少子化の決定要因と具体的対策
─有配偶者の場合─

執筆者 山口一男  (客員研究員)
発行日/NO. 2005年8月  No.06
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概要

有配偶女性の出生率を回復させようとする政策が、出生率の回復に占めるウェイトは約5割程度と考えられる。本稿では、この約半分の重要性を持つ有配偶女性の出生率の減少に歯止めをかけ、回復させる政策ついて、実証的な裏付けに基づき議論することを目的としている。



従来の有配偶者を対象とした少子化政策(育児休業法、新エンゼルプラン、少子化対策プラスワンなどの一連の政策)は基本的方向として正しかったことを、3つの政策類型に分けて、実証研究に基づき示すとともに、政策的課題を明らかにする。



第1は、出産・育児の機会コストを減じる政策である。特に重要なのは育児休業が有配偶女性の出生意欲と出生率を共に高めるという事実である。しかしその一方、育児休業に対し企業の協力的態度が弱いため法的には取れるはずの育児休業が実際には取りにくい環境がある。このため企業の負担感を増さずに、より多くの人が育児休業を取れる社会制度や社会環境を作りだすことが極めて重要となっている。本稿はこういった今後の育児休業問題への具体的対策として補助金制度に加え、育児休業の実施や男女の雇用の機会均等についての第三者評価機構設立の重要性を論じる。



第2は、子供を持つことの「家計予算制約」を緩和する政策である。理論的には有効だが、養育費や教育費の負担を「子供を産むことを望まない」理由としてあげるのは主としてすでに2子を持つ有配偶女性であり、その結果主に3子の出生率回復に寄与し、第1子目の出生率回復には貢献しないと考えられ、やや効率が悪い政策であると推測される。育児手当でなく、より直接的な保育費用や教育費用を軽減する政策では、費用の軽減が新たに子供を持つことではなく既存の子供の質の向上に振り当てる親の戦略を制限することが重要で、そのためには単位を家族でなく子供とすべきである。



第3は、出産育児の心理的負担緩和や育児の喜びの促進をする政策である。特に夫や地域の役割の重要性や、育児経験を負担感の強い否定的な経験から喜びの勝る肯定的経験に変えることの重要性を示す。また、これにより「少子化対策プラスワン」などで強調する子育て支援が基本的に正しい方向であることを示す。さらに、妻の出生意欲が出生率に大きく影響し、その出生意欲は妻の夫との心理的共有度に大きく影響されることを示す。また、一般に重要なのは、単なる夫の物理的育児参加時間や夫婦の会話時間でなく、妻が夫の育児参加や夫との会話に心理的に満足しているか否かであり、少子化プラスワンなどの政策実現でも、こういった心理面を重視することが重要となることを示す。