RIETI-CEPRシンポジウム

外国人材と労働市場:欧州と日本の事例(議事概要)

イベント概要

  • 日時:2026年5月11日(月)14:00-17:20(JST)
  • 会場:イイノホール&カンファレンスセンター + オンライン配信あり(ハイブリッド開催)
    (千代田区内幸町2-1-1 飯野ビルディング4階)
  • 主催:独立行政法人経済産業研究所(RIETI)、経済政策研究センター(CEPR)

議事概要

人口動態が変化し続ける中、先進国は労働力としての外国人の受け入れを行い、依存度を高めてきたが、同時に、外国人との社会的・経済的共生をどのように図るのかが重要な政策課題となっている。本シンポジウムでは、米国やスイスが先行して経験してきた移民受け入れの近年のトレンドと労働市場への影響や、日本の労働市場における外国人労働者の役割や特徴などについて検討した。それぞれの研究成果を紹介しつつ、労働市場のダイナミクス、制度的枠組み、社会的統合など多様な観点から外国人材の受け入れについて議論し、移民への対応や共生の促進へ向け、今後の政策の選択肢と方向性を探った。

開会挨拶

深尾 京司 (RIETI理事長 / 一橋大学経済研究所特命教授)

少子高齢化が進展する先進国においては、外国人材が労働市場を支える重要な担い手となっています。人手不足への対応という短期的課題に加え、外国人材の受け入れが雇用構造や賃金、労働市場全体のダイナミクスに及ぼす影響、さらに外国人との共生は、各国共通の重要な研究政策課題となっています。本シンポジウムでは、欧州および日本の最新の研究成果を共有しながら、外国人材の受け入れが労働市場にどのような影響をもたらしているのか、また今後の制度設計や政策対応にどのような示唆が得られるかについて、経済分析の観点から議論します。本日の議論が外国人材の受け入れと労働市場のあり方を考える上で、学術的にも政策的にも有益な知見を提供することを期待します。

セッション1:誰のアメリカン・ドリームか? 移民と非移民の世代間移動と政策選好

セッションチェア兼討論者

大久保 敏弘(RIETIファカルティフェロー / 慶應義塾大学教授)

プレゼンテーション

ヒレル・ラポポート(CEPR 移民研究・政策ネットワーク(RPN)共同ディレクター / パリ経済学院(Paris School of Economics, PSE)教授)

このシンポジウムのテーマは外国人材の受け入れ(移民)ですが、私は移民に対する認識と、それが世論や政策に及ぼす影響についてお話ししたいと思います。マッテオ・フェローニ、ハビエル・ソリアとともに行ったこの研究では、移民の世代間移動に関する情報を提供することが、人々の政策選好に変化をもたらすかどうかを検証しました。

多くの移民が思い描くアメリカン・ドリームは、自分の子どもたちにチャンスを広げることが主眼となっています。しかし、移民を受け入れる側の国民は、第2世代よりも第1世代の移民について考える傾向があります。第2世代は成功と社会への統合の遂げることが多いからです。それゆえ第1世代だけに焦点を当てると、移民の重要な側面を見失うと私たちは考えています。

移民に対する一般の人々の認識はしばしば実態と乖離(かいり)します。移民の総数や、特定の移民集団がそこに占める割合についても過大評価しがちで、経済的流動性についても同様の誤認が見られます。実際には、米国の移民第2世代は、同じような低所得層出身の非移民の子どもよりも、一般的により高い上方移動を達成しています。所得分布が25パーセンタイル(下から25番目付近)の家庭に生まれた非移民の子どもは、41パーセンタイル(下から41番目付近)に到達するのが一般的ですが、移民の子どもは出身国にかかわらず、それを上回る経済的上昇を遂げることが多いのです。

しかし、私たちの調査では、移民の子どもたちの方がより高い上方移動性(社会経済的な上昇移動)の機会を持っていると正しく認識している回答者は、わずか15%にとどまりました。そこで私たちは、この実態に関する情報を提供することで、移民や再分配、包摂性に対する人々の考え方が変わるのかを検証しました。

移民の成功の解釈には、2通りの可能性があります。プラスサムの考え方をする人(双方に得るものがあると考える人)は、それを移民が社会に貢献している証しであると捉え、ゼロサムの考え方をする人(一方が得をすれば他方が損をすると考える人)は、それによって競争が激化すると考えるかもしれません。実証すべき問いは、「どちらの考え方が支配的であるか」です。

全米の4,000人の国民を対象にした調査の結果、移民の世代間移動に関する情報を提供すると、正しい認識を持つ人の割合が15%から57%へと増加することが分かりました。こうした認識の是正は、移民支持の拡大や包摂的な政策選好につながります。ただしその結果は、個々人の考え方や、居住地域における移民の状況によって異なります。

コメント

大久保:
第1世代移民の静的なアウトカムから、第2世代の世代間移動や、移民の成功に関する情報への人々の反応の変化へ視点を転換したこと――その点でこの論文は重要な貢献を果たしています。

その主たる研究結果は、移民の世代間移動に関する情報提供は移民や移民政策への支持を高める一方、再分配政策全般の選好にはほとんど影響を与えないというものです。これは再分配の全体的規模と、再分配における配分先に対する考え方は別であるということを示唆しています。人々は、全体として再分配の規模については考えを変えませんが、誰がその再分配の恩恵を受けるべきかについては考え方を変えるのです。

考えられるひとつのメカニズムは「ふさわしさ」です。移民の子どもの成功に関する情報に接することによって、人々は移民を勤勉で社会に統合されていると見なすようになり、その結果、移民は支援を受けるのにふさわしいという捉え方が高まります。しかし、人々が広く平等主義になるかというとそうではなく、どの集団が支援を受けるのにふさわしいかという認識が変わるだけです。

方法論的に懸念されるのは、操作変数(IV)法は情報を処理・理解する人だけを捕捉しており、局所平均処置効果(LATE)として解釈しなければならないという点です。実際には、多くの人がそうした情報を無視または誤解する可能性があります。そのため外的妥当性には限界があり、推定された効果は実際より大きくなっている可能性もあります。

最後に、移民の成功に対する解釈は国によって異なるかもしれません。米国では、それはアメリカン・ドリームや能力主義と合致しますが、日本のように同質性の高い国では、それは競争激化や社会的一体性に対する懸念を引き起こす可能性があります。したがってこの論文で浮き彫りになるのは、情報によって「ふさわしさ」に対する認識は変わり得るけれども、より広範な再分配そのものに対する考え方は必ずしも変わらないということです。

ラポポート:
コメントありがとうございます。この論文で述べられているのは再分配への支持の拡大ではなく、包摂性の拡大であるという解釈は重要です。一方で、私としては今回の主な成果は、移民を「貢献者」と考えるか「競争相手」と考えるかによって人々の反応が変わってくることを示したことにあると考えています。いただいたコメントは、その貢献の部分をどう表現すべきかを明確にする上で参考になります。

計量経済学的な点についてですが、この調査は標準的な手法に従って、アテンションチェック(注意確認質問)をクリアしなかった人や、設問に十分に取り組んでいないのが明らかな人を除外しています。移民に関する情報に注意を向けていない人は数多くいるので、実際の効果はもっと小さいかもしれませんが、調査において注意を払わないからといって現実の社会問題に無関心とは必ずしも言えません。

社会的文脈に関するご指摘は特に重要です。米国の場合、社会的地位の向上に関する情報は能力主義やアメリカン・ドリームといった考え方と合致します。しかし日本のように同質性の高い社会では、同じ情報が全く違う反応を引き起こす可能性があります。これについてはさらに研究を深めたいと思います。

Q&A

Q:
中国の流動性スコアは何を意味していますか。

ラポポート:
貧しい中国系移民家庭出身の子どもたちは平均して、25パーセンタイルの所得水準から71パーセンタイルまで上昇しており、極めて高い上方移動を示しています。

Q:
これらの研究成果は外国人労働者受け入れ制度に応用できますか。

ラポポート:
外国人労働者受け入れ制度には、永住する第2世代を想定していないことが多いため、今回分かったメカニズムをそのまま応用するのは難しいでしょう。

セッション2:難民の労働市場統合におけるジェンダーの側面:スイスの事例

セッションチェア

橋本 由紀(RIETI上席研究員(政策エコノミスト))

プレゼンテーション

マルティナ・ビアレンゴ(高等国際問題・開発研究所(ジュネーブ)教授 / CEPRフェロー)

この研究は、世界的な強制移住の規模や期間の拡大、構成の変化を背景に、スイスでの難民の経済的統合におけるジェンダーギャップについて検討しています。強制移住が長期化し、しかも都市部で難民が増える中、難民の統合はますます重要になっていますが、ジェンダーによる違いに関してはまだまだデータが十分ではありません。

スイスはこの研究に適した場所です。というのも、難民申請者たちは地理的な分散政策によってスイス全土の各州に疑似ランダムに割り振られるため、地域ごとの事情がもたらす影響を特定しやすくなるのです。本研究では、スイスの難民全体を20年間にわたって追跡した、独自の縦断的データセットを用いています。

難民の労働市場統合に影響を及ぼす要因として、大きく二つの側面に注目しました。出身国の文化と、難民到着時の地域の状況です。文化的要因には、労働市場参加や出産をめぐるジェンダー規範などが含まれます。地域的要因は、失業率、同国人ネットワーク、ジェンダー平等に対する地域住民の考え方などです。地域住民の考え方については、アンケート調査への回答ではなく投票結果を用いて測定しています。

到着時の難民の就業率は男女とも低水準ですが、女性は男性よりさらに低い水準から始まり、社会的統合のスピードも遅く、20年経過後も顕著な雇用ギャップが継続しています。出身国での女性の就業率が高いほどジェンダー間の雇用ギャップは小さくなりますが、出産に関する規範が強いとギャップは大きくなります。こうした影響は女性に特有のもので、かつ長期にわたり持続します。

地域の状況も重要です。地域住民のジェンダー平等意識が高いと、難民の雇用面のジェンダーギャップは少なくなります。同国人ネットワークは男女双方の雇用を促進しますが、その根底にあるメカニズムは異なります。一つの説明としては、就労していない同国人は育児支援を通じて女性の労働市場参加を支援し、就労している同国人は男性が雇用機会を得る助けとなるということです。失業率が高い地域では、男性に比べて女性へのマイナスの影響がより大きくなります。

この研究結果から、難民統合政策では、ジェンダー中立的な政策はこうしたギャップの解消には十分ではなく、ジェンダーにもっと注意を払うべきであることを示しています。子育て支援などのターゲットを絞った施策や、地域の状況を踏まえた就労支援政策が、長期的な統合の改善に役立つと思われます。

コメント

劉 洋(RIETI上席研究員(政策アドバイザー))

この論文は、スイスにおける20年にも及ぶ豊富なデータを活用するとともに、出身国の文化と地域の状況の両方がスイスにおける難民女性の労働市場アウトカムにどのような影響を与えるかを分析している点で、重要な貢献を果たしています。

私からは、まず、本シンポジウムの目的に照らして、日本との比較という観点からコメントしたいと思います。第一に、論文に示されたように、スイスでは、女性の労働参加率(LFP)や出生率に表れる出身国のジェンダー規範が、移住後の女性の就業成果に影響を与えています。日本に関する研究でも、出身国における女性の労働参加率が、既婚外国人女性の日本での労働参加に影響を与えることが示されています。つまり、移住後も、ジェンダー規範が根強く残るということです。よって、統合政策では文化的背景を考慮する必要があります。第二に、受け入れ国の制度の影響についてです。スイスの場合、地域の雇用情勢や住民のジェンダーに対する考え方が、雇用におけるジェンダーギャップに影響を与えることが、この論文に示されています。一方、日本に関する研究では、労働市場制度、雇用慣行、国内の経済状況が外国人労働者のアウトカムに影響を及ぼすことが明らかにされています。こうした結果は、受け入れ国側の制度や環境を改善することによって、外国人の労働市場へ統合が促進される可能性を示唆しています。

さらに、今後の研究に向けては、背景にあるメカニズムを明らかにすることが重要だと思います。まず、難民の雇用(就業率)に対する影響については、労働参加を通じた経路だけでなく、労働市場に参加した後の失業を通じた経路も考えられます。前者、すなわち労働参加を通じて就業率に影響を与える経路については、ビアレンゴ先生のご発表で示されたように、ジェンダー規範を反映していると考えられます。一方、後者の失業を通じた経路については、人的資本や労働市場の状況なども重要な要因となる可能性があります。したがって、難民の就業率に対する影響を解釈する際には、ジェンダー規範だけでなく、人的資本や労働市場要因も併せて考慮することが重要だと思います。それから、妊娠・出産のアウトカムに関しても、出身国の規範だけでなく、受け入れ国の子育て・家庭政策にも左右される可能性があります。したがって、出身国の出生率が労働市場アウトカムに及ぼす影響が徐々に弱まっていることは、文化的要因の影響が弱まったという説明だけでなく、難民が保育サービスや家族支援制度をより利用しやすくなったことによって、仕事と子育てを両立しやすくなった可能性についても、結果を解釈する際に検討する必要があるのではないかと思います。

スイスでの研究結果からは、日本にとっての重要な問題も浮かび上がります。スイスのように文化的影響が長く持続するのだとしたら、女性の労働力率が高い国から来た外国人女性は、たとえ日本のジェンダー平等意識が相対的に低い状況下でも、日本の労働市場で引き続き貢献する可能性があります。実際、日本に長期にわたって滞在した後でも、外国人女性の労働力率は下がらないという研究結果があります。

視点をもっと広げると、移民統合の成功が受け入れ国の人々にも恩恵をもたらすのかどうかを明らかにすることが、今後の研究や政策論議においても引き続き重要なテーマとなります。

ビアレンゴ:
コメントおよび日本との比較、ありがとうございます。この研究結果は、制度設定が大きく異なる国に移住後も、出身国の規範は長く持続するという考え方を裏付けています。これは、移住前に形成された価値観や嗜好(しこう)、信条が、とりわけ垂直伝播の経路を通じ移住後の労働市場における行動に影響を与え続けるという、疫学的アプローチとも合致します。私たちの研究でも、雇用だけでなく労働参加率や所得といった幅広い労働市場アウトカムについて分析しています。加えて、在留資格の状況など、難民の属性の経時変化を調整することで、労働市場参加の異なる側面を捉えています。

Q&A

Q:
就業率の低い難民グループがあるのは、その人たちが文化的信条を理由に彼らが働くことを望まないからなのでしょうか。つまり、求職中の失業者という伝統的な分類は彼らに当てはまらないのでしょうか。

ビアレンゴ:
私たちは労働市場における実際の行動を観察しており、その点について結論付けることはできません。私たちが明らかにできるのは、各人が就労しているかどうか、積極的に求職しているかどうか、就労も求職もしていないかどうかであり、これらの側面を区別して分析することは可能です。

セッション3:日本における外国人と日本人の賃金格差:在留資格による分離

セッションチェア

大久保 敏弘(RIETIファカルティフェロー / 慶應義塾大学教授)

プレゼンテーション

橋本 由紀(RIETI上席研究員(政策エコノミスト))

日本の外国人労働者は、2008年の約50万人から2025年には約257万人へと大幅に増加しています。中でも特定技能外国人は、2020年から2025年にかけて約40倍に拡大しました。

特定技能・技能実習生を雇用する事業者は、その大部分が中小企業であり、低賃金や労務管理上の問題がしばしば指摘されます。われわれの研究では、日本人と外国人の賃金差の大部分が年齢や学歴などの人的資本、雇用形態などの企業の人的資本管理(HRM)で説明できることが分かりました。また同一企業内の日本人と外国人の賃金差は約6.2%で、欧米諸国の平均程度です。また、学歴や賃金分布は在留資格グループごとに大きく異なります。技能実習や特定技能の在留資格者は、外国人労働者の中でも確かに比較的低賃金の雇用に集中しています。

法人企業統計調査データを用いた研究では、技能実習生や特定技能者の雇用は生産性向上には結び付いていない一方、人手不足の緩和や生産水準の維持には寄与していることが分かりました。しかし、技能実習生が特定技能への移行後に、地方から都市部へ移動し、地方で人材不足が深刻化しています。特定技能外国人の転職に対して、技能実習生を育成するために企業が投じたコストをどう扱うかは、育成就労制度においても引き継がれるべき課題です。

外国人労働者本人へのアンケート調査の結果からは、仕事への興味や能力を発揮する機会が満足度と強く関連し、給与面だけではなく働きやすさやキャリア形成を重視する傾向が確認されました。しかしながら、外国人労働者の昇進機会は依然として限られており、この点は日本の非正規雇用が抱える課題とも共通しています。今後は、質の高い大規模データセットの整備とエビデンスに基づく政策立案がともに重要です。

コメント

近藤 恵介(RIETI上席研究員 / 神戸大学経済経営研究所准教授)

コメントを述べる前に、橋本上席研究員の発表内容を簡単にまとめさせてください。本研究は、賃金構造基本統計調査の直近のミクロデータや経済産業省の新しい調査を用いて、日本人労働者と外国人労働者の賃金差を調べたものです。判明した主な結果は、総賃金格差は存在するものの、労働者や職場の特性を調整すると格差はなくなるということです。言い換えれば、観察された賃金格差は観測可能な要因ですべて説明できるわけです。この研究ではまた、日本の需要主導の外国人政策が外国人の職業や教育に影響を及ぼし、それを通じて賃金分布の形成にも影響していることが分かりました。さらに、外国人労働者は仕事の内容やキャリア形成をますます重視するようになっているため、こうした選好の変化に対する企業の対応も重要です。

私からのコメントは二つあります。まず、外国人労働者は日本人労働者と同じ賃金の教育収益率や勤続収益率を享受しているのかという点です。計量経済学の専門的な視点から言えば、現状のアプローチは説明変数の係数が日本人労働者と外国人労働者で同じだということを前提として、定数項の違いに焦点を当てています。しかし係数推定値の違いも重要かもしれません。今後それを調べるにはBlinder-Oaxaca分解が有効と考えられます。この点は外国人労働者の長期的な経済的統合を理解する上でとりわけ重要です。

二つ目はジェンダーに関してです。外国人労働者内のジェンダーによる賃金格差は、より注意深く検討する余地があると思います。外国人を在留資格で分類した予備的なデータ分析によると、専門職労働者や技能実習労働者の月額賃金においては、目立ったジェンダーギャップはありません。ところが、永住者や配偶者など身分・地位に基づく在留資格のある外国人労働者では顕著なジェンダーギャップが存在し、特定技能労働者でも、程度は小さいものの同様のジェンダーギャップが見られます。特に身分・地位に基づく在留資格のある外国人労働者の雇用条件は日本人と同等となっています。なぜ一部の在留資格の外国人労働者内において、このような月額賃金のジェンダー格差が生まれているのでしょうか。そのメカニズムを理解することが、今後の研究やエビデンスに基づく政策立案にとって重要なテーマになると思います。

橋本:
女性の分析に関してはすでに研究プロジェクトで着手しています。在留資格によって男女の賃金差の大きさが異なることまでは確認できていますが、資格間で異なるメカニズムが生じる理由については、まだ検討中で、今後の課題です。

Q&A

Q:
中小企業の賃上げ余力が低い説明としては、労働分配率よりも、売上高、利益率が大企業に比べて総じて低い事実の方が適当ではないでしょうか。

橋本:
本研究では、中小企業では売上高や1人当たり付加価値額が低いことも併せて示しています。これらの結果と労働分配率が高いことは矛盾するものではなく、相互に整合的な結果であると考えています。

セッション4:パネルディスカッション

セッションチェア

田村 暁彦(RIETIシニアアドバイザー / 日本貿易振興機構(JETRO)パリ事務所長)

パネリスト:
  • 神林 龍(武蔵大学経済学部経済学科 教授)
  • 大久保 敏弘(RIETIファカルティフェロー / 慶應義塾大学教授)
  • ヒレル・ラポポート(CEPR 移民研究・政策ネットワーク(RPN)共同ディレクター / パリ経済学院(Paris School of Economics, PSE)教授)
  • マルティナ・ビアレンゴ(高等国際問題・開発研究所(ジュネーブ)教授 / CEPRフェロー)

田村:
本セッションは、これまでの三つのセッションで示された知見を踏まえ、日本における外国人労働者受け入れ政策の検討に役立てることを目的としています。日本では、1980年代末以降、在留外国人数および外国人労働者数はすう勢的に伸びてきており、2025年時点でそれぞれ413万人(総人口の3.35%)および257万人となっています。これと歩調を合わせながら、外国人の在留資格の制度整備が進められてきました。近年は、高度人材を積極的に受け入れるという政府方針の下、高度専門職や技人国(技術・人文知識・国際業務)などさまざまな在留資格が創設・再編されています。外国人労働者は、就労目的在留者、技能実習生、留学生アルバイトなど多様な在留資格で構成されており、国籍別ではベトナム、中国、フィリピンが中心で、製造業やサービス業を中心に就労し、小規模事業所での雇用割合が高いことも特徴となっています。政府は高度人材の受け入れを推進する一方、その他の分野については経済効果や社会的コストなどを踏まえた慎重な検討が必要としています。

プレゼンテーション

神林:
日本では現役世代の人口減少が続く一方、その就業率は急速に上昇し、2024年には8割と、ほぼ上限に近づいています。増加する労働需要に対して、外国人労働者の役割は急速に高まっており、コロナ後には就業者数を維持するために必要だった労働者数と、外国人の増加がほぼ同数になりました。

現役世代の就業率の上昇は、主に女性のパートタイム労働によって実現されてきました。労働時間ベースでの労働供給を増やすためには、パートタイムからフルタイムへの転換が課題となります。そのためには、家事・育児との両立支援だけでなく、職務設計、昇進・訓練機会の配分、評価制度の見直しなど、企業のマネジメント改革が不可欠です。しかし日本では、女性の個人的意識変革によって対処可能と考える傾向が強く、組織変革は十分に進んでいません。結果として、現役世代の人口減少で空いた穴は、外国人労働者で埋める構図になっていると考えています。

日本の外国人政策は、使用者のインセンティブによって外国人を日本的雇用慣行に組み込む雇用政策と、自治体中心の社会的包摂を目指す多文化共生政策が分離して進められてきました。欧米では、外国人の包摂を社会政策1本に担わせるやり方は、既にさまざまな問題が生じていることはご承知の通りです。使用者責任と社会的包摂のバランスを取りながら制度を設計することが求められますが、その実現は容易ではないでしょう。

大久保:
私は、外国人労働者をめぐる議論では、データや理論だけでなく人々の認知が重要になると考えています。本日は、私とNIRA総研で実施した日本人就業者8,100人に対する就業者調査の結果を基にお話しします。この中には、「職場で外国人と働いているか」「共生は難しいか」「職場において外国人労働者は不可欠か」「移民政策を支持するか」「ビザ規制を強化すべきか」といった質問項目があります。

分析の結果、職場で外国人と働く機会が多いほど、外国人労働者を必要と認識する傾向が強く、日本経済への貢献を評価する傾向が見られました。一方で、日常生活での共生意識との間には相関が見られませんでした。職業による違いも大きく、農林水産業や運輸業、飲食業では移民政策への支持が低い一方、ビジネスマネジメントや専門職では比較的前向きでした。デジタル化による労働力不足解消への期待については、外国人との接触機会との相関はほとんど見られませんでした。まとめると、外国人労働者との接触は受け入れ意識に一定のプラスの影響を与えるものの、その影響は職業によって大きく異なることが示されました。

ラポポート:
欧州と日本は移民受け入れの歴史において大きく異なりますが、お互いから学べることは数多くあります。数十年にわたる研究から学ぶべき一つの重要な教訓は、移民が受け入れ国の賃金や雇用に与える影響は、平均的には小さいということです。移民はしばしば受け入れ国の労働者を補完し、多様性を高め、イノベーションや生産性、グローバル経済への統合を促します。

日本にとって大きな課題は、より多様で高度な技能を持つ人材を呼び込むことです。それには一時的な労働力の受け入れだけでは不十分です。移住先を選択できる立場にある高度人材は、長期的な統合の機会があり、開放性や多様性のある社会に定着する可能性が高いでしょう。移民に対する制限的な姿勢を変えないままでは、高度人材にはなかなか来てもらえません。移民政策においては、移民は単なる労働者にとどまらず、将来的な社会の構成員でもあるとの認識を持たなければなりません。研究によれば、反移民感情の強い社会は高度人材を引きつけにくく、他方、低スキルの移民はポピュリスト的な風潮をさらに強化しかねないことも分かっています。

異人種間結婚に対する米国人の考え方の変化を見れば分かるように、文化的な価値観は時間とともに飛躍的に変化することがあります。結局のところ、開放性は道徳の問題であるのみならず、経済的な資産でもあると認識したとき、社会は変わるのです。閉鎖的な社会は成長やイノベーション、長期的繁栄の機会を逸するというのは、歴史が示す通りです。

ビアレンゴ:
先ほどのセッションのまとめの機会をいただき、ありがとうございます。私が発表した研究は、1998年から2018年までのスイスの難民全体を対象とした行政データ、社会保障データ、雇用データを使い、スイスでの難民の労働市場統合について分析したものです。スイスの疑似ランダムな地理的分散政策のおかげで、私たちは地域の状況が雇用や所得に与える影響について因果関係を特定することができます。

研究からは、女性の労働参加率が高い国出身の女性は統合が早く、この効果は時間とともに強まることが分かりました。出身国の出生率が高いと、受け入れ国への女性の統合を遅らせますが、この効果は10年ほどで薄まります。こうした文化的要因は男性のアウトカムには有意な影響はありません。受け入れ地域の状況も重要で、失業率が高いほど、その影響は男性に比べて女性により大きく現れます。同国人ネットワークは男女で異なる影響を及ぼし、また、割り振られた州のジェンダー平等意識が高いと、雇用面のジェンダーギャップが減少します。

本研究は、労働市場への統合のスピードや程度を左右する条件を明らかにしています。日本との比較からは、ジェンダーギャップが異なる文脈においても現れることが示唆され、統合におけるジェンダーの側面を把握することの重要性が浮き彫りとなりました。これらの結果は、今後の研究課題を示しています。例えば、文化的規範が作用するメカニズムと、その規範がどのような経路で持続・変化するか――これらについて、さらに研究を続けようとしているところです。

ディスカッション

ラポポート:
2点コメントします。まず、移民の賃金への影響は純粋に労働者の構成の変化によるのでしょうか、それとも移民の流入が受け入れ国の労働者の賃金そのものを変化させるのでしょうか。この違いは重要です。次に、賃金格差がないからといって必ずしも差別がないわけではありません。労働市場のセグメンテーションや流動性の制限は、それ自体が差別になり得るからです。

ビアレンゴ:
質問が二つあります。まず神林先生にですが、外国人労働者のキャリアや所得の伸びは移民ステータス(在留資格)や学歴によってどの程度異なるのでしょうか。また、統合政策への影響はどのようなものでしょうか。それから大久保先生にですが、労働力調査は留学生も対象にしていますか。また、卒業後も日本に残って労働市場に統合される学生には、どのようなパターンが見受けられますか。

神林:
技能実習生や特定技能人材については、企業が基幹労働力として育成し、長期雇用や管理職登用につなげられるかが重要なのですが、これは日本的雇用慣行のコアとして外国人労働者を包摂することを示しています。ということは、外国人材を基幹労働力として育成する方針は日本的雇用慣行と親和的で、日本型雇用慣行の見直しを進める政府の労働市場政策との整合性が全く取れていないのが現状です。

大久保:
私のデータは日本人労働者のみを対象としており、留学生は含まれません。勤労学生は含まれますが、外国人は含まれません。

Q:
昨今の日本の外国人受け入れ政策の厳格化、経営管理ビザや技人国ビザの厳格化、秩序の部分の協調によって恩恵を受けるのは誰だと考えられますか。また、欧州ではそのような厳格化はなかったのでしょうか。

神林:
現時点では、特定の主体が恩恵を受けると断定することは困難です。もちろん、政策が発議される以上、その発議者には何らかの政策目的や自己の利益を実現しようとする意図が存在します。しかし、通常の雇用政策では、発議者の目的だけで政策が決まるわけではありません。日本では、労使自治という制度原理の下で、使用者と労働者という利害関係者の調整を経て、各主体への影響を踏まえた政策として形成されます。これに対して、外国人受け入れ政策では、外国人労働者という当事者が政策形成に十分参加できず、そのような利害調整の仕組みが十分に機能しているとは言えません。そのため、政策発議者の目的は理解できたとしても、その政策が使用者、外国人労働者、日本人労働者などにどのような利益・不利益をもたらすことを想定して設計されているのかを評価することは容易ではありません。また、先に説明したように、日本ではビザ制度は雇用政策の一環として、子弟教育などの多文化共生政策は社会政策の一環として、それぞれ独立に決定される傾向があります。そのため、社会政策上の利益を実現するためにビザ制度を厳格化していると解釈したとしても、その政策が雇用面に及ぼす影響を他の政策との関係も含めて総合的に評価する枠組みは十分に整備されていません。したがって、「誰が恩恵を受けるのか」という問いに対しては、発議者が一定の政策目的を有していることは前提としつつも、その目的が利害関係者との調整を経て政策全体の利益として整理される制度的枠組みが十分に存在していないため、政策目的の観点から特定の主体を受益者として規範的に位置づけることは困難です。さらに、実際にどの主体が利益を得ているのかについては、十分なデータがあれば実証的に検証することは可能でしょう。しかし、本シンポジウムでも明らかなように、そのようなデータは現時点では十分に存在しておらず、特定の主体が受益者であると実証的に指摘することも困難であると考えます。

ビアレンゴ:
既存のデータに基づくと、一般的に、難民の統合には法的資格や労働市場へのアクセスが不可欠ですが、他方、語学トレーニングは雇用や社会的一体性を着実に改善します。積極的な労働市場政策に関しては研究結果が分かれていますが、求職支援や職業訓練はそれなりに有効です。政策の有効性は個別の介入だけでなく、費用対効果、拡張性、背景事情や制度にも左右されます。

閉会挨拶

ベアトリス・ウェーダー・ディ・マウロ(経済政策研究センター(CEPR)所長/高等国際問題・開発研究所(ジュネーブ)教授)

第21回を迎えたRIETI-CEPRシンポジウムでしたが、今回もまた、研究に裏付けられたエビデンスに基づき、重要な課題に両機関が共同で取り組めることが示されました。高齢化が進み、移民に対する政治的反動が強まる中、外国人材の受け入れが極めて重要な政策課題になったことが浮き彫りになりました。移民が非移民の賃金や雇用に与える影響はごく限られていることがデータで示されているにもかかわらず、多くの国が制限の厳格化を検討しています。議論の中で強調されたのは、移民に対する姿勢は認識やマインド――中でも移民をゼロサムとして考えるか、相互を利すると考えるか――によって形づくられるということです。国民意識や社会的規範が進化したように、こうした考え方や態度も時間とともに変化することがあります。

各国の経験が参考になります。英国がEUを離脱しても移民総数は減らず、移民の流れが非欧州諸国に向かうようになりました。スイスのかつての外国人労働者制度では、統合なき一時的受け入れは社会の分断を引き起こし、統合がうまくいかないことが分かりました。対照的に、難民の統合は困難で時間を要するものの、時間をかければやがて労働市場への統合も実現可能であることが示されています。

今後、欧州やアジアの人口減少に伴って外国人労働者に対する需要が高まる一方、アフリカでは急速な人口増加が続きます。政策立案者にとっては、社会の開放性、統合、そして人口の長期的持続可能性のバランスをいかにとるかが課題となります。今回のシンポジウムは、こうした議論に情報やデータを提供し、将来的な政策選択のガイド役を果たす上で、エビデンスに基づく研究が重要となることを改めて示しました。