イベント概要
- Organized by the Research Institute of Economy, Trade and Industry(RIETI) study group on corporate finance and firm dynamics / Institute of Economic Research (IER) at Hitotsubashi University
- Date: October 31 (Thursday), 2024
- Venue: Research Institute of Economy, Trade and Industry 1-3-1 Kasumigaseki Chiyoda-ku Tokyo, JAPAN
- Time: 10:00-17:15
議事概要
基調講演
Presenter: Manju Puri (Duke University)
Title: Does open banking expand credit access?
オープンバンキングとは、銀行口座の顧客が同意して、銀行口座の金融取引データを他の金融サービス提供者が利用する枠組みである。この研究では、顧客があらゆる金融仲介機関の間でデータを共有できるインドでのオープンバンキングに注目する。2016年に導入されたUnified Payments Interface (UPI)によって貸出市場に生じた影響を、6つの異なるデータベース(Credit registryが保有する郵便番号・月・貸出機関種類レベルの個人向け貸出、UPIの流通データ量、銀行店舗預金、4G通信塔の位置、フィンテック企業の個別貸出)を組み合わせることによって検証する。オープンバンキングの導入で貸出が増えるかどうかは、理論的には自明ではない。情報独占ではなくなる既存銀行が、関係特殊的な投資を抑制して貸出が減る可能性、新規参入者による審査技術の向上によって貸出が増える可能性の両方があり得るためである。分析の結果、オープンバンキングによって、フィンテックのみならず既存銀行の個人向け貸出が増大すること、これまで銀行からの借入ができなかった層での貸出増大が顕著であること、が明らかになった。
発表に対しては、インド政府による金融規制が結果に及ぼす影響や、インド全体の貸出市場に対するオープンバンキング導入の影響の大きさについての質問がなされた。また、既存銀行と貸出先とのリレーションシップが強いほど、新規フィンテックによる貸出が増える程度は小さいのではないかといった指摘がなされた。
研究発表
Presenter: Daisuke Miyakawa (Waseda University)
Title: Business Succession and Economic Dynamism: The Role of Aging in Resource Misallocation
Discussant: Kenta Ikeuchi (RIETI)
日本における少子高齢化は、経営者の高齢化に伴う円滑な経営者交代にとって足枷となり得る。本研究では、経営者を企業活動に欠かせない重要なインプットの一つとして位置付けた上で、人口成長率の低下が資源配分とマクロ経済のパフォーマンスに対してどのような影響を持ち得るのかを理論モデルを通して検討し、このモデルの挙動を実際のデータと付き合わせた上で、モデルに基づくシミュレーションから今後の日本経済について検討する。
経営者年齢と経営者能力との関係、現経営者による潜在的な後継者(現労働者)のサーチとマッチングメカニズム、企業の参入・退出・成長などを組み込んだ一般均衡モデルが示唆する様々な企業ダイナミクス(例:経営者交代前後の企業規模の変化)は、日本企業100万社を対象とした実際のデータとも整合的である。数値計算に基づく比較静学からは、人口成長率の低下が参入率の低下や退出率の上昇を生み出す一方で、経営者能力に関する想定によっては一人当たりGDPが上昇する可能性もあることを示唆している。今後については、経営者の能力だけではなく、企業固有の資本なども互いに異質であることを許容した上で、実際のデータとの整合性を確認し、緻密なカリブレーションを前提としたシミュレーションを行うことを検討している。
発表に対しては、(i)潜在的な後継者である労働者の賃金と年齢の関係、(ii)後継者サーチ・マッチングにおける企業内部での探索と企業外での探索との区別、を中心としたモデル拡張のアイデアが提供されたほか、(iii)各種の政策を対象としたシミュレーションスタディの重要性が指摘された。加えて、異質性の対象を拡張することにより、現実的なモデルを構築することができる可能性、現在のモデルでは主としてサーチ・マッチングに係る摩擦によって生み出されている非効率性についてより豊かな含意が得られる可能性が指摘された。
Presenter: Mitsuru Katagiri (Hosei University)
Title: The Role of Accessibility in Loan Pricing: A Structural Approach
Discussant: Yoshiaki Ogura (Waseda University)
近年、銀行合併や支店の統廃合の増加を背景として、企業の銀行へのAccessibilityが悪化している。先行研究では、企業と銀行の距離が離れると、貸出金利が上昇することが示されていることから、こうしたAccessibilityの悪化は、企業の借入コストの上昇をもたらすことが懸念される。こうした問題意識に基づき、本論文では、企業レベルのミクロデータと金融機関の支店レベルのミクロデータを統合し、企業・銀行間の距離が、金利設定や借入銀行の選択にどの程度の定量的な影響を及ぼすのかを推計した。具体的には、(1)企業が、距離や業態などを考慮して近隣銀行から借入銀行を選択する、(2)銀行は周辺の銀行とEnglish auctionを通じた金利競争を行う、といった特徴をもつモデルを構築したうえで、構造推定の手法を用いてパラメータ値の推計を行った。その結果、企業と銀行の距離は、銀行側の貸出コストと企業側の利便性の両方を通じて金利に影響することが示唆された。今後、銀行合併が企業の借入コストに与える影響など、推計された構造モデルを用いた反事実的シミュレーションに活用すること等が想定される。
発表に対して、(1)金利競争のモデル化について、English auctionを通じた価格競争ではなく、クールノー競争を通じた数量競争である可能性、(2)貸出の需給両面において、銀行の固定効果を含めたコントロール変数の必要性、に関してコメントがあった。これらに加えて、企業が借入銀行を変更する際のデータの活用や、その際のコストをモデルに取り込む必要性に関してコメントがあったほか、預金しか取り扱っていない支店を除くなど、問題意識に沿ったデータ構築に対するコメントがあった。
Presenter: Kazuo Yamada (Kyoto University)
Title: Does Monitoring of Asset Owners Accelerate Engagement by Asset Managers? Evidence from anti-takeover provisions of Japanese Listed Companies
Discussant: Miho Takizawa (Gakushuin University)
近年、日本においてアクティビスト型ヘッジファンド(以下、アクティビスト)の活動が再び活発になりつつある。本研究ではその原因として、2010年代に導入されたスチュワードシップコードの影響を指摘する。スチュワードシップコードでは、機関投資家(アセットマネジメント)は受託者であるアセットオーナーの価値最大化をするために企業との対話および議決権の行使をするように求められた。それ以前の日本市場において、アクティビストは他の機関投資家と友好的な立場にはなかったと想定される。しかしコードの制定により、受託者の価値最大化のためにはアクティビストの意見が合理的であれば、株主総会でのアクティビストによる株主提案に賛同することになった。
分析の結果、特に2017年のコード改定以降には、アクティビストによる株主提案の賛成率と、アセットマネジメント企業による保有比率とは正の相関にあることが確認された。対比的に、賛成率と、(スチュワードシップコード対象外である)銀行の持分比率とは負の相関にあった。このような傾向はコード前の期間では確認されなかった。さらにアクティビストが株主提案をする企業は機関投資家の保有比率が高い企業に集中していることも確認された。
最後にアクティビストによる提案とその後の長期的業績の変化を確認した。一時的な配当の増加は確認されたものの、実物投資や業績の向上は確認されなかった。
発表に対しては、以下のコメントがあった。(1)一部の推定結果が予測とは別の方向を向いているのではないか。(2)機関投資家のタイプの分類を行うべき、あるいはどのような動機によって議決権を行使しているのかの動機についてヒアリングをするべきではないか。(3)提案を受けたあとの長期の企業の実体的行動への影響を確認するに当たっては、現状の3年後までではなくて、より長期間にわたる効果を確認するべきではないか。
Presenter: Alberto Zazzaro (University of Naples Federico II)
Title: The staying power of face-to-face in the global venture capital market
Discussant: Yuji Honjo (Chuo University)
ベンチャーキャピタル(VC)の技術進歩とグローバル化により、起業家とVC間の直接的な対面での情報交換の重要性が縮小しつつあるとされる。しかし、依然として対面での情報のやりとりは重要かもしれない。この研究では、いずれが成り立っているのかという点を検証する。検証に際しては、世界各国のVCと投資先企業に関する情報を含むデータベースを用い、渡航制限によって対面での情報交換が阻害されたコロナ禍の時期に注目し、VC投資の件数や金額の変化をみる。
分析の結果、コロナ禍の時期における国の間の渡航制限によって、海外からのVC投資は有意に減少したことがわかった。特に、初期段階(アーリーステージ)や若い企業に対するVC投資の減少幅が大きい一方で、投資先国とVC所在国におけるデジタル化の進展程度や言語の類似程度は、VC投資の減少幅に影響しない。これらの結果は、情報の非対称性は物理的な距離とVC投資との関係に影響する一方で、文化の多様性や情報技術の発達程度は、両者の関係に影響していないことを意味している。
発表に対してはまず、海外からと国内でのVC投資が相互に影響し合っており、その場合にはそれぞれを独立の推計式とみなすことはできないのではないかという指摘がなされた。またコロナ禍には、渡航制限による対面での情報交換を制限するだけではなく、VC投資の需要や供給に影響するという経路もあるため、これらを踏まえて分析をする必要性も指摘された。
Presenter: Masatoshi Kato (Kwansei Gakuin University)
Title: Does user entrepreneurship matter for start-up financing? Evidence from Japan
Discussant: Arito Ono (Chuo University)
本研究は、イノベーション志向の起業家の中でもユーザー起業家が創業した企業が、創業時に外部資本を調達する上で優位性を持つかどうかを実証的に明らかにしようとするものである。特に、ユーザー起業家のタイプとして、エンドユーザーとプロフェッショナルユーザーの起業家を区別しながら分析する。ユーザー起業(user entrepreneurship)の概念と企業のリソース・ベース・ビューを組み合わせた考え方をもとに、情報の非対称性がある状況下では、ユーザー起業家であることは外部の資金提供者にポジティブなシグナルとして作用すると論じている。日本における新規開業企業を調査した独自のアンケート調査のデータを使用し、ユーザー起業家、特にプロフェッショナルユーザー起業家が創業した企業は、創業時に外部資本(エクイティおよびデット)を通して資金調達する可能性が高いことを示している。
発表に対しては、研究では「研究開発活動に必要な資金額」を独立変数として使用している一方で、起業家による「研究開発のための資金需要」を十分にコントロールしているとは言い難く、この点を改善することの必要性が指摘された。より具体的には、ユーザー起業家であることが、エクイティおよびデットのいずれかというより、それらの両方からの資金調達の確率を高めるという本研究の分析結果から考えると、シグナリング効果というよりは資金需要の大きさによる効果と捉えることが妥当ではないかというコメントが示された。