RIETI-ANUシンポジウム

アジア太平洋デジタルガバナンスに向けて(議事概要)

イベント概要

  • 日時:2021年3月23日(火)9:00-11:30
  • 主催:独立行政法人経済産業研究所(RIETI) / オーストラリア国立大学(ANU)

議事概要

はじめに

テクノロジーの急速な進歩や世界の人々のコネクティビティの向上に伴って、経済のデジタル化が加速し、広がりつつある。デジタル経済は、アクセスの容易さやスピードで従来のリアル経済に勝る部分があるものの、一方でプライバシーやセキュリティに関する課題もある。デジタル経済の規制のためさまざまな二国間協定や多国間協定、地域協定が議論され、ルールや基準が設定されつつあるが、デジタル経済を統制するための国際的なグローバルガバナンスはまだ実現していない。

独立行政法人経済産業研究所(RIETI)とオーストラリア国立大学(ANU)による本シンポジウムでは、アジア太平洋地域の有識者が一堂に会し、アジア太平洋デジタルガバナンスの確立に向けて議論を行った。

開会挨拶

矢野誠(RIETI理事長/京都大学経済研究所特任教授/上智大学特任教授)

本日はRIETIとANUの共同シンポジウム「アジア太平洋デジタルガバナンスに向けて」のためにお集まりいただき、ありがとうございます。アジア太平洋地域を取り巻く最新の問題について考え、検討する良い機会になると思います。

今や世界のあらゆる場所で、デジタルトランスフォーメーション(DX)が急速に進んでいます。同時に、世界の多くの場所でデジタル保護主義が広がっています。こうした状況下、私たちは世界的に一貫性のあるデジタルガバナンスを確立する必要に迫られています。本日のスピーカーの皆さんには、2つのセッションを通じてこの問題に向き合っていただくようお願いしています。1つはグローバルな観点から、もう1つはアジア太平洋地域の観点からです。シンポジウムをお楽しみいただければ幸いです。

パネル1:グローバルガバナンスとデジタル経済

プレゼンテーション1

ウェンディ・カトラー(アジア・ソサエティ政策研究所ヴァイスプレジデント)

デジタル経済を統治するためには多国間ルールが必要です。現在、多くの国際的な機関やグループがそのことに気付き、そうしたルールを定めようとしています。この分野では二国間や地域の貿易協定も数多く議論されていますが、明確なリーダーがいません。国際的なルールを設定する上では、難しい課題も少なくありません。デジタル経済に関するそもそもの理念や価値観が違うため、規制枠組みがいくつもできるのです。

米国では、デジタル貿易に関する民主的価値観が重視されます。開放性、透明性、公正性などです。米国は明らかにリーダー的な役割を果たしながら、同盟国やパートナーとともにルールを作ろうとしています。バイデン政権は労働者を重視した貿易政策を推進していますので、デジタル経済のルールが米国の労働者や中流階級に恩恵をもたらし、平等と社会的包摂を促し、中小企業の参加を拡大し、デジタルデバイドを縮小し、消費者の関心に応えることの実証がますます大切になるでしょう。

今後の戦略としては、まず原則を打ち立てること、具体的には「信頼醸成措置」または簡単に達成できる目標から始めるべきです。デジタル経済パートナーシップ協定(DEPA)に見られるようなモジュール(群)方式を検討する必要があります。最後に、デジタル経済の問題を扱う国際機関を新設することが考えられます。そして、国ごとのデジタルシェルパ(補佐官)の任命など、各国政府がどうすればデジタル時代にもっとうまく対応できるかを探るのです。

プレゼンテーション2

黄益平(北京大学国家発展研究院教授/デジタルファイナンス研究センター長)

第一に、デジタル技術は中国経済を間違いなく変えています。最も重要な貢献はファイナンシャルインクルージョン(金融包摂)の促進です。また、マクロ経済安定化のメカニズムも提供されています。経済の効率性向上やユーザー体験の改善以上に重要なのは金融包摂、そして低所得世帯や中小企業の発展をサポートしている点です。

第二に、開発・発展はまだ緒に就いたばかりで、対応すべき政策上の問題がいろいろあります。ビッグデータ分析とプライバシー保護のバランスをうまくとる必要があり、イノベーションと金融安定化のバランスも考えなければなりません。適切に規制しなければ大きな金融リスクが生じかねませんが、規制が厳しすぎるとイノベーションが生まれません。最後に、とりわけ独占という観点から、大きな技術プラットフォームをどう規制するかを検討する必要があります。デジタル経済はこれまでと違うので、古い規制手法に頼るべきではありません。

グローバル化の第一の波は、最初の産業革命の後にやってきました。輸送費や通信費の削減がこれを後押ししました。第二の波が始まったのは、ニクソン大統領がドルと金との兌換を停止し(金本位制の廃止)、国境を越えた資本の自由な流れを可能にした時です。デジタル経済が本当に勢いを得るとすれば、それが第三の波になると私は思います。しかし、デジタル貿易が秩序正しく発展するためには、まだまだやるべきことがあります。

プレゼンテーション3

ビラハリ・カウシカン(シンガポール国立大学中東研究所長)

地政学は常に何らかの形で私たちに影響を与えます。それがデジタルガバナンスに影響しないとはまず考えられません。現在、米中の戦略的競争は国際関係の構造的な特徴の1つになっています。しかし、最終的にどんな問題で両国が協力することになったとしても、デジタル経済のガバナンスがそこに含まれないのは間違いないと思います。望ましいことが必ずしも達成できるとは限らないのです。

大国であり、アジア太平洋地域の経済成長の牽引役の1つでもある中国との交渉を、われわれは避けて通るわけにはいきません。しかし同時に、中国は同地域の成長を妨げる不安定性や不均衡の原因でもあります。つまり問題の解決策であると同時に、問題そのものでもあるのです。この矛盾を調整できるでしょうか。少なくとも緩和できるでしょうか。問題はコントロールとデータフローのしかるべきバランスを見つけられるかどうか、そしてこのバランスを地域全体が受け入れられるかどうかにかかっています。

デジタル規制制度は、他の地域枠組みにはない独特の課題を投げかけます。何らかのデジタル規制制度が望ましいという大筋の合意はあるようですが、そうした制度を築くには、さまざまな政治システムの中心となる価値観や関心の基本的違いに対処しなければなりません。その橋渡しは簡単ではないと思います。これを念頭に、もし中国が参加を決めたなら、私たちは「なぜ」と自問する必要があります。

ディスカッション

渡辺哲也(モデレータ):
デジタル技術が私たちの社会・経済を変えている、世界中のあらゆる場所のすべての市民に変化をもたらしていることに異論はないと思います。黄教授は政策の問題に言及され、競争政策が重要な役割を果たすともおっしゃいました。カトラーさんとカウシカンさんは理念や価値観の違いに言及されました。アジア太平洋のデジタル経済を発展させるためのアプローチがいくつか示唆されましたが、すでに私たちの手元には、透明性の強化、差別禁止の徹底、さまざまなシステムの相互運用性の確保といった基本原則があります。

カトラー:
かつて貿易交渉を担当した経験から学んだのは、楽観的になるということです。事態が悪化しているように思える時は、態勢を立て直し、その他の国々と何ができるかを考える必要があります。どの国にも中核的・基本的な違いがありますから、まず同じ考え方の国が集まって、自分たちが望むルール作りに取り組むのがよいでしょう。そして少しずつ他の国にも加わってもらうのです。しかし、中国がどうしても支配権を握りたいと主張し、他の国々が自由なデータフローを希望する時は、合意点や妥協点を見いだし、ギャップを埋めるのがとても難しくなります。データやデータプライバシーに関しては基本的な信条の違いがありますから、この分野を前に進め、特に米中のような国のデジタル制度の違いを埋めるのは相当な難事業になるでしょう。

黄:
私は経済学者として、政治体制は簡単には変わらないと思います。全員が同じ政治体制になった上で何か取引を行うというわけにはいかないでしょう。ですからカトラーさんがおっしゃったように、協力や協業の機会を見つけることが非常に大切です。本当の国際化を望むのなら、あらゆる問題について話し合い、アイデアを共有するためのプラットフォームやシンクタンクが必要だと思います。そうすれば何らかの共通点が見つかるかもしれません。

デジタル技術に基づくグローバル化には一定の時間がかかるでしょうが、私たちはみんなその方向へ前進しなければなりません。政策検討のための国際的なメカニズムや対話のようなものが重要になると思います。国際通貨基金(IMF)や金融安定理事会(FSB)が、政策問題の専門的な部分をサポートし、全世界でこれを標準化してくれるでしょう。国による違いはありますが、みんなで力を合わせる方法はきっとあるはずです。

カウシカン:
カトラーさんや黄教授のお話を聞いて少し楽観的になっています。貿易円滑化などの狭い分野でのデジタルガバナンスは恐らく可能でしょう。でも、狭い範囲のガバナンス体制で満足する場合は別ですが、さらに野心的になるのであれば、(グローバルガバナンスを)いつまでも回避し続けるわけにはいきません。

私の国シンガポールは、米国が理想とするものより制約のあるデータフロー体制でも我慢できるでしょう。それは他のASEAN諸国も同じだと思います。このように国や問題によって程度や度合いは異なりますが、これらは避けて通れない基本的なことなのです。

パネル2:アジア太平洋地域のデジタルガバナンス

プレゼンテーション1

レベッカ・ファティマ・サンタマリア(APEC事務局局長)

アジア太平洋経済協力(APEC)は政策レベルでも実務レベルでも極めて階層的な組織です。私たちが直面する課題の1つは、すべての議論を一本化することです。デジタル経済運営グループ(DESG)や「インターネットおよびデジタル経済に関するロードマップ」を通じて、そうした議論を統合する方法を見つけたいと考えています。また、2020年採択した「プトラジャヤ・ビジョン2040」は、イノベーションとデジタル化が柱の1つになっています。2021年の議長国であるニュージーランドは「デジタルに対応した回復」を重視しています。

DEPAは同じ考えを持つ国の集まりで、現在、参加国を増やそうとしているところです。このようにミドルパワー(中堅国)が集まって、他の国々のために課題を推進できることが重要だと感じます。

とはいっても、APECはまだ課題を抱えています。私たちは拘束力を持たないため、かなり率直で奥の深い会話ができますが、では最終的に、こうした会話はどこへつながるのでしょうか。課題の先にあるものを見通したいと思います。APECにはアイデアのインキュベーターという役割があります。私たちは探索や実験を可能にするパイオニア的な取り組みを行っています。また、能力開発やベストプラクティス共有のためのプラットフォームを備えています。複数の国から地域全体に活動を広げることができ、そこに私たちの取り組みを確立・強化するチャンスがあります。

プレゼンテーション2

デボラ・エルムズ(アジア貿易センター創設者兼エグゼクティブディレクター)

重要な問題の1つは、多くの政府がこれまでルールなしでも大丈夫だったと考えているということです。しかし、先行きの不透明感が強くリスクが大きいのは企業にとって支障があります。これを改善する1つの方法として、私たちは現行の貿易協定や新しい貿易協定にデジタルルールを盛り込もうとしています。

デジタルは、それ以外のさまざまな経済のパーツを結び付ける結合組織のようなものです。従ってデジタルだけを扱う省庁というのは想像しづらく、最終的にはそれは政府の役割といえます。ただ、政府がすべてを担う必要はないと私は思います。環境整備だけすればよいのです。政府は特にデジタルのあらゆる側面に精通しているわけではありませんから、私たちはこうした問題について各方面のステークホルダーと定期的に関わりを持つ必要があります。

注目すべき3つの協定は、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)、DEPA、デジタル経済協定(DEA)です。これらの協定に関わる国はかつて協業した経験がありますから、これはある種の進化です。こうしたバリエーションのおかげで、今後のデジタル貿易ルールの一貫性を高めるためのソリューションに、いろいろな方法でたどり着くことができます。ただし、互いに少しずつ違う協定が増えるのは望ましくありません。デジタルの分野では、どの協定が特定の問題に当てはまるかが分かりづらいからです。

プレゼンテーション3

ジョシュア・ポール・メルツァー(ブルッキングス研究所シニアフェロー)

デジタルやデータの分野では、企業、政府、個人によって法律上(衡平法上)の権利が異なります。ですから国によって影響も違えば、問題となる価値観も根本的に異なります。データへのアクセス、国境を越えたデータフローなど、デジタルに関する分野では、セキュリティがますます重要な基本原則になると思います。従って国家間の調整をもっと強化する必要があるでしょう。

データへのアクセス、国境を越えたデータフローは、どの国にとっても同じ問題というわけではありません。大国はたくさんのデータにアクセスできますし、国境を越えたデータフローについて心配する前に国内でできることがたくさんあります。また、国の中においてもデジタル化のスピードは企業によって随分違います。

デジタル経済での信頼を構築するためには「信頼性のある自由なデータ流通(DFFT)」が重要な起点になるでしょう。各国がグローバルな野心を持とうとしても限界があるでしょうから、考えを同じくする国がまずは集まって、もっと効果的に連携を図る必要があります。そうしたグループが効力を発揮し、本当の調整役を果たすには、指導者レベルが関わる、マルチステークホルダー型のグループでなければなりません。最後に、協業という点では、イノベーションや研究開発に関して現実的な意味で私たちに何ができるかも考えなければならないと思います。

プレゼンテーション4

ピーター・ラブロック(TRPC社ディレクター)

デジタルが活況を呈し、あらゆるところでデジタル化が進んでいます。競い合うように法規制化が進み、その数はどんどん増えていますが、同時に、デジタルプラットフォームの支配が拡大しつつあります。デジタルに関しては数多くの課題があります。政策や規制はどれも妥協やトレードオフを必要とするでしょう。信頼やプライバシー、セキュリティをめぐる問題もあれば、デジタル規制のアービトラージ(回避)の問題――これは2つの方面で明らかになっています――もあります。

これらの課題に対応し、デジタルガバナンスの枠組みを前進させるためには何をする必要があるでしょうか。私は5つのことを提言したいと思います。

一に、データは商品・サービスとは違うという認識を持ち、データ取引の枠組みを作る必要があります。第二に、デジタルバリューチェーンをよく理解する必要があります。第三に、デジタル貿易の枠組みに参加する者の役割をさらに明確化しなければなりません。第四に、ここまでの3つが達成できたら、その後に「交通ルール」を強化するための管轄区域の規制を定めなければなりません。最後に、これが一番重要ですが、デジタルの何がうまくいき、何がうまくいっていないかを追跡するための指標や尺度を設定する必要があります。そこが私たちにとっての課題となるでしょう。

ディスカッション

シロー・アームストロング(モデレータ):
APECでは、能力開発や技術協力が実務レベルで大きく進展していますが、指導者レベルでの見通しはどうでしょうか。

サンタマリア:
結局、私たちが民間セクターやAPECビジネス諮問委員会(ABAC)と行う対話が重要になります。二国間交渉と異なり、APECでは各国のひも付きではない率直な議論がなされます。

アームストロング:
DEPAの参加国拡大の見通しはどうでしょう。なぜオーストラリアはDEPAに加わらなかったのですか。

エルムズ:
オーストラリアを含むCPTPP加盟国の多くは、CPTPPという基準がすでにあるのでDEPAに加わる意味を感じないということです。DEPAの背景にある考え方は分かりますが、それ自体に十分な説得力が感じられませんし、意欲的なメンバーの関与を維持しながら尻込みする当事者を取り込むという、当初の問題解決も果たされていません。

アームストロング:
同じ考え方の国が集まったグループとは、どう定義すればよいでしょう。どのように包摂性を高めればよいでしょう。柔軟性のあるグループにすべきでしょうか、それともコアグループに他の国々が加わるという形をとるべきでしょうか。

メルツァー:
今はG7やG20など、さまざまなグループがすでに存在しています。つまり、そのさまざまなグループの指導者レベルが主な当事者と関わりを持つという、いわば可変的な形態がとれているのだと思います。未整理で紛らわしいと思えるかもしれませんが、話し合われる問題の範囲や、問題となる衡平法上の権利の違いを考えると、これが今後の方向性だと思います。

アームストロング:
データ保護について異なる国々が合意することはできるでしょうか。それとも各国がわが道を行くことになるのでしょうか。

ラブロック:
データ保護については、異なる管轄区域が互いに話し合えば済むことですが、データ移転のメカニズムについては見直す必要があると思います。現時点のメカニズムは決して円滑とは言えませんが、現在データ保護を行っている各地域が互いに話をできるようになる妨げにはなりません。

アームストロング:
ボトムアップの取り組みはとても重要ですが、G7やG20からのトップダウンの取り組みはどうでしょうか。また、世界貿易機関(WTO)のアプローチはデジタルガバナンスに使えますか。

エルムズ:
デジタルが最終的に「経済」だけで終わるのであれば、WTOのような協力の仕組みが明らかに必要でしょう。しかし、技術的なものなど、課題はあらゆる種類に及ぶと思います。民間セクターを巻き込み、政府の役人や規制当局者にデジタル経済のことをもっとよく教え込む必要があります。その意味ではトップダウンかボトムアップかは関係ありません。

メルツァー:
G7とG20は間違いなくこれからも重要でしょう。G20は中国だけでなくロシアも含むので、議論の中心的な場の1つとなります。しかし、デジタルをめぐる重要な運営委員会という位置付けではありませんし、そのような機能を担うこともできないでしょう。G7はあまりに欧州寄りですから、その状況の改善に取り組む必要があります。

ラブロック:
ガバナンス体制についても貿易協定についても、後ろを振り返るのではなく、これらの問題に前向きに対応していく必要があります。デジタルの課題はその条件に合わせて臨機応変に対応しなければなりません。さもないと課題はいつまでも尽きないでしょう。APECは拘束力を持たないので、恐らくこの点を前進させる重要な場となります。そして私たちは、互いの違いを認めながら議論することができます。技術に関する知識や、大規模でスピーディーな参加を可能にする交通ルールを、官民で提供・共有することができます。

クロージングセッション

渡辺:
私たちは核心的な理念や価値観がそれぞれ根本的に違うことを認識しています。対象範囲という点では、この問題は伝統的な貿易課題の範疇を越えています。技術的・経済的な状況は急速に変化しており、データやプライバシー、競争をめぐる政策の重要性が高まっています。アプローチに関しては、合意に達することができる分野もありますが、そうでない分野では信頼を築くことから始める必要があります。結局、デジタルガバナンスは社会のさまざまなステークホルダーに支持されなければなりません。最後に、ここではアジア太平洋の状況を論じましたが、デジタル経済はグローバルなものです。ですから、欧州を含む他の地域との相互運用性や調和も確保しなければなりません。

カウシカン:
デジタル化は否が応でも起こります。各国の規制を待ってはくれません。それを推進しているのは主に民間セクターですが、民間が自ら規制に乗り出す保証はありません。しばらくはある程度ばらばらの状態が続くしかないと思います。

黄:
まず重要なのは、政策や規制に関する国際的な取り組みが必要ということです。政策や規制の策定が多くの国で急速に進行しているからです。国際基準の設定は早い方がいいでしょう。というのも、個々の国で体制が出来上がってしまったら、それはますます難しくなるからです。デジタルガバナンスのための国際組織が別途必要かどうかは分かりませんが、何らかの取り組みは必要だと思います。規制について論じる時に必要なのは、スキル、プラットフォーム、そして監視・規制の能力です。

第二に、デジタル貿易における中国の役割についてですが、政治体制は簡単には変わらないけれども、かといって物事が変わらないとは限らない、というのが私の考え方です。中国政府は可能ならCPTPPに加盟するつもりだと公言しています。国際的な取り決めによって中国を正しい方向へ導けるということではないでしょうか。

サンタマリア:
私が感じたのはリーダーシップが絶対に必要だということです。拘束力を持たないAPECのようなプラットフォームを使ってはどうでしょうか。私たちはデジタルガバナンスの本当の意味を理解・認識するためのプラットフォームを築くこともできます。APECは多様なセクターのステークホルダーを数多く招いた円卓会議も開催しています。ここでは政策立案者に対する教育の助けとなる意見交換をすることができます。

アームストロング:
政治・経済システムがまったく違っても、多くの国々には共通の関心事項があります。多国間ルールの構築へ向けて重要だと思うのは、原理・原則に少しずつ合意することです。そのためにはたくさんの技術協力、能力開発、APECのように拘束力のない協力の枠組み――信頼や信用を築く場――が必要です。メンバーシップに関しては、非メンバーを犠牲にしない地域協力が求められます。最後に、トップダウンとボトムアップ、両方のアプローチが必要になると思います。

パネリストの皆様、ありがとうございました。RIETIにも感謝します。今後もディスカッションを続けられればと思います。