世界の視点から

金正恩政権の脅威がもたらす経済的影響

Nadav Ben ZEEV
ネゲヴ・ベン=グリオン大学助教

Evi PAPPA
欧州大学院教授

金正恩独裁政権は核による瀬戸際政策を繰り広げており、世界の注目を集めている。そして世界市場は、安全資産への逃避という形でこの脅威に反応している。本稿で紹介する研究結果は、こうした国際的な緊張の高まりが、実際、米国経済に短中期的な影響を及ぼす可能性があることを示している。筆者らは、国防支出増加の予想が、マクロ経済にどのような影響を及ぼすかについて分析した。この分析によると、北朝鮮が執拗かつ急ピッチに進めているミサイルの発射実験は、米国経済を押し上げる可能性がある。

金正恩独裁政権は核による瀬戸際政策を展開しており、世界の注目を集めている。北朝鮮は2017 年7月28日、ロサンゼルスに到達可能な大陸間弾道ミサイルの発射実験を行った。金正恩氏は、米国の領土であるグアムをミサイルの標的にすると脅しをかけた。8月29日には弾道ミサイル「火星12型」を発射し、日本上空を通過させた。この発射を受けて中国は、「朝鮮半島の緊張は『臨界点』に達している」との厳しい警告を発した。

ドナルド・トランプ米大統領は北朝鮮への対応について、「あらゆる選択肢がテーブルの上にある」と述べた。トランプ大統領はホワイトハウス発表の声明で、「世界は、北朝鮮が声を大にして明確に発した最新のメッセージを受け取った。北朝鮮は、近隣諸国やすべての国連加盟国を侮辱し、国家の行為として受け入れ可能な最低基準に挑戦する姿勢を示した」と述べた。

世界市場は緊張の高まりを受け、金やスイスフラン、日本円などの安全資産を購入する一方で、株式を売却した。日経平均株価は1%近く下落して約4カ月ぶりの安値となり、韓国のKOSPIもほぼ同じ下落率となった。

我々は最近の論文において、こうした緊張の高まりによって、実際に米国経済が短中期的な影響を受ける可能性があるということを示した(Ben Zeev and Pappa 2017)。国防予算の変更が発表されると、企業や家計の経済行動に多大な影響が及ぶことを示した。

特に、国防支出の増加が予想される場合、産出量や労働時間、利子率、物価が長期的にわたって大幅に上昇し、消費や投資にも大きな影響が生じる。こうしたショックの主な特徴は、実際に国防支出が増加するかなり以前に、軍需企業の超過収益が増加することである。

最近、期待主導の景気循環理論に対する関心が再び高まっているが、特にニュースのショックによる影響が注目されている。こうしたショックは、ニュースが現実化する前に発生し、観察することができる。政策の決定とその実施の間に自ずと時間差が生じるため、この種のショックは財政変数にとってかなり重要である。

ニュースのショックによる影響を実証的に測定しようとする既存の研究では、特徴的な出来事をもとに期待ショックを識別する手法がこれまで用いられてきた。しかしこの手法の実施には時間を要するだけでなく、詳細な過去の記録を入手する必要がある。我々の研究では、データから財政に関するニュースを識別する新しい手法を提案しており、比較的、実施しやすく、特徴的な出来事が得られない状況においても使用できる。

データに含まれるニュースを測定することは本質的に困難であるが、近年、一部の研究では、財政変数の変化という文脈のなかで個別の出来事が起きたタイミングを利用してニュースを識別している。Valerie Ramey(2011)の研究は、国防支出の変化に関するニュースについて、2つの尺度を構築している。

  • 第1の尺度は、ビジネスウィーク誌やその他の新聞の情報に掲載された情報がもとである特徴的な出来事を利用して、政府支出における期待現在価値の変化の推定値を算出する。
  • 第2の尺度は、予測専門家調査(Survey of Professional Forecasters)を用いて算出する。政府支出の変化は、政府支出の実際の成長率と、1四半期先の政府支出の成長率の予測値との差異として測定される。

我々のアプローチはこれと異なり、将来(今後5年間)の国防支出の変化を最もよく説明し、現在の国防支出とは直交する(無相関の)ショックを国防関連ニュースのショックとみなす。つまり、経済状況に左右されないと考えられる国防支出系列のデータを用いて、今後5年間の国防支出の動向を予測しうるが、現在の国防支出の動きとは無関係な撹乱項を国防関連ニュースとみなす。我々はこれをMFEV(最大予測誤差分散、maximum forecast error variance)ショックと呼んでいる。

識別された国防に関するニュースショックは、Ramey(2011)によるニュースショックと相関しており、景気循環におけるすべての実体変数の変動をRameyのものよりもはるかによく説明できる。またこれらのショックは、産出量、労働時間、利子率、物価を持続的かつ顕著に上昇させることにより、有意に需要を増加させる効果を生み出している。この手法を用いて識別されたショックは、大手軍需関連企業の超過収益を大幅に増加させているが、Rameyによるニュースのショックはそうでなかった。我々の推定結果によると、米国における景気循環での産出量の変動のうち、かなりの部分が将来の国防支出の変化に関するニュースによるものである。

我々の手法の重要な貢献は、たとえ特徴的な出来事をもとにした尺度が存在しない場合でも、国防関連ニュースのショックによる影響を推定できることである。多くの国でそうした尺度の利用は困難であり、その作成には膨大な時間を要するため、我々の実証研究の結果をRamey(2011)の研究結果と比較して示すことが重要である。図1において両者の比較を示した。図1では、2つの異なる方法により得られたニュースショックの系列を歴史的な観点から描き、それぞれが捉えたイベントを比較した。

図1:国防関連ニュースのショック
図1:国防関連ニュースのショック
注: MFEVの系列が連続的である一方、Rameyのショックはそうではない。両者の比較のため、対応するMFEVの値がその絶対値において1標準偏差を下回る場合にゼロと等しくなり、そうでない場合にMFEVの値と等しくなるシリーズを作成した。期間は1948年第1四半期から2007年第4四半期までとする。実線はRamey(2011)の未加工のニュース系列を示す。

Rameyによるニュースと我々が作成したニュース系列が一致する点は、わずか8つの時期のみである(1950年第2四半期、1961年第2四半期、1961年第4四半期、1963年第3四半期、1977年第3四半期、1980年第2四半期、1989年第4四半期、2002年第1四半期)。8つのイベントについても、捉えたショックの規模はかなり違う。32の事例で、MFEVの手法が捉えられなかったニュースのショックを、Ramey(2011)は捉えられている。逆に24のイベントで、Rameyではショックはないと判断されたが、MFEVの手法が国防関連ニュースのショックを捉えた。

こうした不一致の一部は、ショックのタイミングの違いによる。5つの事例において、MFEVの手法が捉えた国防関連ニュースによるショックは、Rameyの手法でショックが特定される数四半期前に発生している。たとえばRamey(2011)は、国防関連ニュースのショックを1981年第1四半期に捉えているが、当時(1981年2月19日)、ロナルド・レーガン大統領が軍事関連予算を24.1%増加させる計画を発表している。一方、MFEVの手法では1980年の第4四半期にショックを捉えている。これはレーガン氏が大統領選挙に勝利した時期で、1980年に共和党が発表した選挙用の政策綱領において、軍事関連支出の増加が見込まれていた時期でもあった。

同様に、我々は1990年第1四半期にニュースショックを捉えているが、当時、イラクとクウェートの間で緊張が高まり、イラク軍がクウェート国境への侵攻に向けて準備を開始していた時期であった。一方、Ramey(2011)は、クウェート防衛の目的で米国が介入するとの新聞報道をもとにして、1990年第4四半期にショックを捉えている。

こうした不一致は、2種類のショックの系列を構成する情報の違いを示している。MFEVによって捉えられるショックは、2つの要素で構成されているといえる。第1の要素はRameyにおけるニュースと密接に関係しており、一般に広く入手可能な、国防支出の将来的な変化に関する情報に相当するものである。第2の要素はこうした情報とは無関係であり、MFEVの手法は、国防支出の予測誤差分散分解を活用することによってこの要素を導き出す。Rameyのニュースは、実現した可能性もあるが、実現しなかった可能性もある。

一方でMFEVの構造上、捉えられたニュースショックは、すべて実際に実現化した国防関連ニュースに関わるものである。ただし、これらのニュースが公になっていたかは明確ではない。報道されていたにもかかわらずRameyの手法では捉えられなかったのかもしれないし、国防に関する将来的変化を予測する上ではあまり関係がないと判断されたのかもしれない。

重要なのは、我々が特定した国防関連ニュースのショックが、米国の大手軍需関連企業の超過収益への影響を増幅させたという点である。Rameyの手法によれば、金正恩氏による最近の挑発とトランプ大統領の対応は、米国の国防支出の将来的な増加に関するニュースとして解釈され、さらにそうした北朝鮮のニュースは、我々のMFEV手法によれば、米国の軍事関連企業の収益増に結びついた場合に「実際の」国防関連ニュースとなる。この場合、我々の研究結果によると、北朝鮮による執拗かつ急ピッチなミサイル発射実験は、皮肉なことに米国経済を押し上げている。

最後に、政策変更の公表が、人々の将来の政府支出に関する期待に影響を与える可能性があることを政策担当者は留意すべきである。あるいは逆の言い方をすれば、予算やその他の制約に縛られている場合、政策担当者は、景気循環に対応する手段として、政策発表を利用できるということである。

本稿は、2017年9月6日にwww.VoxEU.orgにて掲載されたものを、VoxEUの許可を得て、翻訳、転載したものです。

本コラムの原文(英語:2017年10月23日掲載)を読む

参考文献
  • Ben Zeev, N and E Pappa (2017), 'Chronicle of a War Foretold: The Macroeconomic Effects of Anticipated Defence Spending Shocks,' Economic Journal 127: 1568-97.
  • Ramey, V A (2011), 'Identifying Government Spending Shocks: It's All in the Timing,' Quarterly Journal of Economics 126(1): 1-50.

2017年12月4日掲載

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