イベント概要
- 日時:11月5日 15:00-16:20
- 場所:経済産業研究所 1121会議室 (経済産業省別館11階)
- 講演者:Stefan WAGNER (Associate Professor, ESMT European School of Management and Technology)
- 司会:長岡 貞男 (経済産業研究所プログラムディレクター / 一橋大学)
セミナーの内容
近年、研究開発の水準に比較して、特に情報通信分野ではより多数の特許が出願され登録されるようになっており、スマートフォンの分野の訴訟に見られるように、「特許の藪」の問題が重要になっている。異議申し立て制度(注1)は登録される特許の質の低下を予防する措置として注目されており、日本でもそれを再度導入することが決定されている。本研究はEPO(欧州特許庁)のデータに基づいて、異議申し立て制度が特許の藪の問題の解決にどの程度有効であるかを検証している。
利用されたデータは、1980年から2007年の間に欧州特許庁に出願された特許で2010年の半ばまでに特許査定された発明が対象である。異議申し立ては2011年の第1四半期までのデータを収集している。異議申し立ての頻度は6.2%とかなり高い。
このようなデータを利用した計量経済分析の結果、異議申し立て制度を利用する誘因は特許の藪(注2)によって弱まり、また特許の所有権が企業間に分散することで弱まることが明らかになった。こうした結果は、無効化のための異議申し立て制度は社会的に有用であっても、そうした制度を実際に利用する誘因が企業には十分ではない可能性があること、また、弱い特許が比較的大きな割合を占めている分野において、異議申し立て制度を利用する誘因が特許の藪によって最も弱められている可能性を明らかにした。
このような欧州での経験(異議申し立て制度の活用が社会的に重要な分野で必ずしも利用されていない)は、日本で再導入されることになった特許付与後異議申し立て制度のあり方にも重要な含意を持っている可能性がある。なお、本報告の基礎となる論文はManagement Scienceから近刊される。
(注1)欧州との付与後異議申し立て制度では、付与後9カ月以内に申し立て可能であり、欧州特許庁が一括して審理することなど、各国の裁判所における無効化訴訟と比較して有利な点が多々ある。
(注2)特許の藪の指標は、欧州特許庁のサーチレポートから、少なくとも三者の間で相互に発明をブロックする関係にある発明の数えることで推計している。
文責 経済産業研究所・一橋大学 イノベーション研究センター 長岡貞男
配付資料
参考文献
- Harhoff Dietmar, Georg von Graevenitz and Stefan Wagner, 2014, "Conflict Resolution, Public Goods and Patent Thickets," forthcoming from Management Science