RIETI経済政策レビュー7

『知識国家論序説――新たな政策過程のパラダイム』

  • 野中 郁次郎、泉田 裕彦、永田 晃也 編著

本書は、「知識創造理論」の第一人者である野中先生を中心として、知識経営(ナレッジ・マネジメント)の視点から日本の政策形成を分析するという、挑戦的な試みをまとめたものです。民間の企業では、競争力を高めるために意識的に実施されているナレッジ・マネージメントですが、なぜ経営学のコンセプトで公的分野の政策形成を考えうるのか。その底流には、「政策形成過程は知識創造過程である」という認識があります。

本来の政策形成とは、「さまざまな立場の人が知識を共有したうえで、新たな方向性を見いだす作業」だと、本書では指摘しています。ところが現実はどうか。日本では「政策過程におけるビジョンや概念の発信はますます乏しく、政策論争よりは口先政治が横行している」という悲惨な状況が続いています。この状況をいかに打開するか。日本の政策に不信をもたれている方には、本書はうってつけの本だと思います。

とはいえ、タイトルに「序説」とあるように、知識国家の議論はまだはじまったばかりです。これから詰めるべき膨大な課題が残されている、と編者は言います。日本の政策形成のあり方やこれからの国家像を問う新しいアプローチの今後に注目したいと思います。

(東洋経済新報社 佐藤朋保)