Hitotsubashi-RIETI International Workshop on Real Estate and the Macro Economy(議事概要)

イベント概要

    • 日時:2017年12月14日(木)〜15日(金)
    • 会場:独立行政法人経済産業研究所

議事概要

"Disentangling the Effect of Housing on Household Stock Holdings: Evidence from Japanese micro data"

ONO Arito (Chuo University)

  • 家計による資産選択において、住宅保有は重要な要素である。家計による住宅保有が金融資産保有に与える影響に関する実証分析が多く行われてきた欧米では、資産選択に起因する内生性バイアスが推計上の課題として指摘されてきた。小野報告は、推計上の問題を整理したうえで、2000年から2015年において東京に居住した家計を対象とした個票データを用い、「保有住宅の資産価値」と「住宅ローン限度額 (initial mortgage debt)」を区別したChetty et al. (2017)の方法により内生性バイアスに対処したうえで、土地資産価値が株式保有額に与える影響を計測した。分析の結果、家計が保有する土地資産価値が大きくなれば株式保有額が大きくなり、住宅ローン限度額が大きくなれば株式保有額は小さくなる点などが示された。
  • 発表に対しては、土地資産額だけではなく建物の資産価値を考慮することの必要性、標本選択の基準に関する提案、土地資産価値の計測に関して自己申告額を用いる妥当性などに関する指摘がなされ、関連した議論が行われた。

"Housing Wealth Effects in Japan: Evidence based on household micro data"

HORI Masahiro (Cabinet Office)

  • 家計の住宅資産額を正確に計測した上で限界消費性向や資産効果を測ることは極めて重要である。しかしながら、わが国では利用できるミクロデータに制限があり、実証研究の蓄積は欧米に比して乏しかった。堀報告は、バブル期を含む1983年から2012年を対象に、家計調査の個票と立地情報を活用したミクロ・データベースを整備し、保有住宅資産額が家計消費に及ぼす資産効果をミクロレベルで推計した。分析の結果、保有住宅の資産額が大きくなれば家計消費は大きくなるという資産効果が計測された。さらに、限界消費性向が非耐久財では0.001であり耐久財では0.004と英米の既存研究と比較して小さい点、高齢世帯の限界消費性向が若年世帯と比較して大きい点などが示された。
  • 発表に対しては、資産効果の経済学的な基礎、資産価値の計測に公示地価を用いることの問題点、減価償却率の妥当性、限界消費性向の過小推計の可能性などに関して議論がなされた。

"Decompositions of Spatially Varying Quantile Distribution Estimates: The Rise and Fall of Tokyo House Prices"

Dan MCMILLEN (University of Illinois, Urbana-Champaign)

  • 不動産価格の動態を分析する際に、成約物件の空間分布を考慮することは極めて重要である。特に、バブル前後のように、異時点間において不動産価格の分布そのものがシフトするような場合、その分布のシフト要因を分解する方法が必要である。McMillen報告は、2時点のサンプルを対象とし、被説明変数の分布のシフト要因を分解するMachado-Mata(2005)に「立地」という要素を加えて拡張した手法を提案した。具体的には、2時点における不動産価格の空間分布の変化を、①説明変数(属性効果)、②係数効果(その属性の市場における評価)、③時間固定効果、④立地、⑤立地ごとの時間固定効果の5つの要因に分解した。その上で、東京とシカゴにおける不動産取引データを用いて、価格の空間分布を比較し、その分布のシフト要因を分解した。分析の結果、マンション価格分布は単価が小さくなる方向にシフトしており、その主な要因として、成約物件の属性の影響(属性効果)に加えて、成約物件の立地が都心から郊外にシフトしたことが示された。
  • 発表に対して、バブルの形成要因と分解結果の整合性、バブルの予兆の計測可能性、代替的な推計方法との比較可能性、バブル生成・崩壊期における不動産価格分布の変化の仕方が日米で異なる原因、などに関する議論がなされた。

"Change in the Distribution of Sale/Rental Prices: Comparison of Beijing and Tokyo"

Xiangyu GUO (National University of Singapore)

  • 国際間で不動産価格を比較する際には、不動産属性やその市場における評価の違いを考慮した上で分布そのものを比較することが重要である。Guo報告は、成約価格、家賃および価格家賃比率を用いて、北京の不動産市場と東京の不動産市場を比較した。異なる市場における不動産取引を比較するという観点から、不動産価格を①不動産属性の違い(属性効果)と②不動産属性の評価の違い(係数効果)とに分けるOaxaca分解を分布レベルに拡張したFirpo et al. (2007)を用い、バブル期の北京と東京の不動産価格の分布を分析した。その結果、バブル期の北京と東京において、属性効果よりも係数効果がどの価格帯の物件においても大きいことが示された。また、バブル期であっても北京では高価格帯物件の成約価格が大きく上昇したが、東京では低価格帯物件の成約価格が大きく上昇したといった相違点も示された。
  • 発表に対し、分位点回帰係数の解釈、バブル形成期における北京と東京の共通点や相違点に関する議論がなされた。

"Depreciation in Commercial Property"

YOSHIDA Jiro (Pennsylvania State University)

  • 不動産物件の経済的な減価率を正確に計測することは、不動産取引のみならず資本ストックの計測やマクロ的な生産活動の分析にとっても重要である。吉田報告は、不動産物件の減価に影響するキャッシュフローに注目し、そのキャッシュフローの時間を通じた減価率を計測するものである。具体的には、日本の大手不動産管理会社から得られた大規模な賃料データを用いて、賃料の減価率を計測した。分析の結果、新規の賃貸借では減価率は0.8%であるのに対して既存の賃貸借では0.4%である点、減価率は時間を通じて逓減する傾向がある点などが示された。 発表に対して、分位点回帰による価格帯ごとの検証の必要性などに関して議論がなされた。

"Weekly Hedonic House Price Indices and the Rolling Time Dummy Method: An Application to Sydney and Tokyo"

Robert HILL (Institute of Economics, University of Graz)

  • 不動産市場の価格動向を正確に計測する方法としてローリング回帰によるヘドニック価格指数が多くの国において採用されているが、そのウィンドウの決定基準はいまだ構築されていない。Hill報告では週次取引データを対象としたローリング回帰によるヘドニック価格指数の利点とその問題点を整理した上で、Diewert(2002,2009)の方法による四半期ヘドニック価格指数をベンチマークとした週次ヘドニック価格指数に関したウィンドウの決定基準を提案した。さらに、東京およびシドニーを対象に週次ヘドニック価格指数を作成したうえで、最適なウィンドウを示した。
  • 発表に対して、高頻度データから物価指数を作成するという観点から、ローリング回帰の妥当性やカルマンフィルターの適用可能性、代替的な推計手順などに関して議論がなされた。

"Alternative Land Price Indexes for Commercial Properties in Tokyo"

SHIMIZU Chihiro (Nihon University)

  • 商用不動産価格指数(Commercial Property Price Index; CPPI)は、国民経済計算におけるストック額を正確に計測するために重要な経済指標である。しかしCPPIの計測に際して、減価償却を無視している点、CPPIを土地価格指数と建物価格指数に分解できない点などの課題も指摘されている。清水報告は、後者に焦点を当て、土地と建物が一体で取引される商用不動産取引情報から、土地価格指数と建物価格指数を分離する方法(ビルダーズモデル)を提案した。さらに、東京のオフィス市場を対象としてビルダーズモデルによる土地価格指数の計測結果を示した。
  • 発表に対して、ビルダーズモデルの前提条件に関した妥当性、計測された減価償却率の妥当性、規制緩和の影響の扱いなどに関する指摘がなされ、議論が行われた。

"Collateral Channel versus Bank Lending Channel: Evidence from a massive earthquake"

UESUGI Iichiro (Hitotsubashi University and RIETI)

  • 貸出市場では、資金制約の程度は担保チャネルと銀行貸出チャネルを通じて変化することが理論的に知られているが、実証的に両方の存在を同時に調べたものは存在しない。植杉報告では、2011年3月に発生した東日本大震災によって企業の担保資産と銀行の貸出余力の両方に同時に生じたショックに注目し、担保チャネルと銀行貸出チャネルの存在の有無とそれぞれのチャネルを通じた効果の大きさを検証した。その結果、震災によるショックは両方のチャネルを通じて企業の資金制約を強めたこと、経済的な効果の大きさはいずれのチャネルを通じたものもそれほど違いがないこと、復旧のための投資補助金は担保チャネルを通じた影響の伝播を抑制すること、などが分かった。
  • 発表に対して、チャネルに影響するものとして政府系金融機関や信用保証を考慮することの必要性、地域的な特性による借り入れや投資需要の違いをより明確に分析に含めることの必要性などが指摘された。

"Aging and Property Prices: Evidence from diverse economies"

INOUE Tomoo (Seikei University)

  • 井上報告では、人口動態と不動産価格をはじめとする資産価格との関係に着目し、人口動態の変化と資産価格・金融環境との間における相互作用について検証した。分析には、1971年から2015年にかけての20カ国のパネルデータを用いている。分析の結果、住宅資産価格に対して人口動態が影響を与えること、人口動態が若年層で占められている場合には金利は低下して資産価格は高くなること、資産価格には長期的な趨勢のみならず短期的に景気循環に連動して変化する要素が存在していることを報告している。
  • 発表に対して、EUのような人の移動が可能な経済とそれ以外の経済とでは人口動態が持つ意味が異なるのではないかとの指摘、高齢化や人口減少に伴い不動産価格が下落するとの予想は自然利子率が低下する可能性を考慮すると必ずしも当たらないのではないかとの指摘などがされ、議論が行われた。

"Recurrent Bubbles, Economic Fluctuations, and Growth"

JINNAI Ryo (Hitotsubashi University)

  • 陣内報告では、繰り返しバブルを導入し、不況期に生産水準ではなく成長率が低下するsuper-hysteresis効果が生じる理論モデルが示された。経済がbubble regimeとfundamental regimeとの間を相互に行き来するというrecurrent bubbleモデルについての説明に続いてstochastic bubbleモデルとの比較がされ、成長率がどのように異なるか、金融の発展程度によりその結論がどのように変化するかが論じられた。その上で、米国や日本のデータに基づき、繰り返しバブルが起きている可能性についての検証結果が示された。
  • 発表に対して、繰り返しバブルを前提としたモデルで想定される人々の行動や、fundamental regimeで将来のバブル取引市場が存在しないことの現実妥当性、バブルの発生条件であるg>rが現実経済では成り立つ可能性、バブルに関する理論モデルが国境を越えた普遍性を持つ可能性、についての指摘がされ、活発な議論が行われた。