国際ワークショップ

Frontiers in Research on Offshoring(開催報告)

イベント概要

  • 日時:2018年8月3日(金)10:00-17:50
  • 会場:RIETI国際セミナー室(経済産業省別館11階)
  • 主催:独立行政法人経済産業研究所(RIETI)
  • 共催:一橋大学社会科学高等研究院、および、科学研究費補助金基盤(S)(課題番号26220503)

開催報告

2018年8月3日、RIETIにおいて、プロジェクト「オフショアリングの分析」(リーダー:石川城太ファカルティフェロー)のワークショップ"Frontiers in research on offshoring"が開催された。この分野の先端的研究を行っている4名の外国人研究者(Arnaud Costinot(MIT)、Ngo Van Long(McGill University)、Wolfgang Keller(University of Colorado)、Andres Rodriguez-Clare(University of California at Berkeley)とプロジェクトメンバー2名が報告し、プロジェクトメンバーなどが討論者を務めた。そこで報告された6本の論文の概要、および成果は以下のとおりである。

Arnaud Costinot氏は"Robots, Trade, and Luddism"を報告した。近年、特に米国では、中国や他の低賃金国からの輸入の急増と機械化が所得格差を拡大させる要因として危惧されている。この論文はそういった脅威に対して政府がどのように対応するべきかを理論的に考察したものである。彼らの貢献は、(1)輸入や機械化による生産性ショックから生じた歪みの下でも包絡線定理を用いて厚生の分析ができることを示したこと、(2)輸入や機械による新技術を用いる企業に対してどのように課税するかをさまざまなケースのもとで考察したこと、(3)パレート効率税率をデータから観測できる変数で記述し、実際にデータを用いてパレート効率税率を計算したことが挙げられる。特に驚くべき結果は、輸入の増加や機械化による生産性の上昇はそうした新技術を用いる企業へのパレート効率税率を上昇させるように思われるが、外部性が存在することから政府は税率を低下させるということである。こうした考察は、所得格差の拡大を危惧する政府がグローバリゼーションと機械化にどう対応していくべきかを考える上で非常に示唆に富む。

Ngo Van Long氏は"Offshoring and Reshoring: The Roles of Incomplete Contracts and Relative Bargaining Power"を報告した。本論文は、企業の内部化、アウトソーシングに関する研究であり、Antras(2005)を拡張した理論論文である。通常はオフショアリングを説明するモデルであるが、本論文ではバーゲニングパワーを非対称にすることで、オフショアしたり(例えば、先進国からの生産拠点流出)、リショア(例えば、先進国への生産拠点の国内回帰)したりすることを示した。近年の先進国ではオフショアのみならず一部でリショアが起こっており、本論文はこれを解明する一助となる。

Wolfgang Keller氏は、"Globalization, Gender, and the Family"を報告した。繊維貿易に関する多国間取極(MFA)の失効という外生的変化を用いて、デンマークの繊維産業で働く者に与えた輸入の影響を雇用者ミクロ・データにより分析した結果、女性は賃金低下に直面し結婚・出産に向かったとしている。「働き方改革」を進める日本にとっても興味深い結論であると解釈できる。

荒知宏氏は、"Tariffs, Vertical Oligopoly and Market Structure"を報告した。本論文では、中間財貿易に対する関税の影響を、既存企業の輸出量の変化(intensive margin) と新規企業の市場参入の変化(extensive margin) に明示的に分けて考察し、その違いがある場合の中間財貿易への最適関税を分析した。従来の最終財貿易とは異なり、中間財貿易では一方的な関税の削減でも、貿易自由化した市場とされた市場の両方で参入効果をもたらすことを理論・実証の両面で明らかにし、垂直特化の下では貿易自由化の新たな厚生効果があることが示された。

椋寛氏は、"Tariff elimination versus tax avoidance: Free trade agreements and transfer pricing"を報告した。多国籍企業の移転価格の操作が、自由貿易協定(FTA)の原産地規則を満たすために行われる場合、FTA締結が輸出企業の利潤を下げ、域内の消費者に損失を与える恐れがある。FTAの効果が移転価格税制の整備に左右されることを指摘した点は、政策的にも重要な示唆を与えている。

Andres Rodriguez-Clare氏は、"External Economies of Scale and Industry Policy: A View from Trade"を報告した。本論文は、製造業の各産業における外部的な規模の経済性を、多国間貿易データから計測するという新手法を提示している。繊維など軽工業よりも自動車など重工業での規模の経済性が高いという、従来の手法と同様の結論が得られている。さらに各国の実質所得を最大化する最適産業政策を分析し、最適産業政策の利益は極めて低いという注目すべき結果を得ている。