開催案内
カーボンプライシングの政策効果や課題を、国際競争力問題やカーボンリーケージに対する対策を中心に議論する。欧州から欧州環境経済資源学会会長のSimone Borghesi (European University Institute& University of Siena)を招聘し、EUETS がこれらの問題にどう対処してきたかを報告していただく。RIETI プロジェクトメンバーは、日本の地方自治体のETS の事後検証や、国境炭素調整に関する研究報告を行う。経済産業省を始め、政策関係者や関連ステークホルダーも招待して議論を行う。そして、最後に、EU の経験と日本の研究から、日本のGX―ETS への政策的示唆をうる。
イベント概要
- 主催:経済産業研究所(RIETI)、早稲田大学環境経済・経営研究所(RIEEM)
- 日時:2025年9月18日(木)13:00-17:40
- 場所:経済産業研究所(RIETI)
ワークショップの主な成果
本ワークショップでは、Toshi Arimura (Waseda University) とMorihiro Yomogida (Sophia University) の司会の下、Simone Borghesi 氏による基調講演とRIETIプロジェクトメンバーによる5つの研究報告が行われた。基調講演、各報告における成果の概要は次のとおりである。
基調講演:Simone Borghesi (European University Institute & University of Siena)
“Competitiveness and carbon leakage under the EU ETS”
Simone Borghesi氏 (European University Institute & University of Siena) から、EUETSが国際競争力問題やカーボンリーケージにどう対処してきたかを講演していただいた。講演では、まず、EU排出量取引制度(EU ETS)は段階的に厳格化されていること(2030年までに2005年比で62%削減目標)が指摘された。そして、国際競争力とカーボンリーケージへの対策として、無償割当(Free allowance allocation)、排出枠市場のリンク(Linking)、そして炭素国境調整メカニズム(CBAM)の3つが紹介された。
特に、2026年1月1日より本格運用が予定されているCBAMは、カーボンリーケージの最小化、重工業における競争力の維持、他国の気候変動対策の強化の3つが目的とされている。また、WTOに適合し、EUの競争力強化が期待される。一方で、グリーン保護主義(環境保護を理由とした国内産業の保護)、グリーン植民地主義(環境保護を名目にした特定の国などからの収奪)、そして貿易戦争の回避等が課題とされた。
最後に、日本へのCBAMの影響は小さい可能性が示唆された。理由として、対EU輸出における日本の炭素集約度が低いこと、CBAM対象部門への依存度が低いこと、そしてGX戦略があることが挙げられた。
基調講演を受け、Miki Yanagi (IEEJ) から、産業界の理解を得ながら無償割当の段階的な廃止する方策、日本における排出枠市場のリンクと資本流出、輸出還付とWTOの関係、といった点についてコメントがあった。
(1) Morihiro Yomogida (Sophia University)
“Carbon Tariffs, Emissions Leakage, and Production Relocation”
Morihiro Yomogida (Sophia University)から、国境炭素税がカーボンリーケージや生産拠点の移転に与える影響について、2地域間の複占モデルを用いた分析結果が報告された。分析結果としては、輸出還付を伴う国境炭素税がカーボンリーケージを効果的に防ぐこと、地域における排出原単位の差によって炭素税を導入する地域の社会厚生を最大化させる政策が異なる可能性が示唆された。一方、生産拠点の移転先となる地域にとっては、国境炭素税が課されることによって社会構成が悪化する可能性も示唆された。
報告を踏まえ、Ichiro Daito (Keio University) から、分析における輸出還付の役割、モデルの前提にある賃金の仮定と財の価格設定、といった点についてコメントがあった。
(2) Shiro Takeda (Kyoto Sangyo University)
“Analysis of the EU Carbon Border Adjustment Mechanism Using a Dynamic Computable General Equilibrium Model”
Shiro Takeda (Kyoto Sangyo University) から、EUのCBAMによる日本のエネルギー集約型(EITE)産業への影響について、動学的応用一般均衡(CGE)モデルを用いた分析結果が報告された。分析結果としては、EUがCBAMを導入することで、EU内のEITE産業にプラスの効果をもたらし、EUの厚生とGDPもわずかながら増加することが示唆された。また、ロシアやインドにおけるEITE産業での生産量、厚生及びGDPの減少が示唆された。一方、CBAMによって、日本のEITE産業はわずかに負の影響を受けるものの、GDPや厚生全体への影響はほぼ無視できる程度であることも示された。
報告を踏まえ、Masa Sugiyama (University of Tokyo) から、日本の国内排出量取引制度とEUのCBAMとの影響を比較する枠組み、EU ETS価格と日本影響の関係、CBAMの制度設計による日本への影響の変化、といった点についてコメントがあった。
(3) Aline Mortha (Dokkyo University)
“Economic performance, exports and carbon leakage: an analysis of Saitama ETS”
Aline Mortha (Dokkyo University) から、埼玉県の目標設定型排出量取引制度(埼玉ETS)が製造業事業所への経済影響に関する分析結果が報告された。分析結果としては、埼玉ETSが長期的に賃金や雇用、生産量や付加価値を増加させる可能性があるとされた。一方、中小企業やEITE産業では雇用減少といった負の影響が大きく、企業間の不平等が深まる可能性が示唆された。
報告を踏まえ、Nori Tarui (University of Hawaii) から、埼玉ETSと賃金の変化における因果関係の有無、他変数への影響が無いことへの解釈、先行研究であるYamazaki (2017, JEEM) との比較、自主的制度の特徴や非遵守者の有無、といった点についてコメントがあった。
(4) Shinya Kato (Meijo University)
“Economic Impact of Introducing Carbon Pricing in ASEAN: CGE Analysis of the Joint Carbon Market in ASEAN and East Asia”
Shinya Kato (Meijo University) から、日本とASEANを含む東アジアでの国際排出量取引(IET)の実現可能性をCGEモデルで評価した分析結果が報告された。分析結果としては、IETの導入によって、ASEANを中心にCO₂排出量が大幅に削減(BAUシナリオ比で平均11%~12%)される一方で、GDPへの影響はごくわずか(±0.1%以内)に留まることが示唆された。これは、東アジアでのIETが費用対効果の高い緩和策であることを意味している。そして、AZEC(アジア・ゼロエミッション共同体)が、東アジアでの協調的な排出削減の連携を進めるうえでのプラットフォームとなりうることが提言された。
報告を踏まえ、Ken’Ichi Matsumoto (Toyo University) から、AZECにおけるIETの実現可能性とIETの制度設計、モデル設定、CO₂排出量の削減やGDPへの影響から示唆される政策への含意、といった点についてコメントがあった。
(5) Masa Sugiyama (University of Tokyo)
“Modeling Japan's Green Transformation: System-wide and Industry Implications”
Masa Sugiyama(University of Tokyo) から、JMIP (Japan Model Intercomparison Project) の研究成果が報告された。分析結果として、2050年ネットゼロという目標の達成にはCO2除去技術(CDR)が必須であること、CDRの制約が厳しい場合(100Mt/年)には炭素価格が700米ドル/tCO₂を超える可能性があることが示された。一方、水素の輸入価格やCDRの利用可能性といった不確実性が、2050年ネットゼロという目標の達成に大きく影響することも示唆された。
報告を踏まえ、Shinya Kato (Meijo University) から、分析モデルで用いられた電化、省エネ、CDRなどの政策的な優先順位、CDRと水素・アンモニア・再エネに不確実性があることを踏まえた政策支援の優先度、といった点についてコメントがあった。