世界の視点から

金融の民主化:電子的な資産管理革命

Juergen BRAUNSTEIN
ハーバード・ケネディスクール研究員

Marion LABOURE
ハーバード大学経済学部アソシエート

マスコミ報道にもかかわらず、電子的な資産管理システムがもたらす社会経済的な影響が大きくなる可能性についてはほとんど知られていない。本稿では、「ロボアドバイザー」によって、金融が「民衆化」されるチャンスがあるのか、また、経済格差は縮小されるのかについて検証する。アルゴリズムを駆使するこの投資アドバイザーは、「低コストで万人が利用できる」ビジネスモデルによって、資産管理の世界に革命を起こそうとしている。一方で、伝統的な資産管理会社がロボアドバイザー市場に参入すれば、この革命は頓挫するおそれがある。

電子的な資産管理システムは、若手の専門職や中間層にとって投資をより身近なものにし、金融を民主化する。電子的な資産管理は、各個人に個別最適化された投資ソリューションと非常に高度な資産種類へのアクセスを(ほぼ)すべての人に提供する。実際、「ロボアドバイザー」の手数料は安く、最低資産額の要件も設定されていない(あるいは低く抑えられている)。数年のうちに、巨額の金融資産を持つ個人と同程度の利益率を享受できる人が増えるかもしれない。

格差の要因である金融

金融は20世紀を通じて、格差の主な原因の1つであった。Atkinson et al.(2011)によると、巨額の資産保有者は、一般に入手可能な投資商品と比較して収益率がかなり高い投資商品にアクセスできるという。Piketty(2014)はその著書『21世紀の資本』(原題Capital in the Twenty-First Century)において、過去3世紀における資産格差の拡大について示した。Pikettyによると、資本収益率が経済成長率(たとえば労働による所得など)を大幅に上回っているという。

資本投資は、最富裕層の資産拡大において重要な役割を果たしており、さらに格差を拡大させている。相続される資産の割合が高まっているということ、相続自体も不平等に分配されているということによって、この傾向に拍車がかかっている。裕福な個人は、代替的な資産運用(例:ヘッジファンド)への投資など、多種多様な投資機会に恵まれている一方で、通常、小口投資家はより「一般的な」投資(例:銀行預金や国債)に向かわざるを得ない。

『2017年IMF年次報告書』は、世界的に最も喫緊な問題の1つとして格差拡大を挙げており、持続的成長を阻害すると強調している。IMFによると、先進諸国ではトップ1%の富裕層1人あたりの実質所得は、1980年から2012年の間に282%増加したが、残りの99%は、同期間に144%しか増加していない。

図1:トップ1%の富裕層の保有資産が総資産に占めるシェアの長期的な変化(1914-2011年)
図1:トップ1%の富裕層の保有資産が総資産に占めるシェアの長期的な変化(1914-2011年)
注:データは世帯の正味資産(資産から負債を差し引いた残額)を示す。所得は国民総所得を反映。
出典:World Wealth and Income Database

資産格差のかなりの部分は所得格差と関係している。過去10年間、(先進諸国の人口において最大の割合を占める)中間層の所得は、横ばい、あるいは減少している(Laboure and Braunstein 2016)。McKinseyの研究(2016)によると、先進諸国では、2005年から2014年の間に所得が増加した世帯は全体のわずか3分の1に過ぎず、残りの3分の2の世帯では所得が横ばい、あるいは減少したという。

ロボアドバイザー:資産管理を万人に

ロボアドバイザーとは、各個人に個別最適化された多様な投資ポートフォリオを提供することができるアルゴリズムのことである。ロボアドバイザーは、人間よりも低いコストで高品質な金融サービスと各種金融資産へのアクセスを提供する。1つのコンピュータアルゴリズムで多くの顧客に対応できるため、規模の経済を活かせる。したがって、今後ロボアドバイザーがさらに顧客を獲得して資産を蓄積すれば、規模の経済によって手数料はさらに低下するだろう。

従来の資産管理サービスは高額で、かなりの金融資産がなければその金額に見合わない。一方、ロボアドバイザーなど電子的な資産管理システムは費用が手頃で、投資金額が少なくてもメリットを得られる可能性がある。従来の資産管理サービスを受けるためには通常、資産額が最低でも50万ドル以上必要で、運用資産の1〜2%を手数料として徴収される。対照的にロボアドバイザーは、資産要件が設定されていないかあるいは少額で、手数料も0〜1%に過ぎない。

その上、一部のロボアドバイザーは、従来の資産管理サービスに引けを取らない魅力的な収益を生み出している。BackEnd Benchmarkingによると、2016年に米国の8大ロボアドバイザーがもたらしたポートフォリオの収益率は5.55%〜10.75%だった。一方、「典型的な」ベンチマークは、債券(10年物米国債)が60%、株式(S&P 500株価指数)が40%で構成されており、2016年の収益率は5.9%だった。

ロボアドバイザーが中間層の資産管理計画に革命を起こす可能性

今までほとんどの人は金融市場での投資から排除されているため、ロボアドバイザーは金融を民主化する潜在力を持っている。しかしそのために乗り越えるべき障害がいくつかある。たとえば金融リテラシーや規制、サーバーセキュリティといった問題であるが、とりわけ大きな障害は、大手資産管理会社がロボアドバイザー市場に参入することによって生じる利益衝突の可能性である。

中間層の意識を投資と長期的な資産管理計画(退職、子どもの教育など)へと向かわせるためには、教育が重要かつ不可欠である。より多くの人が、金融と投資、そしてそのリスクとメリットについて理解しなければならない。その実現には、民間部門(プロセスの簡素化、手数料や必要な初期資本の引き下げ)と政府(金融原則についての市民教育)双方の取り組みが必要になるだろう。

まだ注目されていない最大のリスクは、伝統的な資産管理会社がロボアドバイザー市場に参入することである。ロボアドバイザーは本来、電子的に資産を管理する独立したプラットフォームであり、利益相反はなかった。(1980年前後から2005年ごろにかけて生まれ、10代からデジタル環境になじんだ)ミレニアル世代の顧客への働きかけを強めるため、伝統的な資産管理会社は最近、ロボアドバイザーを自ら開発したり、既存のデジタルプラットフォームを買収したりする動きを加速させている。たとえば、2017年に米国の著名な金融機関(ゴールドマン・サックス、ウェルズ・ファーゴ、バンク・オブ・アメリカ、ブラックロックなど)はロボアドバイザーを買収、あるいは独自に開発している。ロボアドバイザーを保有する銀行や投資会社がさらに増えれば、ロボアドバイザーのプラットフォームによって提案される投資機会が、これらの金融機関の商品に集中したり偏ったりする恐れがあり、ロボアドバイザーの独立性が脅かされることになるかもしれない。

今後3〜4年間に、電子的な資産管理規模は80倍に成長するかもしれない

退職後の生活設計や年金拠出額の運用は、とりわけ国民皆年金制度を持たない米国などの国において、ロボアドバイザーの普及を後押しする有力な要因となりうる。教養のあるミレニアル世代は、金融リテラシーが高くテクノロジーにも習熟しているため、電子的な資産管理システムの有望な顧客層となるかもしれない。

現時点でロボアドバイザーが管理する資産は、総額1000億ドルに満たない(Statista 2017)。これは、米国の金融市場に投資されている資産(20兆ドル)のごく一部に過ぎない。専門家はロボアドバイザー産業が大幅に成長すると見込んでいるが、2020年時点の資産運用規模の予測には大きな幅がある。たとえば8200億ドル(Statista 2017)とする予測があれば、2兆2000億ドル(KPMG)や8兆1000億ドル(BI Intelligence)に達するとの予測もある。

こうした成長は大手の規模をさらに拡大し、より多くの聴衆を宣伝・教育する可能性がある。これによって好循環が生まれれば、金融に革命が起こるかもしれない。金融投資へのアクセスが広がれば資本格差を縮小させる上で不可欠なツールとなるだろう。

本稿は、2017年11月11日にwww.VoxEU.orgにて掲載されたものを、VoxEUの許可を得て、翻訳、転載したものです。

本コラムの原文(英語:2017年12月20日掲載)を読む

参考文献

2018年1月15日掲載

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