RIETI (経済産業研究所)、ECGI (欧州ガバナンス研究所)、WBF (早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター) 共催セミナー

第16回 WBFグローバルインサイト「新時代を迎えた日本の同意なき買収:学術研究から見た企業、投資家への示唆」

開催案内

【本シンポジウムについて】
本シンポジウムでは、日本の経営陣と投資家が、事前同意なき買収(敵対的買収)の新たな波にどのように対処すべきかを探ります。基調講演者のマルコ・ベヒト教授は、ECGI(欧州コーポレートガバナンス研究所)の事務局長として、世界中のコーポレートガバナンス研究者の幅広いネットワーク形成に貢献してきました(弊ビジネス・ファイナンス研究センターもECGIメンバー)。
ベヒト教授には、日本国外での法学、経済学の研究者による学術研究動向について基調講演をお願いし、その後のラウンドテーブルでは、法律、経営、金融の分野の著名な学者や実務家であるパネリストをお招きし、日本が直面している同意なき買収への対処方針や今後の課題について議論します。

【本シンポジウムの背景】
事前同意なき買収(敵対的買収)は日本では長らくタブーとされてきました。しかしながら、2014年に始まった日本のコーポレートガバナンスとスチュワードシップの改革により、取り巻く環境は徐々に変化しています。特に、2023年8月に経済産業省が公表した「企業買収に関するガイドライン」では、事前同意なき買収であっても、真摯な買収提案については速やかに取締役会に付議するなどの対応を求めており、指針公表以降、NIDECによるTAKISAWAの買収や、第一生命ホールディングスによるベネフィット・ワンへの買収など、複数の事前同意なき買収が成功しています。現在は、カナダの小売業者Alimentation Couche-Tardが、セブン&アイホ -ルディングスに対して事前同意なき買収提案をしており、その行方も注目されています。

イベント概要

  • 日時:2024年11月18日(月)15:00-17:30
  • 場所:WASEDA NEO(早稲田大学日本橋キャンパス・コレド日本橋5階)
  • 主催:早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター(WBF)
  • 共催:経済産業研究所(RIETI)、欧州ガバナンス研究所(ECGI)

プログラム

15:00-15:15 開会の辞

司会:鈴木 一功(早稲田大学教授・ECGI Research Member)

冨浦 英一(経済産業研究所 所長・CRO)

宮島 英昭(早稲田大学 教授・経済産業研究所ファカルティフェロー)

15:15-16:10 基調講演

講師:マルコ・ベヒト(ブリュッセル自由大学教授・ECGI Managing Director)
タイトル:“Barbarians at the Gate: Should Boards Just Say No?”

16:10-16:20 休憩

16:20-17:25 ラウンドテーブル

モデレーター : 鈴木 一功

パネリスト(5名):

マルコ・ベヒト(ブリュッセル自由大学教授・ECGI Managing Director)

宮島英昭(早稲田大学 教授・経済産業研究所ファカルティフェロー)

田中 亘(東京大学 教授)

古田 温子(デロイトトーマツフィナンシャルアドバイザリー)

吉富 優子(レコフデータ)

17:25-17:30 閉会の辞

司会:鈴木 一功(早稲田大学教授・ECGI Research Member)

開催報告

2024年11月18日に早稲田NEOにおいて、国際シンポジウム「新時代を迎えた日本の同意なき買収: 学術研究から見た企業、投資家への示唆」をハイブリッド(対面+Zoom Webinarによるオンライン)で実施した。本シンポジウムは、来日中のUniversité libre de BruxellesのMarco Bechtを基調講演者として、2023年8月に経済産業省が公表した「企業買収に関するガイドライン」以降活発になっている事前同意なき買収をテーマに取り上げた。事前登録者は269名、当日の参加者は、会場出席14名、オンライン参加135名であった。司会は早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター兼任研究所員でECGIメンバーでもある、早稲田大学経営管理研究科教授 鈴木一功が務めた。

本シンポジウムでは、日本の経営陣と投資家が、事前同意なき買収(敵対的買収)の新たな波にどのように対処すべきかを議論した。シンポジウムは2部構成で、第1部では経済産業研究所の冨浦英一所長の開会の辞の後、基調講演、第2部で鈴木教授のパネリストによるラウンドテーブルを行なった。第1部の基調講演では、経済産業研究所アカデミックフェローでもある早稲田大学商学学術院 宮島英昭教授の司会でBecht教授が講演した。Becht教授は、米国、英国、欧州大陸における敵対的買収に対する対処方針(買収防衛策)の実情を紹介した上で、シンポジウム開催時に話題になっていたカナダのAlimentation Couche-Tardによるセブン&アイ・ホールディングスへの事前同意なき買収や、日本製鉄によるUSスチールの買収を取り上げ、インバンド、アウトバウンドにおける日本企業が関係する同意なき買収と対処方針に関する論点を整理した。

第2部のラウンドテーブルでは、鈴木教授の司会のもと、Becht教授、宮島教授に加えて、東京大学の田中亘教授、デロイトトーマツフィナンシャルアドバイザリーの古田温子社長、レコフデータの吉富優子社長の5名のパネリストが登壇し、最初に各パネリストからの簡単な現状認識のプレゼンテーションの後、オンラインでの参加者からの質問も取り上げながら、議論を行なった。

まず宮島教授から、事前同意なき買収増加の背景として、2014年来の日本のコーポレートガバナンス改革の流れがあることが指摘された。そして、従前の企業間持合が解消へと向かい、また機関投資家の保有比率が上昇傾向にあることも示された。宮島教授は、上場大企業に対する不合理な買収者への対抗策の必要性を示す一方で、中規模以下の上場企業においては、まだまだ企業間持合が残っており、これらの企業のリストラクチャリングが必要であることも示した。

田中教授は、法学者としての視点から、近年における事前同意なき買収の事例と、「企業買収に関するガイドライン」の影響について解説した。そこでは、「真摯な買収提案」に対しては取締役会の「真摯な検討」が要請されていること、取締役会は、株主にとってできる限り有利な取引条件で買収が行われることを目指して、真摯に交渉すべきでことを述べた。一方で、買収の是非は「企業価値の向上に資するかどうか」という観点から判断されるべきであるとされており、必ずしも米国におけるレブロン義務のように株主価値の最大化を唯一の義務とするものではない、ということも指摘した。

吉富氏は、日本企業のM&Aと同意なき買収の動向について、具体的データを示して解説した。そこでは、2019年以降、同意なき買収が増加傾向にあり、また実際にそうした買収が成立する事例も増えてきていることが具体例を示しながら指摘された。

古田氏は、「企業買収に関するガイドライン」の公開以降、同意なき買収が企業価値向上策としてポジティブに受け止められる傾向にある一方で、株価が低迷している企業にとっては同意なき買収の対象となるリスクが再認識されているとした。そして、上場企業経営者としては、適正株価の実現、株主リスクの把握、ガバナンス体制の強化、有事リスクの想定、といった観点から、普段から同意なき買収に備えて準備することの重要性を訴えた。

その後のディスカッションでは、鈴木教授が同意なき買収が起こるパターンを整理した後、同意なき買収が増加傾向にある現状に関する各パネリストの評価を尋ねた。日本サイドのパネリストは、概ねポジティブに評価する意見が多かったが、一方でBecht教授からは、事前同意なき買収者が高い買収プレミアムを提示できるその源泉は何なのか、考えて見る必要性が指摘された。たとえば、買収後に被買収企業の事業をより高リスク・高リターンなものにシフトすることにより、買収プレミアムを回収しようと考えている可能性も考えられる。往々にして投資家は、リターンを実現された収益率の実数値のみでしか考えないが、本来リターンはリスク調整後で比較すべきことが指摘された。

その後、もの言う株主(アクティビスト)のキャンペーンと事前同意なき買収の関係等についての議論などを行ない、ラウンドテーブルは終了した。

ECGI(英文サイト)
https://www.ecgi.global/events/a-new-era-of-unsolicited-takeovers-in-japan