夏休み特別企画:フェローが薦めるこの1冊'08

"Power and Negotiation"

松本 加代 顔写真

松本 加代(研究員)

研究分野 主な関心領域:通商法、投資協定、国際行政学

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Power and Negotiation by I. William Zartman and Jeffrey Z Rubin, Editors The University of Michigan Press (First Paperback Edition 2002)

Power and Negotiation 表紙 もし国と国の交渉に興味があったらお奨めしたいのが、この『Power and Negotiation』という本。国家間交渉について理論的に仮説を提示する部分と事例部分、そして事例からのインプリケーションを理論的に整理する部分から構成されている。事例で取り扱われる分野は通商、援助、軍事紛争など多岐に亘り、交渉形態も二国間もあれば多数国間もある。その多くが一見弱い立場にたつと思われる国が、強い方の国から譲歩を引き出し、有利な交渉結果を手にする事例だ。

理論編と事例編の両方を読んでもよいし、自分の関心分野の事例だけを読むのでも理解はできるだろう。その際、結果に影響を与えたのが、国家の利益の要素か、交渉の要素かを意識しつつ読んでみるのがよいとおもう。後者の観点から興味深かった事例を紹介すると、超大国と弱小国との交渉において、弱小国のナショナリズムの高まりが弱小国の交渉力を高めた事例がある。また、同じく力関係に差のある二国間関係において、弱い方の国が、相手方が合意しうる申し出であるか否かの検討を十分に行い、交渉ポジションを交渉開始前に明確にし、かつその国の交渉団が自国政府の高官に状況を報告する機会を十分に確保していたこと等が交渉を有利に進めるのに資したと考えられる事例もある。もちろん、外部要因として、交渉が行われるタイミングや第三者(国)の参加が重大な影響を与えた事例もある。

いくつかの事例を読んで自分なりに整理してみれば、日々行われる国家間交渉の報道について今までとは変わったものの見方ができるようになるかもしれない。

次回は白石重明上席研究員の『半島』です。

2008年8月19日