インセンティブ構造としての『企業法』

研究会議論要旨

第1回:研究プロジェクトの概要・目的の説明

日時:2007年4月11日
場所:経済産業研究所 1121会議室

「インセンティブ構造としての『企業法』」と題した本プロジェクトの目的は以下の3点である。

第1に、「企業法(Enterprise Law)の全体像を解明することである。会社法、金融商品取引法、倒産法、労働法、租税法といった、各法分野を越え、これを1つの「企業法」として検討しようという試みは、意外にもこれまであまり行われてこなかった。「企業法」の定義は、「企業活動に不可欠な資源の提供者間の動機付け交渉に影響を与える法制度」とする。これに対して、単にリーガル・エンフォースメントに限らず、プライベート・エンフォースメントの重要性も考慮していく必要があるとの指摘、さらに、独占禁止法や知的財産権法が動機付け交渉に影響を与えうるとの指摘があった。

法制度が動機付け交渉に与える影響を議論するためには、各プレーヤーが資本を拠出する際の不安を解消し、自らの利益を最大化するために、インセンティブを付与しあうことが重要である。具体的には、人的資本の拠出者(経営者・従業員)が要求するオートノミーと、それに対して物的資本の拠出者(株主・債権者)が必要とするモニタリング権限のバランスに法制度がどのような影響を与えているかの考察が重要である。

さらに、第5のプレーヤーとして、政府も考察の対象に加える。これに対して、政府は、税収を最大化するインセンティブを有していないのではないかという指摘もなされたが、規範的議論として、政府が、ディスインセンティブをなくすような税制を設計することの可能性を検討することとした。

第2に、いかなる法制度が、どのように各プレーヤーのインセンティブに影響を及ぼしているのかどうかを、各論的に検討することである。

第3に、効率的な動機付け交渉を促進する立法政策の提言まで視野に入れて、法制度の規範的検討を行うことである。

以上のような本プロジェクトの目的に関連して、世界の法と経済学会において、以下の2つの論争が存在している。

1つは、世界のコーポレート・ガバナンスの形態は、1つに収斂するのか否かという議論(Convergence of Corporate Governance )である。本プロジェクトでは、法制度等の形式的収斂のみならず、実質的収斂についても検討する予定であるが、実質的な収斂を見るためには、動機付けパターンに着目する必要があり、市場環境や、企業特殊的投資の必要度合い、企業の成長段階等に応じた最適な動機付けの仕組みは何かを、生産的に議論していくことが重要である。ここで「最適」とは何をもって最適とするのかという議論も必要であろう。

第2番目には、法制度が(いかに)実態を決めるか否かという議論(Law Matters)である。一般に、各論的な法制度が、あらゆる状況下で同じように作用することを前提とした議論がなされる傾向があるが、各法制度が、各プレーヤーのインセンティブに与える影響を、外生的要因も考慮して検討する必要がある。さらには、異なる法分野間の連携ないし不整合がインセンティブに与える影響も議論する必要があろう。

そこで、本プロジェクトの初年度では、各論として、以下のような項目を順次検討していく。各分野の専門家より提示される、プレーヤーのインセンティブに影響を与えると考えられる法制度に対して、他分野の専門家の意見を通じて、異なる法分野間の連携・不整合を具現化させる。

2007年度検討項目一覧

  • 機関投資家の議決権行使
  • ベンチャー・キャピタルの役割と法規制の影響
  • 証券市場規制のエンフォースメント
  • 役員報酬規制
  • 倒産法・企業再生
  • コーポレート・ガバナンスにおける負債の役割
  • 労働法・解雇規制・労働組合・年金制度
  • 企業買収の実務と法制度
  • 企業グループ・株式持合い
  • 税制
  • 法制度間の連携・不整合(2007年度の総括)