概要
当ワークショップは、経済産業研究所(RIETI)サービス産業生産性研究会が中心となっている研究プロジェクト「ICT投資、人的資本と市場ダイナミックスの日本サービス産業生産性への影響分析」、日本大学経済学部、ソウル大学経済学部、ソウル大学国家競争力センター、韓国生産性本部、西江大学SSK研究事業団が共同で開催したものである。ワークショップの主たる目的は、産業レベルの生産性データベース作成とその分析結果を共有することに加えて、企業・事業所レベルのデータを活用した研究報告を通して、日韓経済に関する相互理解を高め、両国における持続的な経済成長の源泉を検討することにある。
開催報告
2012年12月7日、ソウル大学において、日韓の研究者25名によるカンファレンスが開催され、6本の論文が発表された。第1セッションでは、まず、ソウル大学のJeong-dong Lee教授が、"Some Stylized Facts on the Firm Distribution in Korea"を報告した。同報告では、韓国企業に関するさまざまな企業レベルのデータベースを用いて、韓国における企業分布(Firm Distribution)がパレート分布に従っているか否かを検証した。特に、R&D、輸出、所有構造のような企業属性に着目したサブサンプルにおいて、企業分布が異なるか否かを検討しており、R&D集約度の高い企業、輸出企業、親会社を有する企業といったサンプルほど、企業分布の異質性が高いことを示している。参加者からは、日本における企業分布との比較分析を行う必要性が指摘された。次に、日本政策投資銀行設備投資研究所の宮川大介副主任研究員が、"Screening and Coaching: Empirical Examination of Syndicated Venture Capitals"を報告した。同論文は、日本のベンチャー企業データを用いて、ファーストラウンド投資における参加ベンチャーキャピタル(VC)数が少なく、投資に参加しているVCのタイプ(例:銀行系、独立系、外資系等)が多様であるほど、より高い確率で新規株式公開(IPO)が達成される一方、セカンドラウンド以降の投資においては、逆に、限られたタイプのVCがより多く参加することが、より高いIPO確率に繋がることを示した。参加者からは、結果の解釈に当たって、理論的な議論を適切に参照する必要性が指摘された。
第2セッションでは、まず、ソウル大学のHak K. Pyo先生が、"Human Capital and Firm-Level Productivity from Human Capital Corporate Panel(HCCP) Data in Korea"を報告した。同論文は、韓国企業を対象として2005年、2007年、2009年、2011年に調査されたパネルデータを用いて、人的資本が企業の労働生産性に正の効果を与えるか否かについて、Mincerモデルに基づく5つの推計式を用いて、実証的に検討した。主たる結論として、人的資本が労働生産性に与える効果が、推計式の選択によって大きく変化することを示している。次に、日本大学の乾友彦教授が、"Overseas Market Information and Firms' Export Decisions"を報告した。同論文は、企業とその取引銀行とのマッチレベルで計測されたデータを用いて、企業の輸出行動に及ぼすメインバンクの影響について分析したものである。主たる結論として、日本企業の輸出開始および輸出地域の拡大に当たって、メインバンクからの海外市場関連情報の提供が重要な役割を果たしている可能性があることを実証的に示した。第2セッションの2つの論文に関しては、ユニークなデータを用いて重要な研究課題を分析している点について、参加者から高い評価を受けた。
最後に、第3セッションでは、産業レベルのデータを用いて生産性の国際比較を行った研究と産業・事業所レベルのデータを用いて日韓比較を行った研究が報告された。まず、西江戸大学のHyunbae Chun教授が、"International Comparison of Total Factor Productivity from KLEMS Database"を報告した。同論文では、韓国、日本、米国、EUを対象として、各産業のマクロ生産性への寄与や産業ごとの生産性のばらつきに関する比較分析が行われた。次に、 Korean Development Institute (KDI)のSanghoon Ahn研究員が、"Productivity Dynamics: A Comparison of the Manufacturing Sector in Korea and Japan"を報告した。同論文では、日本と韓国について生産性動学の手法で分析した結果の類似性と相違点を示し、両国に共通する論点として、持続的な経済成長に向けたサービス産業の重要性を指摘した。
来年度以降も、産業・企業レベルの生産性分析に関する研究結果を発表する貴重な機会として、今回と同様の日韓ワークショップを継続する予定である。