RIETIワークショップ

生産性変動とマクロ経済への伝播

開催案内

RIETIプロジェクト「イノベーション、知識創造とマクロ経済」の研究成果の中間報告として本ワークショップをセミオープン形式で開催し、各研究者から発表を行い議論する。発表は3班4論文で、次の内容を予定している。1つ目は基礎科学研究が技術開発を通じて経済的付加価値生産を高める経路について、サイエンスリンケージデータベースに根拠づけられたマクロ経済的分析を行う。2つ目は産業内での競争と技術軌跡形成の相関について、特許引用ネットワークデータに基づいて分析する。3つ目は生産性向上を経済に実装する役割を果たすスタートアップ企業が、経営者資源の供給源となる労働市場の流動性から得る推進力について分析する。4つ目は産業・地域間の産業構造がミクロショックを伝播し拡大するメカニズムを日本経済について定量的に分析する。

イベント概要

  • 日時:2023年7月26日(水)10:00~15:30
  • 開催方法:ハイブリッド会議
  • 開催言語:日本語
  • 主催:独立行政法人経済産業研究所(RIETI)

プログラム

司会

楡井誠氏(東京大学/RIETIファカルティフェロー)

10:00–10:15 オープニング

第一部

1. 10:15–11:15 「産業内での競争と技術軌跡形成の相関」

発表者

渡部一郎氏(東京大学)

討論者

清水洋氏(早稲田大学)

2. 11:15–12:15 「スタートアップと労働市場の流動性」

発表者

片桐満氏(法政大学)

討論者

北尾早霧氏(東京大学/RIETI上席研究員)

12:15–13:15 昼食休憩(60分)

第二部

1. 13:15–14:15 「産業・地域間の産業構造とミクロショックの伝播」

発表者

向山敏彦氏(ジョージタウン大学),中国奏人氏(東京大学博士課程),楡井誠氏(東京大学/RIETIファカルティフェロー)

討論者

藤井大輔氏(RIETI研究員)

2. 14:15–15:15 「基礎科学研究が技術開発を通じて経済的付加価値生産を高める経路」

発表者

及川浩希氏(早稲田大学),楡井誠氏(東京大学/RIETIファカルティフェロー),大録誠広氏((株)リクルート)

討論者

長岡貞男氏(一橋大学/RIETIプログラムディレクター)

15:15–15:30 閉会挨拶

開催報告

予定通り4本の論文の報告と討論が行われた。

  1. 渡部報告について、「メインパス分析を異なる期間で行うことによってトピックモデル分析を深めることができるのではないか」「研究者の異動とトピックの変遷に関連はないか」「トピックが変遷する中で、不変なもの、例えば複数のトピックを平行開発することのできる大企業の戦略などを見つけることができないか」(清水)、「対象となったGPUには明らかな転換点が複数あるので、記述的研究を前提とすることで解釈が深まるのではないか」(内藤)といったコメントがあった。
  2. 片桐報告には討論者の北尾教授から詳細なコメンタリーが提出され、「リスキリングのモデル上の設定が制約的すぎるのではないか」「スキル向上状態から停止状態への変化をモデルに内生化した方が良いのではないか」などの指摘があった。
  3. 向山報告について「短期分析なので代替弾力性が小さい場合も検討すべき」「Caliendo et alのような解析的分析も可能」「Dekle et alのように貿易収支不均衡を所与の贈与としたモデル化も可能」「地域ごとに集計された関税データを補完するために自動車統計を利用」「ショック伝播を抑制するのは価格効果だけのようなので、産業連関が価格硬直性効果を増幅しているのではないか」(藤井)、「地域をまたがって活動する企業の存在」(及川)、「動学を線形近似してモデルに地域を導入することで、設備投資を通じた動学効果を見ることも可能」(片桐)などのコメントがあった。
  4. 及川報告に対して討論者の長岡教授から「イノベーターのfirst mover advantageとして販路独占が前提されているが、供給資源独占も考えられる」「いわゆるボーアの象限にあたる基礎研究は、その他の研究のツールを提供する側面があるので、基礎研究的公共投資は民間R&D投資と補完的でありうる」「基礎研究は商業化された場合のみに高いリターンがあるので、商業化で条件づけないとリターン分布が大きくskewする」とのコメントがあったほか、論文引用特許比率と粗利率の相関について、「産業別にみるべき」(片桐)「医薬などは固定費も大きく規模効果がある」(齊藤)「固定費は借入制約のもとで重要になるので過去の利潤が現在投資に影響する一方、現在のモデルでは将来利潤が現在投資を決定しているはず。このようにモデルが含意する実証的命題を検証してはどうか」(向山)、また「人材が基礎と応用に配分されることから発生する一般均衡効果も調べる」(片桐)といった提案があった。