RIETI-IWEP-CESSA Joint Workshop

Topics on International Finance: Exchange Rate and Currency(報告書)

イベント概要

    • 日時:2018年12月1日(土)9:30-17:20
    • 場所:中国社会科学院 世界経済・政治研究所(CASS/IWEP)
    • 主催:独立行政法人経済産業研究所(RIETI)、中国社会科学院 世界経済・政治研究所(CASS, IWEP)、横浜国立大学アジア経済社会研究センター(CESSA)

報告書

吉見 太洋(中央大学、RIETI)

RIETI「為替レートと国際通貨」研究会(小川英治FF)では、中国社会科学院(CASS)の世界経済研究所(IWEP)、横浜国立大学アジア経済社会研究センター(CESSA)とともに、毎年Joint-Workshopを企画・開催してきた。本年は2018年12月1日、中国社会科学院(北京)において第7回目のワークショップが開催された。これまでのワークショップでは、RIETIで公表されているAMU乖離指標や産業別の実効為替相場、また中国側で研究されている産業別実効為替相場のデータを用いた研究成果、為替、国際価値連鎖、為替パススルー等に関する研究成果が報告されてきた。「Topics on International Finance: Exchange Rate and Currency」と銘打った今回のワークショップでは、為替レート、人民元、決済通貨選択等に関連する6つの研究成果が報告され、日中双方の参加者間で活発な意見交換と議論が行われた。

以下、それぞれの報告論文と討論内容について簡潔にまとめる。

1. "The Shifting Drivers of Exchange Rates: Uncertainty, Interest Rate Parity, and Internationalization"

報告者:Yuki MASUJIMA(RIETI Project Member / Bloomberg)

討論者:Guobing SHEN(Fudan University)

金融危機や紛争など投資家のリスク回避傾向が高まる際、低金利で流動性が高く経常収支黒字である国の通貨が一時的な「避難通貨」として買われる傾向がある。本報告では、こうした避難通貨効果を為替変動要因に加えることによって、どの程度為替変動の説明力が増すのかを検証した。具体的には、金利水準、ドルとの金利差、ドル価値の変化やキャリートレード効果に加えて、米国S&P500のボラティリティ指数である「VIX」が為替レートに与える影響を避難通貨効果として定義し、円やスイスフランなど21通貨の日次の為替変動との関係を回帰分析で計測した。

その結果、円の避難通貨効果は2008-09年の世界金融危機以降、為替変動要因として観測されるようになり、特に2013年以降顕著となった。対照的に、韓国ウォンやインドネシアルピアは、負の避難通貨ともいえる脆弱通貨(リスク回避度が高まる際に売られる)効果が為替変動の有意な説明要因となった。また、金利差の代わりに金利差の変化を用いることで、モデルのパフォーマンスが改善した。ただこうした改善効果は、アジア以外の地域の新興国ではあまり得られなかった。討論者からは、オンショアとオフショアの人民元の為替変動や為替の流動性の違いやボラティリティと不確実性の定義、説明変数の内生性などの問題が指摘された。また、短期的な決定要因として外貨準備、長期的な決定要因としてバラッサ・サミュエルソン効果を追加してはどうかとの提案があった。会場からは、リスクフリー金利の代わりに2年物国債金利を用いる理由に関する質問がされるなど活発な議論が行われた。

2. "What Drives RMB Excess Returns? Fundamentals or Speculation"

報告者:Sichong CHEN(Zhongnan University of Economics and Law)

討論者:Eiji OGAWA(RIETI Faculty Fellow / Hitotsubashi University)

本研究は、米ドルオフショア人民元相場(CNH)の超過収益の決定においてファンダメンタル要因(実質為替相場)と投機要因(名目金利差)のどちらが強く影響しているかを分析するものである。分析には、ベイジアン動学線形モデルとベイジアンモデル平均アプローチが利用されている。分析結果は、時変的ではあるものの、ファンダメンタル要因と投機要因の両方が人民元の超過収益に対して予測力があることを示している。また、2014年2月以前はファンダメンタル要因が主要な決定要因であったが、2014年3月から2015年8月にかけて投機要因がより強い決定要因となり、その後は再びファンダメンタルズ要因が主要な決定要因であったことを明らかにしている。

これを踏まえ、討論者は主に以下三点を議論した。第一に、本研究ではカバーなし金利平価に基づいて超過収益が計算されているが、カバーなし金利平価成立の要件の一つとして、市場参加者がリスク中立的であることが挙げられる。一般に市場参加者はリスク回避的であるため、リスクプレミアムを考慮すべきである。第二に、通貨当局の介入が考慮されていない。分析対象がCNHであっても、中国通貨当局は外国為替市場に日常的に介入を行っている。また、通貨当局がファンダメンタルズ(実質為替相場)を参照していれば、超過収益がファンダメンタル要因に影響を受ける。最後に、超過収益の決定要因が2014年から2015年にかけて変化したことの理由として、著者は人民元改革を挙げている。もしこれが正しければ構造変化の存在を意味し、超過収益がファンダメンタル要因で決定されるという以前の状況には戻らないのではないかという指摘がされた。

3. "Determinants of Invoicing Currency Choice by Japanese Firms"

報告者:Uraku YOSHIMOTO(RIETI Project Member / Yokohama National University)

討論者:Risheng MAO(Institute of World Economics and Politics (IWEP), CASS)

本論文は、日本企業の輸出競争力が貿易建値通貨選択に及ぼす影響を実証的に分析した論文である。本論文の前半では、一般機械、電気機器、輸送用機器、化学製品の4産業に属する50の製造業部門の貿易建値通貨を、輸出物価指数を用いた新しい推定方法によって推定した。推定の結果、日本の輸出における建値通貨の決定要因は2007年から2012年までの円高局面と2012年末からの円安局面で異なることが明らかになった。同時に、産業間だけでなく、同一産業の製造業部門間でも貿易建値通貨が大きく異なることを明らかにした。本論文の後半では、前半で時変パラメータとして推定された円建て輸出比率を被説明変数として、貿易建値通貨の決定要因を分析している。輸出競争力の高い製造業部門ほど為替リスクを回避するための円建て輸出を行うことができるという仮説を検定するために、本論文では企業レベルのR&D支出データを集計して製造業50部門のR&D集約度を輸出競争力の代理変数として構築し、実証分析に用いた。内生性を考慮するSystem GMM モデルによる推計の結果、2007年から2012年までの円高期ではR&D集約度が円建て貿易の割合を押し下げ、為替差損を避ける効果が見られた。2012年から2016年までの円安期においてはR&D集約度の高い企業は円建て輸出の割合を押し上げて、為替差益を享受する傾向にあることが確認された。

討論者やフロアからの討議では、R&D集約度を輸出競争力とみなすことへの正当性や、海外生産や中間財など建値通貨選択に関わる様々な要因についてなど多くの質問が寄せられた。

4. "Exchange Rates and Trade Dynamics: Evidence from China's Provincial Level Data"

報告者:Panpan YANG(Institute of World Economics and Politics (IWEP), CASS)

討論者:Taiyo YOSHIMI(RIETI Project Member / Chuo University)

本研究は、為替レートと生産量のショックが貿易収支に与える影響を分析するものである。分析サンプルとして、2008年から2017年における中国の省レベル月次データを採用している。筆者はまず当該データに基づいて、省レベル実質実効為替レート(REER)を算出し、REERに省ごとの差が存在することを明らかにしている。これは、省ごとに貿易相手国の違いが大きいことに起因している。また、Panel Vector Autoregressive Model(パネルVARモデル)を採用し、省レベルREERの増価ショックが省ごとの貿易に与える負の影響は、中部地域、東部地域、西部地域の順に大きく、西部地域ではその影響は有意に観察されていない。また、生産量の増大ショックは中部地域についてのみ貿易増大の影響を持つ。

これらの分析結果を踏まえて討論者は、以下のような点について議論した。まず、パネルVARモデルは二変数(省レベル貿易、省レベルREER)と三変数(省レベル貿易、省レベルREER、省レベル生産量)の二通りのケースが用いられているが、どちらの場合も中国全体の国レベルの変数や、世界経済の動きに関わるグローバルショックについては考慮されていない。省ごとの貿易もこれらのマクロショックに影響を受けるはずなので、検討の余地がある。また、省ごとの貿易データが海外との直接貿易だけでなく、他の省と海外の間の経由地としての間接的貿易を含んでいる可能性も指摘された。これを踏まえて、省レベルの貿易を分析する際にも、付加価値貿易に注目することの重要性が議論された。

5. "Unemployment in a Small Open Economy Model with Heterogeneous Job Separations"

報告者:Taiyo YOSHIMI(RIETI Project Member / Chuo University)

討論者:Xiaolin XIAO(Peking University)

本研究は、部門間の離職率の違いが、バラッサ・サミュエルソン効果にどういった影響を与え得るか、理論モデルに基づいて分析するものである。バラッサ・サミュエルソン効果とは、一国における貿易財部門の非貿易財部門に対する相対的な生産性向上が、賃金および非貿易財価格の上昇を通じて物価水準を上昇させ、当該国の実質為替レート増価を招くという効果を指している。本研究では、貿易財部門と非貿易財部門の間の離職率の違いを、小国開放経済の理論モデルに導入することで、離職率の違いがバラッサ・サミュエルソン効果の大きさに違いを生むことを明らかにしている。例えば、貿易財部門の離職率が非貿易財部門の離職率よりも1%高いとき、バラッサ・サミュエルソン効果の大きさが38%程度小さくなることを数値計算によって示している。

これらの結果を踏まえ、討論者は主に今後の理論モデルの一般化という観点から、以下のような点を議論した。まず、現在は離職率が部門内で共通の外生変数として扱われているが、現実においては企業ごとに異なる内生変数であろうという点が指摘された。また、現在のモデルは小国開放経済体系であるが、離職率の部門間乖離は先進国でもよく知られている現象なので、大国モデルでの検討も有益であろうという点も議論された。また、議論のベースラインとして、貿易財部門の離職率が非貿易財部門の離職率よりも高いケースが想定されているが、この点については国や部門によって多様性があるため、逆のケースも十分に議論すべきとの指摘も加えられた。

6. "Income Elasticity, Currency Appreciation and Trade Balance: Based on United States Case"

報告者:Shuhui NI(Institute of World Economics and Politics (IWEP), CASS)

討論者:Kiyotaka SATO(RIETI Project Member / Yokohama National University)

本論文は、米国の主要貿易相手国9カ国との二国間貿易収支に着目し、米国の貿易収支の所得弾力性と為替レート弾力性を9カ国それぞれに対して推定している。近年の米中貿易摩擦が代表例であるが、米国は二国間ベースで自国の貿易収支赤字の改善を相手国に迫っている。米国は相手国に対して米国製品の輸入拡大を求めるだけでなく、相手国が自国通貨安に誘導することを防ぐ為替条項の適用も視野に入れている。こうした米国の貿易交渉によって本当に米国の貿易収支赤字が縮小するのか否かを分析することは経済学の役目である。本論文の分析手法に新しさはないが、標準的な手法を用いて実証分析を行った結果からどのような政策的含意を導くことができるかは興味深い。

本論文は米国の貿易収支の弾力性を相手国別だけでなく、産業別にも行っている。二国間で(ましてや産業別で)貿易収支がバランスする必要はないが、弾力性の推定結果を示すことは有益である。本論文の分析結果で最も注目すべきは、米ドル高(米ドルの貿易相手国通貨に対する増価)によって米国の貿易収支が改善するという結論である。この結果に基づけば為替条項などを取り決める必要はなく、米ドルが増価しても米国の貿易収支は悪化しないという政策的含意が導かれる。しかし、本論文は実質と名目のいずれの為替レートを用いているかが明確ではなく、為替レートの上昇を減価と増価のいずれと定義しているのかも明確ではない。さらにJカーブ効果が考慮されておらず、貿易収支の為替レート弾力性が長期もしくは短期のいずれの推定値なのかも明確ではない。このように本論文はまだ改善すべき点が多く残されているが、重要な政策的含意につながる研究課題に取り組んでいる点は評価できる。今後、さらに実証分析を改善することが期待される。