RIETI経済政策レビュー2

『日中関係の転機――東アジア経済統合への挑戦』

最近、日米関係だけでなく、国際社会における日本の役割を考える必要性が強く問われています。日中関係やアジアにおける経済統合もその1つだといえます。本書は、東アジア経済統合という大きな視点から、日中関係のあり方を論じています。しかし、これは一筋縄ではいかない問題です。なぜなら日本は、歴史的な経緯もあって「アジアにおける地域的な枠組みの形成に主導的役割を担うことを回避してきた(本書第6章)」からです。

過去に積み重ねてきた部分が小さいという意味では、議論もこれからの展開に期待する部分が大きいといえます。その点、本書では経済的側面のみならず、政治的・歴史的に配慮すべき数多くの論点が手際よくまとめられていて(特に第8章)、問題の所在を明らかにしてくれます。また本書は、多くの参加者を迎えて開催されたコンファランスを土台にしており、多様な見方を提示しています。

RIETIでは、東アジアの政治・経済状況と日本の役割を考えるコンファランスを継続的に開催していて、生産性分析の権威であるD・ジョルゲンソン教授や、ノーベル賞受賞者であるJ・スティグリッツ教授、またシンガポールのゴー・チョクトン首相など、海外のそうそうたる顔ぶれも招いて積極的な意見交換を行っているようです。これからこうした議論に参加される方には、ぜひ手始めに本書を読んでいただきたいと思います。

(東洋経済新報社 佐藤朋保)