもこんなものだという議論。それだけでも充分インプリケーションはある(レジュメ12,13ページ)。世の中でいわれている議論とのギャップを知るにはよいということ。

所得水準と輸出構造の変化に相関関係はあると言えるか(レジュメ10ページ下のグラフ)。

サウジアラビアやブルネイなどは違うだろう。

原油などは対象外として見る必要。それでも、フィリピンは少し違うということは言えそう。

フィリピンは輸出額の6-7割が輸入額になっている。完成品の価格ほど付加価値が高くないからこうなるのだろう。

ベトナムもそうであり、それが後進国では普通のパターン。直接投資の影響をもっと重視すべきではないか。

国内の例えば九州にあった工場が他国へ広がることは、国の経済力とは別の話。

人民元について望ましいレート水準などについて意見を頂きたい。

景気政策として為替レートをいじることはよくないというのが私の立場。自動安定装置としての役割しかない。人為的な操作はブレを大きくさせるだけ。従来から私は通貨バスケット論者だが、中国にもそれは当てはまる。今は実質的にドルリンクだが、円とのリンク度合いを増やした方が望ましい。

日本にとっては元レートは安定するしかない。切り上げれば対中輸出が鈍化する。切り上げに賛成するインセンティブはない。

アメリカは日本に対して国内産業保護のため、為替レートの調整とか、アンチダンピングとかみたいなことをやってきた。それを日本がやるのはよくないこと。リアルセクターの構造改革で対処すべき問題であって、為替レートの話ではない。アメリカが低迷から復活したのは為替レートが変化したからではなく、IT産業が勃興したことと、資産価格が上昇したことが要因。保護を受けたアメリカの鉄鋼業はいまだに低迷している。

そういう保護で復活するわけがない。もっと自由貿易を主張することが大切。

2.今後の進め方について

(メモの紹介)

通商政策、ODA政策についての発表を重ねてゆくということ。アジアダイナミズムを軸にビジョンをまとめる。序章に当たる部分をつくる。寄せ集めではなく、首尾一貫してまとまったもの。ODAについては前回議論したようにアジア向けと、世銀などと協調してやってゆく貧困対策・環境などにまず分けよということ。中国・ASEANとのつきあい方はアジアダイナミズムの重要な観点。

ODAの議論はおいておいて、アジアの変化を見据えた上でストーリーをつくる。その上で今のODAを議論するということでよいのでは。METIの扱ってきたODAや新宮沢構想は、貧困・環境対策とは一線を画したもの。国内構造改革に伴う痛みもあるが、アジアダイナミズムを止め、逆流することのないようにするODAの使い方を考える。