イベント概要
概要
一橋大学およびRIETIは、政策フォーラム『資源エネルギー政策の焦点と課題』を開催した。日本のエネルギー政策をリードする論客が一堂に会し、産学官連携と「文理共鳴」の議論から、リスクマネジメントのあり方や新たなベストミックスを含め、今後の政策の課題と展望を探った。
議事概要
開会挨拶
山内 進 (一橋大学長)
東日本大震災と福島原発事故は、エネルギー問題の重要性を再認識させた。これに全学的に取り組むため、昨年から、東京工業大学、経済産業省(以下、経産省)、産業界のご協力を得て「資源エネルギー政策研究プロジェクト」を進めている。国内外で活躍される論客による本日の議論が、今後のエネルギー政策形成に貢献することを期待している。
基調講演
シェール革命とエネルギー安全保障戦略
田中 伸男 (日本エネルギー経済研究所特別顧問)
世界のエネルギー最新情勢
IEA「世界エネルギー見通し」最新版の最大のテーマは「シェール革命」だ。アメリカは非在来型石油によって、2020年にはサウジアラビアを追い越し、天然ガスでもまもなくロシアを追い越し、それぞれ世界一の生産国になる。中東ではイラクの原油生産が増え、約300万バレル/日から2020年には倍増し、その後も増える。2035年の中東原油は、中国とインドに輸出される。アメリカは「エネルギー・インデペンデンス(自立)」で中東からの原油の輸入がなくなり、中東和平、特にホルムズ海峡にコミットを続けるか否かが今後の焦点だ。中東原油の90%がアジア行きで、仮にアメリカ人が血を流すなら、中国、インド、日本、韓国にも「軍艦・掃海艇を出せ」「血を流せ」「カネを出せ」となる。
石油・天然ガスの輸入依存度は中国もインドも上がる。アメリカだけが異なり、石油は半減以下、天然ガスは輸出に転じる。貿易赤字の6割の石油輸入が黒字に近くなり、経済に大きなプラスとなる。石油・ガス従業者は高給で内需が潤う。安いガスを使う化学産業も戻り、安いガス発電は製造業に追い風となる。アメリカはこの10年間に「1人勝ち」となる。
ホルムズ封鎖への危機
短期的にホルムズ海峡問題は深刻で、イランの暴発や、イスラエルの先制攻撃が懸念される。今秋から冬にかけて「ホルムズ封鎖」の可能性が否定できない。IEAの政府備蓄は、第1次石油ショック並みの途絶量なら1年もつが、「ホムルズ封鎖」では4カ月ももたず高騰必至である。2011年の日本の経常収支は、9兆円の黒字だが、石油価格が倍になると6兆円の赤字に転落する。原発が動かないと12兆円の赤字だ。信認崩壊が起こり、資本が逃避し、さらに円安で、ますます原油などの輸入価格は高くなり、経済危機を招きかねない。中部電力の4割分の燃料が途絶えると、たちまち計画停電だ。これを防ぐには浜岡原発が必要だが難しい。秋から大きな危機があるかもしれず、備えが重要だ。やはり、一番良いのは早い原発再稼働である。
シェール革命と日本の戦略
「シェール革命」は、日本にとって、アメリカ、カナダ、中国、オーストラリアなど石油および天然ガスの調達先の多様化となる。2035年に北米が輸出し、南米や東アフリカも重要な輸出国になる。ASEANからの輸出は細くなるが、オーストラリア産天然ガスは相対的に高価だ。アジアはロシアにとって重要である。東部シベリアからのパイプラインは未整備だが、成長するアジアに売りたいと思っている。日本はLNG一本槍だったが、ロシアからのパイプライン構築が重要な戦略的選択で、1000km以下ならチャンスとなる。
日本の天然ガス購入価格を安くできるかだが、日本は、石油価格リンクで、アメリカの5倍、ヨーロッパの5割増の値段で買っている。アメリカでは、石油の掘削時に天然ガスが随伴するように天然ガスの掘削時でも随伴する石油分が高値で売却できるので、天然ガス分は安価でパイプラインに流してもいいとなり、石油価格が高いほど天然ガスが安くなる現象が起きている。日本の石油価格リンクの購入価格は構造的にナンセンスだ。どうすれば天然ガス価格の「新フォーミュラ」を構築できるか。今や天然ガスは石炭・原子力代替で、安価でないと意味がない。日本は仕向地制限条項や市場が未整備なので、毎年100億ドルの無駄遣いだとIEAは指摘している。
メタンハイドレートでは、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が海底採取に成功し、世界から注目されている。5年以内に商業生産用の技術開発に目処をつけることを目指している。これは、将来有望なエネルギー・セキュリティー上の重要な投資だ。千代田化工建設株式会社の世界初の「水素チェーン」も画期的で、日本の未来をひらく可能性がある。余剰水素をトルエンに付加して常温・常圧の液体にすることで、普通のタンカーで運んで、普通のタンクに貯蔵できる。日本にとってクリーンなエネルギーを比較的安価に調達でき、「水素経済」を再活性化する面白いテーマだ。
将来の電源構成
電源では、日本は原子力が伸びないので、再生可能エネルギーと天然ガスだ。EUは再生可能エネルギー、アメリカは天然ガス・原子力・再生可能エネルギーで、インドは石炭である。中国は桁違いの電気を必要とする。IEAの予測では、日本の原子力は2020年頃に2割、2035年では約15%だ。石油火力は減り、天然ガスは約3分の1で、石炭は維持。日本にはクリーンな石炭火力技術があるが、二酸化炭素の地下貯蔵(CCS)が将来可能になる場所で行う必要がある。
一番増えるのは再生可能エネルギーで27%だが、問題はコストだ。固定価格買取費用は、IEAの見立てで、現行1兆ドル、新規2.6兆ドル、バイオ燃料補助1.2兆ドルと、全部で5兆ドルで、再生可能エネルギーは高くつくという。確かにドイツの電力料金は高い。
また、IEAは昔から指摘してきたが、再生可能エネルギー拡大には、系統網が課題だ。発送電分離に加え、東西の周波数を統一すべきだ。EUの場合、系統網が接続され、たとえば、デンマークで余った風力発電の電気はノルウェーが買い揚水発電で蓄えられるので、再生可能エネルギーの割合は60数%まで行ける。しかし、東西分断状態の日本では19%が限界だ。韓国、ロシアとの接続も選択肢である。結局、日本の電力は非常に高く、中国の3倍、アメリカの倍で、産業が国内に留まれるか心配だ。
新型炉と原子力の未来
原子力は中国、ロシア、インドが使い、トルコへの輸出の話もある。日本が技術を持ち続けることは、世界への貢献となる。アメリカのテロ対策を導入しなかったのは経産省の人災だ。こうした点を世界と共有して、安定的に運転するのが日本の使命といえる。
今後の原子力を展望すると、新型炉の開発も重要だ。これまで軽水炉と核燃料サイクルのパラダイムで来たが、もう一歩進める時だ。統合型高速炉(IFR)は、アメリカのアルゴンヌ国立研究所で60年代につくられ、電解型乾式再処理施設が付属し、核不拡散性が高く、電源喪失でも自動停止する。使用済燃料の放射能は300年で天然ウランなみに落ちる。韓国は、これで国内再処理を望んでいる。米韓原子力協定の最大のテーマだ。福島では除染、廃炉だけでなく米韓と協力して新しい原子力技術開発を進めることで災いを福に転じなければならない。
集団的エネルギー安全保障のすすめ
エネルギー安全保障の基本は「多様性」の維持である。ヨーロッパの強みは、いろんな国があることで、石炭の国、自然エネルギーの国、原子力の国を総合すると自給率50%で、3種の電源がバランスする。系統線とパイプラインをつなぎ、ヨーロッパを1つにするからこそできる。欧州委員会のモデルは集団的安全保障だ。北アフリカから電気を買う「デザーテック計画」があり、スペインの大臣が「田中さん、これは"Energy for Peace"だ。モスリムとキリスト教徒の和解だ」と教えてくれた。大変ビジョナリーだ。ASEANでは、電力やガスがつながり始めた。日本国内もパイプライン網を整備すれば、ロシアと接続する方法も生まれる。中国は、数年前の「北東アジアガスインフラ構想」に沿って整備している。日本、韓国、ロシアの間でも国境横断的なインフラ整備を積極的に考えるべきだ。日本が"Energy for Peace in Asia"構想を提起してはいかがか。本年5月に出版した『「油断」への警鐘』(エネルギーフォーラム)でも強調したように、もう一度「油断」を想起し、新たなエネルギー・セキュリティーを考えるべき時代が来ている。
講演
電気・ガス事業の構造転換
山内 弘隆 (一橋大学教授)
主に電力システム改革、再生可能エネルギー、天然ガスについて、経済学的な立場から述べたい。まず、電力システム改革では市場メカニズム導入による効率化が期待される。競争の導入・維持には、電力供給の予備力と送配電網の中立性の確保が不可欠だ。そのため、供給予備力の市場を創出したり、電力施設建設のインセンティブを導入するといった手だてが有効だ。
再生可能エネルギーの全量買取では、買取価格が焦点だが、何が主たる政策目的かが重要だ。普及と技術革新か、二酸化炭素削減の手段と考えるか。費用と効果を勘案して価格を算出するのが合理的だ。
天然ガスでは、シェールガスのメリットを享受し、安定供給と価格低廉化を実現するために、国内の幹線ガス・パイプラインの早期整備が求められている。問題は建設コストだが、公的負担も視野に入れ、全体最適で分担するアプローチが有効といえる。
日本のエネルギー戦略―技術開発と国際展開―
岡崎 健 (東京工業大学教授)
原発停止によるベース電源減少を補う形で、石炭火力の重要性が高まっている。
石炭火力発電はコストが安い上に、日本は微粉炭火力発電などクリーンで高効率、CO₂排出量も少ない最先端技術で、世界をリードしている。この技術を国内で使いつつ、国策として途上国へインフラ輸出することは国際貢献上も意義がある。
中長期的なエネルギー利用形態としては「水素」が有望だ。技術も成熟しつつあり大量普及目前だ。オーストラリアの褐炭を水素に変換して調達するなど、海外の余剰エネルギーを日本に持ち込むCO₂フリー水素チェーンの国際ネットワークへの期待が増している。
エネルギーや環境に関する議論では、規模、時間、空間、技術開発を踏まえた総合的視点が不可欠だ。特定のエネルギーのみに頼るのではなく、それぞれのエネルギーが調達・技術の両面で最適となるタイムスケールを考慮し、ベストミックスを構築すべきだ。
電力供給についての経済学からの論点
大橋 弘 (RIETIプログラムディレクター・ファカルティフェロー/東京大学教授)
電力システム改革について、第1に電力料金にどう影響しそうか、第2に設備形成の観点からどう評価できるか、第3に発送電分離について述べる。今回の改革で、新たなビジネスチャンスの創出とともに、需要家と事業者の双方に新たな責任が生まれ、行政関与の姿も変わってくる。メリットを最大限生かし、デメリットを抑える工夫が、今後の詳細設計で重要だ。
電力の特質は、①需要が不確実に変動する(我が国の負荷はオフピーク時がピーク時の半分だったこともあり、1日の中で大きく振れる)、②貯蔵コストが高い(在庫ゼロ)、③新電源建設に長時間かかる。経済学が扱う通常の商品と異なり、需給調整の不確実性・リスクを伴う。システム改革とはこのリスク配分を変えることにその要諦がある。家庭向け料金は総括原価方式で、原価に設備投資の資金調達コスト(事業報酬)を織り込み、需給と無関係に概ね一定であることから、価格の振れに伴うリスクは事業者が負っていたといえる。改革後に市場での料金決定に移ると、消費者もリスクを一部負担することになる。また、事業報酬が料金算入されることから、電源開発リスクは消費者が負っていた。改革後はこのリスクを事業者が負い、料金転嫁は事業者ごとに異なる。稼働率が低くなる設備投資、特にピーク需要を上回る電源投資は行い難くなる。その分が料金下落につながるともいえるが、需給逼迫になれば料金の上昇圧力が顕在化する。したがって、今回の改革が料金に与える影響は、電力需給の見通しに大きく依存することになる。需要側では、節電の定着度合い、日本経済の動向、人口・世帯数の変化などが、供給側では、原発再稼働の有無と広がり、再生可能エネルギーの貢献度などが関係する。
市場が最もうまく機能するのは、十分な供給力がある状態だ。事業者が恣意的に発電機を止めると供給力が削がれ、更なる価格引上げも可能だ。2000年のカリフォルニア停電では価格上昇の約半分が競争制限行為によるとの分析がある。予防的に価格上限規制を入れると、深刻なシステム機能不全の可能性がある。電源開発インセンティブが削がれ、中長期的にさらに逼迫させる悪循環が起きかねない。発電状況をITでモニターするなど発電に留意した仕組みが求められる。
発送電分離には経済学的に2つの効果がある。第1に、運用効率化の促進だ。アメリカの採用州か否かで、前者の発送電費用が低下した分析がある。他方、発送電一貫では、運用の柔軟性を確保できる。アメリカの航空産業の事例で、地方空港への乗継は、垂直一貫か水平分離かという分析があり、ひょうやハリケーンなど突発的な天候変化の際に、前者の方が接続遅延が極めて短くなる。電力に置き換えれば、落雷などの緊急時対応では、垂直一貫に利がありそうだ。なお、インフラの公平利用も新電力や再生可能エネルギーが広がる中で非常に重要で、優先接続や託送料金の透明化といった規制強化の論点が残る。
システム改革では、単純に、総括原価主義を止めるとか、発送電分離だけでは、市場は機能しない。積極的規制も入れつつ、全体の需給を上手にバランスすることが重要だ。
エネルギー政策について
後藤 収 (資源エネルギー庁審議官(エネルギー・環境担当)
福島事故以降の原発停止に伴い、代替火力発電用の燃料費が4兆円近くまで増大し、経済の阻害要因になりかねない。現在、「多様性の確保」をキーワードにエネルギー基本計画の見直しが進められている。
エネルギーの生産・調達段階では、再生可能エネルギー、安全性が確保された原発、石炭・天然ガスによる高効率火力発電など多様なエネルギー源を確保していく。同時に、より安価な燃料を世界から多角的に調達する。
流通段階では、電力システム改革を通じ、低廉で安定な供給の確保、電力会社や電源を自由に選べる仕組みの構築に取り組む。
消費段階では、省エネルギーを促進するため、トップランナー制度の活用やスマートメーター導入による電力消費の「見える化」を進める。
原子力は安全性を確保した上で利用するのが基本で、高レベル放射性廃棄物の処分や廃炉などの問題にも真摯に取り組む。
エネルギーとしての石炭および石炭火力発電
中垣 喜彦 (電源開発相談役)
福島原発事故を契機に、燃料の豊富な埋蔵、経済性、調達の安定性といった面から、石炭火力発電に期待が寄せられている。ベース電源としての大きな役割を果たしていくために、当社では高効率発電に関わる技術開発、環境負荷低減装置の普及、そして人材の育成に一層力を入れて取り組んでいる。
微粉炭による超々臨界圧発電が実用化し、さらに石炭ガス化複合発電システムといった次世代型技術も実証試験運転に入っている。
またCO₂の回収・貯留に関しては国内でのストックヤード調査と並行し、日豪プロジェクトの「カライド酸素燃焼プロジェクト」など、ゼロエミッション型石炭火力発電の開発に取り組んでいる。
高効率でクリーンな石炭火力発電の普及は、日本のエネルギー・セキュリティーと環境負荷低減を両立し、世界の持続可能な発展に貢献すると期待している。
今後のエネルギー政策と石油の位置付け
内田 幸雄 (JX日鉱日石エネルギー副社長執行役員)
1次エネルギーの4割強を占める石油は、ガソリン・灯油・軽油・重油などに精製され、動力・熱・発電など多方面でエネルギー源として利用される。貯蔵・運搬が容易でエネルギー密度が高い石油の特性によるもので、災害にも強く地域供給拠点としてサービスステーションも整備されるなど利便性が高い。また、多様な化学製品などの原料として、現代生活に最も広く利用される重要な化石資源で、エネルギー源としてと同様に代替資源は限定されている。
こうした石油の多種多様な利用価値を踏まえ、エネルギーポートフォリオにおける石油の位置付けを改めて明確化することが求められる。同時に、従来の電力・ガス・石油という、業種ごとの縦割り構造だった日本のエネルギー企業を、ボーダーレス化した総合エネルギー企業へと転換し、公益の観点から必要な規制は行った上で、民間の自由な競争に委ねることを期待している。
新たなエネルギーベストミックスと天然ガスの高度利用
村木 茂 (東京ガス副社長執行役員)
資源小国の日本では、エネルギーの供給サイドと需要サイドでできるだけ多様な選択肢を持ち、ベストミックスを考える視点が重要だ。
供給サイドでは、シェール革命を契機に、天然ガスの可採年数が230年と飛躍的に延び、供給源多様化も可能となり、調達コストも将来的に現在の6~7割程度まで下がると期待される。安価な天然ガスの効率的利用には、国内パイプライン網整備に加え、輸入パイプラインの検討も重要だ。
需要サイドでは、日本は家庭用燃料電池やガスエンジンコージェネなど、分散型発電の分野で世界最先端の技術を持つ。分散型発電を情報通信技術と組み合わせる「スマートエネルギーネットワーク」の導入で、エネルギー効率が高く、災害にも強い国際競争力のあるまちづくりが可能だ。さらに海外展開することで、国内産業の発展と国際貢献の両面に大きく寄与すると期待される。
パネルディスカッション
モデレータ:安藤 晴彦 (RIETIコンサルティングフェロー/一橋大学特任教授)
資源エネルギー政策の焦色と課題
橘川 武郎 (RIETIファカルティフェロー/一橋大学教授)
キーワードは「多様性の確保」だ。原発という選択肢を捨てるべきではない。日本初の発電所は明治20年の石炭火力で、その後主力は、水力、石炭火力、石油、原発・LNG火力・海外炭火力と変遷してきた。資源小国日本がここまで来られたのは、多様な選択肢を持ち、組み合わせたからだ。原発停止で足元を見られ、燃料を高く買わされている。他方、いつまで頼りにするかだ。使用済核燃料問題の解決は難しく、今世紀半ばに原子力から離れる「リアルでポジティブな原発のたたみ方」が必須だ。出口戦略はシンプルで、LNG火力や最新鋭石炭火力に置き換える。40~50年のオンサイト中間貯蔵で時間を稼ぎ、捨てやすい技術開発を待つ。
将来の電源ミックスの独立変数は、第1に国民合意のある再生可能エネルギー、第2に省エネ・節電、第3に火力燃料調達コスト削減及びゼロエミッションの技術開発で、不確実性があるこの3つをやり切って、残った部分を原発に頼る。私は一貫して15%を主張している。現在50基が2030年には20基強になり、ベース電源としては、2030年までにLNG火力が十数基、石炭火力が4、5基新増設されるだろう。
1次エネルギーで30年に最大なのは石油だ。OECDで4割超えは日本とイタリアと韓国だけだ。石油会社が、ガスや電力に出る、アジアへの輸出や海外に出るといった成長戦略を考えるべき時代だ。
エネルギー政策は次の4点が大事だ。第1に「現実性」。長い目で原発はたたむが、当面、安全な原発は使う柔軟な組み合せが必要だ。第2に「総合性」。再生可能エネルギーは素晴らしいが、火力でつなぐ長い時代がある。分散型は小事業者が適しているが、まとめ買いは大事業者が強く、こうした総合性も必要だ。第3に「国際性」。石炭火力は最も効果的に海外の二酸化炭素を減らせる。新興国は日本の原子力技術に期待しており、技術は維持すべきだ。第4に「地域の視点」。出口戦略、需要側アプローチ、スマートコミュニティーでも、地域づくりとエネルギーは切り離せない。
ディスカッション
原子力
安藤: 一橋大学の研究プロジェクトでは、リスクマネジメントと新たなベストミックスという2つの視点で議論している。前半では、分野別のリスクを中心に議論したい。最初は原子力から。
田中: :統合型原子炉IFRは、スリーマイルの処理でも使われたらしく、福島でも使えるという人がいる。新しいパラダイムの技術と人を必要とする施設こそ、復興に活用すべきだ。
原子力を使わずに人類がエネルギー制約から抜け出す方法はないので、撤退よりは新パラダイムが現実的だ。軽水炉は武器技術の延長である。日本は平和利用国家として、新たなパラダイムを世界に薦める責任がある。また、人財確保・育成のメカニズムを持たないと、輸出しても維持できない。総合的な未来の原子力を語る時が来ている。
中垣: 大間で改良型BWRを手がけている。日本は地震と津波の大災害リスクが大きいと痛感した。原子力に傾斜した政策を進めた結果が54基で、集中立地も多く、大災害時に大きなリスクとなる。使用済燃料では、国土が狭隘で、ここでも天災リスクがある。廃炉問題で、10~20年経つと寿命が近づくものも多数あり、更新も難しい。「動かすものは絶対安全」の実現コストもかなり上がる。現実的には、中庸な比率で維持しつつ、将来の論議は状況を見つつ詰めるべきだ。
後藤: キーワードは「多様性」で、再生可能エネルギー、化石燃料、原子力も含め、多様性確保が基本姿勢だ。「何パーセント」かは市場に委ねる部分もあり、むしろ、エネルギー源ごとに何を実行すべきかが主題だ。原子力ではバックエンド問題が最大の論点だが、私は楽観的だ。フィンランドやスウェーデンでは最終処分地を確定している。日本では政策のコミットメントが弱かった点を反省すべきで、しっかり達成できるよう答えを出していきたい。
石油
安藤: 次は、石油。
内田: 原油価格は、第一次オイルショック前のバレル3ドルから、ピークには150ドルにまで上昇した。現在はそこからまた3割下落して、100ドル近辺で推移している。このように原油価格は、採掘コストとは関係なく大きく動く。
また、少し前にピークオイル論がもてはやされたが、その後のオイルサンドやシェールオイルの開発等により、可採埋蔵量は現在150年以上と推定されており、枯渇を心配する必要はない。他方、産油国の政情不安等、地政学的リスクは絶えず存在する。また、採掘コストが徐々に上がっているのも事実だ。
橘川: リスクそのものよりマネジメントが一番大事だ。マネジメント能力が高ければ乗り越えられる。民間企業の力が基本だ。石油業界は15年以上前に自由化された。競争で鍛えられた民間活力を発揮する石油会社が、総合エネルギー企業を目指すところにリスクマネジメントの可能性を見る。バックエンド問題が技術で解決すれば続くが、民間会社の手には余るので、外すべきだ。松永安左エ門を長く研究してきたが、存命なら自由化に賛成だろう。エネルギー問題を解く鍵は、民間企業の活力が発揮できるかどうかだ。
シェールガス
安藤: 次は、「シェール革命」について。
村木: より低廉で安定的な天然ガスの調達で、国際的に合理的な価格形成が大事だ。アジアはLNGで石油リンク。ヨーロッパは域内産ガスやパイプライン輸入で、市場価格と石油・石炭リンクの組合せ。アメリカは域内産ガス中心で市場価格。過去は大差なかったのが、シェールガス革命と原油高騰で格差が出ている。LNGがアメリカから出れば、ヨーロッパ並みまで下げるポテンシャルがある。
シェールガスのリスクには楽観的だ。規制で生産コストは少し上がるかもしれないが、採掘に使用されるケミカルは、通常の洗剤等に使われているもので問題ない。地下水層では慎重にシールドして管理する。
輸出許可も、既にフリーポートは許可済で、レークチャールズ、我々と住商のコーブポイント、三菱商事と三井物産のキャメロンまではいくだろう。これで、アジア向け3000万トン、日本向け1500万トンで、現在の日本の輸入量の約2割となる。
安定供給からは、日本もパイプラインの選択肢を視野に入れるべきだ。ロシアから中国や韓国に供給されるときに、日本だけLNG一本足打法だと、高値になる。ロシアへの対応や新たな供給源へのアプローチも含め、官民連携が極めて重要で、体制は整ってきている。
田中: シェール革命を正しく理解しているか否かで、企業や国の盛衰が決まる。ロシアのガスプロムは世界一のガス会社だったが、シェール革命を見誤り、国内での立場が弱まっている。プーチンは、石油会社ロスネフチにも輸出権を与え競わせている。さらに、プーチン筋の新ガス会社ノバテックが、ヤマル半島のLNGを北極海航路で夏に持ってくる話を日本に持ち込み、ガスプロムが慌てている。情勢を見極めて交渉しないと、LNG一本槍では失敗するぞと、関係者に言っている。
橘川: 他業界ばかり批判し合うのは一番まずく、日本はあらゆるカードを使って交渉すべきだ。シェール革命で供給側が増えるので、買う側に得なはずだ。
電力
安藤: 電力システム改革の議論に移りたい。本日、出席予定の髙原長官は、電気事業法改正の国会対応で急遽欠席となった。
山内: システム改革のリスクは、規制下の独占事業を市場に移す点にある。電気は貯められない「即時財」で、どうマーケットを動かすかだ。卸売市場の「スパイク」現象が起こらない仕組みがリスクマネジメントだ。もう1つのリスクは、原子力を民間で行うには何らかの措置が必要だ。廃炉費用を電気料金で負担するのは重要だ。バックエンドの核燃料サイクルまで事業としてリスクを負担する仕組みを考えねばならない。
大橋: 電力市場改革は、全て市場に任せるわけではなく、規制強化を伴う議論が必須だ。送電線というインフラの公平な使用に関し、料金の透明化、技術情報の公開は極めて重要で、発送電分離やシステム改革では担保されない。電源増、再生可能エネルギー増、自家発電増強、需要抑制が同時並行で進んでいるが、メリットオーダーがあるはずだ。費用対効果からメリハリをつけて政策を実行しないと何が最適か見えてこない。優先順位をつけ直すべきだ。
後藤: 電力システム改革では規制強化もセットだ。送配電部門は一種の公共財で規制は強化される。現行の最終保障約款は、今後は送配電部門それぞれが担い、託送料金も規制を残す。供給余力は確かに必要で、原子力発電の審査が進み戦力が立ち上がると、需給はバランスするだろう。政策の優先順位では、2年間も原子力が動かないのは非常事態だ。エネルギー基本計画をつくり直し、原子力が戻ると平時に戻る。その時に再生可能エネルギーなど再度議論する必要がある。
中垣: 日本の電力自由化は全く中途半端だった。卸市場は7、8年経つが、全体の数パーセントだ。新規参入者も少なく、名ばかりだった。しかし、自由化は避けて通れず、「多様性」を実現する中で、競争を両立させねばならない。ベストミックスは時系列的に考えるべきで、技術も進歩する、資源の状況も変わる、マーケットも有為転変していく中で、政府が目安を立てながら民間事業者が自由に競争することが大事だ。
ベストミックス
安藤: ベストミックスの議論に入りたい。
岡崎: 石炭火力は、非常にクリーンで、高効率技術が日本にあり、積極的に外交カードとして使うべきだ。社会的にやっと認知されてきた。
橘川: ドイツは2022年に原発ゼロ、2020年に再生可能エネルギーを35%、残り65%を火力と決めた。45%の国内褐炭火力が大前提だ。日本の燃料追加費用は約4兆円だが、国内炭火力はなく、脱原発依存は難しい。あらゆる選択肢を組み合わせて勝負することがドイツ以上に求められる。
村木: 4月のLNG国際会議では、天然ガスの最大の脅威は石炭だとされた。アメリカで石炭火力の稼働が下がり、余った安い石炭がヨーロッパに流れ込み、石炭発電を増やしている。あるメジャー関係者は、日本の石炭火力の新規立地を気にしていた。天然ガスの交渉カードとしても、日本にとって石炭火力は非常に重要だ。
田中: 石炭は安いし豊富なので、セキュリティー上も重要だ。インドも中国も使う。中国の二酸化炭素排出ピークは35年以降とされていたが、10年以上前倒しだ。中国ができるなら、他国もとなる。アメリカが一番苦しく、日本にも圧力がかかるだろう。IEAはCCS附置を主張してきた。後付けできる場所に石炭火力を設置する方がよいし、他国を牽制するには日本はそう説明すべきだ。
中垣: 石炭は、歴史的に、日本のエネルギー供給のビルトイン・スタビライザーだった。国内炭時代には経済活動のベースを支え、海外炭時代には、オイルショックや原子力事故の際に役割を果たした。パナマ運河増強工事で2年先に10万トン級の船舶が通れそうだ。太平洋圏にアメリカ、南米、北米が出てくると、質量とも供給側の競争が起こる。CCSにもっと力を入れるべきで、政府は後押しして、苫小牧と並行し2、3地点取り組むべきだ。高効率化をさらに加速し、海外をサポートして、日本の成長にも使えるカードにすべきで、政策に明確に反映していただきたい。
分散型発電、スマートコミュニティー、先端技術
安藤: グローバルとローカルの観点から、分散型発電、スマートコミュニティー、先端技術に関し議論したい。
村木: 「スマートエネルギーネットワーク」は価値創出につながる。まず、足元の電力の需給対策。大型発電所の新規立地には7、8年かかるが、分散型は2年以内だ。自立電源によるセキュリティ対策や日本の都市の国際競争力を上げる。たとえば、六本木ヒルズに外資企業が入るのは100%自立電源だからだ。さらに、分散型システムに、ITを活用し、新しい機器を入れ、エネルギーの選択もできるようにし、様々な企業が新たに入ってきて、スマート化を進めれば、産業活性化にもなる。また、日本の技術の海外展開。例えば、燃料電池は日本がリードしている。スマートコミュニティーの海外展開も産業活性化に資するだろう。
内田: 東日本大震災の時に緊急度の高い地点にガソリン・灯油・軽油などの石油製品を運ぶため24時間体制で取り組んだが、特定の重要地点、いわば毛細血管細部にピンポイントで運べない苛立ちを経験した。また、分散型発電の利用にあたっては、災害時の燃料供給の仕組みも合わせて構築する必要がある。
まとめ
安藤: まとめに入りたい。
村木: 需要側のベストミックスが非常に大事で、平時にも非常時にも機能するものをしっかり目指す。また、ガスも含めエネルギーの自由化、システム改革を進め、消費者や産業にとって有効な国益に資するシステムを、しっかり議論すべきだ。
内田: 国に対しては、石油・電力・ガスというエネルギーの垣根を越えて、誰もが新規参入に挑戦できるようなシステム改革を希望する。また、石油をはじめとするエネルギーを、災害時においても、必要としている人がいる毛細血管細部まで安定的に供給できる体制を目指したい。
中垣: 石炭火力は資本費が割高でイノベーションが必要だ。国内外での高効率石炭火力普及に邁進したい。
後藤: 今のエネルギー基本計画の見直しを2年前にスタートした。最後の段階で政権交代となり、やり直し。今年3月半ばから再開し、年内を目途にまとめる。生産、流通など個別分野の課題を整理し、原子力の議論に移る。以前は、原子力比率50%という、いわば「一本足打法」の典型だったが、まだ見えない部分がある中で方向性を固めていくと、いえるところは限られる。今後の世の中の動き次第で、行けるところまで行きたい。
田中: ベストミックスについて、外国からの購入電力、特に、ロシアの水力を計算に入れないのだろうか。かなり先のビジョンなら検討すべきで、ヨーロッパは考えている。日本はアジアの中で、集団的エネルギー安全保障を視野に入れるべきだ。今まで自国だけで考えたが、時代遅れで、韓国、ロシア、中国、ASEANと一緒に検討すべきだ。そういう道筋をビジョンに入れていただきたい。
山内: 経営学で「戦略」とは、企業がどういう姿になりたいかビジョンをつくり、そこへの最短・最小パスを考えるという定義がある。今日の議論はまさに「戦略」だと思った。
岡崎: 今日は技術が十分に語られていない。政策でも外交カードでも、ベースは技術だ。技術者をもっと大切にする国にしていただきたい。
大橋: 電力システムを白地から全て考え直す動きが進んでいるが、系統配電網技術を含め、日本が進んでいた部分があったはずで、それを無視して新しいものをつくる議論が本当にいいのだろうか。たとえば、料金上昇や分散型拡大は、中小企業や貧しい人には非常に厳しい。スマートコミュニティーも地域の貧富格差につながる。非常に多様な需要者がいる観点で、多様な視点で議論をしないと、全ての人にメリットがある話にならない。
橘川: キーワードは「多様性の確保」だ。自分の意見と違う意見も認めると同時に、ミックスについて自分の意見を強くいうべきだ。参議院選挙前に政権として数字を示すべきだ。電力9社横並びではなく、「2030年には原子力なしでいく」という会社が登場してもいいはずだ。反原発派が大規模デモをしても、原発ゼロの会の議員が半減してしまうのは、対案を示してないからだ。産業界も学者も官僚も政治家も、多様性を求める時だからこそ、自分の案を明確に自分の言葉でいう。そういう時代だと痛感した。
閉会挨拶
中島 厚志 (RIETI理事長)
まさに今、日本や世界が生き残りをかけたエネルギーの大変な時期だ。日本で3.11の後の状況、シェール革命、石炭の復権、新しい技術革新という動きが全部押し寄せてきている。
今はエネルギー革命の時期だが、これまでのエネルギー革命の多くが産業革命の時期と一致していることを、改めて感じた。産業革命の中でのエネルギー革命。エネルギーの中身が変わる、あるいは新しい産業・技術が出てくることで、時代やライフスタイルが変わってきた。現在は新しい技術革新もある。また、石油ショックの時のように、重厚長大から軽薄短小に新たな時代に変わる、産業が変わる時期でもある。
今日の議論を契機に、今後、日本にとっての生き残り、さらにブレークスルーとしての日本の存在感を高めるという生き残りも含め、お役に立てばと願っている。