国際ワークショップ

企業間ネットワークのダイナミクスとマクロ変動(開催報告)

イベント概要

  • 日時:2018年2月26日(月)
  • 会場:RIETI国際セミナー室(東京都千代田区霞が関1丁目3番1号 経済産業省別館11階1121)
  • 主催:独立行政法人経済産業研究所(RIETI)

開催報告

RIETIにおいて、プロジェクト「企業間ネットワークのダイナミクスと地理空間」(リーダー:齊藤有希子上席研究員)のワークショップ「企業間ネットワークのダイナミクスとマクロ変動」が2018年2月26日に行われた。近年、活発に進められている企業間ネットワークダイナミクスの分析を中心に、海外からの招待研究者3名から論文が発表された。

リム氏の論文では、生産性や財の需要に異質性のある企業が、将来を見据えた意思決定の中で生産ネットワークを構築する理論モデルを構築し、定量的分析を行った。企業の限界費用は、企業固有の生産性とサプライヤーの集合(どのようなサプライヤーを持つのか)に依存し、各取引関係において固定費用を支払うことで複数の仕入先、販売先を持つことができる。このモデルでは様々な異質性やダイナミクスなどを考慮でき、連続的な企業の集合(無数の小さな企業)を考えることで解析的にも一般均衡を解くことが可能になっている。定量的には、アメリカ企業の取引関係のデータを用いて、ネットワークの構造やダイナミクスが、外生的な供給や需要ショックのマクロ経済への波及パターンにどう影響するかを分析した。

吉川氏の論文では、ベルギーの企業間取引のデータから、販売元企業が販売先の仕入れの中で大きなシェアを占めていると、販売価格に高い利幅が反映されることが実証的に示された。また、輸入価格に大きな変動があると、国内サプライヤーの張り替えが活発に行われることも示された。これらの結果を踏まえ、企業が川下企業への販売において寡占的に競争し、各企業の最適化行動により、取引ネットワークが内生的に決定されるモデルを構築した。輸入価格の変動などの供給ショックが取引ネットワークを経由する波及を通してマクロ経済に与える影響は、既存研究で用いられてきた完全競争や独占的競争、固定的な取引ネットワークのモデルと比べると4倍以上になることが分かった。

藤井氏の論文では企業のライフサイクルにおいて、取引関係が年齢とともにどのように変化し、それが成長率にどう影響するかが分析された。日本の東京商工リサーチの取引ネットワークのパネルデータから、年齢の高い企業は規模も大きく、取引先の数も多いことが示された。また、年齢の高い企業は他の年齢の高い企業とつながっている(企業年齢における正のアソータティビティがある)ことが分かった。また若い企業ほど取引関係の改廃を頻繁に行うことから、より良い取引関係(生産性に寄与する取引関係)が時間経過とともに生き残るセレクションや、取引相手との生産性に寄与する関係性を徐々に学習するようなメカニズムが示唆される。企業の成長率も仕入先数、販売先数等のネットワーク指標と正の相関があることから、企業間のマッチングを促進する政策が経済全体の生産性を高める可能性があると報告された。