著者からひとこと

日本経済 競争力の構想

日本経済 競争力の構想

日本経済 競争力の構想

  • 著:安藤 晴彦、元橋 一之

著者による紹介文

“組織IQ"で企業の意思決定メカニズムが見えてくる!
RIETI「国際競争力研究会」の成果をベースに、斬新な視点で日本の競争力再生の道筋を示す注目の書

日本経済はバブル崩壊以降低迷を続けている。地価や株価の下落に伴う不良債権問題や企業バランスシートの悪化、デフレ経済の進行と暗いトンネルの出口が見出せないでいる。このようなマクロ経済的な問題と並んで、日本経済の将来に影を落としているのは日本のハイテク産業の凋落である。特に1980年代に栄華を極めたエレクトロニクス産業の競争力低下が著しい。日本経済が再び力を取り戻し、繁栄を続けるために、企業はどのような戦略とをとるべきか、政府の役割は、また我々個人個人ができることはなにか? 本書ではこれらの問いかけに答えようとしたものです。

本書の前半では、なるべく客観的なデータに基づき競争力の現状について分析、評価を行っています。「製造業の空洞化」、「中国脅威論」、「国際化が遅れる日本」、「日本企業における戦略の欠如」など、昨今取りざたされる日本の現状は本当に事実なのか? とかく印象論に陥りがちな国際競争力の議論をまずデータと経済理論から検証することが必要だからです。IMDの世界競争力ランキングを始めとして、貿易データに基づく日本製品の輸出競争力、生産性の動向から見た産業競争力分析等、さまざまな観点から日本の実力が明らかにされます。また、RIETIの「国際競争力研究会」で行った企業アンケート調査をベースにしたエレクトロニクス産業を中心とする日本企業の競争力分析が示され、更に「組織IQ」という新しいコンセプトを用いた分析を行っています。「組織IQ」とは、スタンフォード大学のメンデルソン教授らによって開発された企業組織の情報伝達、意思決定、組織の意識集中などを計数化することによって、企業の意思決定メカニズムを分析する手法です。この分析結果によると、日本企業は顧客等の外部情報に対する意識が低く、組織が閉鎖的で、内部知識共有の価値を十分理解していないなど、情報化によるスピード時代に適応できない姿が浮かび上がりました。

このような状況の打開策として注目されるキーワードの1つが「モジュール化」です。圧倒的なスピードで進展する情報技術の進展を背景にして、日本企業を取り巻く競争環境は急激に変化しています。本書の後半では、製品アーキテクチャーや産業組織の「モジュール化」による新たな国際競争を勝ち抜くための「作法」を示しています。「モジュール化」とは、製品技術や経営情報のデジタル化がの進展に伴ってすることにより、製品の設計、開発、や生産形態が、独立したより小さな部分(モジュール)に分解することを表したものです。製品のモジュール化が進むとモジュールごとのに並行的な分業が可能になるため製品開発のスピードは圧倒的に速くなり、また環境の変化に対する柔軟な対応が可能になります。このように「モジュール化」は経営環境が急激に変化するスピード時代の競争力の源泉といえる重要な概念です。

シリコンバレーにおけるベンチャー企業を中心としたイノベーションモデルやエレクトロニクス分野における中国や台湾などの東アジア諸国の対応も「モジュール化」によって説明することができます。垂直統合で自社にリソースを抱え込む大企業を中心とした日本的モデルは、「モジュール化」という新たな競争モデルの中で苦戦を強いられています。本書では、「モジュール化」時代を勝ち抜くための「作法」としての「技術ロードマップ」、「技術マーケティング」、「ナレッジマネジメント」等を、豊富な事例に基づいて丁寧に解説しています。

本書は、技術革新の進展や国際競争の激化などにより経済環境が急激に変化する中、「モジュール化」という切り口で問題点を整理し、日本経済が競争力を取り戻すために何が必要なのか提言を行ったものです。混迷する日本経済の今後を読み解く本として是非お勧めしたい一冊です。

元橋 一之

関連リンク:「競争力の研究」

著者(編著者)紹介

元橋 一之顔写真

元橋 一之

経済産業研究所上席研究員、一橋大学イノベーション研究センター助教授。東京大学大学院・修士課程およびコーネル大学経営大学院修了、慶応大学大学院・博士(商学)取得。OECD科学技術産業局エコノミスト、中小企業庁計画部計画課課長補佐、経済産業研究所客員研究員などを経て2002年4月より現職。