International Workshop

Frontiers in Research on Offshoring(開催報告)

イベント概要

  • 日時:2019年8月2日(金)
  • 会場:経済産業研究所 国際セミナー室(経済産業省別館11階)
  • 参加費:無料
  • 主催:経済産業研究所、一橋大学社会科学高等研究院

開催報告

2019年8月2日、RIETIにおいて、プロジェクト「オフショアリングの分析」(リーダー:石川城太ファカルティフェロー)のワークショップ"Frontiers in research on offshoring"が開催された。この分野の先端的研究を行っている4名の外国人研究者(Keith Maskus (University of Colorado)、Monika Mrazova(University of Geneva)、Amber Li(Hong Kong University of Science and Technology)、Carsten Eckel(University of Munich))とプロジェクトメンバー2名が報告し、プロジェクトメンバーなどが討論者を務めた。そこで報告された6本の論文の概要、および成果は以下のとおりである。

Keith Maskus氏は、"Intellectual Property Related Preferential Trade Agreements and the Composition of Trade"を報告した。本論文は知的財産権保護強化を伴った特恵貿易協定が貿易に与える影響を検証したものである。アメリカやEUによる多くの特恵貿易協定は知的財産権保護を含んでおり、それらはアメリカやEUの要求によるものであるため、相手国にとっては外生的な要因である。したがって、アメリカ、EU、EFTAと特恵貿易協定を結んだ国を保護の貿易に与える影響の識別に用いる。また、保護の影響は所得水準や知的財産権が重要な産業などについて詳細に分析されている。実証分析の結果、知的財産権が重要な産業の輸出は協定以後に上昇し、また協定に参加していない国の輸出も上昇していることが明らかにされた。このことは、知的財産権保護強化により、知的財産権が重要な産業における貿易が拡大することを示している。

石川城太氏は、"Tax Havens and Cross-border Licensing"を報告した。多国籍企業は,国で異なる税制の相違を利用して、移転価格操作によって租税回避行動を取っている。これに対処するためにOECDがアームスレングス原則を提唱した。本論文では、この原則の経済効果を分析するため、多国籍企業が無形資産を売上げに応じたロイヤルティ支払いでライセンス契約している場合を考察している。とくに、タックスヘイブンが存在するもとでアームスレングス原則が多国籍企業のライセンス戦略と経済厚生に与える影響を分析し、アームスレングス原則によってライセンス契約が歪められてしまう結果、経済厚生が低下してしまう可能性を示した。租税回避策としてのアームスレングス原則の運用の仕方に重要な示唆を与える研究である。

Monika Mrazova氏は、"Trade Agreements when Profits Matter"を報告した。寡占市場では、貿易政策は交易条件を通じてだけでなく、利潤移転を通じても外部性をもたらす。本論文では貿易政策として輸入関税と輸出補助金を繰り返しゲームの枠組みで考察し、上の2つの外部性に与える効果が非対称的であるため、輸出補助金よりも輸入関税の方がより自己拘束的であることを示した。この結果は、WTO加盟国がなぜ輸入関税の削減を交渉し、輸出補助金を禁止するのかという現実を説明するのに、寡占市場が重要な役割を果たしているという示唆を与えた点で新規性がある。

大久保敏弘氏は、"Individual Preferences on Trade Liberalization: Evidence from a Japanese Household Survey"を発表した。近年、先進国では製造業のオフショアが進み、国際貿易が不確実性を増し、保護主義化してきている。こうした中で一般の人々の貿易自由化の選好とその要因を正しく把握することが重要になってきている。本論文では慶應家計パネル調査において独自に行った貿易自由化に関する一連の質問を用い計量分析している。伝統的な貿易理論が想定するような、所得や教育、職業など経済的要因のみならず、非経済的な要因や非認知能力(幸福度やリスク、社会的なスタンス、道徳心、公共心など)が貿易や国際化への選好を決める大きな要因になっていることが示されている。日本の製造業のオフショアが進み、保護主義が台頭する中で、一般の人々がどうグローバリゼーションや貿易自由化を考えるかを定点観測していくことは、今後一層重要になる。

Amber Li氏は、"Processing Trade, Productivity and Prices: Evidence from a Chinese Production Survey"を報告した。本研究は中国における輸出企業と国内企業の生産性の違いを検証したものである。特に加工貿易、通常貿易、ハイブリッド(加工と通常両方)、国内企業の生産性を比較している。生産性の推定は、産出量データが利用可能であるため、収入に基づく生産性指標だけでなく、物理的生産性についても可能となっている。実証分析により、収入生産性指標では輸出企業の生産性が国内企業に対して高いわけではないが、物理的生産性では加工貿易企業の生産性が高いことが示された。これは加工貿易企業の価格が低いことを意味しており、加工貿易企業の投入財価格が低いことに起因していると考えられる。

Carsten Eckel氏は、"CATs and DOGs"を報告した。企業の製造品を他企業が自社製品とともに外国に輸出するCarry-Along Trade (CAT)について、当該企業が直接外国に輸出するDelivery of Own Good (DOG)と比較しつつ分析している。CATに関する理論分析・実証分析はこれまでも行われているが、DOGと比較していること、また寡占モデルを用いて企業間の戦略的行動に注目しているところが本論文の特徴である。分析の結果、CATにより輸出される製品に代替性・補完性がある場合には、CATによる輸送費がDOG よりも高かったとしても、需要の補完性の内部化や共謀効果を得ることを目的にCAT が選ばれる場合があることが示された。また、共謀効果がある場合、DOGと比較してCATは製品価格を上昇させ消費者余剰を下げる恐れがある。貿易におけるCATの重要性が大きい現状において、CATの厚生効果を論じた本論文の結果は、政策的にも重要な示唆を与えている。