RIETI経済政策分析シリーズ1

『日本企業 変革期の選択』

  • 伊藤 秀史 編著

1980年代には礼賛論、90年代に入ると凋落論と、時代を通じ日本企業への評価は180度変わってきました。そして「もう日本型経営は通用しない」とか、「日本企業の競争力の復活には英米型の仕組みを導入することが必要」といった議論が登場しています。

しかしエンロン・ワールドコム事件や、最近のこの分野の著作(たとえば岩井克人『会社はなぜ変われないのか』など)を読むと、上記のような主張はあまりに短絡的に思えてくるのではないでしょうか。そうしたあいまいな「通説・俗説」に惑わされないためにも、日本企業に関して、一本芯の通った分析が必要とされていると思います。

本書は、そうした期待に応えてくれる本に仕上がっています。編者の伊藤氏は、「どのようなユーザーを想定した政策研究・提言活動であれ、その裏には厳密な理論的・実証的研究が基礎としてなければならない」と理論的・実証的研究の重要性を指摘しています。その方針に基づいて、本書では、経済学者、経営学者、法学者による多面的な検討がなされています。

伊藤氏は、本書で「理念型としての日本企業の理解がまだまだ不十分なものであったことを明らかにした」とも指摘しています。この問題の深さを認識したうえで、日本企業が選択すべき方向を示そうとする、慎重さと大胆さを兼ね備えた本だと思います。

(東洋経済新報社 佐藤朋保)