RIETI Workshop on International Economics

開催案内

RIETI「米中対立のミクロデータ分析」プロジェクトと科研費「グローバルサプライチェーンと日本の国際競争力、経済安全保障」プロジェクトでは、地政学的リスクの影響と企業行動、産業政策・補助金と国際貿易、グローバルサプライチェーンと生産性などについて、企業・税関など様々なミクロデータを用いて分析を行ってきた。本ワークショップでは、これらの研究成果を報告・議論し、政策含意を得ることを目的とする。

イベント概要

  • 日時:2025年10月30日(木)10:05~17:15
  • 開催:対面開催(RIETI 1121会議室)
  • 主催:独立行政法人経済産業研究所(RIETI)、科学研究費助成事業基盤研究(A) 25H00545
  • 言語:英語

プログラム

10:05-10:10 Opening remarks

Yasuyuki Todo (RIETI / Waseda University)

10:10-12:10 Session 1: Firm Productivity and International Trade

Chair:

Yasuyuki Todo (RIETI / Waseda University)

10:10-10:50 “Where Has All the Dynamism Gone? Productivity Growth in China's Manufacturing Sector, 1998-2013”

Yifan Zhang (Chinese University of Hong Kong)

10:50-11:30 “Impact of Border Rejection Experience on Export Performance: Firm-level Evidence from China”

Tomohiko Inui (RIETI / Gakushuin University)

11:30-12:10 “Offshoring Bias in Productivity Estimates: Evidence from Japanese Customs Data”

Takafumi Kawakubo (RIETI / Osaka University)

12:10-13:30 Lunch break

13:30-15:30 Session 2: Production Network and International Trade

Chair:

Tomohiko Inui (RIETI / Gakushuin University)

13:30-14:10 “Disruption Risk Evaluation on a Large-scale Production Network with Establishments and Products”

Yasuyuki Todo (RIETI / Waseda University)

14:10-14:50 “Identifying Knowledge Spillovers using Innovation Networks”

Lex (Laixun) Zhao (Kobe University)

14:50-15:30 “Technology Spillover in Production Networks, and Optimal Trade Policy: Application to Trump 2.0”

Hanwei Huang (City University of Hong Kong)

15:30-15:50 Coffee break

15:50-17:10 Session 3: Trade War and Geopolitical Risks

Chair:

Hongyong Zhang (RIETI)

15:50-16:30 “Incomplete Tariff Pass-through at the Firm-level: Evidence from U.S.-China Trade Dispute”

Chengyuan He (Xiamen University)

16:30-17:10 “Geopolitical Risk and Supply Chain Reallocation: Firm-level Evidence”

Hongyong Zhang (RIETI)

17:10-17:15 Closing remarks

Tomohiko Inui (RIETI / Gakushuin University)

開催報告

開催概要:国際貿易や直接投資など、国際経済学の分野で最先端の研究をしている国内外の研究者を招聘して、最先端の研究報告をしてもらった。その中には、RIETI「米中対立のミクロデータ分析」プロジェクトと科研費「グローバルサプライチェーンと日本の国際競争力、経済安全保障」プロジェクトの研究成果として論文2本を報告した。そして、報告された研究に対して、自由にディスカッションを行った。

主な成果

8本の論文報告の概要と知見は以下のとおりである。

セッション1では、国際貿易と企業生産性の関係を、多様なミクロデータと計量手法を用いて再検証する3本の研究が報告された。Brandt・Van Biesebroeck・Wang・Zhang の研究は、中国製造業における2007 年以降の統計の信頼性低下という制約を克服するため、税務データ(STA)を用いた代表性の高い「シミュレート・サンプル」を構築し、1998–2007 年に比べて 2007–2013 年の TFP 成長率が大幅に低下したこと、地域・所有形態・産業を問わず広範な減速が生じたこと、さらには新陳代謝(参入・退出)の寄与度が弱まったことを示した。Inui・Obashi・Yang の研究は、米国 FDA の輸入拒否データと中国企業データを結合し、輸入拒否の経験が企業の市場退出確率を高め、再参入を困難にする一方、生き残った企業は輸出数量と品質を向上させるという二面性(障壁と能力向上の両面)を明らかにした。Fukao・Horie・Inui・Kawakubo・Kim・Kwon・Zhang の研究は、財務省輸出入申告データと 経済産業省企業活動基本調査を統合し、輸入中間財価格の粒度高い HS9桁デフレーターを新たに構築することで、標準的な産業別デフレータによる TFP 推計には「オフショアリング・バイアス」が存在し、輸入比率の高い企業ほど生産性が過大推計されることを実証した。

セッション2では、サプライチェーン・FDI・貿易政策という国際経済の重要領域に関する3本の研究が紹介された。Inoue・Todo の研究は、企業レベルのネットワーク分析を発展させ、経済センサスを用いて事業所×製品レベルの供給網を構築することで、投入代替の困難さやネットワークのループ構造がショックを大幅に増幅しうること、また既存研究が企業レベルデータの限界から伝播を過小評価していた可能性を指摘した。Jiang・Liu・Lv・Zhang・Zhaoの研究は、中国のFDI企業データと膨大な特許情報を結合し、従来の生産ネットワークでは捉えられないイノベーションネットワークにおける知識流入を測定、FDI流入が中国国内の特許出願を大きく押し上げること、知識スピルオーバーは特許引用・技術類似性・共同発明を通じて伝播することを示した。Huang・Ju・Niu・Wang の研究は、産業間スピルオーバーと規模の経済を組み込んだ多国一般均衡モデルを構築し、トランプ2.0による関税政策を定量評価した結果、米国の関税は必ずしも最適ではなく、知識スピルオーバーと規模の経済が貿易戦争の帰結を大きく左右すること、第三国の最適対応は米中両国の政策・同盟形成の動きによって変化することを明らかにした。

セッション3では、貿易摩擦や地政学リスクの高まりが企業行動に与える影響を、米国と日本の企業ミクロデータを用いて精緻に分析した2本の研究が報告された。He・Liu・Sui・Woo の研究は、米国Census の企業別輸入データを用い、米中貿易戦争期(2018–2019)に関税が引き上げられた際の不完全な関税パススルーの背後にある企業異質性のメカニズムを詳細に解明した。継続的な取引関係においては関税転嫁が不完全で、逆に新規の輸入関係が高価格にもかかわらず形成されることで、さらに小規模企業ほど輸入関係を終了させ、大企業ほど交渉力の高さからパススルーが進む点などが示された。一方、Doan・Ito・Luo・Zhang の研究は、日本の多国籍企業データを用いて、中国の地政学リスクの上昇が日本の多国籍企業の供給網再編に及ぼす影響を実証的に検証した。地政学リスクの上昇は日本企業の中国依存度が高いほど、ASEANへの輸入・生産拠点の多元化を有意に促進する一方で、中国からASEANへの大規模な移転や日本への国内回帰は限定的であり、むしろ中国拠点は維持しつつ日本の国内投資を増やすという慎重なリスク対応が確認された。