技術革新の源泉-サイエンスリンケージからみた産業技術政策の課題―

執筆者 玉田俊平太  (ファカルティフェロー) /(吉冨 勝研究所長 責任編集)
発行日/NO. 2005年7月  No.05
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概要

わが国が戦後驚異的な発展を遂げ、国民が経済成長によって豊かになることができたのは、技術革新によるところが大きい。今後、少子高齢化によって労働の供給が制約されるとともに、資本の源泉である貯蓄率の低下も見込まれる。こうした中でわが国国民が引き続きゆとりある豊かな生活を続けるためには、技術革新を通じた経済成長が極めて重要である。

しかしながら、技術革新は完全には独占できないため、市場メカニズムに任せておくと技術革新に対する投資(研究開発投資)は望ましい水準より低い水準で均衡してしまう(技術革新の持つ正の外部経済性)。したがって、政府の介入が必要不可欠であり、それは経済学的に正当な行為である。

本報告書の基になっている一連の研究は、政府が技術革新を促進するための政策を立案する際の判断基準となる、客観的な基礎資料を提供する目的で行われた。政府からもたらされた政策ニーズは以下のようなものである。

(1)政府の有限の資源をどの分野に戦略的に投入すればよいのか?

(2)現在の政府の研究開発投資は必要な水準を満たしているのか?

(3)大学や公的研究機関との連携はどのような手法を用いるのが適切か?

本研究は、基礎となる独自の特許データベースを一から構築するところからはじめた。つづいて、産業に有用な技術が発明された際に、どのような科学的知見に依拠していたかを明らかとするため、特許の明細書に引用されている学術論文をしらみつぶしに調査した。さらに、人手で行ったサンプル調査結果を「教師」とし、機械に学習させることによって1995年から1999年に公開された約600技術分類に属する約65万件の特許全ての科学依存度(サイエンスリンケージ即ち特許あたりの学術論文の引用数)を明らかとした。その結果から導き出された政策提言は以下の通りである。

(a)サイエンスリンケージが強い分野はバイオテクノロジー、暗号、光コンピュータ、音声認識などの分野である。政府はこうした分野に注力すべきではないか。

(b)サイエンスリンケージの高い分野ほど、特許の外国人出願比率が高く、したがって日本の技術の国際競争力が低い。また、産業に有用な技術に使われた科学論文の大半は米国のもので、その多くは米国の公的支援を受けていた。わが国は一層研究開発に注力すべきではないか。

(c)特許で守れる技術革新はバイオ分野等の一部に過ぎない。大学等はいたずらに特許出願を行わず、論文発表による公共財としての知的資産形成と共同研究や教育による知識の移転に努めるべきではないか。