RIETI-IJS/CASS 共催シンポジウム

日中経済:これまでの50年・これからの50年(議事概要)

イベント概要

  • 日時:2022年12月14日(水)10:00-12:00(日本時間)
  • 開催言語:日本語⇔中国語(同時通訳有り)
  • 主催:独立行政法人経済産業研究所(RIETI)、中国社会科学院日本研究所(IJS/CASS)

議事概要

1972年に日中国交正常化が実現して50年が経過し、日中両国は世界でも米国に次ぐ経済大国に発展した。一方で、地球温暖化や感染症など世界の課題は山積しており、将来の不確実性は高まっている。このため、RIETIと中国社会科学院(IJS/CASS)は、こうした世界が抱える課題に対していかに日中両国が協力できるかについて、これまでの50年の歩みを振り返りつつ展望した。

開会挨拶

楊 伯江(中国社会科学院(IJS/CASS)日本研究所長)

本年は国交正常化50周年の節目の年であり、11月17日、両国の指導者がバンコクで3年ぶりに対面会談を行った。50年間で両国の経済貿易関係は大いに発展し、両国の国民に大きな福祉をもたらした。中国の改革開放当初の日本からの経済協力は中国改革開放の成功と迅速な経済発展に大いに役立った。今年、日本では経済安全保障法案が可決されるなどの動きがあったが、こうした動きが中日間の経済貿易関係にどのような影響があるかを注視しつつ、協力を強めていく方策を模索したい。

矢野 誠(経済産業研究所(RIETI)理事長 / 京都大学経済研究所特任教授 / 上智大学特任教授)

両国間の貿易総額は50年間で約120倍になり、人的往来は新型コロナの感染症直前には1200万人を超えるなど、日本と中国の交流は深まっている。中国社会科学院とRIETIは長年にわたり協力関係を築いており、2002年には当時の中国社会科学院世界経済・政治研究所所長の余永定氏によるコラムを連載し、2012年からは双方の専門家による通貨バスケットの研究を進めている。2019年には、中国社会科学院日本研究所(IJS/CASS)と共同研究のMOUを締結した。本日は、過去50年を振り返りつつ、今後の50年を見据えが共通目標の実現に向けて進んでいきたい。

セッション1:基調講演

中日経済関係50年、アメリカ要素の徹底的な影響

江 瑞平(外交学院前副院長)

1980年から2021年までの40年間に、中国のGDPは米ドル換算で56.6倍も増加した。1990年から2021年までの間、中国のGDPは日本の12.4%から353.6%に、8分の1から3.5倍に跳ね上がった。

中日米の3カ国で決定的な影響力を持つのは常に米国である。日本経済は1995年のピーク時でも米国経済の73.6%であり、中国経済も今は米国経済の75.9%でしかない。そして、米国の主要な競争相手となった国が、米国の主なバッシングの対象となった。ここでの2つの重要なポイントは、2000年に中国が日本に代わって米国の最大の貿易赤字国になったこと、2010年の中国と日本のGDP逆転である。1991年には、米国の貿易赤字の6割が日本だったが、2015年には中国が49.6%になり、米国の戦略的脅威は日本から中国になっていると考えられた。私たちは世界GDPの第二と第三の大国同士であり、米国ファクターへの対応を適切に制御する必要がある。

日中経済関係50年の歩みを振り返って将来を展望

杉田 定大(東京工業大学特任教授 / 前日中経済協会専務理事)

日本は中国に対し、ODAやバンクローンを通じてその発展を支援してきた。日中経済協会が中心になって民間交流も行ってきた。ODAは3兆3000億円規模であり、1990年から1996~1997年ぐらいまでは中国のインフラの需要の約1割を日本の円借款が供与している。

一帯一路も、実は1995~1996年に日本から「現代シルクロード構想」として日本から中国側に提案したもの。日本も、過去に鉄鋼や石油化学などの産業が日本国内だけでは十分立地し切れずに、東南アジアあるいは中南米、中東に展開した歴史がある。ぜひ中国は、覇権主義に陥らず、「開かれた」一帯一路のイニシアティブを進めていただきたい。問題になっている発展途上国の債務救済についても、日中が組んで、他の先進国とも連携しながら協力していくことが大事ではないか。第三国市場協力についても、イノベーション、エネルギー環境、医療・介護・ヘルスケアなどで可能であり、日中企業が共同で途上国のインフラ案件を受注・運営することも可能だ。

中日経済協力50年、これまで・今の課題そして現状打破の道

張 季風(全国日本経済学会常務副会長 / 中国社会科学院日本研究所前副所長)

中日の経済貿易協力は、これまでの50年で大きな成果が得られた。中国と日本の経済貿易協力がなければ、東アジアの生産ネットワークとグローバル・サプライチェーンは成立しないといえるだろう。

課題は、中日経済関係が、政治面の影響をあまりにも強く受けていることだ。G7、インド太平洋経済協力(IPEF)、QUAD、Chip4は中国を念頭においており、デカップリングも問題である。米国はデカップリングを口にしながらも中国との貿易投資関係を強化しているが、日本は徹底したデカップリングをしようとしている。2022年1月から11月までの中韓貿易額は、中日貿易額を上回った。中国にある日系企業の投資収益率は15%と世界平均の倍ぐらいであるのに、日本はASEANへの投資を増やし続けている。

中国は自らのビジネス環境の改善を行い、日本政府には、他国ではなく日本の国益をもっと配慮していただきたい。中国と日本はウィンウィンで、新時代にふさわしい中日経済貿易関係を構築すべきだ。

セッション2:コメント・ディスカッション・Q&A

張 玉来氏:
米国ファクターが中日経済関係の決定的な要素であるとのことが、これをどう打破すればよいか、こうした政治的な関与は経済成長にどの程度の影響を与えるのか。また、中日両国の政府と企業が東アジア地域の一体化、統合に向けてどうすればいいのか。私たちの地域統合のレベルは欧州や北米と比べ随分遅れている。さらに、厳しい状況にある中国経済が強靱性を保つにはどうすればいいか。

劉 瑞氏:
米国からのバッシングにどう対応すればいいか。JETRO調査では、8割の日本企業が経済安全保障を経営課題にしている。

一帯一路は中国が提案した国際公共財である。当初から多国間協力を追求しており、140カ国、30以上の国際機関と一帯一路共同構築に関する文書に調印している。また、途上国の債務問題についていえば、例えばアフリカの対外債務のうち中国のものは12%、平均金利は2.7%である。一方、欧米の民間債権者のものは35%、平均金利は5%であり、中国のせいでアフリカの債務が膨らんだというのは事実ではない。中国はG20の枠組みの下で、ザンビア、エチオピアなどの大規模な債務再編にも加わっている。

津上 俊哉氏:
日本人は今、軍事的に年々強大化する中国のことを非常に不安に思っている。米国は身勝手で独善的な国だが、これまで自由貿易体制を支えてきた支柱であり、世界の警察官として世界平和の維持の役割を果たした面もある。多極化世界というのは、中国が思い描くような民主的で公平な社会になるのか。

中国は、少子高齢化や不動産など日本の過去の失敗に学ぶべき点が増えているのではないか。日中関係は、企業の財務諸表に例えるならば今後ますます負債が増えるかもしれないが、負債が増えるときは資産の方も増やす努力をしてバランスを取る必要があるだろう。

張 季風氏:
中国経済の成長が一番重要な、決定的なファクターである。米国の影響を取り除くためには、中国経済を速やかに好転させ、欧米企業や日本企業に見通しが立つ環境を提供することである。中国は世界最大の発展途上国であり、ポテンシャルが大きい。中国は、共同富裕で、自然を重視する両山理論で、平和的に発展していく。

少子高齢化については、日本の65歳以上人口の総人口に占める割合が29.9%だが、中国は14.2%、日本でいうと1995年ごろの高齢化率である。最近『日本バブル経済再興』というタイトルの本を書いたが、かなり反響があった。日本に学ばなければならない点はたくさんあり、中日双方がそういった分野で協力できることを心から願っている。

杉田 定大氏:
日中両国が行わなければならないのは平和と繁栄をベースとした信頼醸成であり、軍拡をやめて軍縮の方向に向かう議論を進めるべきだ。アジア太平洋にはASEANが中心となって安全保障環境の構築を目指すASEAN Regional Forumのようなスキームがあるので、それを生かしながら各国で安全保障や経済の問題について議論し合い、相互信頼を図りながら軍縮を進めていくというコミットメントが必要だ。

閉会挨拶

矢野 誠(経済産業研究所(RIETI)理事長 / 京都大学経済研究所特任教授 / 上智大学特任教授)

日本には「雨降って地固まる」という言葉があるが、現在のぬかるみを乗り越えて、今回のような意見対話を通じて地を固め、次の50年の生産的な世界を築いていきたい。

楊 伯江(中国社会科学院(IJS/CASS)日本研究所長)

今回の議論を通して互いの主張と実情をよりよく知ることができた。中国のミドルクラスは4億人おり、米国のミドルクラスと日本のミドルクラスの合計に相当する。中日の経済貿易関係は依然として重要であり、さらに交流を深めていきたい。