RIETI年末年始特集 フェローが選ぶ重大ニュース'02

スパチャイ氏、世界貿易機関(WTO)の事務局長に就任

荒木 一郎顔写真

荒木 一郎(元上席研究員)

スパチャイ WTO 事務局長9月、スパチャイ(Supachai Panitchpakdi) 氏(タイ)が世界貿易機関(WTO)の事務局長に就任した。

WTOとしては4代目、GATT時代から通算して7代目の事務局長である。スパチャイ氏以前の歴代の事務局長名を列挙してみると、エリック・ウィンダム・ホワイト(英国)、オリビエ・ロング(スイス)、アーサー・ダンケル(スイス)、ピーター・サザーランド(アイルランド)、レナート・ルジェロ(イタリア)、マイク・ムーア(ニュージーランド)とすべて欧米人なので、「アジア人初の事務局長」「開発途上国出身者がようやく通商関係国際機関の最高位に登りつめた」と期待する向きは多い。また、ガット・ウォッチャーなら、1999年、シアトル閣僚会議を目前に次期事務局長レースが激化し、米国率いるムーア派と日本率いるスパチャイ派が死闘を繰り広げた結果、任期を3年ずつ折半する(通常は1期4年)という妥協が成立したことは依然として記憶に新しいであろう。

就任前にはその過激な発言(あくまでジュネーブに蟠踞する「守旧派」通商外交官から見て、という意味であるが)から事務局長としての采配について心配する向きもあったが、交渉手腕に定評のあるベテラン外交官のハービンソン氏(香港)を官房長に据え、事務次長や法務部長といった主要ポストにも欧米諸国からみて安心できる人材を配置して、スパチャイ体制は順調に滑り出したように見える。ただ、WTOはしばしばMember-driven organizationと呼ばれるように、あくまでも加盟国中心の組織なのである。事務局長の真価は、加盟国同士の調整努力が尽きたところではじめて問われる。ウルグアイ・ラウンド終結間際の大混乱の最中に請われて事務局長に就任したサザーランド氏が果たしたような「公平な調停者」(honest broker)の役割をスパチャイ氏が果たすことができるだろうか。世界貿易体制のあり方について開発途上国からの不満が噴出し、グローバリゼーションに反発する市民社会からの異議申し立てが強まる中、いよいよ正念場を迎える新ラウンド(Doha Development Agenda)においては、同氏の一挙手一投足に注目が集まることとなろう。