世界の視点から

ビットコイン決済システムの経済学

Gur HUBERMAN コロンビアビジネススクール教授

Jacob LESHNO コロンビア大学助教

Ciamac C. MOALLEMI コロンビア大学准教授

仮想通貨(暗号通貨)が産業界や学界、そして広く一般の注目を集めている。本稿は先行事例としてビットコイン(Bitcoin)に注目し、ユーザーによる取引手数料設定を特徴とする仮想通貨システムの経済学的モデルを分析する。ビットコインシステムが収益を増加させ、その基盤資金を得るためには、かなりの「混雑」が必要で、そうでなければ、長期的には崩壊の危機に直面するだろう。また、現在のシステム設計(具体的には、大規模かつ低頻度の取引ブロックの処理)は、収益を高める上であまり効率的とはいえない。

仮想通貨は、オープンかつ分散化された電子決済システムに保管されるデジタル通貨である。Nakamoto(2008)以降、仮想通貨は産業界や学界、そして広く一般から注目を集めており、その中で最も有名なのがビットコインである。数百種類も存在する仮想通貨の多くは、大規模で信頼性の高い、分散化されたコンピュータネットワークで運営されている。こうした仮想通貨の高まりを可能にしているのが、「ブロックチェーン」と呼ばれる、コンピュータサイエンスによる革新的な設計である。ブロックチェーンは、全体としては信頼しうる分散化された電子決済システムの創出を可能にしているが、システム内の個々のサーバーが信頼されているわけではない。この新たなブロックチェーンの設計は、暗号技術とゲーム理論に基づくインセンティブの組み合わせによるものである。これらのインセンティブは経済学者、とりわけ市場の設計に注目する経済学者の関心を集めるだろう。

ブロックチェーンの設計によって、ビットコインなどの仮想通貨は、従来の電子決済システム(PayPalやVenmo、FedWire、Swift、Visaなど)と同様の機能を果たす。従来型の電子決済システムは、各組織が所有し、運営している。各組織はシステムのルールを決定し、状況の変化に応じてルールを変更する。運営組織はシステムの信頼性を確保するとともに、必要なシステムの基盤を維持する責任を負う。また運営組織は、参加者がシステムの利用料をどのような方法で、いくら支払うかを決定する。こうした電子決済システムは、規模の経済とネットワーク効果を享受しているという点で、自然独占である。したがって、その独占的な地位に伴う厚生損失を緩和するため、これらの組織は規制を受ける(あるいは政府機関が完全に所有する)ことが多い。

ビットコインにおけるブロックチェーンの設計が革新的なのは、運営組織がなくても電子決済システムを運営できるという点である。むしろ、プロトコルがシステムのルールを設定し、すべての構成要素がこのルールに従う。主導的に基盤を維持する組織は存在しない。そのかわり、ビットコインの基盤は、「採掘者(マイナー)」と呼ばれる複数のコンピュータサーバーで構成されている。採掘者は、利益獲得チャンスを認識し、システムに自由に出入りする。十分なメモリと処理能力を持ち、インターネットに接続されたコンピュータであれば、採掘者の役割を果たすことができる。参加する採掘者は、計算作業を行う必要があり、システムへの貢献に応じて報酬を受ける。採掘者は、自らの利益になるため、プロトコルのルールに従う。他の採掘者もプロトコルに従うと考えるのであれば、自らもそうすることによって、期待利益は最大化する。したがって、プロトコルの変更は困難である。全員の同意を得なければ、変更できないからである。

両面的なプラットフォーム

他の決済システムとは異なり、ビットコインは、事前に指定されたルールを持つ両面的なプラットフォームである。ビットコインを構成する2つの主要な要素は、残高を持ち電子取引を行うユーザーと、システムの基盤を維持する採掘者である。

システムを簡単に説明すれば以下の通りである。コインの所有者は、決済したい取引の内容を示すメッセージを発信する。各取引は、暗号的に検証されたメッセージである。採掘者は、新たに受領した取引の正当性を入念に調査し(採掘者は、構文規則への適合や、所有権、二重支払いの有無などを確認する)、新たに受領した取引のブロックにまとめる。各採掘者は、過去すべての取引に関する台帳(ブロックチェーン)を保管する。この台帳では、複数の取引がブロックにまとめられる。ビットコインのシステムは平均10分ごとに採掘者1名を無作為に選び出し、その採掘者がまとめた取引のブロックが台帳につながれ、このブロックに含まれるすべての取引が処理される。この選出プロセスに参加するために、採掘者はプルーフ・オブ・ワーク(作業証明)と呼ばれる計算作業を行わなければならない。選ばれる確率は、採掘者による計算作業の量に比例する。選ばれた採掘者がブロックを台帳につなぐと、この採掘者は「ブロックを採掘した」ことになる。無数の小規模な採掘者たちが織りなす均衡状態によって、すべての採掘者の合意が実現し、正当な取引だけが処理されることになる。ビットコインのプロトコルでは、ブロックサイズが1 MBに制限されており、そのため1つのブロックに含まれる取引の数も制限される。その結果、システムのスループット(一定時間あたり処理できる取引数)は制約されるが、採掘者の数には影響されない。

適切なインセンティブを提供するため、システムは、選出された採掘者がブロックを採掘した場合、作業に対して報酬を与える。この報酬は、新たに発行されるコインと、ブロック内で処理された取引の取引手数料で構成される。プロトコルでは、各ブロックへの報酬として新たに発行されるコインの枚数が決められている。この枚数は、約4年ごとに半減する。これとは対照的に、取引手数料についてプロトコルは何も定めていない。ユーザーは、自らが支払う取引手数料を選択する。

したがって、参加者の誰にも手数料や行動基準を設定したり修正する権限はなく、つまりシステムを統制する権限は与えられていないという点で、ブロックチェーンの設計は経済学的なイノベーションといえる。ユーザーと採掘者は価格受容者(price taker)である。ユーザーは独占的な価格形成から保護されている。システムが独占に陥った場合でも、独占的な手数料を請求する独占者は存在しない。一方、システムが適切に機能する上で不可欠な基盤の資金とするため、ユーザーから十分な収益を得なければならない。

我々は最近の論文において、上記の説明を経済学的なモデルへと転換させた。このモデルにより、採掘者の報酬が取引手数料のみの場合、システムは長期的にどのような性質を持つのかを分析できる(Huberman et al. 2017)。この分析の目的は、全く無関係に見える2つの疑問に答えることである。

  • 長期的に、誰がどのような理由で、採掘者に対して支払いを行うか?
  • システムが広く普及した場合、限られたスループットをどのように管理するか? つまり、サービスの優先順位をどのように割り当てるのか?

運営組織が存在しないビットコインにとって、これら2つの疑問は重要である。両方の疑問に対するこのモデルの答えは同じである。すなわち、「スループットが限られているためシステムは混雑する。それゆえユーザーは、優先的に処理してもらうために取引手数料を支払う」というものだ。まさに手数料が、採掘者への報酬の資金となるのである。この回答は、社会的効率性と安定性、堅牢性、そしてパラメータ選択に関する疑問を新たに提起する。

モデルの特徴

ユーザーと採掘者の均衡における行動が、取引手数料、収益、インフラストラクチャー水準の特徴を生み出す。

採掘者は手数料の高い取引を処理したいと考えるが、ユーザーが選択する取引手数料に影響を及ぼすことはできない。したがって均衡状態では、ブロック処理のために選出された採掘者は、手数料が最も高い取引を処理することを選ぶ。ユーザーが支払う手数料による収益の総額は、採掘者への支払いの総額と等しくなる。採掘者はシステムに自由に出入りできるため、各採掘者の期待収益はゼロとなり、収益の金額が採掘者の数を決定する。したがって、たとえシステム全体が独占されていたとしても、そのサービスは原価で提供されることになる。

ユーザーは取引手数料を支払うことによって、優先的にサービスを受けられるように競い合う。あたかも優先的な処理をめぐって、採掘者たちがオークションを行っているかのようである。システムは確率的な性質を持つため、おおむね十分な能力がシステムにあっても、一部の取引は遅延を余儀なくされる。高い手数料を支払えば優先度も高くなり、遅延に見舞われる確率は低くなる。混雑・待ち行列ゲームを分析することによって、均衡状態において、取引手数料は他のユーザーに課される遅延の追加コストに等しいということがわかった。したがって、混雑と遅延がなければ、ユーザーは取引手数料を支払う必要がなく、取引手数料は混雑の程度に応じて上昇することになる。しかも、このトレードオフの関係はかなり鮮明である。「著しい」混雑がなければ、取引手数料による収益は非常に少なくなる。システムの能力と採掘者の数が無関係であるということは、採掘者の数が混雑に影響しないことを示唆する。

本モデルは長期に焦点を当てているが、これに関する見識は、過剰な通貨発行の現状にも適用できる。すなわち(i)採掘者の期待収益がゼロである、(ii)混雑が激しいほど取引手数料は上昇する、(iii)取引手数料が高いほど、採掘者はプルーフ・オブ・ワークには熱心になる。(ii)に関連して、図1は、ブロックサイズの日次平均とこれに対応する平均取引手数料の関係を理論面と実際面から示したものである。混雑はブロックサイズが1 MBに近いことに関連している。さらに、激しい混雑が大幅な収益増加と関連していることは実証的に明白である。

図1:1ブロック当たりの手数料とブロックサイズ(日次平均。モデルベースおよび実質値、2011年4月1日〜2017年6月30日)
図1:1ブロック当たりの手数料とブロックサイズ(日次平均。モデルベースおよび実質値、2011年4月1日〜2017年6月30日)

ビットコインシステムは、市場競争を通じて、独占規制や価格統制に代わる選択肢を提供している。ビットコインは、すべての潜在的ユーザーがビットコインシステムを使用しているという意味で、独占になる可能性がある。しかしその場合でも、ビットコインのサービスに対して独占的な価格が設定されることはない。むしろ価格は均衡によって決定される。ただし均衡価格は混雑の程度によって変化し、最適価格になる可能性は低い。著しい混雑と大幅な遅延が発生しなければ収益は上昇しない。さらに、ビットコインシステムの運営においては、社会的追加費用を要する。ビットコインのシステムにおける社会的総費用は、独占による社会的便益の損失(dead-weight loss)よりも低い可能性も高い可能性もある。

十分な混雑がないとシステムは破滅的な事態になる可能性がある。十分な混雑がなければ、ユーザーはほとんど取引手数料を支払わずに済むので、採掘者への報酬に回す収益がほとんど発生しないことになる。採掘者が退出してしまうとシステムの信頼性は低下し、ユーザーもシステムを利用しなくなる。すると混雑の低下に拍車が掛かる。システムのスループットは採掘者の数に左右されないため、入退出に関して採掘者がどのような選択をしようと、システムの均衡には何ら貢献しない。採掘者をつなぎ止めるための代替的手段が存在しなければ、システムは崩壊するだろう。

「ユーザーが直面する混雑を緩和するため、ビットコインシステムの能力を拡大、増強すべきだ」との議論が現在行われていることを考えると、この点はきわめて重要である。システムの能力が拡大し、混雑が消滅、あるいは大幅に緩和した場合、取引手数料による収益も減少し、システムの長期的な持続可能性が脅かされることになる。

我々の分析は、プロトコルに2つの簡単な設計変更を加えることを提案する。まず、システムの容量を操作することにより、適切な収益水準を目指すことができる。現在、容量は固定されており(10分ごとに1 MB分のブロック)、収益とユーザーが負担する費用は、需要水準に左右されている。その代わりに需要に応じて容量を調節することによって、混雑と収益の水準の整合性を保つことができる。

次に、目標の収益水準を引き上げるためには、ブロックサイズが小さい場合、ユーザーに負担する遅延コストを下げなければならないということである。ビットコインシステムの現在の設計および将来のシステム変更案におけるパラメータ選択はいずれも、比較的大きなブロック(=数多くの取引)を比較的少ない頻度(ブロック間の時間(分))で処理することが必要である。こうしたパラメータ構成下で目標水準の手数料収益を生み出すためには、著しい遅延が必要となる。したがって、(工学的な制約はあるにせよ)ブロックサイズをできるだけ小さくシステムを設計し直し、小さいブロックを頻繁に処理することによりスループットを維持することは有益といえる。これによってユーザーが余儀なくされていた遅延を大幅に緩和しつつ、同水準の収益を得られるようになるだろう。

最後に、「分散型のブロックチェーンシステムで収益を生む現実的なメカニズムは、どのような特徴を持っているのか、そしてその最適なメカニズムはどのようなものか」という疑問を提起したい。収益をもたらすルールは、採掘者が取引を処理しようという妥当なインセンティブを提供しなければならない。そして取引手数料は第三者によって検証可能でなければならない。プロトコルによって実施できる現実的なメカニズムについて議論したい。

結論

本稿執筆時点において、年間で65万7000 BTCが新たに発行され、採掘者に付与されている(10分ごとに12.5 BTC)。2017年10月12日時点のビットコイン価格(5000ドル)で計算すると、約33億ドルに相当する。さらに、ネットワークが混雑するにつれて採掘者が得る取引手数料も上昇しており、現時点で採掘者の収益の20%に達している。

ビットコインのシステムは充実した資源を配備している。ビットコインのシステムとその中核であるブロックチェーンのプロトコルは、多数の模倣や応用を生み出している。ブロックチェーンのプロトコルは、たとえそれが機能しなかったとしても、経済学者の注目と研究対象に値する斬新で価値ある経済学的設計を提示する。その明らかな機能性と有用性は、経済学者をこの素晴らしい構造と将来性、そして未来の派生物の研究に駆り立てるに違いない。

本稿は、2017年12月16日にwww.VoxEU.orgにて掲載されたものを、VoxEUの許可を得て、翻訳、転載したものです。

本コラムの原文(英語:2018年2月1日掲載)を読む

参考文献

2018年3月5日掲載

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