最近誌面を賑わすキーワードの1つとなっている産学連携は「諸刃の刃」であると、編者の原山氏は指摘します。つまり、産学連携には、うまく使えば「人的資産の質のレベルアップ、イノベーション能力の向上、経済生産性の向上といったマクロレベルでも効果を誘発する」という面があるけれども、その一方で、企業・大学が互いの本来の姿を見失い、流行に乗せられて「大学の企業化」や「産業の下請け機関としての大学」に走ったのでは、それぞれが持つ本来の機能を低下させかねない危険があるというのです。
こうした問題を避けるため、本書では「大学と産業という2つの異なるドメイン(領域)」が存在することを前提として議論を展開しています。そして、そこに所属するアクターが互いに働きかけることで相乗効果が生まれ、大学と産業のポテンシャルが高まっていくという連鎖のプロセスを「産学連携」と位置づけています。このように定義することで、問題をよりクリアに捉えられるようになります。
内容を見ると、海外における「産学連携」の現状、日本における「産学連携」の現状、日本の「産学連携」を取り巻く環境と3部構成になっており、日本だけでなく、米国や中国の産学連携の流れをどう読むかを概観できます。産学連携の論点がコンパクトにまとまった本書は、産学連携に携わっておられる方に手にとっていただきたい本です。
(東洋経済新報社 佐藤朋保)