『複雑系組織論』ロバート・アクセルロッド、マイケル・コーエン著 高木晴夫監訳 ダイヤモンド社 (2003)
本書は、ゲーム理論の大家が、複雑適応系の思考で社会組織の"生態"をどうとらえ、実社会に活かしていけるかを示した先駆的な書である。リナックスのオープン・ソースの開発、軍の人事システムなどの具体例を取り上げ、組織やネットワークが持つ複雑なシステムに共通するルール、条件などについてわかりやすく説明している。数式などは避けつつも、「多様性」「相互作用」「淘汰」といったキーワードを軸に、幅広い事例に基づく深い洞察がなされており、昨今の複雑系の翻訳本の中でもとっつきやすく秀逸と言える。一例を挙げると、多様性については、あまりに多様で突然変異やノイズに寛容すぎると「永久沸騰現象」という無秩序な世界となるが、多様性を完全に拒否すると「初期収束」という静の定常状態にはまってダイナミズムは失われてしまう。おそらくその中間の適度な多様性が、「カオスの縁」であり、自己組織化臨界点となるのかもしれないとある。
我々が制度や組織のガバナンスを考えるとき、多様性の最適解を探る上で、知的冒険心を駆り立ててくれる一冊である。