「日本企業が直面する課題と企業ダイナミクス・産業・経済」ワークショップ(開催報告)

開催報告

労働経済学、国際経済学、マクロ経済学などの分野から、企業ダイナミクスに関する最先端の研究をしている国内外の研究者7名を招聘し、企業ダイナミクスと産業・マクロ経済」プロジェクトのメンバー5名が報告を行った。また、これらの報告に対して、政策当局者や他の研究者を含めた活発なディスカッションが行われた。

主な成果

5本の論文報告の概要と知見は以下のとおりである。

  1. 奥平寛子氏(同志社大学大学院准教授)は、論文”Layoffs and Human Capital Accumulation”(共著者:滝澤美帆・山ノ内健太)を報告した。本論文は、日本の製造業事業所のミクロデータに早期・希望退職データを接合し、早期・希望退職によって年齢の若い労働者割合が顕著に減少したこと、また、生産性は有意に低下しなかったことを見出している。
  2. 山ノ内健太氏(香川大学准教授)は、論文” Who Pays for the Minimum Wage in the manufacturing sector in Japan?”(共著者:奥平寛子・滝澤美帆・細野薫)を報告した。本論文は、日本の製造業においては、主に生産者と労働者が最低賃金上昇による労務コストの増加分を負担したこと、最低賃金上昇により、雇用、売上、原材料支出、売上営業利益率が低下した一方、製品価格への転嫁はほとんど見られなかったこと、および、最低賃金上昇により、事業所の参入確率と退出確率はともに上昇したことを明らかにしている。
  3. 宮川大介氏(早稲田大学教授)は、論文”Business Succession and Economic Dynamism: The Role of Aging in Resource Misallocation”(共著者:上田晃三・及川浩希)を報告した。本論文は、高齢化の進展が、事業承継の市場を通じてマクロ経済の生産性に及ぼす影響を、動学的一般均衡モデルを用いて明らかにしている。理論的には、高齢化には、後継者の年齢上昇に伴う生産性の向上と賃金上昇による低生産性企業の淘汰という正の効果がある一方、事業承継市場の厚みが薄くなることで、高生産性企業ほど後継者が見つかりやすく、また、能力の低い経営者ほど置き換わりやすいという選別効果が弱まるという負の効果があるが、日本経済のデータにカリブレートしたシミュレーション結果によれば、人口減少に伴う高齢化は正の効果が負の効果を上回ることを示している。
  4. 清田耕造氏(慶應義塾大学教授)は、論文”Local Labor Market Effects of Outward Manufacturing FDI: Evidence from Matched Foreign Affiliate-Domestic Parent-Domestic Plant Data in Japan”(共著者:中島賢太郎・滝澤美帆)を報告した。本論文は、製造業企業の対外直接投資(オフショアリング)は、地域の雇用を増やすこと、この雇用の増加は主に、同一地域の非対外直接投資企業によること、および、中国からの輸入は地域の雇用を減らすもののその効果は比較的小さいことを示している。
  5. 細野薫氏(学習院大学教授)は、論文”Global Market Power of Japanese Multinational Firms”(共著者:山ノ内健太・滝澤美帆)を報告した。本論文は、日本企業の海外子会社のマークアップには、欧米企業と異なり、2000年から2018年の期間において、一貫した上昇傾向は見られないこと、各海外子会社のマークアップ(within effect)は上昇したが、低いマークアップの海外子会社による売上増加(reallocation effect)が全体で集計したマークアップの低下に寄与したこと、親会社のマークアップが海外子会社のマークアップに正の影響を及ぼしていること等を明らかにしている。