RIETI-CASS-CESSA Joint-Workshop

Establishing Surveillance Indicators for Monetary Cooperation between China and Japan (議事概要)

イベント概要

  • 日時:2012年10月26日~28日
  • 場所:中国社会科学院(CASS=Chinese Academy of Social Sciences)
  • 主催:独立行政法人経済産業研究所(RIETI)、中国社会科学院(CASS)、横浜国立大学アジア経済社会研究センタ-(CESSA=the Center for Economic and Social Studies in Asia, Yokohama National University)
  • 報告書

    報告写真10月27-28日に北京で行われたRIETI-CASS-CESSA Joint-Workshopでは、"Establishing Surveillance Indicators for Monetary Cooperation Between China and Japan"というテーマのもとに日本と中国から8本の研究論文が報告された。特に27日は産業別の実効為替相場をサーベイランス指標としてどのように政策に活かすかというテーマに焦点を当て、日本と中国が各々研究してきた産業別の実効為替相場の研究を報告し、活発なディスカッションが行われた。RIETIから報告された各論文の概要は以下のとおりである。

    第1報告(清水)の"Industry-specific REER of the Japanese yen and the Chinese yuan"(佐藤・清水・シュレスタ・章)は、現在RIETIで公開されている日本円の産業別の実質実効為替相場の中国元バージョンを作成し、円と元の産業別実質実効為替相場の計算結果を比較するとともに、主要4産業について実質実効為替相場を動かす要因が何であるかを国内物価、海外物価に分けて要因分析を行った。その結果、日本と中国では、特に電機産業の実質実効為替相場水準が他の産業と比較した場合に異なっており、日本では電機産業が最も円安水準にあるのに対して、中国では元高水準に位置していること、さらにそのような結果をもたらす要因として産業別の物価の推移が日中で異なることが示された。最後に円と元の産業別実質実効為替相場の日次データを用いて産業ごとに長期的な均衡関係にあるかどうかについて共和分分析を行った結果、リーマンショック後に日中の産業レベルで長期的な均衡関係にある産業が増えたことが確認された。

    これに対して、中国側からは中国の貿易相手国選定について重要な貿易相手国である香港が含まれていないことや各国のウェイト算出が輸出ウェイトのみに基づいていること、またこれまでREITIのDPで公開されている産業別名目、および実質実効為替相場の論文の分析結果との関連、さらに産業別実質実効為替相場を用いて日中間の産業毎に共和分関係があるかどうかをテストすることの意義についての質問があった。これらの質問に対しては、香港の産業毎の貿易データが採れないなどのデータ制約により、中国の貿易相手国の合計ウェイトを高めるのが困難であること、そもそもこれらのデータを構築する当初の目的が日本企業の輸出競争力を表す指標を作ることであり、輸出ウェイトに基づいて実効為替相場を作成していること、通常は2国間の実質為替相場で試されている共和分テストを産業別に行うことにより、ある産業において日中間の工程間分業が行われていれば、長期的な均衡関係が成立するのではないかという観点から共和分テストを行っていることなどが説明された。

    2日目第5報告(小川・王)の"The PPP based AMU Deviation Indicators and the Balassa-Samuelson Effect Adjusted AMU Deviation Indicators"は、ベンチマーク為替相場の決定要因として購買力平価を想定して、購買力平価に基づくAMU乖離指標を計算し直すことを目的としている。これは、AMUとAMU乖離指標のデータが10年以上の蓄積となってきたことから、ベンチマーク為替相場の構造的変化を考慮に入れる必要が出てきたと考えるからである。また、購買力平価を計算する際、データの制約から、非貿易財価格を含む消費者物価指数を用いらざるをえないため、バラッサ・サミュエルソン効果が伴う可能性が生じかねない。そこで、東アジア諸国の貿易財部門における高い生産性を勘案し、購買力平価に基づくAMU乖離指標に加えて、バラッサ・サミュエルソン効果を考慮に入れた修正AMU乖離指標も提示した。データを用いて実証分析した結果から、相対的にインフレの高い国の通貨は、従来の名目AMU乖離指標に比べて、バラッサ・サミュエルソン効果を考慮に入れた修正AMU乖離指標は過大評価となる傾向があり、相対的にインフレの低い国の通貨は、従来の名目AMU乖離指標に比べて、バラッサ・サミュエルソン効果を考慮に入れた修正AMU乖離指標は過小評価となる傾向がある。月次データとなる購買力平価に基づくAMU乖離指標およびバラッサ・サミュエルソン効果を考慮に入れた修正AMU乖離指標は、従来の日次データの名目AMU乖離指標と共に、東アジア地域における為替相場に対するサーベイランスのための補完的な指標となることが期待される。

    これに対して、討論者から以下の2点をご指摘いただいた。第1に、東アジア地域においてはAMUおよびAMU乖離指標の位置づけといった政策的なご質問をいただいた一方、バラッサ・サミュエルソン効果を計算する際、産業についての分類は国によって異なるため、東アジア地域全体を同じように分類することは難しいのではないかということである。第2に、購買力平価をベンチマーク相場として用いることの適切さについてご指摘を受けた一方、東アジア地域においては、諸通貨を安定化させるために、米ドル、ユーロのみならず、他の重要な貿易相手国(たとえば、オーストラリア)の通貨も考慮に入れる必要があるのではないかとのご意見をいただいた。

    第6報告(川崎)の"How does the Regional Monetary Unit work as a Surveillance Tool in East Asia"は、東アジア地域においてマクロ経済サーベイランスに為替相場監視を盛り込んだ場合を想定し、AMU乖離指標(AMU DI)などの地域通貨単位を用いた為替相場監視の実質的な運用方法および危機予防の実効性を検討するものである。まず、対ドル為替相場を用いた為替相場監視と、AMU DIを監視対象とした場合とで、危機予防・予測に対してどちらが有用な情報をもたらしうるかを比較した。実証研究の結果からは、AMU DIを用いた為替相場監視によって、異常な為替相場の実質増価(定常発散)の始まりが為替相場の急落の2~3年前に観測できることが示され、その時期は、対ドル為替相場の動きが発散し始める時期よりも半年程早く観測されることが示された。またAMU DIがベンチマーク年に依存してその乖離幅が時間の経過と共に増幅する点を解消するために、域内為替相場に関する長期均衡為替相場の概念を導入し、AMU DIの動きを恒常的なトレンド部分と過渡的なミスアラインメント部分とに分解し、過渡的乖離の持続性の長さを測定した。その結果、インドネシアルピアとフィリピンペソの過渡的な乖離が2~3年持続する傾向がみられ、本来1時的であるべき為替相場の乖離が比較的長期にわたる場合には、マクロ経済サーベイランスユニットは当該経済に対して警告をならすべきであると考えられる。AMU DIを為替相場監視対象としてサーベイランスプロセスに導入することは、マクロ経済安定化に資するばかりでなく、アジアンリージョナリズムの醸成に大きく貢献すると考えられる。

    これに対して、討論者からは以下のようなコメントをいただいた。第1に、PPPの半減期に比べてAMU DIの乖離が相対的に長い理由は何か、AMUとREERとではパフォーマンスに違いが出るか,インドネシアルピアとフィリピンペソのミスアラインメントの原因は何か、とのコメントがあった。第2に、AMU DIの特性である構成通貨の変動がAMUそのものに与える影響を考慮する点、危機の予兆を定義するには乖離の大きさをどのように評価するか、均衡為替相場の定義をさらに検討する必要は無いか、とのコメントがあった。またフロアから、実証分析で扱う変数についてI(2)の可能性を考慮して、1次階差の系列について同様の単位根検定の必要性が指摘された。

    第8報告(章)の"Business Cycle Co-movements and Economic Integration in East Asia"は、アジア諸国に焦点を与え、新しいデータベースを構築し、2国間の景気循環の連動性の決定要因に関する実証分析を行っている。アジア諸国を分析対象とする為替相場の変動性が国際貿易への影響に関する実証研究は、為替相場の変動性が貿易にマイナスの影響を及ぼすとの結果を導き出している。本論文の特徴は、こうした先行研究で示唆されている最も重要な4つの決定要因、産業間貿易、産業内貿易、産業構造の類似性、金融統合に加えて為替相場も考慮して分析を行った点である。

    これに対して、討論者からは、実証結果からもたらされる政策インプリケーションを考慮した場合に、景気循環の連動性を長期のトレンドと短期の循環に分けて分析することが重要であること、景気循環の連動性を単に供給面だけではなく需要面から見るのが面白いのではないか、との建設的なアドバイスをいただいた。また、為替相場の変動性を考慮するのはこの論文の1つのオリジナル性であり、このオリジナル性を強調すべきであること、さらに景気循環の連動性の決定要因としてマクロ経済政策の協調などの他の要因も考慮するとの提案をいただいた。

    以上報告された論文の一部は中国の経済ジャーナル「世界経済(The Journal of World Economy)に掲載される予定である。また、今後とも継続的に日中間での研究成果を討論するワークショップを行う予定である。

    全体写真