「マクロ経済と少子高齢化」プログラムについて

プログラムディレクター

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小林 慶一郎(プログラムディレクター・ファカルティフェロー)

長期的な成長の持続が世界経済の共通の課題となる中、わが国は他国に先駆けて急激な少子高齢化に直面している。わが国の経済活力を維持し、今後の世界経済の発展に貢献する政策提言に資する研究を展開する。具体的には、アジア地域のバスケット通貨の役割など制度インフラの検討、国際金融と世界経済動向、長期デフレのメカニズムなどを分析する。また、包括的高齢者パネルデータの分析、社会保障と税制を一体とした改革の方向性、景気回復・財政再建の同時達成へ向けての政策提言等に関する多面的かつ統合的な研究を行う。

プログラムの全体としては、次のような研究プロジェクトで構成する予定である。

国際的側面では、特に日本とアジアの関係を重視したプロジェクトとして通貨バスケットとパススルーがある。通貨バスケットでは、2005年よりRIETIのウェブサイトで公表されているアジア通貨単位(AMU)およびAMU乖離指標を用いた域内為替レートの安定を引き続き提案するとともに、新国際通貨体制とアジアの通貨体制の在り方について研究する。パススルーでは、パススルーとそれに密接に関係する貿易インボイス通貨選択に関する諸問題を、価格設定行動、為替リスク管理、生産・販売ネットワーク、企業競争力などの要因をキーワードとして、マクロ経済全体と企業レベルの双方の観点から分析する。さらに、世界貿易の落ち込みでは、2008/09年の景気後退期に世界経済が経験した貿易の落ち込み―いわゆるGreat Trade Collapse―が日本のマクロ経済に与えた影響について、サプライチェーンなどの構造変化に着目しながら分析する。企業レベルのミクロデータの収集とその分析もプロジェクトに加えることで、より多角的に日本経済をとらえ、マクロ経済政策に直結する研究を行う。

日本経済の国内要因を重視したプロジェクトとして、マクロ経済政策では、日本の公的債務の安定化が、経済復興を円滑に進めるためにも不可欠の条件と考え、財政再建と国債の保有主体として金融システムの関係について理論的分析を行う。日本の長期デフレでは、長期デフレを単純な貨幣的現象ととらえるのではなく、経済の実物的な側面(長期にわたる実物経済の停滞)と深く関連する現象ととらえ、実体面の変調と貨幣的側面の変調の相互連関を解明する。例えば、日本のデフレ率と労働・資本の稼働率の関係を実証分析し、なぜデフレが続いているのかを検討する。日本の潜在成長率を人口推計、資本ストックの予想などから推計し、現実的な歳入見通しを作成する。景気悪化を避けつつ財政赤字を縮小し、長期的に維持可能な財政バランスを回復できる政策手段を検討し提言する。現在の税・社会保障制度の問題点を概観し、従来行われてきた税制改革だけでなく、社会保険料や社会保障給付の両面に踏み込んだ、抜本的な税・社会保障制度の改革を提案する。資本ストック、労働力人口と過去のGDP成長率から、全要素生産性を推計することで、日本の潜在成長率を推計する。またこれにより、傾向的な日本の実質成長率の低下の背景を分析し、資本ストックの伸び率の低下と労働力人口の減少傾向の寄与度を推計する。さらに社会保険料率引き下げによる雇用促進効果(タックス・ウエッジ削減効果)、温暖化対策のための投資補助金の成長促進効果などを推計する。