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執筆者 著:青木昌彦 出版社 日本経済新聞社 ISBN 4-532-19131-9 発行年月 2002年6月 関連リンク あとがき
「RIETIという実験」(第II部「霞ヶ関とシリコン・バレーの間で」より)
内容
私は2001年7月から12月まで、『日本経済新聞』の夕刊に「あすへの話題」というコラムを毎週一度、書く機会を頂いた。話題は多岐にわたったが、いわばその通奏低音として流れているのは、ある学問的立場(比較制度分析)からする、通説「失われた十年」論にたいする疑問である。私は、現在日本において蔓延しているこの論調はあまりに悲観的、後向きであると思う。こうした思いをより広い読者の方々と分かち持ちたいと、あらためて文庫本として再録していただくことになった。日本経済新聞社のご厚意に感謝したい。併せてここ数年来、同紙上で発表したり、さまざまな会合で述べたことをも含め、本書の第II部とした。
第I部は、1990年の1月から12月まで筑摩書房のPR誌『ちくま』に連載され、後に単行本となったエッセイを再録したものである。この本はしばらく絶版となっていたが、「あすへの話題」とスタイル、トピックス、考え方において連続するところがあり、2つの部を合わせて読むことによって、移りゆく時の流れにたいする一つの変わらぬ視点を読みとっていただければ、と願う。
現在の日本の状況は高度成長時代に進化した制度様式体系が新しい国際・技術環境に適応・変化していく過程として解釈しうること、しかしその過程が何らかの眼にみうるような成果を生み出すには、それぞれの人々の主体的な関わりが鍵を握ること、またそれには時間もかかりうること、などをのべた。そうした主張の根拠として、制度とは何か、それはどう変わるか、についての比較制度分析的な考えのあることにも触れた。
しかし、「あすへの話題」には毎回790字きっかりという厳しい字数の制約があり、表現にはいわば俳句をひねるような自制が必要だった。その他の小品を巡る状況も多かれ少なかれ同様で、メッセージは直截であるが、説明も、根拠付けも、必ずしも十分とはいえないかもしれない。そこでこれらの小品が文庫本として集録されるにあたって考えを整理し、敢えて重複を省みず、最終章として「制度とは何か、どう変わるか、そして日本は?」を書き下ろしとした。さらにその基礎となっている比較制度分析の理論的枠組みとそのより広範な応用の可能性について興味を持たれる読者は、拙著『比較制度分析に向けて』(NTT出版、2001年)を紐解いていただければ幸いである。
最後にこの文庫本出版の機縁を作ってくださった日本経済新聞社の西岡幸一氏、田口恒雄氏、きわめて短期間のうちに出版に漕ぎつけてくださった編集担当の野澤靖宏氏、第I部のエッセイの編集者だった元筑摩書房の島崎頸一氏に感謝の意を表したい。また独立行政法人経済産業研究所の広報スタッフの皆さんや秘書浅田亜子さんにも、さまざまな点でご協力を頂いた。また青木れい子は原稿の作成や編集でいろいろな助力をしてくれた。
なお、本書において表明された意見は著者個人のものであって、経済産業省または独立行政法人経済産業研究所の公式の見解を必ずしも代表するものではないことを付け加えておきたい。
2002年5月16日
著者識