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中国共産党第16回全国代表大会

関 志雄顔写真

関 志雄(上席研究員)

5年に一度の中国共産党全国代表大会が11月に開催され、その焦点は指導部の新しい人事を決定し江沢民総書記が提唱する「三つの代表論」を党の指導理念として承認することであった。

今回の大会では、「革命第三世代」にあたる江沢民国家主席や朱鎔基首相ら党首脳の多くが引退し、「第四世代」の胡錦濤を総書記とする新体制が始動することとなった。今回の人事で注目されたのは、国家を指導する政治局のメンバーならびに中央委員の積極的な世代交代が行われたことである。しかし、実際には政治局の9人の常務委員は、5年前の党大会で選出された7人と同じように文化大革命以前に大学を出た「旧世代」に属し、党と政府の要職を歴任した「官僚出身者」であることを考えれば、彼らの下で思い切った改革が行われることは期待できない。

中国共産党の「第一世代」の指導者であった毛沢東は、農民の支持を得て国民党から政権を奪取し、中国を長い内乱や分裂の状況から統一国家へとまとめた革命家であった。毛沢東政権の下では経済建設は挫折したが、続く「第二世代」の指導者である鄧小平は、改革開放政策を推し進め、中国を繁栄への軌道に乗せた。この両者に共通している点は、ビジョンを持ち、リスクを恐れず改革に取り組んだ真の政治家であったということである。

これとは対照的に、江沢民をはじめとする「第三世代」の指導者たちは、理工系出身の技術官僚がほとんどである。彼らは選抜の過程において、共産党に忠誠心を持ったごく一部のエリート集団の中から、減点主義の評価体制の下で生き残ったのである。官僚としての彼らは、リスクを取って大きな成果を上げるよりも、いかにミスを減らし、与えられた仕事だけをこなせるかという点で評価されてきた。そして結果的には、能力や人望がある人よりも、最も敵の少ない人がリーダーとして選ばれたのである。この意味で、指導部は真の政治家の姿とは大きくかけ離れている。また、指導部のメンバーは経歴が似通っており、階層化が進んでいる中国の大多数の利益を代表することは不可能である。さらに、理工系出身の彼らは、中国が直面する様々な政治、経済、社会問題に対して、大局的な見地に立った有効な対策を打ち出すことができなかった。

今回の党大会で「第三世代」の大半が退き、「第四世代」の新体制が決まったが、この「第四世代」も「第三世代」の特徴をそのまま受け継いでいる。江沢民と胡錦濤をはじめ、前回と今回の政治局常務委員を比較すると、彼らの学歴や職歴には大差がないことが分かる。江沢民が軍事委員会主席の座に留まることや、新しい指導部に彼の側近と目される多くの人が含まれていることを合わせて考えると、今回の指導部の世代交代は不完全なものであると言わざるを得ない。現に、胡錦濤は、早くも総書記の就任会見において、「江沢民路線」を承継すると宣言した。このように、今回の党大会で実現したのはあくまでも指導部の若返りであり、本当の意味での世代交代には至っていない。

今回の党大会のもう1つの注目点は江沢民が提唱した「三つの代表論」が党の規約に書き込まれたことである。中国では、市場経済が発達するにつれて、資本家が増え、この新興社会勢力の支持なしには共産党の政権維持が難しくなってきた。これを背景に、江沢民総書記は、2001年7月の建党80周年記念講話においてついに資本家の入党を公式に容認するようになった。それを正当化したのは彼自身が2000年2月に広東省を視察した際、重要講話として発表された「三つの代表論」である。

「三つの代表論」は、共産党が先進的な生産力、先進的な文化、さらには最も広範な人民の利益を代表すると主張する。本来、共産党はマルクス主義の教条に従えば、プロレタリアを代表しなければならないのに、全民政党を唱える「三つの代表論」は、これを大きく離脱するものである。中国共産党が本当に全民政党になれば、もはや共産党ではないということを考えると、「三つの代表論」は決して小手先の改革ではなく、共産党を根本から変える可能性を潜めている。

今回の党大会で改革を迫られている今の中国にとって必要なのは革新的政治家である。幸い、民営企業家を含め、50歳前後の「第五世代」の多くの人たちが中央委員に選ばれている。彼らは、文化大革命が終結した78年以降、全国統一試験の難関を突破して大学に進学し、卒業後も米国をはじめとする西側の大学・大学院に留学するなど、優秀な人材が多い。5年後の第17回党大会でこれらの人たちが国家の指導に当たるようになれば、共産党は政治面における民主化を通じて、「三つの代表」という理想に近づくことができよう。こうした意味で、5年後の人事こそ楽しみである。