日本語タイトル:第1回JSTAR調査結果

JSTAR First Results 2009 Report

執筆者 市村 英彦  (ファカルティフェロー) /清水谷 諭  (コンサルティングフェロー) /橋本 英樹  (東京大学)
発行日/NO. 2009年9月  09-E-047
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備考

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概要

本稿は、2007年に実施された第1回「くらしと健康の調査」(JSTAR)の概要を取りまとめたものである。JSTARはアメリカのHRS、イギリスのELSA、大陸ヨーロッパのSHAREなどと並び、「世界標準」の中高年パネルデータ構築のための国際プロジェクトの重要な一翼を担っており、未曽有のスピードで高齢化が進展している日本の経験から、新たな科学的知見と政策的インプリケーションを引き出すことを目的としている。質問項目は健康、経済、就業、家族、社会参加活動といった生活のあらゆる側面に及び、コンピュータを用いた面接調査(CAPI)を採用するなど、調査内容・手法の面でも国際比較可能なように設計されている。同時に新しい知見を世界にフィードバックできるよう、JSTAR独自の工夫も施されている。

まず第1章では、先進国との比較でみた日本の高齢化の現状をマクロデータで明らかにしたのち、これまでの経緯やサンプリングデザイン、回収率などJSTARの基本的特性について概説している。第2章では、健康状態を複眼的視野から解析している。身体的健康、精神的健康、健康行動(喫煙、飲酒、運動など)、医療サービスの利用のみならず、健康診断の受診や栄養摂取といった幅広い面で、性別、年齢別、地域別の類似点、相違点を明らかにし、特に所得や教育水準といった社会経済的要因との相関が見られることを示している。第3章では、家族関係の実態を浮き彫りにしている。具体的には配偶関係や親・子供との同居やコンタクトの頻度といった点でみた家族の絆、あるいは経済的移転(遺産も含む)だけでなく家族介護の提供といった非経済的な移転を含む私的移転の授受といった点において、性別、年齢別、地域別に家族関係の多様性を明らかにしている。第4章は、就業面を扱っている。日本の特に男性は先進国の中で最も引退年齢が遅く、労働供給・引退行動は性別、地域別に異なること、さらに就業と引退という二者択一的な図式は当てはまらず、引退が長く緩やかなプロセスであること、また就業以外の社会的活動(ボランティア活動など)の実態も多様であることを示している。最後に第5章では、所得や教育といった社会経済的要因を俯瞰している。具体的には、家計所得、消費、資産について、等価ベースの分布やジニ係数でみた不平等度の違いを、個人の属性や家族のタイプ別に示すとともに、教育水準が家族内での強い相関をもつことも明らかにしている。

本稿のファイディングは非常に多岐にわたる。最も重要なメッセージは、中高年の置かれた環境は実に多様であって、有効な社会保障政策の企画立案にあたってこの多様性を十分に踏まえる必要があるという点である。今回示された結果はクロスセクションデータに基づいているが、第2回目調査以後のパネルデータが構築されることによってさらに分析が深められる。こうした努力によって、JSTARは国際比較可能なデータによる定量的解析から得られた日本の貴重な経験を世界で共有するまたとない機会を提供することは間違いない。





概要(英語)

This paper provides an overview of the first wave of the Japanese Study of Ageing and Retirement (hereafter "JSTAR"). Using this rich and unique dataset, we describe in detail how middle-aged and elderly Japanese live in terms of economic, social, health, and family status. In this project, our intention is to zoom in to paint a picture of the lives of individuals and zoom out to also provide a panorama view of society, while extracting scientific findings which we hope are innovative and insightful regarding life in Japan as well as other countries in the world. Moreover, we try to connect these new scientific findings to efforts toward enhancing the effectiveness of policymaking.