第1回アジアダイナミズム研究会 議事録

  • 平成13年7月26日 16:00~18:00

大野

レジュメ(別紙)に基づき問題提起。

木村

大野教授同様、レジュメ(別紙)に基づき問題提起。

アジア地域は今後もより相互依存が深まる。これを3つの軸で見ていく必要あり。①雁行型発展は崩れているか。私はまだ崩れていないと考える。蛙跳び型(LeapFrog)になったとよくいわれているが、計量的に見るとそうでもない。依然として中国の産業構造は低付加価値のものが主。②アジア地域内の補完と競合関係。発展段階の差が競合・補完関係を作り出している。③日本の構造改革とアジア(中国)の追い上げ。日本は産業を高度化してゆかなければ、やがては中国に飲み込まれるかもしれない。

産業の高度化とはものづくりからソフト化への転換と考えて良いか。

その通り。日本はものづくりにこだわりすぎ。また、国内の空洞化というが、GDPでなくGNPで見るという発想も必要。ある意味で中国が製造業を全部とってもいい。組み立て工程だけとっても結局は低付加価値。今の中国の見方は一面的に過ぎ、ミスリーディングである。

大野

木村先生のいう、OOF・ODA・通商政策を分ける必要がないとの意見には全く賛成。ただ経済統合を目標とした経済支援という考えには違和感あり。経済統合と経済発展はそもそも視点が違う。経済統合により各国の貿易自由化が進んだとしても、域内のダイナミズムが失われたら経済発展はあり得ない。CLMVなど依然として経済インフラ支援が必要な国もある。

木村

当然経済発展が前提で統合が進むことを念頭に置いている。ダイナミズムのない統合はあり得ない。それから、OOF・ODA・通商政策を分ける必要がないとの意見を補足すると、もちろんODAでも構わないが、枠組み上ODAと言わない方ができることは多い。WTOルールは守る必要あるが、経済統合の支援だといえばシンガポールにも出せる。

大野先生の言う対外経済政策を貫く統一原理の具体的イメージを提示していただきたい。

大野

世銀内部では現状産業政策支援の議論はほとんどない。貧困削減と言うが、産業発展がなくGDPが下がっていくとしたら、結局は貧困削減も達成できない。日本は非欧米国で先進国にキャッチアップできたほとんど唯一の国。産業支援には優位性を持っているのだからその重要性を主張していくべきである。

大野先生の言う産業支援の範囲とは何か

大野

むしろミクロでいろいろやっていること(石川プロジェクトなど)を統括するようなマクロビジョンが必要と言うこと。今やっている産業支援の正当化という意味合いもある。

対中ODAについて言うと、ハードはもういらない、ソフト化していこうという議論がある。例えばWTO加盟支援というのがあるがODAと呼ぶには違和感がある。ODAでなく行うスキームが必要だと感じる。

木村

ODAという名前から解き放てば自由になれる。例えばFTA支援といってしまえば何でもできる。

大野

アジア地域はFTAなどなくてもダイナミズムを保って発展し続けてきた。産業支援は枠の話ではないはず。実態が先行しているならそれはそれでいい。

ODAは政府の介入。ポイントは3点。①人道(貧困削減など)、②外部効果(環境)、③国際・地域公共財。今後重視すべきは③。アジア通貨危機時の宮沢プランが好例。

木村

公共財の提供という観点からもODAという枠から出る必要。例えばEUでは、「域内経済統合推進」の名の下にODAではできないことをやっている(例:Periphery政策)。日本も東アジア統合のためのプログラムを作ったらどうか。

公共財の提供という点では、アメリカンスタンダード全盛の中、日本からの支援で途上国の制度整備をすることに効果があるのか、日本固有に貢献できることがあるのか疑問がある。具体的にある産業を選んで支援するといった場合、その正当性の根拠を説明するのは難しい。

大野

国内も状況は同じ。日本がここまで発展してきたのも、国が選んで支援したものばかりが発展してきたわけではない。途上国支援の際はいくつかの比較優位がありそうな産業を選びその可能性を探る手伝いをするということが大事。往々にして途上国の役人は国内的にどういうことができるかについてはよく知っているが、それを外部経済環境と結びつけて考えることができない。その結果として発展できないケースが多い。こういう部分の知的支援が重要。ただし、途上国の産業支援と日本の国内産業との関係においてはブーメラン効果の問題もある。それをアジアダイナミズムという大きな枠で整理したい。

木村

日本の国内産業との関係については助けはしないがじゃまもしないというスタンスでよいのではないか。

EU統合は各国とも小さくないコストを払ってきた。北米市場依存体質を薄めるという意味ではアセアン統合は重要だが、アジア地域は所得格差が依然として大きい。経済統合することが本当によいのか。統合は今の比較優位でしかものを見ないため、ダイナミックな視点には欠ける。域内の資源再分配においてある国が独り占めする可能性もある(アセアンならタイ)。
中国へのODA供与について。中国は安い労働力、割安な人民元レート、知的所有権のフリーライドなどを要因に潜在的に競争力を有する。今後も日中に摩擦が起きるのは間違いないがこれはアジアダイナミズムに不可避のコストだろう。統一原理は必要だが一方で痛みを緩和する措置も必要。大きく言えば豊かな中国は日本の国益であるという国民的な合意形成も必要。
日本は次の発展の波に乗れるか。アメリカはモノづくりは敗北しながら経済のサービス化に成功し90年代にあれだけ繁栄した。アメリカの開放性が成功の要因としてあるが、閉鎖的な日本に同じことができるか。次の比較優位ある産業を育成できるだろうか。
ODAについて。マルチは公平だが、バイは各国が国益に沿って勝手にやっている世界であり、きれいごとだけではない。世銀的立場から見ると政策構想フォーラムの発表したレポートは良くできていると評価している。日本の巨額のODAは世銀から見ると脅威(ADB+WB≦JBIC円借款くらいの規模がある)。その上JBIC・JICAとも説明をしようという姿勢にかける。産業支援が必要というなら国際的に説明・理解させる努力が重要。

日本が行っているODAについて国際的に説明できるようにしてゆくべき。世銀と同じ戦略でいくのか、補完的な方向を指向するのかは議論の余地がある。また、経済統合はゆるやかに行うべき。関税を徐々に下げていくというような方式であるべき。

大野

レベルの違う国々の経済統合は難しい。関税による保護は絶対に必要だが、その関税も「経済統合を推進するため」とするとNegativeにしかとらえられないが、「ダイナミズムにのるため」とすればPositiveにとらえ得る。

木村

途上国を含めた経済統合であれば産業振興のために関税保護の期間を10-15年設けて良いと考える。

ヴィエトナムにとってアセアンの一員になったメリットは?

木村

制度構築が素早くなった。アセアンに加盟しなければこれはなかった。

CLMはアジアのダイナミズム、雁行発展に続いていけるのか?

大野

いずれも政治体制に問題があり、わからない。

ミャンマーは人口も多く可能性はある。ラオス・カンボジアはいずれも小国。特にラオスは人口400万の国であり、産業がワンセットなくても一つの産業(水力発電)だけで充分。

南アフリカ関税同盟の結成時に南ア大使館にいたがそのときの印象。5年間で関税ゼロ、人の移動も自由というものだが、Poorな国同士が集まっても仕方ないとはいいながら、何かしないとグローバル経済から取り残されるというモメンタムが強く働いていて興味深かった。

大野

経済統合が目的ではなく、グローバルな分業体制に自国をどうはめ込んでいくかを考えるのが先。石川プロジェクトもそういう発想。

経済統合ありきの経済協力という考え方にはメリットデメリット両面があると思われる。メリットは経済統合という明確な目的のもとに経済協力を行えるということ、基本的にバイをベースに考えられてきた経済成長の考え方を経済圏をベースに拡げることにより効果が大きくなる可能性があること。デメリットとしては域内でついていけなくなる国をどうするか、域外から起こる反発をどう処理するか。前者は域内での交渉により解決すべき問題である一方、後者は長期的には世界全体の経済統合を目指していること、経済協力も世界全体を見ているということをアピールすることで解決するべき。そういう意味では木村先生の言う非東アジア世界への協力ももっと真剣に考える必要がある。

大野

経済統合は、国内的には構造調整が必要。しかしその議論は国内の事情のみで完結できない。それは日本もヴィエトナムも同じ。ブレーキをかけてアジアダイナミズムからの離脱するのはだめ。

木村

産業調整を遅らせるという発想は間違い。これまで日本は延々遅らせてきた。

大野

このままでは持たないが、一方今後どうすべきかということを示すための理論武装がアジアダイナミズムということ。

農業の保護は貿易の問題としてとらえるのではなく、ソーシャルセーフティーネットとして主張するべき。

木村

現実に補助金が出ていると、もらえない側の人からの反発が激しく、政治的には受け入れがたい主張ではないか。