RIETI経済政策分析シリーズ2

『金融ビッグバンの政治経済学――金融と公共政策策定における制度変化』

多くの人は日本の政治に対して閉塞感を感じているかもしれませんが、戸矢氏は本書で、「1995年以来、日本政治は明確に変化しつつあると論じたい」と述べています。その題材として、96年の金融ビッグバンと、90年代の金融政治を取り上げています。

戸矢氏はまず、合理的アクター・アプローチや、比較制度分析など、変化を語るための理論的な枠組みを固め、その枠組みに沿って、金融ビッグバンや90年代の金融政治といった現象を再構成していきます。すると、政治の深層底流で生じていた2つの制度変化、「護送船団方式の崩壊」と「仕切られた多元主義の衰退」が目の前に浮かび上がってきます。この制度変化を描き出していく戸矢氏の筆致はまさに圧巻で、その迫力に思わず引きずりこまれるほどです。政治の描写もリアルで、専門書でありながら、魅力的な小説を読むのに似た興奮を味わえると思います。

本書は、日本の政治にとどまらず、制度はどのように変わるのか、という問いに関して深い洞察を与えてくれます。青木昌彦所長は本書を「普遍的な問題意識と具体的な状況分析の見事な結合がある」と評価しています。日本で今起きているさまざまな現象をどう捉え、位置づければいいのか、その問題を考えるカギがこの本の中にあると思います。

(東洋経済新報社 佐藤朋保)