夏休み特別企画:フェローが薦めるこの1冊'01

自由貿易理論史-潮流に抗して

荒木 一郎顔写真

荒木 一郎(研究調整ディレクター)

D.A.アーウィン/小島清監修
麻田四郎訳
文眞堂, 1999

『CODE-インターネットの合法・違法・プライバシー』表紙 WTO事務局の宣伝パンフレットに次のような逸話が紹介されている。経済学者のポール・サミュエルソンがある数学者に「社会科学のすべての命題の中で、正しく、かつ、自明でないものを1つだけ言ってみてくれ」と問われ、数年間悩んだ末にようやく「それは比較優位論だ」という答えにたどり着いたというのである。比較優位論、あるいはより一般的に自由貿易論は、決して自明のものとして人々に受け入れられているわけではない。自由貿易論は、古代以来、素朴な国産品愛用論に始まり、より洗練された各種の議論(幼稚産業保護論、戦略的貿易政策論等)との理論的闘争に勝ち抜いてきた。本書はその歴史をたどるものである。詳細な研究書である一方で、大変読みやすく書かれており、「シアトルの戦い」以来精彩を欠くように見えるWTO体制を正しい文脈において理解するためにも、是非一読をお勧めしたい。

荒木 一郎(研究調整ディレクター)