「マクロ経済と少子高齢化」プログラムについて

プログラムディレクター

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小林 慶一郎(プログラムディレクター・ファカルティフェロー)

長期的な成長の持続が世界経済の共通の課題となる中、わが国は他国に先駆けて急激な少子高齢化に直面している。わが国の経済活力を維持し、今後の世界経済の発展に貢献する政策提言に資する研究を展開する。具体的には、アジア地域の産業間・産業内サプライチェーンの在り方、国際金融と世界経済動向、長期経済停滞のメカニズムなどを分析する。また、包括的高齢者パネルデータの分析、社会保障と税財政の一体改革の方向性、コロナショックによる経済変動と産業構造変化へ向けての政策提言などに関する多面的かつ統合的な研究を行う。

プログラムの全体としては、次のような研究プロジェクトで構成する予定である。

国際的側面では、「為替相場と通貨制度の分析」「決済通貨と為替パススルーの分析」「経常収支・金融収支と貿易構造のマクロ的分析」などのテーマを設置し、各テーマにおける研究を深化させることで、経済産業政策に対する多面的な政策インプリケーションを導くことを目的とする。また、AMUとAMU乖離指標、および日本を含む世界25カ国の産業別実質実効為替レートのデータの公開などを行う。

日本経済の国内要因を重視したプロジェクトとして、マクロ経済政策では、日本の公的債務の安定化が、経済復興を円滑に進めるためにも不可欠の条件と考え、財政再建と国債の保有主体として金融システムの関係について理論的分析を行う。日本の長期デフレでは、長期デフレを単純な貨幣的現象ととらえるのではなく、経済の実物的な側面(長期にわたる実物経済の停滞)と深く関連する現象ととらえ、実体面の変調と貨幣的側面の変調の相互連関を解明する。例えば、日本のデフレ率と労働・資本の稼働率の関係を実証分析し、なぜデフレが続いているのかを検討する。日本の潜在成長率を人口推計、資本ストックの予想などから推計し、現実的な歳入見通しを作成する。景気悪化を避けつつ財政赤字を縮小し、長期的に維持可能な財政バランスを回復できる政策手段を検討し提言する。現在の税・社会保障制度の問題点を概観し、従来行われてきた税制改革だけでなく、社会保険料や社会保障給付の両面に踏み込んだ、抜本的な税・社会保障制度の改革を提案する。資本ストック、労働力人口と過去のGDP成長率から、全要素生産性を推計することで、日本の潜在成長率を推計する。またこれにより、傾向的な日本の実質成長率の低下の背景を分析し、資本ストックの伸び率の低下と労働力人口の減少傾向の寄与度を推計する。さらに社会保険料率引き下げによる雇用促進効果(タックス・ウエッジ削減効果)、温暖化対策のための投資補助金の成長促進効果などを推計する。

また、人工知能(AI)や自動化(すなわち、ロボット導入)の進展が、「労働を人から奪うことになるのか?」といった懸念を非常に強めている。こうした懸念を受けて、データを用いて、自動化が、これまで労働市場にどのような影響を与えてきたかを実証分析する。新たなデータ、分析手法を用いて、自動化がこれまでに労働市場、マクロ経済に与えてきた影響を明らかにすることを目指す。