イベント概要
- 日時:2022年10月25日(火)14:00-16:30
- 開催方法:オンライン
- 開催言語:英語
プログラム
司会
長岡 貞男(経済産業研究所プログラムディレクター / 東京経済大学)
第1部
14:00-14:40 "Licensing Life-Saving Drugs for Developing Countries: Evidence from the Medicines Patent Pool"
講師
アルバート・ガラッソ(トロント大学)
14:40-15:00 質疑応答
第2部
日本側研究者の発表
1) 15:00-15:30 "Determinants of commercialization mode of science: Evidence from panel data of university technology transfer in Japan"
発表者
福川 信也(東北大学)
15:30-15:45 質疑応答
2) 15:45-16:15 "Language Barriers and the Speed of Knowledge Diffusion"
発表者
カイル・ハイアム(一橋大学)
16:15-16:30 質疑応答
セミナーの内容
技術の移転と普及は、イノベーションを促進していく上で根幹となる課題であり、本セミナーは、技術の移転と普及の仕組みや障壁を理解することを目的に、3つの最新の研究を報告頂き、議論を行った。
最初の報告は、トロント大学のアルバート・ガラッソ教授による、国連によって支援され設立された医薬品の途上国向けの特許プール(Medicines Patent Pool)の研究である。特許プールは技術標準の必須特許など補完的な特許権の集合ライセンスに主として利用されてきたが、医薬品のように補完性が乏しい特許のプールが効果を持つかどうかは疑問であった。しかし、報告によると、HIV、結核、C型肝炎などの薬剤を対象としたMedicines Patent Poolは、医薬品の途上国向け特許権のライセンスに大きな効果を発揮した。そのメカニズムについては必ずしも明確ではないが、医薬品間の補完性の大きな影響は無く、取引費用の削減(標準契約、契約の遵守の確保など)が重要な原因と示唆される。医薬品が実際に途上国で上市される確率も大幅に高めるが、ライセンスの拡大を大幅に下回っており、特許権のライセンスを補完する条件(薬価、製造能力など)が重要であることも示唆された。
第二の報告は、東北大学の福川信也准教授による、日本の大学の技術移転の経路についての包括的な実証研究である。大学からの技術移転が、大学発のスタートアップで行われるのか、ライセンスで行われるのか、その頻度を研究者が属する大学の特性で予測した研究である。基礎研究の水準(科研費の助成対象のプロジェクト数)が高い大学(あるいはそれを増やした大学)は、大学発スタートアップの水準が高い(あるいは増加する)ことを見出している。また企業との共同出願の水準(不実施補償の対象となる特許数)は、ライセンスとは正の相関、大学発スタートアップ数とは負の相関があることを見出している。因果関係としてどの程度解釈できるかどうか(例えば共同出願や大学発スタートアップは、研究プロジェクトの内容によって左右される)には、研究の更なる発展が重要だが、重要な基礎的な関係を提示した報告であった。
第三の報告は、一橋大学のカイル・ハイアム博士による、言語障壁と知識普及の研究の報告であった。日本語特許出願文献からの知識普及は、日本の発明者と比較して米国の発明者には有意な遅れがあるが、その半分が言語障壁の影響であること、また翻訳からの投資回収が困難な中小企業でそのような遅れが大きいこと、更に特許の登録前開示制度は、外国の出願者に対して早期に翻訳文献を公開することを義務付けるので、国際的な知識普及を促す制度であると報告した。言語障壁の大きさの経済的な影響の評価が今後の重要な課題である。
文責 経済産業研究所・東京経済大学 長岡貞男