CEPR-RIETIシンポジウム

流れを変える ― グリーン成長とデジタルトランスフォーメーション(議事概要)

イベント概要

  • 日時:2021年3月2日(火)17:00-19:10
  • 言語:英語
  • 主催:独立行政法人経済産業研究所(RIETI)

議事概要

はじめに

コロナ後の世界はどう変わるのか。米国バイデン新政権も欧州委員会もグリーン成長とデジタルトランスフォーメーション(DX)をコロナ復興の鍵に位置付けている。米国や欧州の政策はどこへ向かうのか。各国産業界の取組は。そして、日本はこうした世界の潮流にどう対応すべきだろうか。

今回のRIETI-CEPRシンポジウムでは、米国、欧州、日本の有識者が、グリーン成長とDXの最前線を探るとともに、ポストコロナの国際協調のあり方について意見交換を行った。

開会挨拶

矢野 誠(RIETI理事長)

本日のシンポジウムでは、グリーン成長とデジタルトランスフォーメーションについて議論したいと思います。いずれも、コロナ後の復興を果たす上で重要な要因であり、欧州、米国、日本で重要な議題となっています。今回は、これらの国・地域から優れた研究者の皆様にご参加いただいています。

本日は、2名の著名な講演者をお招きしています。ライプニッツ経済研究所(RWI)の所長を務めるクリストフ・シュミット教授にグリーン成長について、高等国際問題・開発研究所(ジュネーブ)のリチャード・ボールドウィン教授にはデジタルトランスフォーメーションについてご講演いただきます。それぞれのご講演に続き、数名のゲストスピーカーの皆様からもコメントをいただき、現下の状況に関する貴重な見識を伺いたいと思います。

セッション1:グリーン成長

講演:グリーン成長

クリストフ・M・シュミット(ライプニッツ経済研究所(RWI)所長/CEPRリサーチフェロー)

合理的なEUのグリーン政策

気候変動に対抗するために単一の炭素税を設定すべきだとする強力な議論があります。排出権市場を構築して排出権の価格を設定できるようになれば、最低限のコストで個人の行動を正しい方向に転換させられるし、関与している業種に関する情報も明らかになります。欧州にはEU域内排出量取引制度(EU-ETS)があります。あるエネルギーシステムから別のエネルギーシステムへ転換すれば必ず所得分配上の影響が出てきますが、それでも、エネルギー転換が必要です。ですから、時間をかけて徐々に規模を拡大し、単一の炭素税を導入するということになるだろうと思います。

欧州グリーンディール
欧州グリーンディールは、2050年までにEU域内の温室効果ガス排出を実質的にゼロにするという「気候中立」を実現するものです。より高い目標を目指すこうした動きは、より早急な政策決定を行い、対応のさらなる迅速化を図る必要があることを示しています。各国レベルで適切な資源配分がなされるよう措置を講じるとともに、競争力への影響やカーボンリーケージ(ある国で規制を導入しても規制のない海外からの輸入品が増えるだけで地球全体の温室効果ガスの排出が減らないこと)に対処し、他国に対して多国間協調による解決策への参加を促す必要もあります。EUはその推進役となり、他の諸国と緊密な協力を進めていく必要があります。

カーボンリーケージの防止

カーボンリーケージを防ぐ1つの方法として炭素国境調整措置(Border Carbon Adjustment: BCA)が考えられます。これは、すべての輸入品について生産過程で排出された炭素の量に応じて適切な価格設定を行おうとするものです。分かりやすく有望な方法のように思えますが、排出された炭素量を正確に測定するのはたやすいことではありません。また、政策立案者は、どの国が「同等」の気候政策を進めており、どの国が進めていないかについても検討する必要があります。バイデン政権登場による追い風をとらえて、世界規模で効果を発揮する解決策を見いだすべきです。その第一歩となるのは、欧州において、あらゆる関連業種を対象とする単一のカーボンプライシング(炭素への価格付け)制度を導入することだろうと思います。そして、この仕組みに関する多国間交渉も進めていくべきです。グローバルな問題にはグローバルな解決策が必要だからです。

パネルディスカッション

スピーチ1:低炭素技術に関するイノベーションの推進

デビッド・ポップ(シラキュース大学教授)

クリーンエネルギーイノベーションを推進するための政策は、環境の外部性(製品の製造による汚染が価格に含まれない)と公共財としての知財(知財は発明者だけでなく多くの人々に恩恵を与える)という「市場の失敗」に対処しなければなりません。それには、ディマンドプル型の政策でクリーンエネルギーに対する需要を高めて市場に近い技術を導入するとともに、市場から最も遠いところにある技術のみを対象とする補助金などのテクノロジープッシュ型の政策を組み合わせる必要があります。

エネルギー技術のイノベーションの市場の失敗には、資本市場、経路依存性、波及効果があります。資本市場の失敗とは、エネルギー技術は市場化するまでに長い期間と多額の固定費が必要になることをいいますが、これは政府の支援で克服しやすくすることができます。経路依存性による市場の失敗とは、電気自動車を普及させるには充電インフラが必要ですが、電気自動車が普及するまで民間事業者はインフラ整備をせず、インフラ整備がされないと電気自動車も普及しないというものです。これは新しい技術の早期採用者(アーリーアダプター)に補助金を出すことを正当化します。また、クリーンエネルギーは波及効果が特に大きいので、研究開発への政府の資金的支援が正当化されます。その場合、政府はハイリスク・ハイリターンの技術開発を支援すべきであり、DOEのAdvanced Research Projects Agency-Energy(ARPA-E)は、これを非常にうまく行っています。

スピーチ2:日本におけるカーボンプライシングに関する考え方:グリーン成長に向けて

有村 俊秀(RIETIファカルティフェロー/早稲田大学政治経済学術院教授、同・環境経済経営研究所所長)

日本には「地球温暖化対策のための税(温対税)」という税金があり、二酸化炭素排出量1トン当たり289円が課されています。温対税による税収はエネルギー効率の向上や再生可能エネルギーの推進のために使われています。菅首相は、日本が2050年までにカーボンニュートラルを達成することを目指す旨を表明しています。さらなる技術とイノベーションが必要になりますが、そのコストは、例えば、石炭に追加的な税金を課すことで賄うことができるでしょう。こうした税収を使って新たな技術を推進することができるのです。菅首相は、カーボンプライシングについても、カーボンニュートラルを達成するために議論すべき重要な政策手段であると述べています。

グリーン成長に向けた1つのアプローチとして、炭素税による二重の配当が得られるようにすることが考えられます。カーボンプライシングの第一の配当は、再生可能エネルギー、省エネ、イノベーションの推進と二酸化炭素排出量の削減という形でもたらされます。炭素税による税収を財源として法人税減税を実施すれば、企業投資が促され、GDPが押し上げられるかもしれません。これが第二の配当です。日本における二重の配当の可能性についてシミュレーションしてみたところ、炭素税による税収を使って法人税減税または消費税減税を実施するとGDPが押し上げられる可能性があることが分かりました。また、炭素国境調整メカニズム(Carbon Border Adjustment Mechanism:CBAM)を日本に導入した場合どうなるかについても経済分析してみましたが、こちらは、競争力に関する問題への対処法として最善の方法ではないかもしれないという結果になりました。

スピーチ3:持続可能なグリーン成長を進めるヴァレオ

ジャン=リュック・ディ・パオラ・ガローニ(ヴァレオ サステナビリティー・渉外部門 副社長)

ヴァレオは、10年以上前からグリーン成長を信じ、取り組んできた自動車部品サプライヤーです。グリーンソリューションは、特に近年における電気自動車(EV)の人気の高まりに伴い、当社に変革をもたらしました。二酸化炭素排出量の削減は、サプライヤーが生き残るための重要な要件です。当社は、とりわけパワートレイン(駆動装置)、熱管理、照明のエネルギー効率の向上に努めてきました。自社の製品だけでなく、製造工程やサプライチェーンについても脱炭素化を進めてきました。

環境の持続可能性は二酸化炭素に限られた問題ではなく、生態系や製品の再利用、削減、再生、改造にも関わる問題です。当社のような大規模な企業にとっては、企業活動全体を通じての二酸化炭素排出量を削減することが極めて重要です。基本的に、当社のようなサプライヤーがあるからこそ、自動車メーカーは二酸化炭素を排出しない自動車を市場に送り出すことができるのです。当社が新たなモビリティシナリオの一翼を担っていると考えている理由はそこにあります。

市場に目を向けると、世界中で電化が進んでいることが分かります。あらゆる種類の電気自動車が世界中でシェアを伸ばしており、この先10年のうちにスクーターや三輪自動車など、さまざまな種類のモビリティの電化ブームが起こることになるでしょう。だからこそ、私たちは、電化に投資するテクノロジーサプライヤーが世界中で積極的に働きかけてグリーンモビリティ変革をもたらすことになると考えているのです。

質疑応答

渡辺:
視聴されている皆様から多くの質問をいただいていますが、いくつかに分類して、まず、シュミット教授にお伺いしたいと思います。カーボンプライシングの理論的合理性は理解しているのですが、まだまだ多くの懸念があります。

第一に、社会的受容の重要性への言及がありました。産業競争力への悪影響や失業、さらには、増大するコストを払う余裕のない人々の暮らす貧しい国々にもたらされる悪影響について、多くの懸念があります。

第二に、炭素国境調整メカニズムでカーボンリーケージを防ぐとのことでしたが、中国やその他の新興国のような大規模排出国をどう関与させていくかについて、欧州はどういう戦略を持っているのでしょうか。

第三に、価格のシグナルと市場情報はどれくらい完全なのでしょうか。特に、ロングテール型でバリューチェーンの長い製品やサービスについてお伺いしたいと思います。また、どうすれば炭素価格や炭素排出量を測定できるのかについてもお聞かせください。

シュミット:
私が話したことを見事に補完するご指摘をポップ教授からいただきました。カーボンプライシングは主要な手段ですが、単独で機能するものではないというのが私の見解です。ですから、当然、研究開発を促す政策も必要になります。その点についてはポップ教授に的確なご指摘をいただいたと思います。有村教授のコメントに対してですが、二重の配当はまさに私が話していたことで、こちらも私の講演をとてもうまく補完していただく内容だったと思います。カーボンプライシングは包括的な税制改革に着手する機会を提供し、これまで成長を阻んできた障害をいくつか取り外し、さらなる成長をもたらすことができるからです。

渡辺副所長からは本質を突いたご質問をいただきました。負担をどう分担するかは国レベルでも国際レベルでも重要な問題です。国レベルでは低所得世帯にとって重要な問題です。カーボンプライシングで得られる税収を使って、低所得世帯に比較的重くのしかかる負担を少なくともある程度まで補償する必要があるからです。これは欧州レベルではすべての加盟国で受け入れられる必要があります。また、排出量取引における認定証の当初発行割当をどうするかという問題でもあります。解決策はあり、実施する必要があります。棚上げにできる問題ではないのです。価格設定に関する効率的な解決策は、負担に対する補償や社会的受容の維持に関する適切なアプローチと1対1で対応する形で実施される必要があります。

競争力の問題についてですが、特にバリューチェーンが長く、その段階を1つずつ遡って各段階における炭素含有量を割り出す必要のある製品については、極めて複雑な作業になります。つまり、各段階の炭素含有量が分かるか否かがあまり問題にならないようなカーボンプライシングを実現するには、国際的な枠組みの下で連携して行うのが一番の方法だということです。共通のアプローチで価格設定が行われるからです。

EUのアプローチはどういうものかというご質問がありましたが、これについては、欧州の政策立案者や代表者が、すべての交渉相手に提示する不変の要件として、世界共通のカーボンプライシング制度を構築するという最終目標を念頭に置き、この問題に対する取り組みの1つ1つを最適な解決策への一歩と考えることを断固として求め続けてくれることを切に願っています。これが私の考え得る唯一の本当に見込みのある戦略です。そして、本日、私たちが行っているような議論の場でこうした問題に関する非常に有意義な合意形成が図られることが、その実現に役立つことを心から願っています。

セッション2:デジタルトランスフォーメーション

プレゼンテーション:デジタルトランスフォーメーション:未来のグローバル化と未来の仕事

リチャード・ボールドウィン(高等国際問題・開発研究所(ジュネーブ)教授)

デジタルトランスフォーメーション

コンピュータが機械学習で新たな認知能力を獲得し、その結果、これまでとはまったく異なる類の仕事が自動化できるようになりました。また、デジタル技術によってサービスバリューチェーンの切り分けが可能になり、特定の業務プロセスを切り離して外国に委託したり、自動化したりできるようにもなりました。

さらにテレワークもデジタル技術によって身近なものになりつつあります。新型コロナウイルス感染症と高度データ通信システムの発達を背景として、テレワークへの組織的なシフトが進んでいます。オンラインコラボレーションツールによってチーム間の調整が簡単にできるようになり、機械翻訳によって異なる言語を話す人たちが協力しやすくなりました。これらのデジタル技術はすべて本質的に、実にさまざまな可能性を切り拓き、グローバル化の在り方と未来の仕事の在り方を大きく変えつつあります。

グローバル化の未来と仕事の未来

デジタル技術によって、ある国にいながらにして別の国で働く「テレマイグレーション」が現実のものになりつつあります。これは事実上、仕事の裁定取引ができるようになるとういことです。グローバル化がこの先どうなるかを考えるに当たっては、どういう仕事が外国に委託できるのか、その仕事をするのに適した文化的・言語的親和性と能力を有している人材はどこにあるのかを考える必要があります。

未来の仕事

仕事の未来については消去法で考えるべきです。将来の仕事はどんなふうになっているかを考えるのではなく、こうなることはないと思われることを考えるのです。

富める国では、人びとは、自動化や外国への委託が困難な職務、例えば、共感力・創造力・倫理観が必要とされる職務や、文化的・言語的特性もしくは対面コミュニケーションが必要とされる職務を伴う仕事に従事することになるだろうと思います。

貧しい国では、状況は異なります。なぜなら、貧しい国に暮らす人々こそがテレマイグレーションの当事者だからです。コールセンターや業務プロセス委託でインドが成し遂げた変革と同じようなことが起こるのではないかと思います。

パネルディスカッション

スピーチ1:信頼性のある自由なデータ流通を実現するために、デジタル貿易協定を再考する必要がある

スーザン・アーロンソン(ジョージワシントン大学教授)

信頼性のある自由なデータ流通(DFFT)を実現するために、デジタル貿易協定を再考する必要があります。現在のアプローチは、自由なデータの流れと信頼が等しく重要であるという概念に基づくものですが、信頼はさほど重視されなくなり、自由なデータの流れより下位に置かれるようになりました。なぜ、そう思うのでしょうか。証拠として、「関税及び貿易に関する一般協定(GATT)」および「サービスの貿易に関する一般協定(GATS)」の例外規定で原則としてデータの自由な流通が確保されています。これは拘束力のある規定です。しかし、オンライン利用者がもっと安心できるような規定は願望でしかなく、残念ながらまだ相互運用が可能な状態にもなっていません。それ故に、これらの協定は信頼を広げるものになっていないと述べているのです。

デジタルプラットフォーム企業は世界経済と国家安全保障に欠くことのできない存在ですが、これらの企業がどのようにデータを収益化し、管理するかについては、ほぼ野放しの状態です。さらに、こうしたプラットフォーム企業は、自社の世界的存在感をテコに各国政府を脅し、屈服させようとする動きを強めています。例えば、フェイスブックはトランプ政権にTiktokが自社と米国の国家安全保障の存続にかかわる脅威であると伝えました。確かに、中国企業の提供するこのアプリのセキュリティには問題があります。とはいえ、それが国家安全保障上の脅威である証拠は示されていません。もう少し最近では、オーストラリアで、グーグルやフェイスブックなどのプラットフォーム企業が政治的影響力を使って、出版社へのコンテンツ使用料支払いを義務付ける法案に影響を及ぼした事例があります。政府がこのような動きをするなら、それは、政策立案者が「ナショナルチャンピオン(国を代表する大企業)」の懸念を重視しているということであり、人々の懸念は必ずしも重視していないということです。

信頼を構築しようとするなら、さらなる取り組みが必要です。信頼を協定の中心に据え、信頼に関する規則に拘束力を持たせるべきです(消費者福祉、個人情報保護、オンライン安定性に関する規定を増やすなど)。政策立案者はどうすればオンライン市場参加者の信頼を高めることができるかを考えるべきです。規制の相互運用を可能にする方法を見出すべきです。その1つの方法として、国連国際商取引法委員会(UNCITRAL)の取り組みを足掛かりとして個人情報保護や消費者保護に関するモデル法を策定し、途上国がこれらの法律を制定・実施できるよう能力構築を支援することが考えられます。さらに、データイノベーションを活用して、政策決定をより信頼される双方向型(クラウドソーシング型)のプロセスにする方法も考えられます。

スピーチ2:デジタルトランスフォーメーションとコロナと労働市場

ゲオルギオス・ペトロプロス(ブリューゲル リサーチフェロー)

新たな技術がどういう影響をもたらすかを考えるには、これらの技術が私たちの働き方や仕事の特性に変革をもたらす力に着目する必要があります。仕事の二極化はその1つです。職業や仕事を必要とされる技能レベルに基づいて低技能、中技能、高技能の3つの区分に分けると、中技能の職業が減少し、低技能と高技能の職業が増大することになるでしょう。今後、人工知能(AI)や機械学習の発展に伴い、非定型的な仕事でも、特に低技能領域においては比較的大きな影響を受けることになるでしょう。高技能を要する仕事はそれほど大きな変革を迫られることにはならないと思われます。

DingelとNeimanの研究によると、高技能の仕事は中技能・低技能の仕事より自宅でできる確率が高くなっています。つまり、コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)は、その特性ゆえに、新たな技術がもたらす変革をさらに加速させる可能性があるということです。長期的には、パンデミック終息後もリモートワークは続き、普及の度合いは最大で以前の3倍にも達することが調査で示されています。低技能の職業は、コロナウイルス感染症とそれに続くデジタル化の加速による重大な変革圧力に直面していることが見て取れます。

スピーチ3:日本企業のグローバルバリューチェーンへの影響

戸堂 康之(RIETIファカルティフェロー/早稲田大学政治経済学術院経済学研究科教授)

グローバルサプライチェーンは拡大していますが、より重要なのはグローバルイノベーションネットワークの拡大です。イノベーションと経済成長を促進するために国際的な研究協力が極めて重要であることを強調しておきたいと思います。デジタルトランスフォーメーションが進めば、通信コストが引き下げられ、企業やその他の組織が世界的につながりやすくなりますが、協力しやすくなるのは、もともとつながっていた者同士や同じような文化的、民族的、言語的背景を持つ者同士の間だけです。つまり、互いによく知らない者同士のデジタル通信は簡単ではないかもしれないということです。

複数の調査で、在宅勤務の結果、生産性が下がっており、対面による迅速なコミュニケーションができないことが最大の要因であることが明らかになっています。さらに、社内のコミュニケーション不足より企業間のコミュニケーション不足の影響の方が大きいことも示されています。これらの調査結果は、デジタル変革の時代にグローバルバリューチェーンを拡大する上で、日本が困難な課題に直面していることを示しています。日本はあまりグローバル化が進んでおらず、その背景が他の国々と大きく異なるからです。この問題を解決するためには、明確な意図を持って考え抜かれた事業戦略や政策が必要です。取り得る政策として、環太平洋パートナーシップ(TPP)や自由で開かれたインド太平洋戦略(FOIP)といった国際的な枠組みを効果的に活用することが考えられます。もう1つは、海外留学に対する奨学金制度の拡充です。

スピーチ4:デジタルイノベーションは今日の社会と未来を変える一歩

田中 和哉(東京大学大学院工学系研究科(松尾研究室)職員/政策研究大学院大学政策研究院リサーチフェロー/scheme verge株式会社CTO&CSO)

近年、企業はデータおよびデータ収集システムを通じて学術研究に大いに貢献するようになりました。レガシー企業からも新たなデータが得られますが、デジタルイノベーションや新興企業からは新たな種類のデータを得ることができます。データイノベーションが重要だという理由はここにあります。

スマートシティ開発を推進するscheme vergeという会社を立ち上げたのですが、これはデータ駆動型の都市開発を主眼とする事業を展開しています。データが必要なので、データを収集する2つのアプリを開発しました。1つはhoraiというアプリで、利用者が行きたい観光地を選択すると、AIアルゴリズムを使って旅行プランを提案します。もう1つはhorai for Bizというアプリで、事業者が旅行客の日程データに応じてシフトやスケジュールを最適化できるようにするものです。要するに、AIを使って需要と供給をマッチングさせて観光地に関するデータを入手し、その地域にどんなビルを建てるべきかを判断できるようにしようとしているのです。

こうした活動を通じて、デジタルイノベーションに関するいくつかの重要な課題が見えてきました。第一に、新事業領域にはルールがなく、ある意味グレーゾーンになっていますが、これは、日本においては特に困難な課題です。第二に、イノベーションが目標である限り、データ収集システムとデータを特許で守ることはできません。第三に、これらの技術は非常に新しいので、AIに関する新たな大学エコシステムを形成する必要があります。

コメント

リチャード・ボールドウィン(高等国際問題・開発研究所(ジュネーブ)教授)

すべてあらかじめ段取りしていたかのようだったということくらいしか、言うべきことがありません。非常にいい感じにまとまった、つまり、互いにうまく補完し合えたと思います。本日の発表資料一式は、さまざまな方面からの見方をとりまとめた貴重な資料になっていると思います。どんな会議でも、まだ言い足りない、聞き足りないと思えたら成功なので、もっとやってほしいと思ってもらえることを祈りつつ、このへんで終わりにしましょう。どうもありがとうございました。

閉会挨拶

リチャード・ボールドウィン(高等国際問題・開発研究所(ジュネーブ)教授)

まず、気候目標は通常の成長や技術では達成し得ないということを言っておきたいと思います。デジタル技術によって、これを可能になし得るさまざまな方法について議論しましたが、第5世代移動通信システム(5G)とモノのインターネット(IoT)はあらゆることを調整し、効率性を高めるのに役立つということを付け加えておきたいと思います。

掘り下げてみれば、結局、これはデジタルデバイドの問題なのです。富める国では可能な多くのことが貧しい国では可能ではありません。ですから、再生可能エネルギーが石炭より安くならない限り、気候目標を達成することはできないのです。この問題を解決するためにグローバルな取り組みが必要とされているのです。

最後に、新たな製品や技術を導入するという話がありましたが、いずれも世界中で大きな市場が形成されることになるでしょう。デジタルでグリーンな社会への変革を基盤として、多くの素晴らしい仕事や企業が生み出されることでしょう。